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都市とデザインと : TSUTOMU KUROKAWA

8/11。ギャラリー間で開催された黒川勉氏(2005年7月に急逝)の展覧会『TSUTOMU KUROKAWA』の最終日に滑り込み。

残念だったのは展覧会の会場がギャラリー間の下半分、3Fだけだったこと。4FはTOTOブックショップの洋書フェア。そのせいなのか、あるいは事情が逆なのか、展示の内容は黒川氏がデザインを手がけた家具・プロダクトだけに絞られていた。
会場構成を手がけたのはかつて黒川氏とともにエイチデザインアソシエイツを共同主宰した片山正通氏(現ワンダーウォール)。フロア中央に据えられたミラー張りのステージに作品をずらりと配置し、その背景一面を変形タイル(黒川氏のインテリア作品で用いられたもの)の壁とした手法は実にストレートで潔い。下方からのライティングで壁の表面に浮かび上がった微妙な陰影が、まるで黒川氏の気配のように感じられた。

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黒川氏の主要な活動ジャンルだったインテリアデザインについては、矢継ぎ早にクロスフェードするビデオ画像で見るより他は無かった。展示を一通り見終わると誰もが吸い寄せられるように大型ディスプレイの前に佇んだ。
これでお終いじゃああんまりだ。ぜひもう一度、どこかでまとまったイベントが催されるといいんだが。

トータルで5分あるかないかのビデオの最後に、黒川氏の仕事場であるアウトデザインのアトリエ風景が映し出された。大型ドラフターとシネマディスプレイが並んだ黒川氏のデスク周りや、天井から宇宙船の模型が吊るされたミーティングルームの画像は、私たちにとってなにより強く印象に残るものだった。

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展覧会と同時に黒川氏の作品集『TSUTOMU KUROKAWA 黒川勉のデザイン』が刊行されている。秋田寛氏によるブックデザインが果たして黒川勉と言う人物を伝える上で適切なのかどうかは正直まだ良くわからない。とにかく、今これだけのボリュームで黒川作品を見ることができる媒体は他に無いのだから、それだけでも購入の価値はあるだろう。

黒川氏の発言として掲載されたテキストが、“デザインとアートは別物”といったフレーズをことさら強調するように構成されていることにはため息を禁じ得ない。確かに黒川氏はそのように述べたのだろう。しかし黒川氏が店舗デザインというコマーシャルで旧態然とした世界にどっぷりと浸かりながらも決してアートの本質から逃走すること無く、むしろ正面切って向かい合っていたことは第三者の目から見れば疑い様の無いことだ。
60年代生まれの著名デザイナーにありがちな、いささか感覚的に過ぎる言葉の断片を分析もせず真に受けたのか、世の中には金儲けのためのハコづくりサービス業に邁進する勤勉な人たちがひしめくように現れて、今やインテリアデザインはその息の根を完全に止められそうになっている。もし健在であれば、黒川氏は名匠と呼ばれる最後のインテリアデザイナーになる役回りだったかもしれない。

TSUTOMU KUROKAWA 黒川勉のデザイン(amazon.co.jp)

アウトデザイン(黒川勉)
訃報・黒川勉氏逝去(Jul. 26, 2005)

作品集の終わり近くに黒川氏のスーパーポテト時代の師である杉本貴志氏の談話が掲載されている。インテリアデザインの現状と、黒川氏の活動のベースとなる思考について、簡潔に言い当てたものとして記憶しておきたい。

(略)いまインテリアデザインは急速に商品化されているという大きな問題に直面しており、デザイナーは「商品」としてのデザインと「素」や「原型」と言うべきデザインという両者の間で葛藤を強いられている。その振れ幅のなかでなお、模索を続けるのはエネルギーのいることだ。特に彼は既存のセオリーや方法論とは違う方へ意識的に踏み出そうとしていたからこそ、振れ幅も葛藤の度合いも大きかったのではないだろうか。(略)
談:杉本貴志『TSUTOMU KUROKAWA 黒川勉のデザイン』より


2006年08月17日 16:00 | trackbacks (0) | comments (0)
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