12/26に第1回AICAショップデザインコンテストの結果発表があり、love the lifeの応募作品『dcb』は最優秀賞をいただきました。
photo : shinichi sato
今回久方ぶりに国内のデザイン賞に応募してみた最大の理由は、内田繁氏が審査委員長であったことです。また、他の有名デザイン賞と違って審査料が無料であるばかりか、作品登録が全てウェブ上で完結するため資料作成のコストがほとんどかからず、応募者の負担が極めて少ない点にも好感を覚えました。主催者が建材メーカーであり、作品にAICA商品が使用されていることが応募の条件とはなりますが、良いコンテストになるのではないかという漠然とした期待がありました。
他の作品についてあまり詳しいことは分かりませんが、幸いかなりレベルの高いものが寄せられていたことは間違いないようです。各受賞作品に至っては、その質的内容の差は無いに等しいものだと思います。何より、深く尊敬する内田氏に評価をしていただけたことを、他の受賞者の皆さんとともに喜びたいです。審査総評などは現在発売中の商店建築2007年1月号にも掲載されています。
オーナーの櫻岡さんと古谷田さん、施工をしていただいたイカハタの清原さんと谷川さんをはじめ、『dcb』に関わる全ての方々に心から感謝致します。申し訳ありませんが、賞金は借金の返済に充てさせていただきます(笑)。近いうちに飲みましょう。
12/6。打合せの合間に原宿『COCONGO』で軽く食事。ユナイテッド・アローズ各店が固まってあるエリアの裏路地に面したカフェ。
子牛(?)の剥製がお出迎え。木造二階建家屋の1Fがカフェ、2Fがギャラリースペースに改装されている。黒いスチールサッシのシンプルなファサードの向こうには混沌とした世界が。
造形作家であるオーナー氏の手に寄るインテリアはどこを取っても国籍不明で時代も不明。それでいて違和感無くひとつの世界としてのまとまりを見せる。細部については実際に見てのお楽しみ、と言うことで、ここで紹介するのは止しておこう。
この店の前身であり姉妹店であった『EATS』(2005年6月に閉店)に比べると、それぞれの造作が少々小奇麗に過ぎる印象は否めないが、実はその点を抜かり無く帳消しにする要素をオーナー氏は用意している。それがこの店の裏手にある小さな庭だ。
ファサードと同様の細いスチールサッシに仕切られた向こうに見える雑然とした植栽は、癒しとか潤いとか以上に泥臭い野性味を強く感じさせる。その様子を背景に、ともすればちょっとしたオシャレアイテムの寄せ集めと受け取られかねないインテリアが、怪しい輝きを放ち始めるのだ。この店の空気感を支配しているのが、事実上この庭であることは間違いない。
この日いただいたのは海南チキンライスにさつまいもとココナッツミルクのデザート。どちらもチープな素材をそのまま生かした直球なメニュー。お冷やはモアイ型のプラスチック製コップで運ばれてくる。雰囲気込みで「美味い」以上に「楽しい」と感じさせるこのセンスとバランス感覚は一流。
この日は注文しなかったが、かつて『EATS』の名物であった旅人のカレーも嬉しい復活を遂げている。次回はぜひ久しぶりの味を堪能させていただこう。
COCONGO/東京都渋谷区神宮前2-31-9/03-3475-8980
12:00-22:00/不定休
ここのところlove the lifeとしてはかつてない忙しさ。クライアントの異なるちいさな仕事がいくつも同時進行していると、常に頭を使いっ放しの状態となり、作業を外注することが難しい。まさに孤軍奮闘(2人だけど)。一杯いっぱいとはこういうことか、などと思ったりもするが、今のところどの仕事もそこそこ楽しくやらせてもらっているので気分は良い。来週あたりにはそうも言ってられなくなるだろうけど。
さて、そんな状況下でも以前からチケットを取っておいたホールイベントにだけは足を運んでいる。以下はその内容についての覚え書き。
11/26。フィリップ・ドゥクフレ『SOLO』を天王洲・銀河劇場へ見に行った。
フィリップ・ドゥクフレ氏は一般的にはアルベールヒル冬期オリンピック開閉幕式の演出を手がけたことでよく知られるフランスの振付・演出家。氏のステージを実際に見るのはこれがはじめて。
