10/22。御殿場からさらに沼津へ。魚市場周辺を一巡りして、中でも特別賑わっていた大型店『丸天』に下調べ無しで入ってみた。
男前な店構え。順番待ちの客を仕切りつつ、まぐろかぶと煮やかき揚げの販売もこなす気っぷのいいおばちゃんもまた男前。
満杯のフロアを仕切るおばちゃんたちもやたらと威勢がよくて一瞬気後れしそうになるが、やり取りに慣れて来るとなかなか楽しく、気分が盛り上がって来る。応対そのものは意外と親切だ。他のテーブルを見回すと、料理がいちいちでかい。こりゃ気をつけなくちゃ、と思いつつ、ついついたくさん頼んでしまった。
左上から時計回りに上にぎり、特とろにぎり、生しらす丼、上造り。
上の写真左がかに汁。右は巨大なかき揚げ。
料理はどれもボリューム勝負。魚の質もなかなか素晴らしいんだけど、ややインパクトには欠ける。以前に近くの他店で衝撃的な味覚体験をしていたウヱハラ先生はちょっと不満そうだったが、私たちはシチュエーション込みで十分楽しませていただいた。機会があればまたおばちゃんたちに会いに来たいものだ。
丸天魚河岸店静岡県沼津市千本港町114-1/055-963-0202
7:30-8:45LO/年中無休
10/22。富士吉田からウヱハラ先生のトゥインゴ号で御殿場へ。『プレミアム・アウトレット』を初めて訪れた。アメリカのチェルシー・プレミアム・アウトレットが展開するアウトレットセンターのひとつ。近隣に点在する専用駐車場のひとつから、シャトルバスに10分ほど揺られて到着。
商売柄問題があるかとは思うが、個人的には全く興味の無かった場所。こういう機会でもないと一生行かなかったかも。しかし百聞は一見にしかず。意外にも大いに楽しむことができた。ここのところ金欠状態が慢性化しているため、結局何も買えなかったんだけど(BALLYの30万円のレザージャケットに6万円の札が下がっているのを見た時は、さすがに間違えて買ってしまいそうになった)。
御殿場市深沢の東名高速脇にある敷地は鮎沢川の支流を挟むようなかたちで2つのエリアにまたがっている。その間にかかるブリッジからの景色はこんな具合。
テーマパーク級の恐ろしく巨大な商業施設は、そのスケールにも関わらず全体にそつなくデザインされている。良くも悪くも特筆するようなことは何も無い。ただグレーの空の下、富士山系の森と高湿度な空気のなかに、いかにもアメリカ的なうすっぺらい表層が居心地悪そうに存在するだけだ。
そんな中でもCamperのショップは実に上手くデザインされていた。お決まりの大胆なレッドの壁面やグラフィックと、グリーンの鉄骨で囲われたストックスペースの対比が鮮やか。黒い傘の照明が、木製什器と一体化した亜鉛メッキパイプのフレームからぶら下がっているのも、ベタな手法ではあるが嫌みが無い。
左の写真は動線のあちこちに点在する屋台のようなショップのひとつ。こうしたものまで環境に合わせて割合ちゃんとデザインされている。右はフードコート。販売スペースがこぢんまりとしているのに対して、客席スペースは驚くほど広大なのが面白い。壁に取付けられた巨大な鹿の首の剥製にびっくり。
今度は貯金して行こう。
10/22。前日にようた氏の結婚式に出席して、この日は山中湖から富士吉田、御殿場、沼津方面をウヱハラ先生のトゥインゴ号でぐるぐる。まずは吉田うどん(なんだかうどんブログみたくなってきた)。
ようた氏おすすめの『白須うどん』が定休日だったため、急遽当てずっぽうで入ったのがこの店『桑原』。昼食時の駐車場は地元ナンバーの車でほぼ満杯。店内は全て座敷で、4人用のテーブルが8つほど並ぶ。家族連れや工場勤務と思しいグループ客で大いに盛況。
が、しかし、うどんを食べている人はほとんど居ない。人気メニューはラーメンや天婦羅の定食か。あれま。こりゃしくじった。
つけうどんはガラスの平皿に盛られて登場。太くねじれた麺の上にはゆでキャベツとねぎ。衝撃のビジュアル。あたたかいつけ汁が別の椀で添えられる。つけ汁が味噌ベース(!)なのはこの店の特徴のようだ。
