3/28。来月初頭の引き渡しを控えて、内外装の各所で同時進行している仕上工事の追い込みがいよいよ厳しい状況になってきた。ここ一ヶ月ほどの間、職人さんは土日も残業も関係無し。文字通り一刻を争う緊迫した工程の中、私たちも細部の指示に追われてほとんど睡眠のとれない日々が続いている。眠い。しかし仕事が終わらない。それにしても眠い。
植栽は結局予算の関係でとりあえず2本の木を植えるのみとなった。ドラセナとミモザ。他に手が回らなかったのはまあ残念だけど、地下1階から地上3階まで建物と入れ子状に積層された庭とテラスは、この家の生活空間を豊かにするものとしてすでに十二分に効果を発揮しているようだ。
1Fではエントランスホールの壁面がそろそろ仕上がりの段階に。各個室のインテリアもほぼ完成。
2Fのインテリアも細部を残してほぼ完成。夜にはオリジナルのペンダントライトが取付けられた。
デカくていい感じ。光の印象も申し分無い。
3Fのインテリアはもうすっかり仕上がった。和室に畳が入るのが楽しみだ。
檜と珪藻土の組み合わせをなんとかクールにまとめることができたかな。
3/26。銀座・SHISEIDO GALLERYで開催されていた『life/art '05』へ最終日の夕方に滑り込み。
このイベントは田中信行氏、今村源氏、金沢健一氏、中村政人氏、須田悦弘氏のリレー展。本当は全部見ておきたかったんだけど、結局2回しか来られなかった。残念。
この日の展示は須田悦弘氏。ギャラリーで須田氏の展示を見るのは初めてのこと。
過去に私たちが須田氏の作品を実際に見たのは2001年に香川県の直島で開催された『スタンダード展』だけ。島中に散らばった会場のうち、須田氏は実際に使われている民家の客間でインスタレーションを行っていた。木彫は日用品へと偽装され、そのことが生活空間の中に微妙な違和感を醸し出す。生活とアートとの関係性を操作し、関係性そのものを作品とする須田氏の作風は、空間デザインを生業とする私たちにとって極めて興味深いものだった。
ここでの須田氏の展示は素のハコとしてさらけだされたSHISEIDO GALLERYの真っ白な空間にちいさな作品が数点のみ。からっぽにしか見えない会場の中を注意深く歩くと、本物に見紛うほどリアルな椿の花(言わずと知れた資生堂のシンボル)の木彫が思わぬところにぽつんと置いてある。エレベーターシャフトを覆うガラスの中、パイプスペースのメンテナンス扉の内側などにそれらを見つけると、途端にその場所が茶会の床となり、さまよい歩いた過程はさながら露地だったのだと思い当たる。インスタレーションも巧みだが、ここまでミニマル化された間合いの芸術は、やはり木彫そのものに力が無い限り実現することはないだろう。
会場の一角に木彫たちを一望することのできる場所があった。不整形な平面を持つギャラリーが、そこに立った時だけ奇麗な左右対称のパースペクティブを見せることに私たちは少し驚いた。
もしかすると須田氏もここからこの空間を眺めたのだろうか。
life/art '05 (SHISEIDO GALLERY)
1960年代半ばに起こったインテリアデザインのビッグバンをほぼリアルタイムの情報としてまとめた書籍、それがこの『商店建築デザイン選書』。1970年から1976年の間に発行されたこの10冊シリーズは、掲載写真のほとんどがモノクロ写真ではあるものの、当時のインテリアデザイナーや建築家、アーティストらが商空間における表現をいかにして自らの作品と呼べるものへと高めていったかを知ることのできる極めて貴重な資料集だ。
上の写真はカバーを取り外した状態で撮影している。何分古いものなので、布張りの表紙はかなりカビにやられているものもあるが、幸いどれも中身は全く問題ない状態でコンプリートすることができた。クールに決まったタイポが印象的な装丁は、なんと河野鷹思氏が手がけたもの。各巻の表題は下記の通り。主な掲載作品も一応挙げておいたけど、他にも優れた作品が目白押しで一冊見終えるごとにどっと疲れがこみ上げるほど。
1:話題の喫茶店(ティールーム・ゴーゴー・ケーキ・スナック)/1970初版/ジュジュ(葉祥栄)、マロニエ(境沢孝)、ダグ(岩渕活輝)など