フィリップ・ドゥクフレ氏と言えば奇抜なコスチュームとアクロバティックな演出、といったイメージが強いが、『SOLO』に登場するのはほとんど本人のみ。ダンスとそのライブ映像にビデオエフェクトを組み合わせての演出は、極めてシンプルながらまるで万華鏡を覗くかのように多彩なものだった。途中展開されるのは自身の生い立ちや家族を写真で紹介するパートと、それにまつわるエピソードから着想を得たパート、氏の身体表現のルーツである新体操の爆笑もののパロディや、尊敬するバスビー・バークレー(ミュージカル映画監督)へのオマージュなど。四十代も半ばを迎えたダンサーが、文字通り全身全霊をかけた貴重なパフォーマンスは、ダンスを見たと言うよりもエッセイか私小説を読み終えたかのような、不思議な印象を残した。
Cie DCA (Philippe Decoufle)
11/29。にっかん飛切落語会第308夜をイイノホールへ見に行った。演目は三笑亭亀次『道灌』、林家たい平『二番煎じ』、桂歌丸『井戸の茶碗』、桂快治『笠碁』、立川志の輔『Dear Family』。
たい平師匠を見るのは初めてだったが、正直、あんなに品格のある落語家だとは全く想像していなかった。今後はしっかりチェックさせていただかねば。歌丸師匠の演目は身分の違う2人の武士が正直者の屑屋を介して奇妙な縁で結ばれる人情話。美しい江戸弁が冴え渡り、可笑しくも心温まる。快治さんの芸は静かだが洗練されている。この人は大化けするんじゃないか。トリの志の輔師匠(やはり見るのは初めて)は現代ものの創作落語。セリフそのものは核家族にいかにもよくありそうなものだが、絶妙に練り込まれたシュールな展開と師匠の素晴らしく良く通る声が、狂気と爆笑の波動となって観客席を包み込む。凄いものを見た。
12/7。マドレデウスのコンサートをオーチャードホールへ見に行った。ポルトガルの5人ユニット。2本のクラシックギターとアコースティックベースとシンセサイザー、そしてテレーザ・サルゲイロの神懸かり的なヴォーカル。透きとおるようなハイトーンヴォイスをファド(ポルトガルの歌謡)特有のビブラートが揺らす。これ以上何も言えない。号泣。
Madredeus
MADREDEUS unofficial website
12/1。打合せの帰りに雷門前で昼食。以前から行こうと思いつつなかなか機会の無かった鰻屋『色川』へ。場所は雷門通りのオオゼキの角を南へ下り、浅草通りの手前。浅草の中心部からさほど離れていないにもかかわらず車も人通りも少ないエリア。近くにロシア料理で有名な『マノス』がある。
木造二階建ての店構えは、浅草で最も古い(1861年開業)鰻屋にしてはいかにも質素で家庭的だ。スリガラスの向こうは暗く、昼間に訪れると外から中を伺うことはほとんどできない。引戸を開けると手前は六畳間ほどの客席で、調理場と二階への階段との間に挟まった細い通路の向こうに小上がり席が見える。6席ほどの白木カウンターの隅に落ち着くと、女性の店員さんがお茶とお新香(奈良漬けと生姜風味の白菜)と割箸を置き「品書きはあちら」と壁を示してから調理場へ。入れ替わりにごま塩頭で若干強面の六代目店主氏がそろりと登場。
うな重の上と白焼を頼むと、「白焼には飯が付いてないぞ」。ご飯を別に付けてもらえるかと聞いたところ「うちじゃそういうのやってないんだ」とのことだったので、上をふたつ注文することに。店主氏は「わかった」と返し、カウンター内の炭火で颯爽と焼き始めた。
この間のまるで落語の滑り出しのようなやりとりと、店主氏の江戸弁で、私たちはもうすでにこの店のファンになりかかっていたように思う。目の前のガラスケースに並んだ出所不明の置物類などすっかり意識から遠のいていたし、さらに言えば鰻の味がどうであっても文句は無かったろう。
で、しばらくして供されたうな重だが、これが美味かった。近火の炭火で焼いた小振りな鰻はふわり柔らかく実に香ばしい。さっぱりしたタレが濃厚な旨味を引き立てる。固めに炊き上げられたご飯との相性がまた素晴らしく良い。決して高級ではないが、正しく庶民的で、粋なうな重だ。
とろろ昆布の吸い物と、店主氏が足してくれた熱いお茶をいただき、すっかり満足して店を出た。「ありがとうございました」の歯切れ良いイントネーションが、耳に心地良い余韻となって残った。今度は夜に訪れて、ビールと肝焼きあたりも頼んでみよう。できればこの日と同様、やはりカウンターでいただきたいものだ。
色川/東京都台東区雷門2-6-11/03-3844-1187
11:30-13:30,17:00-20:30(売切御免)/日祝休