麺の食感はゴリゴリと固い。野蛮な小麦粉のかたまり、と言った印象だが、これが意外と悪くない。しょっぱいつけ汁とゆでキャベツが実に良く合う。お好み焼きやもんじゃのような「コナモン」の魅力を感じさせるうどんだと思った。
かけうどんの汁はつけうどんのつけ汁とほぼ同じで、少ししょっぱさを弱めてある。麺のゴリゴリ感はかなり控えめに。火が通ったことで生じたもちもちとした食感は、ほうとうに近いかもしれない。こちらもトッピングはゆでキャベツとネギ。つけうどんとかけうどんの全景はこちら。
後で調べた所によると、『桑原』のうどんの味は吉田では平均的なものと評価されている様子。讃岐や大阪からは遠く離れたところで、うどんは山の料理として独自の発達を遂げていた。
桑原/山梨県富士吉田市下吉田3049/0555-23-7918
11:00-15:00/年中無休
10/17。打合せの帰りに『かがり火』に初めて立ち寄った。御徒町駅のすぐそばにあるうどん店。夜は居酒屋となるが、昼間に作り置かれたうどんをいただくこともできる。料理長はなんとあの名店中の名店・讃岐の『宮武』で修行した経験を持つと言う。
路地に面した外観はちょっとチェーン店っぽく雰囲気には欠ける。階段を下りて、控えめな音量でジャズが流れる店内へ。左官壁などにがんばりは見られるが、内装は比較的シンプル。かえってホっとした。
店の切り盛りはキッチンに2名、フロアに1名のスタッフで分担されている。夜は居酒屋メニューがメインとあって、うどんのメニューは頼まないと出て来ない。すだち酒、かがり火サラダと黒毛和牛のすき焼きコロッケ、ちくわ天付きのひやあつ(冷たい麺に暖かい出汁)かけうどんと醤油うどんを一気に注文。
上の写真はひやあつのかけうどん。ねじれた麺に『宮武』の片鱗は感じられるものの、全体的な印象は『宮武』に比べると良くも悪くもはるかに優しいものだ。
ところが、出汁を一口すすって驚いた。かつて味わったことの無い強烈でクリアないりこの香り。本場讃岐で食べたうどん以上に瀬戸内らしさを感じる出汁だった。
上の写真左は醤油うどん。口の中であばれるようなワイルドさは無いが、適度なコシが讃岐うどんらしさをとどめている。この様子だと昼間のうどんにはけっこう期待が持てそう。
写真右はちくわ天付きのひやあつかけうどん全景。この天婦羅のサイズが嬉しい。
夜の居酒屋メニュー、かがり火サラダと黒毛和牛のすき焼きコロッケの完成度もなかなかのもの。『宮武』直系とは言え、目指す方向はずいぶんと異なることは了解した。うどん店としての実力の程は、昼の営業時にはっきりするだろう。再訪するのが楽しみだ。
かがり火/東京都台東区上野4-1-3-B1/03-5818-6050
11:30-LO15:15,17:30-LO22:30(日祝昼のみ)/月休
10/13。ジェニー・ホルツァー展を見てから蔵前で整体。夕食は浅草で。浅草では『大昌園』、『本とさや』などに並ぶ有名焼肉店『金楽』を初めて訪れた。場所はたぬき通りの南側。
かなり古そうな木造の店構え。ちょっとあり得ない場所に業務用の大型冷蔵庫が置いてある。暖簾をくぐり、丸きり家庭的なアルミサッシの引戸から店内へ。時間が比較的早かったせいか、店内は割合空いた状態。2名と告げると店主と思しい年配の男性が1Fの右半分を占める座敷中央のテーブルを指差した。
無事座ることができて、若干ザマスな眼鏡の女性(奥様だろうか)に飲み物を注文。店内を見回すと、入口側に恐ろしく急な階段があるのが分かった。私たちの後に2Fへ通された客は、その手前で脱いだ履物を手に持って階段を上がってゆく。道路境界線上の冷蔵庫といい、なかなかいい感じにデンジャラス。
ほどなくハラミ塩2人前が登場。分厚い。テーブルに埋込まれた遠火の七輪でじっくり網焼きしてから一口。味付けは極めて控えめだが、濃厚な肉そのものの風味がひろがる。これはまるで旨味の塊だ。
続いて上カルビとホルモン、ミノ(全てタレ/1人前)。脂分の少ないホルモンとさくさくのミノ、そしてさっぱりと上品なタレに、素材そのものの味を重視するこの店の姿勢を確認。上カルビの味付けだけはやや濃いめ。赤身の旨さが勝っていたので、これはこれでアリだろう。