2:魅力ある外装の造形(ファサード・ウィンドー・看板)/1970初版/*国内外の商業建築ファサード、サインなどを数多く紹介
3:秀作レストラン(レストラン・ドライブイン・グリル・ステーキハウス)/1970初版/サーカス(倉俣史朗)、東京会館クリスタルラウンジ(北原進)、バルコンソワ(境沢孝)など
4:異色クラブ・バー(メンバーズ・パブ・スタンドバー・カクテルラウンジ)/1972初版/2番館(竹山実)、ヤングバー(北原進)、ジャッド(倉俣史朗)など
5:個性ある和風料理店(小料理・割烹・料亭・酒房・和食)/1972初版/柿傅(谷口吉郎)、畔居(境沢孝)、早鞆(河野鷹思)など
6:感覚的な服飾店(メンズウェア・レディースウェア・靴 バッグ・和装)/1972初版/マーケットワン(倉俣史朗)、シューパブオーツカ(竹山実)、コーナリア(葉祥栄)など
7:ドライブイン・レストラン/1974初版/焼肉アリカンテ(内田繁,三橋いく代)、テラッツァビアンカ(坂倉健,長大作)など
8:スナック&喫茶/1974初版/OSコーヒーショップ(安藤忠雄)、ともまつ(境沢孝)、ラジオ(高取邦和,杉本貴志)など
9:貴金属宝石店・ショールーム/1975初版/四季ファブリック(倉俣史朗)、旭印刷ロビー(葉祥栄)、フェローウォーカー(吉尾浩次)など
10:ファッションショップ・美容院/1976初版/ブティックワイズ(杉本貴志,高取邦和)、青山カサベラ(内田繁)、ホワイトハウス(岡山伸也)など
第1巻の末尾に収録された境沢孝氏、宮脇檀氏、倉俣史朗氏、竹山実氏による対談は、各人のクリエイターとしての立場の違いが良く現れており興味深い。また、同じ巻の前文として寄せられたマーティン・コーエン氏による日本の喫茶店に関するエッセイは美しい名文だ。第2巻末尾の境沢孝氏と内田繁氏、商店建築社編集者による3者対談は、商業建築のファサードについての考察として、いまだに十分通用するものとなっている。境沢氏の「モニュメンタルな建築の考え方なんて逆に邪道だと思う。外装なんか、お金があって毎日かえられるんならかえればいい」という発言にはシビれた。
3/18。渋谷Q-AXシネマで公開中の『マイ・アーキテクト』を見た。建築家ルイス・カーンの一人息子である映像作家ナサニエル・カーン氏が父の死後20年以上を経てその作品を巡る旅と、関係者や家族へのインタビューをまとめたドキュメンタリーフィルム。
と、そう書くとなんだか小難しそうだけど、建築云々は置いといて、これが素晴らしく良く出来た映画だったのだ。劇場で何年ぶりかの号泣。
以下、少々ネタバレ気味なので読みたい方だけどうぞ。
3/18。山海塾を見てから劇場近くのモロッコ風カフェ『Roiseau』(ロワゾー)で食事。三軒茶屋の核を為すカオス、エコー仲見世商店街の一角にある小さな小さな店。
アルミサッシの戸を引いて、イスラムと南欧の民芸品がちりばめられた手作り感満点の薄暗い店内へ。剣持スツールに腰掛け、モザイクタイルのテーブルに着いて、先ず注文したのは看板メニューのクスクス。この日はメルゲイズ(ソーセージ)付きで。クスクス自体あまりあちこちで食べられるものじゃないけど、この店のは特別丁寧に出来ている。満足の味とボリューム。洒落た盛りつけはご覧の通り。
こちらはスペインオムレツ。カボチャのスープとサラダ付き。ポテトたっぷりの分厚いオムレツはこれまた思わず顔のほころぶ食べごたえ有りの一皿。この日は他に三色豆サラダも注文。
食後にトルコチャイとデザートもいただいた。マフィンとマロンパイ。なぜかどちらも餡入り。不思議だけど面白い。ここはアジアの三軒茶屋。
日中は調理から給仕まで麗しいマダムがほとんど一人で切り盛り為さっている。忙しい人が訪れるには全く向かない店であることは一応断っておこう。しかしひとたび落ち着けば、スマートかつ要所を丁寧に押さえた応対が私たちに絶妙な和みを提供し、同時にくたびれた思考を活性化してくれる。煩雑な日常から離れて少しばかり時間を贅沢に費やしたいとき、こんな店が近所にあるといいな、と思う。
Roiseau(ロワゾー)/東京都世田谷区三軒茶屋2-13-17
03-3418-8603/11:30-深夜/日休
エコー仲見世(三軒茶屋どっと混む!)
