6/30。近場で焼肉を食べることにした。『本とさや』もいいけど、もっと普通な(しかもとびきり美味い)焼肉は無いものか、というわけで、ネットであちこち調べてみた結果向かったのは『大昌園』。
ひさご通りの西側には裏路地に面して焼肉店の密集するエリアがある。建物の多くは十数人も入れば一杯の店舗付住宅。夕方に通りかかるとアルミの引戸の隙間からお店の人が子供と食事を摂っているのが見えたりするような生活感満点の場所だ。『大昌園』の店構えはまさしくその典型。6畳間ほどのスペースを土間と小上がりに分けて、それぞれ4人テーブルがふたつずつ。そこに丸きり屋台のようなささやかな厨房がくっついているだけのちいさなちいさな店だった。
まずはレバ刺し。これは冷や奴の一種ですか?と思わず聞きたくなるようなシャープなエッジと大胆な切り分け方。このビジュアルからしてすでに意表をつくものだが、その心地良い歯ざわりとあふれる旨味はさらに衝撃的だ。
続いて上カルビ。これがまた凄かった。見事なサシからじわりとほぐれてとろけるような食感は、かつて食べたことのある焼肉とは比べようのない異次元のもの。まさかこの年になってこんな味覚体験ができるとは。
ボリューム、旨味ともにたっぷりの上タンと上ミノも素晴らしい。ホルモンの上品な味わいには思わずうっとり。そして最後に上ロース。生食できる質と鮮度の肉を軽く炙っていただく。ロースの概念を覆すふくよかな味わいにまたも目から鱗。さっぱりと酸味の利いた漬けだれが実に良く合う。
それにしても焼肉とはこれほど単純でありながら、一体どれだけの奥行きとバリエーションを持つ食べ物なんだろうか。だいたい同じ浅草界隈にありながら、『大昌園』の焼肉と『本とさや』の焼肉とでは、ものの見事にベクトルが違う。名店の数だけ焼肉は存在すると言うことか。
そもそも焼肉に“普通”なんて無いのかも。エアコンの壊れた店内で煙まみれになりながら、そんなことを考えた。
大昌園/東京都台東区浅草2-14-7
03-3841-8083/17:00-3:00/火休
浅草の焼肉横丁についてはこちらのサイトに興味深い情報が掲載されている。
焼肉の街 いまむかし 台東区浅草
月刊焼肉文化 2001年9月号 Vol.100 掲載記事(浅草くらぶ)