続いてキムチとタン(タレ/1人前)も注文。タンはやはり分厚く、歯ごたえはさっくり、それでいて頬張ると見事な弾力。さらにハラミ(タレ/1人前)を追加。これまた控えめかつ効果的な味付けが肉の旨味を引き立てる。
ふと気付けば店内はほぼ満席。開けっ放しの入口の外には順番待ちの姿も。やはりこの辺りではかなりの人気店のようだ。
皿が空くと店主氏が片手を差し出すので「はいよ」と渡す。愛想は無いし、日本語はあまり得意では無さそうだが、たまに客の冗談に意外なボケで応えたり、予約して来た人の席が無くなっていて眼鏡の女性に叱られたりしているのを見ると、なかなか魅力的な人物に思えて来る。
最後に注文したテグタンの素晴らしさにも驚いた。どう見ても(食べても)ユッケジャンクッパなんだけど、それはこのさい置いとこう。鮮やかな辛味を豊かな風味が優しく包み込む逸品だ。
肉の持つ野性味とクオリティをシンプルに、かつ最大限に堪能できる店。雰囲気とサービスは庶民的だが、値段も庶民的なのが嬉しい。ハラミ史上最強。
金楽/東京都台東区浅草1-15-4/03-3844-3357
12:00-23:00/第2火休
10/13。神保町で打合せの後、青山へ移動。Originで髪を切ってからギャラリー5610で開催中の『2人展「河野鷹思+Max Huber」』を見た。
河野鷹思(1906-1999)についてはこちらのエントリーを参照のこと。『商店建築デザイン選書』の装丁を手がけており、自身も和食店のアートディレクションを行っているため、グラフィックデザイナーのみならず、インテリアデザイナーにとっても馴染みのある先人だ。
マックス・フーバー(1919-1992)はスイスのグラフィックデザイナー。リナシャンテ、オリベッティ、ボルサリーノなどイタリア企業とのコラボレーションにおいて多くの業績を残している。バウハウスからの影響の見られるフォントや画面構成、そしてクリアでカラフルな色使いによるエレガントなデザインは、現代においても全く古さを感じさせない。今年スイスに美術館『m.a.x.Museo』がオープン。また没後初の作品集も刊行された。
展示されているのはポスターと装丁の作品が各20点ほど。おそらくなんらかの都合があってのことだとは思うが、マックス・フーバーの作品は比較的渋めなものばかりで(それでもジャコメッティの展覧会ポスターの構成は素晴らしかった)、結果的に河野鷹思の凄みが際立っていたように思う。上記の作品集の内容が素晴らしかっただけに少々残念だが、同じ印刷物と言えども書籍と実物とでは丸きり体験の質が違うこともまた事実。20世紀半ばのグラフィックデザインが持つ力強さを文字通り目と鼻の先で体感できる貴重な機会であることは間違いない。会期は水曜日までなのでお早めに。
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さらに日暮里へ移動して、SCAI THE BATHHOUSEで開催されていたジェニー・ホルツァー(1950-)氏の展覧会へ。『Xenon』プロジェクトを記録した写真の超大判プリントが数点と、84個の小型LEDディスプレイによるインスタレーション。
『Xenon』はキセノンランプによるプロジェクターを用いて世界各地のパブリックスペースにテキストメッセージを投影するインスタレーション。英語力がからきし無いため、どんなメッセージが投影されているのかは私たちには分からない。しかし歴史的建造物に対して、その形状とはまるで無関係にべったりと貼り付いたサンセリフの巨大なテキストは、それ自体が十二分にショッキングなビジュアル。畳一帖分くらいの大きさはありそうなマットな印画紙にプリントされたモノクロの緻密な画面が、そのインパクトをさらに強烈なものにしていた。
