月曜日(16日)、新プロジェクト候補地の視察に行って来た。まだ正式にデザイン契約が済んでいないので、今後クライアントと物別れになる可能性も無くはないが、無事ことが運べば5月頃のオープンに向けてlove the lifeとしては久方ぶりに飲食店のアートディレクションを手がけることになる。
私たちがデザインやアートディレクションを手がけた飲食店はどこもことごとく閉店してしまったりオーナーが替わってしまったりで原形をとどめているものがひとつも無い。物販店についても満足な状態で残っているのは片手で数えられるくらいだろうか。
ひとつひとつの作品に過剰に入れ込んでしまう(まあ要領が悪いわけだ)がゆえに寡作な私たちにとって、作品が無くなってしまうことによって受ける精神的なダメージはかなり大きい。私たちは2年や3年で無くなってしまうことを前提に店舗のデザインをやっているわけではないし、正直言ってそんな店は作りたくない。
もちろん店舗のオーナーだって最初から早々に閉めるつもりでやってるはずはない。しかしながら、テナントとしてビルに入居する店舗(大都市ではほとんどがそうだ)にとって、ビルやフロア全体のリニューアルに伴って追い出されたり(あるいはビル内で移動させられたり)、地域開発によってビル自体が無くなってしまったり、なんてのは日常茶飯事だ。つまり現実的には経営状態の良し悪しに関わらず、不動産事情によって閉店を余儀なくされるケースが多々あると言う事。さらに言えば、当たり前だがビルや土地を維持してゆく側にもそれなりの都合がある(会社経営とか地価とか固定資産税とか)。結局のところ、現代の大都市には激しくスクラップ&ビルドを繰り返さざるを得ないシステムが最初からインストールされているわけだ。周到に話題作りを行い、短期の間に一気に客を集め、投資に見合った収益を上げたらハイさよなら。そんな“企業による集客装置”としての店舗ばかりが目につくようになるのはごく自然な流れだろう。個人オーナーがその哲学を維持しながら店舗を長く存続させてゆくことは、実はものすごく難しい。
店舗インテリア専門のデザイン事務所として活動をはじめたlove the lifeだが、最近は住宅や建築に関する仕事が増え、店舗デザインの割合は全プロジェクトの半数くらいだ。店舗に比べると住宅や建築は概して計画スパンが長く、デザインの寿命も長い。こうした状況は私たちにとって随分と精神衛生上都合がいい。もともとデザイン上目新しいマテリアルや奇抜な形態を用いる事にほとんど執着が無く、入り組んだ要件をシンプルな方法で解決するプログラミングの技を信条としている私たちには、もしかして店舗よりも住宅や建築の方が向いていたのかもしれない。
が、しかし、それでも、これからもずっと私たちは店舗の仕事を大切にしてゆきたい。密集して暮らすがゆえに個々の生活機能を店舗としてうまく市中に分散させる、というやり方は何百年も昔から培われた都市生活者の最も重要な知恵であり、文化だったはずだ。そうした知恵や文化のエッセンスは今もやはり店舗デザインの中にあるに違いない。店舗は文化そのものであり、そのオーナーもデザイナーや施工者も訪れる客もみんな等しく文化の担い手なんだと思う。商業やビジネスにどっぷり浸かった仕事をしている私たちだが、だからと言って金儲けのためのハコを作っているつもりは毛頭無いのだ。他の建築家やインテリアデザイナーがどんなつもりでやってるのかは知らないが。
新プロジェクトの店舗区画は、東急のたまプラーザ駅にほど近い商店街に面したマンションの一階にある。横浜からも東京からも少し離れてるけど、そこがまたいいじゃないか。クライアントは「ここで最低でも10年はやる」と言っている。前のテナントが引き払ってスケルトンの状態になった店舗区画の中を歩きながら「これはウチにとってとても大事な作品になるかもしれないな」と思った。
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