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都市とデザインと : 野井成正さんと高取邦和さん・その2

前のエントリーの続き。4/21。朝11時半に半蔵門・ダイヤモンドホテルのロビーで高取邦和さん、野井成正さんと待ち合わせ。すぐ近くにある『三城』へ。

『三城』(さんじろ、と読む)という蕎麦屋は倉俣史朗氏が生前に最も愛したお店のひとつで、高取さんにとっても20年来のつきあい。と言っても高取さんや倉俣さんがデザインされたわけではないんだけど、ただの蕎麦屋ではないことだけは行かなくたって分かる。
入り口の作りは思いのほか普通、と一瞬思ったが、店先には品書きは無いし、青い暖簾に白く染め抜かれているのは店名だけ。これじゃあ蕎麦屋なのかどうかさえ分からない。自動的に一見さんお断り。そして入ってみて息を呑んだ。思わず顔を見合わせる勝野とヤギ。ヤバい、恐ろしくカッコいい。

4人掛けのテーブルが4つと大テーブルがひとつのこぢんまりとした店内。そこを和服姿の年配の女性がたったひとりで機敏に切り盛りしている。厨房は奥に隠れて一切見えない。
太い木材で組み上げた柱と梁。丁寧な左官で仕上げられた壁。店内の照明はかなり控えめ。フロア中央の大テーブル上に吊られた大きな立方形のペンダントライトと、瓶に生けられた新緑の枝木が目を引く。客席スツールは丸みを帯びたモダンなデザインで、座面は年月を経てひび割れた革張り。品書きは店内にも一切無い。
まるで大名の城の奥にいきなり通されたような錯覚に陥った。思わず背筋を伸ばして深呼吸したくなるような、力強く、上質で、研ぎすまされた空間だ。

大テーブルの角に4人で腰を据えると、すぐに日本酒の入った片口と粕漬けと山なめこの小鉢が出て来た。この店では注文は取らない。出てくるものは最初から決まっているのだ。
山なめこの上には丁寧に水気を取った大根と少量の醤油。日本酒は爽やかな甘みを感じさせるもののスッキリとあとをひかない味。どちらも美味い。実は勝野はアルコールが全くダメ。ヤギもあまり強い方ではない。しかし高取さんと野井さんに注がれて飲まないわけには行かないし、第一美味いものには目が無いので調子に乗って飲む。
4人で3合ほど飲んだところで蕎麦を出してもらう。これが太短い見た目なんだけど、意外にもコシが強い。心地よい弾力を楽しみつつ、ぺろりと2枚ずついただく。続いて野沢菜の漬け物と蕎麦湯が出て来る。蕎麦湯もつゆもたっぷりあって、ゆったりと余韻に浸りつつ、インテリアデザインを取り巻く現状について静かに語り合う。
漬け物が片付くと、最後に大きな豆の甘煮が登場。デザート、と言ったところか。コース料理を味わったような満足感。これで一人4500円。このボリューム、このクオリティにしてこの値段は驚くほど安い。
『三城』の営業時間は午前11時30分から15時までの3時間半。土日祝休。平日の昼間から酒を飲める人だけどうぞ。

そんなわけで、空きっ腹に日本酒ですっかり具合の悪くなった勝野。しかしここでくたばるわけには行きません。地下鉄に乗って、高取さんと表参道の駅で別れて、野井さんと3人でギャラリー間へ。『承孝相と張永和展』を見る。作品には興味深いものが多いんだけど、プレゼンテーションが弱い。庭でひなたぼっこしつつ休憩して、同じビルの1FとB1FにあるCERAのショールームへ。自宅の洗面台を物色する野井さん。さらにその近くにある乃木神社を散策したりしているうちに勝野復活。これだけ早く復活することが出来るのはやはり飲んだ酒が上等だったおかげだろう。

それから再び地下鉄に乗って勝どきへ。向かったのは『おまけや』。高取さんがデザインを手がけた喫茶+駄菓子店。裏には昔ながらの長屋が立ち並び、表はトラックがはげしく往来する清澄通り、と言う不思議な立地条件はまるで東京の“スキ間”だ。引戸を開けて店内に入ると、そこはシナ合板と南洋木材がコントラストを成す独特の空間。手前の棚やカウンターには駄菓子がずらりと並び、奥のコンロからは珈琲の香り。珈琲や紅茶にせよ、甘味にせよ、このお店では何を注文してもハズレは無いが、私たちが特に気に入っているのは深いりブレンドとあんずてんの組み合わせ。美味しくいただいていると、時々近所の子供が「ガチャガチャこわれたー」とか言いながらやって来る。大人の居場所と子供の居場所がセットになったこのお店が私たちは大好きだ。

おまけや/東京都中央区勝どき3−7−4/03-3531-3912
11:30-18:00頃(土 11:30-14:00頃)/日祝休(土不定休)

野井さんから上本町のカッコいい駄菓子屋さんの話しをお聞きしたリしつつ、長閑に1時間ほど過ごした後、タクシーで有楽町の駅へ。みどりの窓口で野井さんとお別れ。

前日の『松下』で、野井さんがお手洗いに行かれている間に、高取さんは私たちに「専門誌でいろんな店を見ても、悲しくなるような酷いインテリアばかりが並んでることが多いけど、野井さんのデザインは僕は本当に好きなんだ」と、こっそり教えてくれた。そのことはここだけの秘密にしておこう。

一方、野井さんはご紹介するまで高取さんのことをぜんぜん知らなかったんだそうだ。あいたた。

2004年04月24日 18:37 | trackbacks (0) | comments (0)
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