3/18。世田谷パブリックシアターに山海塾の『時の中の時 - とき』を見に行った。計5作品が上演される日本ツアー2006のオープニングとなる作品で、2005年12月・パリ市立劇場初演の最新作。
落語にしろダンスにしろ芝居にしろ、パフォーミングアートというものは実際に劇場の座席に身を置かずに評価をする事は丸きり不可能だ。とは言え、予備知識の無い状態で面白そうかどうかを判断するには、チラシや雑誌に載った写真などを見てなんとなく空想を膨らませるより他は無かったりする。
私たちは劇場にはたまにしか足を運ばないのであまりあてにはならないかもしれないが、そうして事前に得られる印象と実際のステージから受ける印象との間に、山海塾ほど開きのあるダンスカンパニーもおそらく少ないんじゃないかと思う。だいいち、全身を白塗りにした半裸の男性が身をよじらせる写真を見て「なんか良さそう」と思う人よりも「気色悪っ」とドン引きする人の方がはるかに多いに決まっている。
ところが、山海塾のステージからは写真で見るようなおどろおどろしさとはほとんど感じられない。それは実に美しく洗練され、時にユーモラスで可愛らしくさえある。
『時の中の時 - とき』はおそらく山海塾の作品の中でも割合要素の少ないもののひとつだろう。中空に浮かんだ細い金属パイプのサークルとポール、明るい砂の上に斜めに敷かれた長方形の板、それらを取り囲むように半円形に配置された数枚の黒い壁の中、パフォーマンスは終止静かな動きによって展開される。装置の入れ替えはほぼ無いに等しいが、ほんのわずかな高さや角度、光の移ろいによって、ステージは刻一刻とその表情を変えてゆく。それらの微妙な間合いが醸す気配のようなものがこの作品の全てであると言って良いだろう。そして一際明るい光と軽やかな群舞がもたらす甘美なクライマックスが、そのままこの作品の幕引きとなる。
この世界をもっと見ていたい。そう思わずにはいられない作品だ。このツアーでは一公演だけ見るつもりだったんだけど、ロビーの仮設テーブルで売られていた次作のチケットをついまた買ってしまった。
3/17。前日にカウンターバック壁面の再工事が完了し、プレオープン3日目を迎えた『Bar dcb』へ。
問題の箇所には下地のビスがかすかに浮かび上がった部分は見られるものの、一番の問題だった横ラインは完全に消えていた。これならなんとか許容範囲と言って良いだろう。良かった。
これにて晴れて『Bar dcb』は完成。早速クライアントでマスターの櫻岡さんにお酒をいただいた。この日は共同経営者の古谷田さんも一緒。しばらく4人で談笑。
櫻岡さんのカクテルとスマートなサービスはお世辞抜きで素晴らしい。上の写真左は特製のカルア・ミルク。楽しい&美味しい。この日お薦めのラムはハイチ産のバルバンクール。こちらは実に香り高く上品なキレ味。櫻岡さんとこの店のイメージにピッタリだ。
その後、22:00を過ぎた辺りから一見のお客さんが次々と訪れ、あっという間にフロアは満席に。年齢層は30〜50代くらいか。しかもほとんどの人がつまみもそこそこにカクテルをガンガン注文する様子には驚いた。代官山にもこんな客層がまだ健在だったのかと思うとなんだか感慨深い。
こうして手が離れた状態で『Bar dcb』を客観的に見ると、今時珍しく抑制の利いた雰囲気を持つ実にクールで大人っぽい店だ。酒飲みにとってまたと無い貴重な場所となるだろう。
現場での細かな注文に粘り強く応えつつ、クオリティの高い施工をして下さったイカハタ・清原さんと谷川さんに感謝。そして何より誰より、プロジェクトの要所で常に的確に大きな決断をして下さった櫻岡さんと古谷田さんに最大の敬意を。
『Bar dcb』は本日3/21からいよいよ正式オープン。皆様、ぜひご利用下さい。
息の長い店になりますように。
bar dcb/東京都渋谷区猿楽町23-5-B2F
03-3770-0919/18:00-2:00/不定休
3/17。外構の足場がほぼ全て取り除かれた。
木塀の四角い開口部にはガラスがはめ込まれた。東側から見上げるとまるで空が切り取られたような不思議な眺め。庭では造園に備えて片付けが進行中。
一番遅れていた2Fの家具造作もほぼ塗装を残すのみ。かなり重厚な仕上がり。
3Fは左官も乾いて内装は完成。
照明器具が取付けられ、床の養生が剥がれるまであと少し。
3/15のニュースより。ちなみに記事中に登場するガエ・アウレンティ氏はフランス・オルセー美術館のデザインを手がけた人物。
千鳥ヶ淵に赤いビル、これがイタリア感覚?
