6/3。美術家の彦坂尚嘉氏と建築史家の五十嵐太郎氏を中心に開催されている講座『アート・スタディーズ』の第6回に行ってきた。この回のテーマは「和洋統合の精華」。吉田五十八と須田国太郎を中心に、1930年代の建築と美術について検証する内容。以下はその内容の簡単な覚え書き。
八束はじめ氏のレクチャー
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・吉田五十八と堀口捨巳
ヨーロッパ旅行→帰国後、日本建築を近代的な目で再発見
・論考-建築における日本的なもの(堀口捨巳)
・和風建築にとってオリジナリティは果たして重要か?
・近代建築と和風建築の共通性を見出すことに意味はあるか?
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・吉田五十八による和風住宅
・大工の秘伝書をもとに木割を改変して近代化
・近代数寄屋住宅の明朗性−数寄屋ディテールのラインの多さを整理する
・畳の無い和室(猪俣邸/1967)
・八畳間の柱は太く/四畳半の柱は細く/その付室の見付はさらに細く
空間の意味合いに対応して部材のスケールを使い分ける
単に繊細に見せるのではない→関係性のデザイン
・エッセイ-饒舌抄
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・吉田作品とミース・ファン・デル・ローエ作品との類似
・バルセロナパビリオン(ミース/1929)以降の軸組構造と木造との類似
軸組(≒古典)をいかに近代的合理性の中で処理するか(吉田&ミース)
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・吉田作品と堀口作品の相違
・帝冠様式建築ー洋風のファサードに和風の屋根
→ハエ男(五十嵐氏)
・堀口−和風建築と近代建築を混ぜずに併置(岡田邸/1933)
帝冠様式との違いは「縦」か「横」か
・吉田は和風と近代をDNAレベルで融合(五十嵐氏)
・吉田はエッセイの名手/堀口は論考の名手
・吉田の方が施主からの評判は良い
島田康寛氏のレクチャー。
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・黒田清輝/初期作品『婦人像(厨房)』と『湖畔』の相違ー客観と主観
・安井(曾太郎,セザンヌの影響)/梅原(龍三郎,ルノアールの影響)時代
・当時の油絵のあり方ーヨーロッパの流行をそのまま持ち帰る
切り花を花瓶に次々と生けるようなもの
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・須田国太郎−美学,美術史,独学で絵画を学ぶ(師匠を持たない)
・パリには行かずスペインへ
プラド美術館−ヴェネツィア派のコレクション(油絵の技法の完成形)
→前近代へ一度戻ることから日本独自の近代を模索する
・黒田作品、梅原作品の完成度の低さを問題としていたのでは?(彦坂氏)
・油絵の技法ー透明性/モノクロの下地に色を乗せてゆく
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・帰国後の須田−独特なテクニックを試行
写真をパノラマ的に繋げてそれを見ながら描くなど
・黒を色として使う−ヨーロッパでは認められない(スペインでは使われる)
・ベラスケス(バロック)の黒/イスラムと関係がある?
・スペインへの渡航費は自腹(実家は京都のちりめん問屋−帰国後没落)
パネルディスカッション。
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・F.L.ライトと吉田に共通点はあるか?(富井玲子氏)
壁を立て箱として閉じないライトの手法−日本建築に似る場合がある
ライトは仏教建築を見ていない−民家と浮世絵は見たらしい
→共通はあまり無い(八束氏)
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・日本に根付く油絵−洋食からイタリアンへ(暮沢武巳氏)
・絵画におけるモダニズムとは何か?(藤原えみり氏)
・日本の油絵は戦争画によって前近代に引き戻された(彦坂氏)
・麻生三郎や須田国太郎、奥村土牛らは近代を通り越し現代美術に至っている
→戦後の絵画には近代と現代が混じっている(彦坂氏)
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・スペインの貴族の装束は黒だった(藤原氏)
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・大工の秘伝書が公開され次第に一般化
→見た目だけを真似た細部の甘いステロタイプが氾濫(八束氏)
・近代化は単なる古典回帰ではない(八束氏)
・平面には2種ある(彦坂氏)
絹のスクリーンを透かしてトレースする−Aクラス絵画
平滑な面に単純に描く−Bクラス絵画
おおっ! 懐かしいっ!
吉田五十八、堀口捨己、ニッポンの近代、そして、八束はじめ、彦坂裕・・・
この手の論説は、僕が学生だったころさかんでした。
そのあたりのベーシックなところを押さえつつ、ワカモノにも受けている五十嵐太郎君(じつは研究室の後輩)は、やはりエライ!!
あ、失礼!
彦坂さんは、彦坂ちがいでしたね。
ところで、
1930年代とか、その視点から最初に論じたのはイソザキさんでしょうか。
やはり、世界のイソザキはすごい!!
あと、さいきんの、和田ナニガシの盗作問題は、なんともニッポンの近代のレベルの低さのような・・・
私たちは学生時代に建築だけをつっこんで勉強したことがないので、八束氏のレクチャーはとても新鮮でした。美術史と並列で聞けたのがまたとても良かったです。
この講座シリーズ、第1回には菊竹清訓氏と初期具体美術についてのレクチャーがあったみたいです。ちきしょー聞きたかったなあ。。。
五十嵐氏が企画に関わっているレクチャーには何度か足を運んだことがあって、随分勉強させていただいています。そう言えば八束氏は磯崎氏のアトリエにいらっしゃった方なんですね。
盗作そのものについては世界中で似たようなことが多々あるわけですが、この件ではお上が賞を与えたり取り消したりしてるのが日本人として最もこっぱずかしいところですよね。。。
今日Yシャツの胸から五十嵐氏の名刺が洗濯されたヨレヨレ状態で出てきました・・・
仕事でインタビューしたとき頂いたものらしく、何とも社会人としてイケてないです。
yokoさんらしい心温まるエピソードだなあ(>ヨレヨレ)。
当のご本人はさぞかしがっかりされたでしょうけど(笑)。