展示室奥の壁一面を使ったインスタレーションは、葉書よりひとまわり大きいくらいのLEDユニットの配置で構成されていた。各ユニットごとにタイミングをずらしながら横流れに表示される同一のテキストメッセージは、その輝度の高さと単純さにおいてある種暴力的であると同時に極めてスタイリッシュでもある。何が述べられているのかが分からないだけに、私たちにとってこのカッコ良さはかえって危険だ。ユニットごとにバラ売りしていたので、思わず衝動買いしそうになったが、ひとまずぐっとこらえておく。
近頃いわゆるファインアートに飽きが来てしまっている私たちだが、この展覧会の完璧なプレゼンテーションと、作品のプロダクトとしてのクオリティの高さにはすっかりやられてしまった。グラフィックとか建築とか、あるいはアートとかデザインとか、そう言った既存のフォーマットを無効にしながら自らを環境化してゆくような表現に強く惹かれる。
JENNY HOLZER : FOR THE CITY (CREATIVETIME)
Neue Nationalgalerie: Installation von Jenny Holzer (YouTube)
ベルリン新国立ギャラリー(設計:ミース・ファン・デル・ローエ)での展示
10/8。東京オペラシティアートギャラリーで開催中の展覧会「伊東豊雄:建築|新しいリアル」のオープニングレクチャーへ。会場はオペラシティB1Fのリサイタルホール。以下はその内容の簡単な覚え書き。
またまた蔵書が棚から溢れ出してます。誰か買って&もらって!
X-Knowledge HOME/Vol.01-08,10-20/19冊セット(別の写真1,2)
(お買い上げありがとうございました)
今は無きエクスナレッジ社のムック『HOME』です。毎号特集の切り口が無闇にシブく、誌面がやたらとビジュアル系だったので心配はしつつも楽しみにしていましたが、やっぱり長続きしませんでした。合掌。Vol.09が抜けてはいますが、実はけっこう貴重なセットかもしれません。定価はVol.01が420円、02から16が840円、17から20が1260円です。状態は全体にわりと良好です。各号の特集は“続きを読む”でご覧下さい。まとめて買い取って下さる太っ腹な方に一式5000円(送料別)でお譲りします。
室内/11冊セット(画像クリックで拡大)
(ご連絡をありがとうございました)
今年ついに休刊となってしまったインテリアデザイン誌『室内』から、長らくとっておいたバックナンバーをまとめて放出。エコ関連の特集号が多いですね。定価は各1100円です。状態は表紙に少し擦れがあることを除いてわりと良好です。各号の特集は“続きを読む”でご覧下さい。インテリアデザインの勉強をなさりたい方に無料(送料別)で差し上げます。
早い者勝ちです。ご希望の方はメールかこのエントリーへのコメント(メールアドレスの記入が必要ですが、公開されることはありません)にてご連絡いただけましたら幸いです。受け渡しの方法などについては追ってご相談させて下さい。どうぞよろしくお願いします。
10/4。『成城コルティ』から千歳船橋へ。『堀口珈琲』世田谷店に初めて足を運んだ。オープンは1990年と比較的新しいが、オーナーの堀口俊英氏は珈琲の研究で著名な人物。氏の指導を受けた珈琲店は全国に数限りない。
店内に入ると左手に長いキッチンカウンターがあり、右手にはテーブル席が比較的ゆったりと配置されている。チェアやテーブルのデザインは全くのバラバラで、スタルクの隣に出自不明の籐椅子が置かれている、と言った具合。内装全体を見ても統一感は無く、木部材にはあちこちで濃淡も樹種も異なるものが使われ、壁にはクロスの箇所もあれば左官もある。
キッチンカウンターの先の店内最奥にガラスで仕切られた一角がある。中の棚には無数のグラス類や何種類ものエスプレッソマシンなど、さまざまなカフェの道具がずらり。さらに客席のつきあたりの棚にはさまざまなスタイルのカップ類がずらり。
なるほど。どうやらここは決まったスタイルをプレゼンテーションする珈琲店ではない。カフェ開業を目指す人たちに「こういった道具がありますよ」と一通り紹介するためのお教室なのだろう。
