1960年代に始まった建設ラッシュが生んだ膨大なフロアを実験場として、日本のインテリアデザインは主に商業施設の分野で独特の発達を遂げた。バブルと呼ばれた時期を境にその大きな流れは一気に細まり、今やさらに十年以上が経過している。21世紀初頭のインテリアデザインの大勢は、かつて隔離された実験場の中で整えられたルールとマナーの範疇を一歩も出ることの無いまま、空間による表現からいつの間にか薄っぺらな飾り付けへと退化してしまっているようだ。おやまあ。
そんな私たちの現状に対して、実に示唆的な視点を提供してくれるのが中野正貴氏の写真集『東京窓景』(2004)。中野氏は『TOKYO NOBODY』(2000)でも知られるフォトグラファー。
写真集には中野氏が東京都内のあちこちで撮影した“窓越しに眺めた風景”の写真80点ほどが収められている。とだけ言うとなんだかフツーだが、風景だけじゃなくて窓の内側にある部屋の様子も画面の中にわざと一緒に写してしまっているところがミソ。そこに切り取られるのは畳に敷かれた布団越しのアサヒスーパードライホール、オフィスチェア越しの歌舞伎座、カラオケのモニター越しの埼京線だ。窓の向こうに街の雑踏が収まった写真はあるが、部屋の中に人物の居る写真は一枚も無く、そこにはうっすらとした気配だけが漂っている。
若干の語弊は気にせずに書くと、ここでの被写体は“都市”と“インテリア”だ。一見して強烈な違和感を覚える写真だが、確かにそこには普段の生活感覚と重なるものがある。私たちは醜悪な建物の中に居ることをすっかり忘れて窓のあちら側とこちら側の世界で生きている。その現実をこの写真集はストレートなビジュアルとして眼前に突きつける。
デザイナーがぼうっとしている間にインテリアは都市へと開かれ、街はインテリアとひと繋がりの生活空間となっていた。私たちのインテリアデザインは単に建物の内部空間を扱うのではなく、都市の片隅から新しい風景を切り拓いてゆくものでなくてはならない。密室の饗宴はとうに終わったのだ。
中野正貴(art unlimited)