小泉誠氏の作品駆け足視察の2つめ(1つめはこちら)。下馬3丁目(三軒茶屋駅から徒歩10分あまり)にある『tocoro cafe』。オープンは2005年12月。
店舗区画は明薬通りに面した2階建て住宅の1F。アーム型の屋外用照明が照らす店構えは至って簡素。しかし自動ドアの向こうには柔らかな光に満たされた質感の高い空間が広がっている。
インテリアのベースは白いAEP塗装のハコ。その中にJパネルと南洋樹木のデッキ材による造作(床も)がはめこまれ、そのエッジに仕込まれた間接照明が店内の照度をほぼまかなう。素材などに若干の違いはあるが、こうしたデザイン手法の基本は『銀座十石』と共通している。
フロアはエントランスで一段、手前のテーブル席とカウンター席との境界でもう一段上がる。テーブルにはハイチェアがセッティングされているので客の目線はカウンター側と同じ。さらに、カウンター内キッチン側のフロアは最も低く設定されている。つまり各々が定位置に座っている限り、一体の造作となったテーブル+カウンターのフラットな天板を挟んで、店内に居る人の目線はほぼ一定だ。この巧妙な操作は店内の雰囲気をより親密にすることに大いに役立っている。
印象としては一見優しげではあるものの、その実、直線のみで成り立った空間は造形的に極めてシャープ。その厳しさとミニマルなディテールは、かつて小泉氏が師事したという原兆英・成光両氏による70、80年代のインテリアデザインを彷彿させる。
メニューの中心はエスプレッソ。ここのところ喫茶と言えば自家焙煎珈琲店ばかりだったので正直あまり期待してはいなかったんだけど、いただいた“オチョコ”と“アワラテ”はどちらもとても美味しかった。黒米トーストと柏よもぎチーズケーキも風味豊かで満足。珈琲の器は陶芸作家・岡田直人氏によるオリジナル。グラスも小泉誠氏がこのカフェのためにデザインしたもの。その他のテーブルウェアのセレクトもぬかりない。
これだけ総合力の高い店を訪れたのは久しぶりかもしれない。クリエーターにとって、いま東京で必ず訪れるべき店のひとつであることは間違いないだろう。店主ご夫妻の美意識の高さに敬服。また必ず寄らせていただきます。
tocoro cafe/東京都世田谷区下馬3-38-2
03-3795-1056/12:00-20:30/火水休