2/10に松戸市立博物館で『ジャパニーズ・モダン 剣持勇とその世界』を見て来た。剣持勇は主に1950-60年代にかけてインテリアデザインや家具デザイン、プロダクトデザインなどの分野で活動し、日本人の生活を一気にモダナイズした立役者。大阪万博の翌年に自殺。
なんとこれが剣持勇の初の個展なのだそうだ。大いに期待しつつ1Fからスロープを降りてアプローチと言うか前室のようなガラス張りの明るいスペースへ。そこには現在も生産中の剣持勇デザイン研究所が手がけた家具がいくつか置いてあって、多くは実際に座ってみることができる。上の写真は屋外用のベンチと灰皿。ベンチの座面はFRPで足はコンクリート。灰皿の本体は陶器。今でもあちこちで見かけるような気がするけど、剣持デザインだったとは知らなかった。
剣持デザインには「これもそうだったのか」と驚くようなものがたくさんある。秋田木工のスタッキングスツール、佐藤商事の積み重ね灰皿、ヤクルトやジョアの容器、京都国際会館や香川県庁舎のインテリアデザインなどなど。こうして見ると、あっさりしているようでいてその実造形的にかなり独特なものが多いわけだが、そんな剣持デザインは私たちの生活の中に深くさりげなく浸透し、今でも愛され続けているわけだ。
豊口克平や猪熊弦一郎など同時代に活躍したクリエーターの家具もいくつか並べられているのを眺めつつ展覧会場に入る。剣持勇の年譜と少年時代のペン画からはじまって、学生時代の作品、工芸指導所時代の作品、と順に見た辺りで会場のスケールがなんとなく分かって来た。だいたいバスケコート一面分くらいか。なんだか小さいな。
規模小さいことが災いしてか、残念ながら展示内容も正直期待はずれだった。制作時期ごとにコーナーを分けて貴重な作品をいろいろと並べてはいるが、「剣持勇ってこんなヒト」と言うのを説明するのがやっとで、剣持の思考の跡や手の跡が全く浮かんでこない。デザインや建築の展覧会と言うのはうやうやしく作品を羅列するだけじゃあダメで、もっと図面や模型をしっかり見せるとか、家具ならプロトタイプやシリーズを裏側まで見える高さにずらりと並べるとか、工夫のやりようはいくらでもあったはずだ。インテリア作品をせめてひとつでも部分的に原寸できちんと再現するくらいのことはやって欲しかった。
やっと剣持さんに会える!と喜び勇んで松戸まで行ったらなんとまあすっぽかされました、みたいな感じ。ここのところわりと質の高いデザイン・建築関連のイベントを続けて見ていたせいもあって、正直かなりガックリ来た。とは言え剣持作品を曲がりなりにも一通り見ることのできるイベントとしては極めて貴重なわけで、デザイン好きなら見に行くしかなかろう。展覧会のブックレットはそれなりにまとまっているのでお薦め。
ジャパニーズ・モダン 剣持勇とその世界(クリ8)