8/27。東京国立博物館で開催されていた『プライスコレクション 若中と江戸絵画』の最終日に滑り込み。
16:00頃に正門を訪れると、入場まで30分待ちとのこと。平成館前にずらりと延びた行列の最後尾に並ぶ。思いのほか進みは早く、10分くらいで館内へ。エスカレーターを挟んで6室に分かれた会場のうち、やたらと混雑していたのは若沖作品が多数展示されていた2番目の部屋まで。以降は割合ゆったりと観ることができた。閉館の30分ほど前にガラガラの会場を逆行して、若沖をもう一度鑑賞。『鶴図屏風』に見られる単純化されたフォルムとそのバリエーション、『雪中鴛鴦図』の水中から半身をのぞかせるオシドリを中心とする巧みな画面構成に唸る。
広告物でのメインビジュアルとして用いられていた『紫陽花双鶏図』も、展示の目玉として扱われていた『鳥獣花木図屏風』も無論素晴らしかったが、このイベントの最大の見所はなんと言っても最後の2室にあったジョー・プライス氏入魂の特別展示だろう。ここで展示作品を照らすのは主に側方からのライティング。その光量と色温度はゆっくりと変化するようにプログラムされていた。作品のセレクトは明らかに演出効果を引き出すことを主眼においたもので、そこにテーマや歴史的な意味合いでの一貫性が無かったことは残念と言えば残念だが、日本家屋での自然光のうつろいを思わせるライティングのもと、各作品が見せる様々な表情はとても興味深いものだった。
この展示で最も印象的だったのは酒井抱一の『佐野渡図屏風』と『十二か月花鳥図』。おそらくフラットなライティングのもとでは何でも無い画面にしか見えないであろう『佐野渡図屏風』が、静かに降り積もりつつある雪をあれほど豊かに表現したものであったとは、まさに目からウロコだ。『雪中美人図』(礒田湖龍斎)に描かれた白地に白い柄の着物の表現、『白象黒牛図屏風』(長沢芦雪)の大胆なデフォルメと構成も見事だった。
9/23から開催される京都展では『十二か月花鳥図』をなんと自然光のもとで展示するらしい。これを観るためだけにでも京都に行きたくなるなあ。合わせて細見美術館で鈴木其一も観たい(傑作揃いのプライスコレクションだが、其一についてはどうも不発気味だった気がするのは私たちだけだろうか?)。
他にも記憶に残る作品を挙げ始めるときりがないくらいだが、中でも森狙仙の描く猿(『梅花猿猴図』と『猿猴狙蜂図』)には強烈に心を動かされた。一瞬を捉えたその間合いの美しいこと。