最もベーシックなメニューのひとつであろうシティローストの味わいブレンドを注文。コーノ式のペーパードリップ。予想通り見事にクリアで、申し分無く均整がとれている。が、「美味しいか」と訪ねられたら、ちょっと首を傾げざるを得ない。さらにフレンチローストの深煎りブレンドを飲むと、まさしく理屈通りに苦味が少しばかり際立って感じられる。この調子で他のメニューも飲み進めると、味覚の座標上にきれいな等間隔の点がプロットされそうだ。
一方、アイスコーヒーはドリップコーヒー由来のバランスの良さに深みを加えたさわやかな味わい。製氷機の氷がわずかに(しかし明らかに)クリアさを損なってはいたが、迷い無く美味しいといえるものだった。また、さっくりと軽い食感のバナナのケーキとハムタル(ロールハムとタルタルソースのアメリカンサンド)はコーヒーと実に良く合う。
そしてこの日の一番の驚きはエスプレッソ。上の写真は飲みかけ(すみません)。
通常、エスプレッソは雑味も何もかもが全部入りの中に砂糖をどばっと入れて飲むものだが、このエスプレッソはなんともまろやか。期待されるコクと同時に、上品さすら感じさせる。
バランス重視のドリップコーヒーは、味の評価基準を持たない人に対しては有効な教材となるだろう。しかし、ひとたび珈琲好きの道に足を踏み入れ、他店のさまざまな味を知ってしまった人にとって、何の表現も持たない珈琲はわざわざ飲む価値のない珈琲でしかない。
ただ、徹底的な没個性が個性に転じることも世の中にはあるものだ。突出したところが無く、それでいてパンチのあるエスプレッソ。これは立派なオリジナルだと思う。
堀口珈琲世田谷店/東京都世田谷区船橋1-12-15/03-5477-4142
9:00-20:00/無休
10/4。打合せの帰りに『成城コルティ』を一巡りしてみた。2006年9月にオープンしたばかりの小田急成城学園前駅ビル商業施設。建築設計は坂倉建築研究所。
北口からの外観。一見すると特に新鮮みのないプレーンなガラスボックスだが、細部には繊細な気遣いが見られる。3Fレベルの植栽は駐車場動線を目隠しすると同時に、無機質なファサードの印象を和らげる。
中央口改札の前で頭上を見上げたところ。グレーの内壁はPC板。トップライトは網入波板ガラス。ヘビーデューティーな使用素材は完全に「駅」そのもの。しかし吹き抜けの開放感がそのことをすっかり忘れさせる。ライティングは控えめながらデザインの要所をちゃんとわきまえたもので、こうした施設には珍しくセンスがいい。最上階(4F)の東端と西端にはそれぞれちいさな屋上庭園が設けられている。ここがうまく機能するかどうかはちょっと心配なところ。
テナントではエマニュエル・ムホー氏デザインの『ABCクッキングスタジオ』と『ボディーズ』(フィットネス)、インテリア金物メーカー・KAWAJUN運営の雑貨店『KEYUCA』辺りが目を引いた。『三省堂書店』はこの立地にしては驚くほど広大。スーパーマーケット『Odakyu OX』はつくりはそこそこ立派なのに通路がやたらと狭くてちぐはぐな状態(ある意味成城らしいかも)。1Fの『DEAN&DELUCA』はワンダーウォール・片山正通氏のデザインとのこと。
また、保育園、クリニックモール(3つの医院が入居)、アロマテラピーサロン、ドラッグストア、英会話教室といったサービス業態の占める面積もかなりもの。一方、4Fレストランフロアはどこもこぢんまりとした区画内に席を詰め込んだ印象。ディベロッパー側・テナント側双方の手堅い算段を感じる。
上の写真と同じ方向を4Fから見下ろしたところ。
浮かれたところが無く、かと言っていかにも切り詰めた風にも見えない今時の地元商業拠点。ハード・ソフト両面の手入れがきちんと続いてゆけば、けっこう魅力的な空間に育つかもしれない。
成城コルティ(SEIJO CORTY)/東京都世田谷区成城6-5-34/03-3483-5621
ショップ10:00-21:00,レストラン11:00-23:00(一部異なる店舗有)/不定休
