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都市とデザインと : クリエイターズ 長大作/細谷巖/矢吹申彦

9/1。世田谷美術館『クリエイターズ 長大作/細谷巖/矢吹申彦』を見に行った。前に世田谷美術館を訪れたのはジェームズ・タレルの展覧会の時だから、かれこれ8年ぶり。駅から遠いのも、内井昭蔵の設計による80年代らしい建築意匠も相変わらずだ。

展覧会は建築家・家具デザイナーの長大作氏、アートディレクター・グラフィックデザイナーの細谷巖氏、イラストレーターの矢吹申彦氏の個展を3ついっぺんに開催したような体裁となっている。それぞれのクリエーターにはこれと言った関連性は無く、3人の作品が同時に展示されることも無い。世代的には名前の順にほぼ10年ごとの開きがある。
一体どういう企画意図でこうなったのかは展覧会カタログを読んでも良くわからない。しかし各々の作品のボリュームはデザイナーの展覧会としてはかなりのもので、その質の高さも尋常ではない。不勉強な私たちは細谷氏と矢吹氏の作品をまとめて拝見したのは初めてだったのだが、会場を去る頃にはすっかり打ちのめされてしまった。こうした不意の出会いの演出を可能にすることにおいては、この会場構成はアリだろう。

長氏の展示は『かきシリーズ』と呼ばれる一連の椅子をメインとするもの。半世紀にわたって時々に新しい技術を盛り込みながら改良を加え続けるデザインへの執念と、結果として生まれた魅力的なバリエーションの数々。平伏するより他は無い。個人的には松本幸四郎邸などで使用された中座椅子(1958)、国際文化会館ティーラウンジのパーシモンチェア(2006)、ラムダシリーズの肘付椅子(1967)などが最も印象深かった。ちょうスツール(1992)の座り心地の良さと、イグナチオチェア(1998)の圧倒的な質感の高さも忘れ難い。

細谷氏の展示エリアでは最初期の作品であるオスカー・ピーターソン・クインテット(1955)と勅使河原蒼風個展のポスター(1956)にいきなり足を止められた。壁と言う壁を高密に埋め尽くす作品群は、背景写真を倒立させてしまったヤマハYDS2のポスター(1959)、毛筆タイポと三船敏郎との間合いが絶妙過ぎる「男は黙ってサッポロビール」の広告(1966)、周到なセッティングで決定的瞬間をつくりあげたキャノンAE-1のポスター(1977)などを経て、キューピーマヨネーズの広告(1976-)へと至る。最近の広告物からはとんと感じられなくなってしまった心を鷲掴みで揺さぶられるような感覚が、そこら中に漲っていた。制作に際して描かれた手書きのスケッチが、ガラスケース無しで間近に見られるとはなんという幸運。

矢吹氏のイラストレーションに描かれた世界観は、最初期のジェファーソン・エアプレインのポスター(1972)の頃から現在に至るまで一貫している。見事なまでのぶれの無さときたらもう驚愕ものだ。しかしそこには息の詰まるような印象は無い。むしろ感じるのは開放された都会の野生のようなものだ。
もしかするとこの御三方の共通点はその辺にあるのかもしれないな、と、宙空に浮かぶ樋口一葉のイラストレーション(2000)を見ながら考えた。

2006年09月06日 04:00 | trackbacks (0) | comments (0)
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