5/6。タロヲさんと近所で夕食。三筋二丁目の天婦羅屋『みやこし』へ。訪れるのは春先以来二度目。
場所は新御徒町駅からほど近い春日通南の住宅街。煉瓦調タイル張りの低層ビル1Fの少し奥まったところに藍色の暖簾がかかる。白木の引戸には擦りガラスがはめ込まれ、中の様子はほとんど伺い知れない。「ひっそりと佇むような」とはまさにこうした店構えにふさわしいたとえだ。
店内に入るとフロアの左側をL字型に白木のカウンターが占め、右側の通路がキッチンの脇から奥の座敷へと続く。内装は比較的新しい様子で、余計な造作をすることなく潔く整えられている。照明はフラットで明るく、当然ながらBGMは無し。
この日は3人だったが、やはり揚げたてをすぐに食べたいのでカウンターの奥に陣取った。ダイニングチェアは剣持勇デザインの秋田木工製とこれまた正しくスタンダードなスタイル。
眼鏡の奥の眼光鋭い店主氏に天婦羅コースを注文。瓶ビールでデザイン談義しつつ、熱々を次々にいただく。
この店の天婦羅をなにかしら言葉で形容することは難しい。ネタが素晴らしい。衣が歯触り良く、香ばしい。当たり前の文句ではあるが、それらを高い次元で成り立たせる店主氏の技に敬意を覚える。虚飾の無い、東京の天婦羅だ。この日はじめて仕上げに天茶をいただいたが、予想を上回るきれいな味わいに思わず唸らされた。
徒歩5分の距離にある名店。季節ごとに足を運ばせていただきたい。
みやこし/東京都台東区三筋2-5-10/03-3864-7374
11:30-14:00,17:00-21:00(日祝夜のみ)/水休
love the lifeの作品「Studio Graphia Marunouchi」のページを更新しました(Aug. 25, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「スタヂオグラフィア 丸の内」は2007年に東京駅のすぐ西側に竣工した新丸ビルの4Fにある。50平米あまりの店内では、自社製品のステーショナリーを中心に、バッグや時計、書籍など、デザイン性の高い商品が幅広く扱われている。
私たちはクライアントが主として紙製品と紙媒体を扱う企業であることに着目した。紙の原料は木材チップからなるパルプであり、木材は山林から生まれる。私たちはプランを進める上で、フロアの突き当たりに壁一面を覆う木製の雛壇什器を据えることを最初に決めた。その形状とスケールは、共用通路に対する明確な正面性を生み出すと同時に、山林の姿を暗示するものとなる。
店内は共用通路から向かって左側の白いインテリアと、右側のダークグレーのインテリアとに大きく二分されている。左側では間接光が均質なひろがりを強調し、右側では狭角のダウンライトが陰影を際立たせる。また、クロームメッキのスチールパイプによる折線形の造作が左右それぞれに異なる姿で配置されている。これと言った機能を持たないふたつの要素が、スクエアな空間に破調をもたらしながら向かい合う構図は、俵屋宗達の画として多くの人々から親しまれる「風神雷神図屏風」の二曲一双の姿を参照したものだ。それは山林を取り巻く万象の寓意に他ならない。
風神雷神図屏風 | 俵屋宗達 (京都国立博物館)
love the lifeの作品「MOTTAINAI Tsushima」のページを更新しました。(Aug. 30, 2012)Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「MOTTAINAI」は循環型社会の構築への貢献を基本理念に、商事会社が中心となって展開するエコプロダクトのブランドだ。この店は同ブランド初の実験店として、愛知県津島市の大型商業施設1Fにある三層吹抜の空間に仮設された。会計処理や事務作業は近接するサービスカウンターで行うため、店としての造作は商品ディスプレイと少量のストックのみで成立する。その体裁は一般的な物販店よりむしろパビリオンに近い。
古来より木曽、伊勢にほど近い尾張の要衝であった津島湊ゆかりの素材として、私たちは桧の間伐材に着目した。現在日本では国産木材の消費量の低下による森林資源の荒廃が進行している。国産木材の積極的な活用例を示すことは、ブランドの理念を直接具体化する手段となる。
店舗の外形には設置面積22.3平米、高さ3mの直方体のボリュームがそのまま立ち上げられている。フレームは桧の節有120mm角材で、上面の梁はランダムに組み上げた。フロアとディスプレイウォールにも桧の節有材を張り、什器類は桧の間伐材チップを原料とするストランドボードで仕上げた。ディスプレイウォールに付属したローステージの上面はガラス張りで、内部には桧の残材チップが敷き詰められている。