9/26。銀座『さか田』での食事後、もと来た道を引き返して『Paul Bassett』へ。『Salvatore』などを運営するワイズテーブル系のエスプレッソカフェ。2005年オープン。場所は『ライカ銀座店』のすぐ近く。内外装のデザインはスピンオフ・塩見一郎氏が手がけている。
数寄屋橋通りに面した店構えは開放的で落ち着いた雰囲気を醸し出している。すでに街の一部といった佇まい。
店内の天井はスケルトンの状態をオフホワイトにペイントしたもの。建物の梁だけがコンクリートのまま残され、文字通り古材としての雰囲気を醸し出しているのが面白い。高さを最大限に生かしたシンプルなインテリアは、その周到な設えによって実にシャープな印象を与える。流麗なフォルムの細いフレームにメッシュの背もたれを持つオリジナルのチェア類は、その存在感こそ控えめだが、空間全体を引き締める重要な役割を果たす(座り心地は今ひとつ)。
整った空間に思い切り破調を加えるのが、フロアに鎮座する巨大な焙煎器。機関車を思わせるメカニカルな形状はインパクト抜群だ。
上の写真はマキアートとチョコレートのセット。エスプレッソ類は世界バリスタチャンピオンを獲得した経験のあるオーストラリア出身のポール・バセット氏がプロデュース。チョコレートは辻口博啓の『ル・ショコラ・ドゥ・アッシュ』。
お湯の味がするマキアートはちょっと残念。エスプレッソはまさに全部入り、という感じで、おそらく好みの分かれる味ではあるが私たち的には十分満足のゆくものだった。他にもいろいろなエスプレッソメニューがあるので、またスウィーツと一緒に楽しませていただくことにしよう。
Paul Bassett銀座/東京都中央区銀座6-4-6-1F/03-5537-0257
10:00-23:00(木金-27:00)/無休
9/26。銀座『さか田』で夕食。『恐るべきさぬきうどん文庫版・麺地巡礼の巻』にも掲載されている讃岐うどん店。開業年は不明。初代の店主は徳島県出身で、さぬき麺業で修行なさった方だったと聞く。先日訪れた根津『根の津』の店主はこの店で修行の後に独立されたのだそうだ。
場所は『MIKIMOTO Ginza 2』から並木通りを少しばかり北上したところにあるちいさな雑居ビルの2F。平日の夕食時とあって、二十数席ほどの店内は大いに賑わっていた。メニューにはうどん以外の飲屋料理も充実している。生じょうゆ・ぶっかけ・かやくがセットになったうどん三昧と釜玉バターうどん、鳴門わかめのぬるぬるサラダと肉豆腐を注文。
生じょうゆうどんのエッジとつやは実に見事なもの。のどごしと歯ごたえも申し分無い。讃岐うどんと呼ぶには「のびやかさ」が決定的に欠けているように思うが、これはこれで美味い。ぶっかけ(下の写真左)についても同様のことが言える。
かやくうどんはここでもやはり大阪うどん化していた。いりこの使われていない出汁がその印象をより強くする。いわゆる一般的なうどんとして、讃岐を忘れていただくことが容易なメニューだけに、かえって満足度は高い。
ほぼカルボナーラ、と言った風情の釜玉バターうどん。こちらもかやくうどんと同じ理由で無条件に美味い。素材の持ち味をダイレクトに生かしたサイドメニューもなかなかいける。なるほど、これは流行るわけだ。銀座にあっては貴重なリーズナブルさと、十二分に満足のゆくクオリティを兼ね備えた良店だ。
しかし讃岐うどんを標榜する店としては、ずいぶん遠くまで来てしまったな、と思わざるを得ないのが正直なところ。ついこの間いただいた『根の津』のうどんが懐かしいとさえ感じられる。
果たして初代店主のうどんはどんなものだったのか。今の『さか田』とそう変わりは無いにせよ、できれば一度味わっておきたかった。
さか田/東京都中央区銀座1-5-13-2F/03-3563-7400
11:30-14:00,17:00-22:30(土昼のみ)/日祝休
先日ライカ銀座店に行った時、5月に日本でも発売されたコンパクトデジカメ『C-Lux 1』の現物をはじめて見た。これがもう実に魅力的。いや、ほとんどコレのロゴ違いでしかないことは重々分かってるんだけど。