東京・千鳥ヶ淵のほとりに立つ赤い壁のビル「イタリア文化会館」をめぐり、地元住民が「皇居周辺の景観と調和しない」などとして、別の色への塗り替えを求めている。
住民代表が14日、小池環境相を訪れ、約2700人の署名を添えた陳情書を提出。同会館を所有するイタリア政府へ働きかけるよう訴えた。
昨年10月にオープンしたイタリア文化会館は、地上12階、地下2階建て約1万4700平方メートルで、日伊両国の文化交流の拠点として様々なイベントが行われている。設計はイタリアの著名な建築家、ガエ・アウレンティさんが指導し、壁面が「漆器の赤」を表現した色になっている。
これに対し、地元の住民は「千鳥ヶ淵の緑や桜にそぐわない」として、色の変更を求める署名集めを昨夏から開始、東京都や千代田区などに陳情を重ねてきた。千鳥ヶ淵は環境省が管理していることなどから、住民代表3人は14日、小池環境相に「ローマ遺跡のような重みのある色に変更するよう働きかけていただきたい」と訴えた。
小池環境相は「私も実際にあの建物を見たが、とても目立つ色」と同意。「イタリアは建物の規制が厳しい国だと聞いており、あのような建物は本国では建てられないのではないか。ローマではそれぞれの建物が(景観に)マッチングしているが、その精神は日本も同じ」などと話し、住民側に理解を示した。
建設に先立ち、千代田区と同会館の施工業者は1999〜2002年、計9回にわたって事前協議を実施。当初、イタリア側はより鮮やかな赤を示したが、「景観の中で突出する」として区が変更を求め、現在の色に決まった。
皇居周辺は33年(昭和8年)、国の美観地区に指定された。千代田区は98年に景観条例を制定し、02年には景観保全の指針となる「美観地区ガイドプラン」を作成。特定の色を禁じるような規制は行っていないが、「首都の風格にふさわしい景観」「水や緑と調和したシルエット」などを求めている。
イタリア大使館は「塗り替えについては、まだ何の結論も出していない。話し合いを拒絶しているわけではなく、住民の気持ちはイタリア本国にも伝えている」としている。
(2006年3月15日0時26分 読売新聞)
私たち自身はまだ実際に状況を見たわけではないので、問題の建物に対するコメントはパス。それにしてもいろいろと考えさせられる記事ではある。
デザインの本質はさておき、色だけを取り出して過剰反応しがちな傾向は一般的なものだ。おそらくその辺の調剤薬局みたいなカラーリングのビルを適当に建てておけば何の問題も起きなかったのだろう。やれやれ。
千鳥ヶ淵の赤い彗星(Design Passage)
3/14。壁の左官工事が本格的に始まった。薄塗りの珪藻土。手際よく、大面積を一気に仕上げる左官屋さん。すごいテクニックと集中力。
外構では最後の木塀のかたちがほぼ出来上がった。ここに来て模型でイメージしていた状態に急激に接近。
下の写真左は足場に上がりその場ではみ出した木材をのこぎりでカットする大工の鈴木さん。右は足場がほぼ片付いて全貌が明らかになりつつある庭。
1Fでは塗装工事と床の大理石貼が同時に進行中。ダークブラウンと明るいベージュのコントラストが浮かび上がりつつある。
3Fでは先日の縦格子とお揃いの引戸が完成。開けても閉めてもいい感じ。
3/13。意匠パイプがようやく取付けられた。
金物業者さんが現場に着いて作業が始まったのは18:00頃。一部ネジの規格を間違っていたところがあって少々手間取ったものの、最終的には見事ピッタリとおさまってくれた。ホッと一息。
画竜点睛。カウンター天板と、その上に面対称に浮かぶ吊天井とが細く鈍い光沢を放つステンレスパイプの弧で繋がる。本当に控えめな造作だけど、これがあると無いとではぜんぜん違うのだ。
以上で晴れて工事完了、と言いたいところなんだけど、LEDを点灯すると先日補修してもらった壁の継ぎ目がまだかすかに残ってしまっているのがわかる。もはや簡単な補修じゃあ直りそうにない。これ以上の仕上がりを望むとなると、現在の壁の上に横の継ぎ目が出ないように一枚プラスターボードを貼って、パテと塗装を最初からやり直すしかないだろう。
曲がりなりにもようやくきれいに完成した内装に再び手を入れるのは忍びないが、ここは納得行くまでやってみよう、と言う事に。