各造作のデザインには雨や水流、水たまり、また木々の幹や枝、木漏れ日の暗喩を込めた。それらを各部の間接照明が引き立て、上方のアーム式ライトがフロアにフレームの影を落とす。これらは総体として理想的な森林の環境を象徴し、循環型社会の有様を寓意的に表している。
4/27の朝10:00。新丸ビルの『studio graphia』に先立って、もうひとつの仕事がオープンを迎えた。伊藤忠商事などが中心となって展開するMOTTAINAIブランドの実験店舗。現在のところプレス発表ではMOTTAINAIショップと称されているが、今後他にも出店する可能性があるため、とりあえずここでの作品名は『MOTTAINAI津島』としておく。プロジェクトが始動したのは2月初頭。一気呵成の特急仕上げとなった。
店舗は東海圏の大手スーパーマーケット『ヨシヅヤ』津島本店にある3層吹き抜けの空間に22.5平米の仮設ブースとして設置されている。上の写真は4/25の完成後引き渡し時の状況。奥で商品ディスプレイの作業を行っているのは伊藤忠・高津さんと立巳物産・矢野さん。
節有りの桧角材によるフレームに桧羽目板張りのディスプレイウォールと桧フローリングの床、置式の什器類にはエスウッドと呼ばれる桧チップの木質ボードを用いている。国産桧づくし。
上の写真は27日のオープン時の状況。セレモニーにはワンガリ・マータイ氏も訪れた。想像していたよりも小柄で、笑顔や仕草の可愛らしい方だった。
工場制作に2週間、現場制作に3日間と工期が極めて短く、引き渡し前は相当にハラハラしたが、出来上がりはほぼ満足の行くものとなった。『studio graphia』に引き続き施工を担当して下さったのはCAリーディングさん。いい仕事でした。感謝。
4/26。東京オペラシティアートギャラリーで開催中の『藤森建築と路上観察』のオープン記念講演へ。司会を松田哲夫氏が担当し、藤森照信氏、赤瀬川源平氏、南伸坊氏、林丈二氏が対談するかたちでの進行。以下はその簡単な覚え書き。
新丸ビルのつづき。7Fは『丸の内ハウス』と呼ばれる飲食店フロア。プロデュースはheads・山本宇一さん。8店舗のインテリアはそれぞれ別のデザイナーが、共用部分のデザインはKata(形見一郎さん)が手がけている模様。
上の写真は24日のオープニングパーティーの時のもの。エスカレーターを上がると、共用部分の天井に埋込まれた大きなミラーボールがきらめき、常設されたDJブースからの音楽がフロアを煽っていた。いきなりの先制パンチに一瞬呆然とし、それから思わずにんまりとなる。この日、東京のど真ん中がクラブ、カフェカルチャーに飲み込まれたのだ。
通路からはドリンクを片手にテラスへと出ることが可能。ベンチやテーブルは固定され、建物の一部として設えられている。
テラスの東側からライトアップされた東京駅を見下ろすのはなかなか気分がいい。この5/30からは大規模な保存・復元工事がはじまるので、この簡素な屋根形状の東京駅が見られるのはあと残り2週間足らずかもしれない。2011年末には2つのドームを擁する新駅舎がお目見えする予定。
西側へと移動すると、前川國男設計の東京海上ビルディング。その向こうは皇居の森。
中華料理を提供するカフェ・ダイニング『SO TIRED』のインテリアはKata(形見一郎さん)のデザイン。カラフルなステンドグラス風のパーティションと大きな立体の店名ロゴが強烈な印象。チェアには教会用のものが用いられている。テラスから店内を見るとこんな具合。インテリアデザインと言うより、そこで飲食する客も含めてのインスタレーションと言った方がしっくり来るようなアーティスティックな空間だ。ジェニー・ホルツァー氏やバーバラ・クルーガー氏などの作品との関連を感じる。
升を思わせる照明器具が美しい『ソバキチ』のインテリアデザインを手がけたのは橋本夕紀夫氏。蕎麦を提供する居酒屋。バラバラに配置されたテーブル席を、フロア中央の立ち飲みカウンターとその周りの簡素で大胆な意匠が、見事にひとつの空間へと束ねている。
ビル内の他のフロアと同様に細い通路が多いため、ひとつのまとまったフロアとしての雰囲気はあまり感じられない『丸の内ハウス』だが、結果として生じた迷宮性を逆手にとって、路地裏のような雰囲気を作り出しているのが面白い。その最も裏手にある男子禁制のバー『来夢来人』にもそのうちぜひ行ってみたい(ヤギは行けないけど)。
山本さんにも少しだけご挨拶することができた。「やり切ったと思う」という力強い言葉が心に残る。
新丸の内ビルディング・decora、石月など(May 14, 2007)
4/24のプレオープンから数日にわたって視察した新丸の内ビルディングについてのあれこれ。
全体のプランニングはビル中央にエレベーターなど共用の機能要素を配置し、その周辺を通路とテナントがぐるりと取り囲む形式。六本木ヒルズの森タワー低層フロアと同様の極めてオーソドックスなものだ。各フロアのエスカレーター周りにソファがいくつも振る舞われていること、モールディングやミラーなどを多用した偽ヨーロッパ調の装飾がそこかしこに見られることなどを除けば、特筆することは無い。
