11/4。シアター1010でイッセー尾形のステージを見てから夕食へ。北千住にはほとんど来たことの無かった私たちだが、ここが大衆酒場の街であることは事前のリサーチによって把握済み。そんなわけで『大はし』に行ってみることにした。創業明治10年という大衆酒場界における名店中の名店。駅前のアーケードからサンロード商店街に入るとほどなく「千住で二番」と書かれた看板が見つかった。暖簾をくぐって、いざ店内へ。
まず目に入るのは奥へとながーいカウンター。店内は間口も6メートルくらいあってけっこう広い。カウンターの片側には酒瓶と肴の皿を積み上げながら飲み食いする客がわんさかとひしめいていて、反対側では老主人と若主人の二人が勢い良く往復し、すれ違いながら注文を取ったり瓶のふたを開けたり給仕をしたり。メニューは小皿ばかりだから注文はひっきりなしで二人の動きはほとんど止まることがない。カウンターの中には調理や洗い物のための設備は一切無く、あるのは空になったボトルや瓶の蓋(これを会計時に確認する)を置いておくための棚だけ。つまるところ、このカウンターは二人の主人のための純然たる花道でありステージだ。
テーブル席もあるにはあるが、この店は絶対カウンターだな、と思いながら店の入口で待機していると、ちょうど良く2、3分後に向かって左側のカウンターが空いて、そこに案内された。カウンターの中程にある切れ目を抜け、花道を横切り席に着いて飲み物を注文。オペレーション動線と客動線とが微妙に交差しているのが面白い。ホントは焼酎セット(亀甲宮にホ−プ製炭酸、アイスボックス、梅シロップ付き)が頼みたかったところだけど、勝野は下戸でヤギは病み上がりなので烏龍茶とビールで我慢。
牛にこみ、肉どうふ、カニクリームコロッケ、あんきも、などなど肴もガンガン注文。一皿の値段がとにかく安い。醤油とざらめによるスタンダードな味付けの名物・牛にこみは噂に違わぬ旨さ。カシラとすじによる硬軟の食感の取り合わせがいい。肉どうふの豆腐も牛肉の旨味が染みて甘くてとろとろの実にいい塩梅。かれいの煮付けも最高。他の食べ物の味はまあ普通だったが、なにしろここは大衆酒場。酒と煮込みの脇を固めるメニューとしてはどれも申し分無い。
大正時代から使われていたと言う古い建物は昨年末に新しく建て直されてしまったが、それでも蛍光灯に照らされた簡素な店内は活気に満ちている。客には渋いオヤジも多いが女性も多い。客層が幅広いのは間違いなくこの店の懐の深さを示す大きな美点だ。都心に志の低い店がどれだけ増えようと、21世紀の大衆酒場であるこの店の空気感は当分変わることは無いだろう。若主人の超男前な電卓さばきがそれを保証している。
大はし/東京都足立区千住3-46
03-3881-6050/16:30-22:30/日祝休
*2006/8/29、店の正面の写真を追加。