カウンターバック壁面の再工事は16日に決定。
『Bar dcb』のオープンは3/21。
3/9は勝野の誕生日。と言うわけで久しぶりにご馳走&新規開拓。田原町駅から徒歩5分の『ビストロ・カトリ』へ。場所は浅草と合羽橋の中間辺りの菊水通沿い。『染太郎』や『本とさや』にほど近いディープなエリア。
ネットでの下調べによるとかなりの有名店のようだったので到着の一時間ほど前に電話してみたところ、時間が遅めだったためかすんなり予約OK。21時前に店に着くと客は私たち以外に二組だけ。おかげで窓際のテーブルをゆったり使わせていただいた。
モダンジャズの流れる店内はかなり明るく内装はスッキリとシンプル。良く言うとカジュアル、悪く言うとちょっとファミレスっぽいかも(嗚呼、デザインしてあげたい)。若いウェイター氏の応対はそつなく申し分無い。
夜のメニューはアラカルトのみ。2、3名で取り分けながらいただくのがこの店での楽しみ方のようだ。ちょっと欲張り過ぎかな?とは思いつつも、前菜4品とメイン1品にパンと赤ワインをカラフェで注文。
前菜の中で印象的だったのはノルウェー産のホワイトアスパラガスと鹿児島産の筍のグリエ。野菜のワイルドな風味と、さらにその輪郭を際立たせるようなソースの繊細な味わいに目の覚める思い。ビストロらしく華やかでかつボリューム満点な盛りつけも嬉しい。グランドメニューから選んだ田舎風パテはコストパフォーマンス抜群のパンチのある一品で、これまた素晴らしかった。
メインは萩畜豚のバラ肉のロースト。驚きの分厚さ×柔らかさ×ジューシーさ。濃厚な旨味の塊。前菜だけでとっくに腹9分目くらいに達していたはずなんだけど、ハーブとビネガーの香り高く爽やかなソースも手伝って、付け合わせの野菜まで見事に平らげ、さらに調子づいて黒糖のブラマンジェとキャラメルのジェラート、コーヒーまでいただいてしまった。
結局、腹12分目ほど食べてしまったせいでお代は二人で15000円ほどと思ったより少し高くはついたものの、この店の総合力からしてみれば実にリーズナブルであると言って間違いない。ご馳走さまでした。
アトリエまでは歩いて10分ほど。何たる幸せ。
ビストロ・カトリ/東京都台東区西浅草1-8-9-1F/03-3843-5256
12:00-15:00,18:00-23:00(土日祝12:00-15:00,18:00-22:30)/水休
3/11。壁面にどうしても下地の継目が出てしまう箇所があるため、塗装屋さんに補修してもらう。
その間、LEDライティングとビデオプロジェクターの点灯テストを行った。真っ白なカウンターバックは全面がスクリーンとなるようデザインされている。
何度もパテと塗装をくり返してもらうが、LEDの光があまりにクリアなせいか、なかなか横ラインが消えてくれない。少しは良くなった気はするんだけど、うーむ、どうしたものか。。。ひとまず手を尽くして、あとは完全に乾燥が終わるまで様子を見る事に。
作業の間にバースツールが到着。カウンターの腰に合わせた総ブラックと、テーブル席に合わせた総ホワイトの2種類。何れも既製品に特注色を施しただけなんだけど、あつらえたように見事ハマってくれた。
細部の補修・調整を残してこれで工事はほぼ完了。あとはカウンター天板と吊天井を繋ぐ意匠パイプの取付を待つのみ。
3/6。前々日に床の墨入モルタル打ちが完了。この日現場に着くとカウンター上の吊天井が取付けられていた。厨房機器の設置もほぼ問題無く完了。
照明器具の取付など、電気工事の仕上げが行われる中、午後過ぎからハイマックスの工事がはじまった。
この現場は比較的狭い階段でのアプローチしかない地下フロアなので、あまり大きな部材は搬入することができない。カウンタートップは幅5000×奥行700mmのサイズ。普通に無垢板や集成材などのカウンターを持ち込もうとすると3つくらいに分割するしかない。
今回カウンタートップとテーブルトップにはハイマックスを使用。天然石と合成樹脂で出来た人工大理石。ハイマックスと言うのは商品名で、技術的にはトップトーンやコーリアンなどとほぼ同じもの。現場での接合が可能なので、一枚もののカウンタートップが実現する。上の写真右は3分割で設置したカウンタートップをくっつけているところ。
