内田繁氏・三橋いく代氏の作品集として最も代表的なのがこの2冊。
インテリア・ワークス 内田繁・三橋いく代とスタジオ80(1987/六耀社)
内田繁 with 三橋いく代 インテリア・家具・建築)(2003/六耀社)
87年版は両氏の作品を『関係の先行性』、『空間とその表層』、『素空間と物体』、『ブティックのデザイン』の4項目に分けて、豊富な写真やスケッチとともに紹介する内容。加えて内田氏による小論が6つ、さらに巻末には分かりやすく簡略化された各作品の平面図がまとめられており、資料的価値の非常に高い一冊となっている。また、巻頭に寄せられた伊東豊雄氏による序文は両氏に対する同世代の建築家からの印象を述べたものとして興味深い。
03年版の作品紹介は『デザインの出発 - 素空間と物体』、『静けさの発見 - 空間の単純化』、『関係としての空間 - 構成的空間』、『空間の装飾性 - 表層的空間』、『日本文化の精神性 - 茶室』、『多様性と超越 - 光と色彩と空間』などに分けて行われ、それぞれの項に内田氏によるエッセイ的な文章が添えられている。こちらもビジュアルは豊富ではあるが、残念なことにエディトリアルデザイン的には87年版に劣ると言わざるを得ない。
87年版に掲載された6つの小論に比べると、03年版のエッセイにはずいぶんと簡潔で柔和な印象がある。内田氏のデザインを理解するには03年版を読むのが早道ではあるが、バブル経済の只中で言わば過剰な理論武装を余儀なくされたクリエーターの苦闘が垣間見える87年版も印象深い。20年近くを隔てた2冊を読み比べ、内田氏の思考の遷移と発展を知ることは、私たちにとって大変貴重な参考となった。
この2冊(特に87年版)から得られるキーワードとして最も重要なのが“関係の先行性”。思い切って簡単に書くと、これは物体それぞれの特性よりも、それらの間にあるべき関係性から先に考えてみる、という空間デザインへの取り組み方を示している。ものや素材の持つ記号性に頼り切ったデザインが目立つ今日この頃、“間合い”さえバッチリ決まってしまえば構成物自体はゼンゼン入れ替え可能、みたいなやり方もあることをお忘れなく(と、自己反省)。
03年版の巻頭に寄せられたアンドレア・ブランジ氏による序文『西洋のなかの東洋』は、内田・三橋両氏のデザインの核心に触れると同時に、日本のインテリアデザイン史を考察する上でヒントとなる要素を含むものとなっている。以下に一部引用させていただきます。
マスタープランのない日本の巨大都市には、灰色の容器にもみえる無表情な建物が建ち並んでいる。社会基盤、商業施設、オフィスばかりがわがもの顔に支配する日本の大都市は、労働と消費には適しているがひどく住みにくい。こんな無性格な建築の内部で、内田繁の完璧な空間は別世界をつくりあげている。ここでは、近代と儀式、人と機能との間の良質な関係を追求することが何より優先されているのだ。これは、外観より内部空間の充実を図ることに意識が向けられる日本建築の素晴らしい伝統であり、いってみれば日本には、通路、コーナー、囲われた一室、ショールーム、ホワイエなどの良質な空間が、混沌とした顔の見えない都市のなかに無数の列島のように点在しているのである。
(アンドレア・ブランジ)
内田繁 with 三橋いく代 インテリア・家具・建築(2003/六耀社)
12-19P 『西洋のなかの東洋』より
内田繁(Creators Channel)
ぐっときました。この本チェックします。「記号性」。痛い。。
思想も技術も、あらゆる意味で「砕いてなんぼ」かもしれない。。勉強になります!
コアな話、したいっすね。
あ、10+1の最新号、読んでください。
tEnt相方と某Iさんが監修してます。宣伝。
http://tenplusone.inax.co.jp/backnumber/no42.html
>ま さん
実際のところ「記号性」で突っ走るのもアリなんですよね。「関係性」よりもメディア受けするのが個人的に癪なだけでして。性格悪くて相済みませんです(笑)。コア話、やりましょうね。
うお!こりゃ買わなきゃ!>10+1