普段リコーのCaplio GX8にワイドコンバージョンレンズを付けっ放しで使っていると、時々もっとコンパクトで手ぶれ補正付きのカメラが欲しいな、と思うことがある。C-Lux 1ならその点申し分無い。ワイド端28mmというのは私たちにとっては決して十分なスペックではないが、コダックのEasyShare V570がマーケットから消え去った今となっては、一般的なコンパクトデジカメとしてはましな方だ。
それにしても、オリジナル(パナソニック/DMC-FX01)から少しばかり細部をリファインしただけで、質感まで俄然上がったように見えてしまうのだから、私たちの目もいい加減なものだと思う。もしかすると逆に、細部のセンスの無さがいかにオリジナルのデザインをダメにしているか、と言えるのかもしれない(そうであって欲しい)。
C-Lux 1の電源をオフにすると、液晶ファインダーが消える前に一瞬ライカのロゴが現れる。こんなインターフェイスについグッと来てしまうのは、やっぱりダメな中高年なんだろうな。
シルバーモデルは販売国限定。オリジナルとの違いが分かり易い。
9/26。秋雨の中、ライカ銀座店へ行ってみた。2006年4月にオープンした世界初のライカカメラ社直営店舗。内外装デザインを手がけたのは岸和郎+ケイ・アソシエイツ。
華奢なフレームを持つガラスのハコがビルの正面にはめ込まれたような外観。
素っ気ないファサードデザインに赤丸の突き出しロゴサインが良く映える。写真ではほとんど見えないが、ガラスのすぐ内側にある建築本体の柱を覆う造作には、ライカのロゴが無数にプリントされている。
ガラス越しに見た店内(写真左)。外部に面したショーケースは無く、歩道との間にはゆったりとした直方体の空間がとられ、ベンチが設えてある。設置部を切り欠いたエントランスゲートのディテールにはどんな意味があるのか気になるところ。
圧巻なのはインテリア。遠目には黒、白、赤の三色による単純な構成にしか見えない空間には、実のところ驚くほど多様な質感がちりばめられている。黒い部分だけでもガラス、木、アルミ、シルクの布団張り、と言った具合。それらは圧倒的に繊細なディテールと豊かな質感を伴い、私たちの目の前へ次々と静かに登場し、店内を整然とゾーニングする。
残念ながら透明アクリルの什器には接着施工の不十分な箇所が目立ったものの、他は完璧以上の仕上がり。照明器具や空調設備の納まりにも一切抜かりが無い。その品質の高さはライカカメラに劣らないどころか、凌駕している面さえあるのではないかと思わせる。そこを望んだ上で、初の旗艦店を日本につくり、岸氏をキャスティングしたのだとすれば、ライカの慧眼は確かなものだ。施工を手がけたのは美留土。
1Fのフロアは60平米ほど。2Fはサロンと呼ばれるスペースで、写真作品の展示が行われている。現在はセバスチャン・サルガドの展覧会『INDIA』が開催中。
コンパクトながら、随所に余裕とクオリティを感じさせる空間は、カメラ愛好家だけでなくインテリア・建築関係者にも必見だ。控えめな中にこれほどの凄みを感じさせる物販店には、滅多にお目にかかれるものではない。
ライカ銀座店/東京都中央区銀座6-4-1東海堂銀座ビル1,2F
11:00-19:00/月休
デザイン好きの心をくすぐるモノと空間 - ライカ銀座店(JAPAN SHOP)
9/23。着付教室の帰りに湯島で地下鉄を降りて、以前から気になっていた和菓子店『つる瀬』に立ち寄った。創業は1931年とのこと。
薄いういろうから梅餡が透けて見えるふく梅。上にはちいさな梅干しが乗っていて、これが餡の甘味を素晴らしく引き立てる。もうひとつは栗かのこ。こちらもなかなか。
今度は豆大福を買ってみなくては。喫茶室のメニューも気になるところ。
つる瀬/東京都文京区湯島3-35-7/03-3833-8516
8:30-21:00(喫茶室LO20:30)/無休
9/19。打合せの帰りに成城学園前の駅ホームで見つけた大型行灯広告。
マツダのショールームだった頃を思えばずいぶんと大胆な変貌ぶりではあるけど、実は意外にハマってるんじゃないか、とも思ったり。