その後1時間ほどおいて、接合部を研磨して仕上げる。上の写真は研磨作業中の風景。
3/9。スチール製のテーブル脚が搬入された。
早速先日届いたハイマックスのテーブルトップをジョイント。カウンターと高さを揃えたハイテーブルとした。
大きな工事がほぼすべて完了してきれいに片付いた現場は極めてフラットでニュートラルな質感にまとまった。なんだかまるでCGのようだ。
中年既婚女性の星・弘山晴美選手がマラソン初優勝。時折冷たい雨の落ちる決して好条件とは言えない中、世界歴代5位記録保持者の渋井陽子選手を残り1キロで鮮やかに抜き去って2時間23分26秒の好タイムでのゴール。決して渋井選手が不調だったわけではない。今日の弘山選手は強過ぎだ。文句無しに会心のレース。カッコ良かったです。
弘山晴美(資生堂ランニングクラブ)
名古屋国際女子マラソン
名古屋国際女子マラソン詳報(東京中日スポーツ)
3/4。銀座で『life/art '05』と『トード・ボーンチェ「KARAKUSAの森」』を見た後、『MIKIMOTO Ginza 2』を視察。2005年12月にオープンした宝飾品店、パティスリー、レストランなどの複合ビル。建築デザインは伊東豊雄氏。
薄いパールピンクの直方体に無数の不定形な開口を穿ったファサードは巨大化した海洋生物を思わせる。どこまでも継ぎ目の無い外観は、周囲の建物に比較して圧倒的にフラットでシンプル。その上品な佇まいは事前の予想を覆すものだった。
構造は鉄板コンクリート(構造設計は佐々木睦朗構造計画研究所)。2枚のスチールプレートの間にコンクリートを充填し、薄く頑丈な外壁を自立させている。200平米ほどのフロアに構造柱は一本も無い。この特殊な構造技術がビルの存在をグラフィカルでありつつ彫塑的でもある不可思議なオブジェと化している。
インテリアデザインは凡庸で極めて内部装飾的。伊東氏のアトリエで手がけられたものではないだろう。建築がこれほど革新的で魅力的なだけに実に残念だ。
3/4。『ニューヨーク・バーク・コレクション展』を見に東京都美術館へ。
美術館の設計は前川国男。1975年の作品。打ち込みタイル貼りの四角いボリュームが雁行する外観。強さと優しさの同居する建築表現は、モダニズムをいち早く実践し、またそれを乗り越えようとした前川ならではのもの。
エントランスは地上階の大部分を占めるオープンテラスを過ぎて、さらにワンフロア下った場所にある。なんともゆったりとした贅沢なアプローチ。
上の写真はエントランスロビーの内観。二連のアーチを描く天井面にオリジナルのペンダントライトが並ぶ。
アーチの片側はオープンテラスに、もう片側は裏庭に面している。赤、青、緑の張地の四角いベンチも可愛らしい(これもオリジナルなのだろうか?)。
『ニューヨーク・バーク・コレクション展』は酒井抱一の『桜花図屏風』(1805頃)が凄かった。これを見ることが出来ただけでも1400円の入場料以上の価値がある。他にも鈴木基一の『菖蒲に蛾図』(1850年代頃)や快慶の仏像(1200年代初期)、長沢蘆雪の『月夜瀑布図』(1700年代)などが印象に残った。曾我蕭白『石橋図』の見事なまでのマンガっぷりと『大麦図屏風』(作者不詳/1600年代)のフィールド・オブ・ドリームスっぷりも忘れ難い。
東京都美術館
前川建築設計事務所
渡辺力展/前川国男展(life / January 30, 2006)
3/4。宮島達男「FRAGILE」を見に行った。
場所は谷中霊園そばの『SCAI THE BATHHOUSE』。当地に200年ほどの歴史をもつ銭湯『柏湯』を改装したギャラリー。天井高のある魅力的な大空間を持つ。下の写真はその外観。
宮島氏の新作展を見るのは2002年にここで開催された「WHITE IN YOU」以来のこと。当時の展示を思い出しながら、今回の「FRAGILE」を見ると面白い。どちらも宮島氏のトレードマークとも言える7セグのデジタルカウンターを主要な素材としてはいるんだけど、それぞれの作品シリーズの印象は対照的だ。
