3/18。世田谷パブリックシアターに山海塾の『時の中の時 - とき』を見に行った。計5作品が上演される日本ツアー2006のオープニングとなる作品で、2005年12月・パリ市立劇場初演の最新作。
落語にしろダンスにしろ芝居にしろ、パフォーミングアートというものは実際に劇場の座席に身を置かずに評価をする事は丸きり不可能だ。とは言え、予備知識の無い状態で面白そうかどうかを判断するには、チラシや雑誌に載った写真などを見てなんとなく空想を膨らませるより他は無かったりする。
私たちは劇場にはたまにしか足を運ばないのであまりあてにはならないかもしれないが、そうして事前に得られる印象と実際のステージから受ける印象との間に、山海塾ほど開きのあるダンスカンパニーもおそらく少ないんじゃないかと思う。だいいち、全身を白塗りにした半裸の男性が身をよじらせる写真を見て「なんか良さそう」と思う人よりも「気色悪っ」とドン引きする人の方がはるかに多いに決まっている。
ところが、山海塾のステージからは写真で見るようなおどろおどろしさとはほとんど感じられない。それは実に美しく洗練され、時にユーモラスで可愛らしくさえある。
『時の中の時 - とき』はおそらく山海塾の作品の中でも割合要素の少ないもののひとつだろう。中空に浮かんだ細い金属パイプのサークルとポール、明るい砂の上に斜めに敷かれた長方形の板、それらを取り囲むように半円形に配置された数枚の黒い壁の中、パフォーマンスは終止静かな動きによって展開される。装置の入れ替えはほぼ無いに等しいが、ほんのわずかな高さや角度、光の移ろいによって、ステージは刻一刻とその表情を変えてゆく。それらの微妙な間合いが醸す気配のようなものがこの作品の全てであると言って良いだろう。そして一際明るい光と軽やかな群舞がもたらす甘美なクライマックスが、そのままこの作品の幕引きとなる。
この世界をもっと見ていたい。そう思わずにはいられない作品だ。このツアーでは一公演だけ見るつもりだったんだけど、ロビーの仮設テーブルで売られていた次作のチケットをついまた買ってしまった。