『WHITE IN YOU』(2002)はLEDと平面ミラーの組み合わせによる作品シリーズ。LEDの発光部分のみ銀吹きを抜いたミラーの底から白い数字が浮かび上がる。えも言われぬ奥行き感を伴ったそれらの作品は、およそハードウェアとしての実体を意識させないほど細部まで見事に洗練されていた(まさにデザイナー魂をシビれさせるオブジェ)。
対して今回の『FRAGILE』(2006)ではおそらく配線を兼ねた網状の立体フレームの中に無数の小さな赤いLEDカウンターがちりばめられている。カウンターの配置はランダムで、カウントするスピードもまちまちだが、直径1mmに満たないようなか細いフレームによって繋がり合い、互いに支え合うようでもある。FRAGILEのタイトル通り、それらの存在はいかにも脆く儚げだ。他に水槽と赤色LEDによる作品や、タペストリーガラスにカウントが浮かび上がる作品『Counter Window』の展示もあった。
「WHITE IN YOU」と「FRAGILE」の対比は私たちに“聖”と“俗”を思い起こさせる。それらは一見遠く隔たっているようだけど、どちらも私たちの生きる世界のある一面をあらわしているように思う。
宮島達男「FRAGILE」
SCAI THE BATHHOUSE
3/3。塗装工事の終了を待って代官山の現場へ。
現場用の照明で見る限りでは塗装の仕上がりはなかなか良さそう。壁と天井は黒に近いブルーグレーとホワイトにくっきりフラットに塗り分けられ、見違えるように整った空間が現れつつある。
おかげで天井に重々しく鎮座するエアコンもぐっと控えめな印象に。少し安心はしたが、まだライティングとの調整が付いていないのが気がかりだ。
週明けには家具造作や厨房機器などの搬入が一気に行われる予定。勝負はまだこれから。
2/28。資材搬入のためずっと後回しになっていた外装の木塀の工事がついに始まっていた。
これが完成すると建物本体のファサードはほとんど外から見えなくなる。
2Fではダイニングの飾り棚が出来上がりつつあった。
格子の部分は檜の分厚い無垢板を組み上げている。重厚&贅沢。エラいことだ。工事規模の大きな物件ならではの思わぬオプション。
3F階段室には檜角材をランダムなピッチで並べた縦格子が完成。なかなかいい感じの透け具合。
松武秀樹氏、坂本龍一氏、椎名和夫氏らを発起人として日本シンセサイザープログラマー協会が行おうとしている電気用品安全法(電安法,PSE法)に対する規制緩和(規程変更)嘆願声明への署名受付は明日3/5(日)までだそうです。
JSPA - 日本シンセサイザープログラマー協会
電気用品安全法に対する署名のお願い(JSPA)
「名機」が販売禁止に 4月に迫る「電気用品安全法」(ITmedia)
「音楽の発展に支障」 坂本龍一氏らがPSE法緩和を求め署名活動(ITmedia)
2/25。三鷹天命反転住宅見学からの帰りに武蔵境駅近くで昼食。クルマナオキさんのご案内で『好好』へ。
店名の『好好』はドアに小さく貼紙してあるだけで、看板には『陳麻婆豆腐』と大書きされている。赤い中国国旗と相まって、いい感じにカオスな店構え。
後々知ったんだけど、麻婆豆腐の祖とされるのは陳婆さんとして知られる人物で(麻婆豆腐が考案されたのは1911年とのこと)、四川料理を日本に伝えたとされるのが陳建民氏、で、この店の店主氏はその陳氏の直弟子であるらしい。
中華料理にはちっとも詳しくない私たちには看板を見たところでそんなことがピンと来るはずも無く、小さな店内のそこら中に貼られた紙にマジックで書いてある魅力的なメニューの数々から一体どれを選ぶべきか、しばし悩んだ後に注文したのが水餃子と黒胡麻担々麺、そして陳麻婆豆腐。
水餃子はもちもちした食感の皮と唐辛子の効いた胡麻だれが特徴。うまい。汁無しの黒胡麻担々麺はまずその海藻てんこ盛りのビジュアルと黒胡麻の風味が圧倒的。食べ進めるに連れて皿の底に隠れていたスパイシーなたれがその姿を現し、次第に複雑で深みのある味わいが口中を満たしてゆく。めくるめく時間差攻撃。これまたうまい&楽しい。
陳麻婆豆腐は羊肉を使った本格派。山椒と唐辛子の風味が実に爽快。個人的にはもっと痺れるくらいに山椒の効いた麻婆豆腐が好きなんだけど、これはこれで見事にバランスのとれた一品だ。
とりあえず3品を試しただけでもこの店の秘めたポテンシャルは十二分に感じる事が出来る。店主氏は無愛想で少々癖の強い人物ではあるが(特に医食同源にまつわる話題を振ったが最後、延々講義を聞かされることもあるらしい)、こりゃ何度か足を運ばなきゃいけないな。さて次は何をいただこうか。
好好/東京都武蔵野市境南町2-1-21/0422-32-8297
12:00 -14:15,18:00-23:00/火休
昨年元浅草界隈に引っ越してから大江戸線の使用頻度がぐんと上がった。写真は最近乗り換えでよく使う飯田橋駅の風景。デザインは渡辺誠/アーキテクツオフィス。
2000年の完成当時に専門誌でこの駅の写真を見かけたときには正直「ええ〜っ」と思ったんだけど(特にウェブフレームの辺り/上の写真左)、実際に利用してみるとその印象は一気に好転した。地下鉄の駅施設としては天井が高く、細部まで抜かり無くデザインされている。スチール波板やステンレス、蛍光灯や水銀灯のシンプルな用い方など実に見事。勉強になります。使用されている建材はヘビーデューティで割合ローコストなものばかりだが、空間の質は高い。
場所によってデザインがかなり異なることも、不統一と言うよりむしろ楽しさに繋がっているように思う。飯田橋での電車の乗り換えはかなり歩かされる場合が多くてうんざりすることもあるんだけど、なんとなくSF映画の登場人物になったような気分を味わえるこの空間を通り抜ける間だけは少し特別だ。
渡辺誠/アーキテクツオフィス
地下鉄飯田橋駅(大江戸線)/一般の方への主旨説明
地下鉄飯田橋駅(大江戸線)/少し専門的な主旨説明
2/25。市川平さんの計らいで『三鷹天命反転住宅』を見学。デザインは荒川修作+マドリン・ギンズ。
球形、円筒形、立方体を積み木のように重ねて14色に塗り分けた外観。一見してユニーク極まりないデザインなんだけど、それがプレキャストコンクリートやアルミサッシ(シルバー、ブラック、アンバーのフレームをわざと混ぜて使っている)の見慣れた質感、そして雨樋やエアコン室外機などのごく当たり前なパーツによって構成されているところが面白い(写真)。積み木と積み木を鉄骨のブリッジや階段で繋いだ結果生じた狭間の空間にも見応えがある(写真)。まるで巨大なジャンクアート。
9戸の住宅の各玄関にはインターホンがわざと斜めに取付けられている(写真)。軽い迷宮感覚に陥りつつ、室内へ。
カウンターキッチンが中央に据えられたリビングルームの周囲を各室が取り囲む基本プランはどの部屋にも共通している。インテリアにも建物の外観と同様のカラーリングが施されているが、ここまで色数が多いとかえって違和感が無くなってしまう。そして何より驚くのは土間を思わせる質感のコンクリート床のレベルが丸きり一定ではなく、しかも細かくボコボコと波打っていること(しかもこのラインが足裏にしっくり)。普通に暮らしているだけで足腰が鍛えられそうだ。シャワーユニットとリビングとの間はシースルー。トイレはシャワーユニットの裏側に間仕切り無しで置いてある(写真)。リビングの天井にはヒートン状の金具が無数に(かつランダムに)取付けられている。これは何かを吊るして収納代わりに使って下さい、という配慮なのだとか。
1Fの一室には荒川+ギンズの日本オフィスが入居している。幸いこの日はそちらにもお邪魔して、この住宅の実際の使用状況を拝見させていただけることに。部屋に入った瞬間、そのあまりに楽しげなシーンに思わず歓声。
天井金具の見事な活用例。写真では雑然としているようにしか見えないが、必要なものが手に届くところにぶら下がっている状況はなんだかすごく便利かも。こうなると無理矢理置かれたコピー機も洗濯機と壁のスキ間も「こんなもんか」という気になって来る(写真)。カウンターで資料を拝見しつつ、ホットワインまでいただいて、すっかり和んでしまった。
球形の部屋でクッションやブランコと戯れつつ、お子様もご満悦の様子。
機能的でカッコいいディテールを集積するのとは真逆のやり方でデザインされた集合住宅は、くたびれた心身を実にいい塩梅に刺激してくれた。しかも意外に快適だ。当日ご案内下さった皆様、貴重な体験をさせていただきありがとうございました。
三鷹天命反転住宅
荒川修作+マドリン・ギンズ(ARCHITECTURAL BODY)