個々のテナントのデザインにはユニークなものがいくつかあった。以下、あまりに人が多くてろくな写真が撮れなかったので、そのうち差し替えるのを前提にとりあえず。
中でも最もアヴァンギャルドで、かつ品格あるインテリアデザインを見ることができたのはアイウェアショップ『decora TOKYO』(2F)。商品の眼鏡は主に店内奥のガラス棚と手前のステージに置かれている。共用通路に対して垂直方向に並んだガラス棚の正面側には左官壁が立ちふさがり、店の外からは商品が斜めにちらほらとしか見えない。また、人の胸の位置ほどの高さのあるステージは天面が大きく凹んだつくりとなっており、そこに置かれた商品を見るには近づいて上から覗くより他は無い。ガラス張りの正面から店の全景を見れば、縦格子状の白い左官壁と黒い塊のような造作が柔らかな間接照明に包まれてあるのみ、と言った景色。カウンセリングを重視したプランを明快な手法でさらりとまとめたのはinfix(間宮吉彦氏)。
フロア中央に巨大なオーブンを象徴的に置いたプランで度肝を抜くのが『POINT ET LIGNE(ポアンエリーニュ)』(B1F)。『d'une rarete』、『Dan Dix ans』に続く淺野正己氏プロデュースのベーカリー。オーブンの三方をカウンター造作が取り囲み、パンのディスプレイや受け渡しなどすべての運営機能をそこで賄う至ってシンプルな空間構成がとられている。右側の壁は土煉瓦のような素材に覆われ、最奥は鮮やかなピンク色の左官、そしてエントランスは一面ダークグレーの巨大な引戸。オーブンの設置場所は防火区画となるため天井内にシャッターが収められ、その帆立がイエローの面としてふたつ並んでいる。『Dan Dix ans』のような精緻さは無いが、このルイス・バラガン的な大胆さもまた素敵だ。インテリアデザインはTYPE-ONEの斉藤真司さん。
山手線の東側に住む人間にとって、新丸ビルの飲食店(一部は朝4:00まで営業)の充実ぶりは実に頼もしい。中でも一際清逸な店構えを持つ蕎麦屋が『石月』(5F)。一部に個室を配置したフロアは、間接照明のラインを境に羽目板張りのボリュームと左官の面に分節されている。その構成は極めてシンプルだが、キッチンを区切る壁の描く緩いカーブや、通路側の開口上部を大きく斜めに裁ち落とすなどの操作も手伝って、ギリギリのところで緊張感のある空間が成立している。こうした寸止めは相当な腕前が無くてはとても出来るものではない。いただいたパンフレットを見ると、インテリアデザインを手がけられたのはレミングハウス・中村好文氏とのこと。大いに納得した。軽快な椅子のデザインも見事。
何分オープン直後なので運営面にはまだこなれていない印象があった。それでも京橋『三日月』ゆずりの蕎麦とつまみは抜群。ほぼ出汁の風味のみで完結するつゆは『並木』とは対極のスタイルだが、美味い。今後このエリアで蕎麦をいただく店はここで決まり。
どなたがデザインされたのかは不明だが、グラフィカルな手法で東欧のテイストを簡潔に表現したジュエリーショップ『COCOSHNIK(ココシュニック)』(3F)のインテリアは、『石月』とは真逆の方向から来てギリギリのところで踏みとどまったデザインに唸らされた。什器などの細部も素晴らしい。
その他、吊り戸棚形式のワインセラーを見せ場にした迫力あるデザインの『WW』(6F/写真)、ゴッサムシティで見かけそうな凝ったつくり込みの『ARTS & SCIENCE 新丸ビル』(1F/写真)、赤い暖簾の向こうに白い木立のような什器が並ぶ『記憶 H.P.FRANCE 丸の内店』(1F/写真)なども印象的だった。
新丸の内ビルディング・丸の内ハウス(May 16, 2007)
4/27。新丸ビルのグランドオープンの日。love the lifeがインテリアデザインを手がけた『studio graphia』もようやくお披露目となった。
愛知出張から夕方に東京駅へ戻って地下通路から新丸ビルへ。久しぶりに体験するもの凄い人出。特に『studio graphia』のある4Fは細々としたテナントが多い上に通路が狭いため、ほとんど立ち止まることもできない。この日は視察か見物の人がほとんどだろうけど、店内も大混雑状態。
右側通路に面したギャラリーでは森本美由紀氏の原画を展示中。じっと覗き込む人多数。ほんの小さなスペースにしては、想像以上に有効なスペースとして機能しそうだ。
前から欲しかったKnirpsの折り畳み傘を購入し、マークス・阿部さんと篠崎さんにご挨拶してひとまず退散。それにしても、小物アイテム数の多い店とは言え商品の密集具合が甚だしいことが気にかかる。悪く言えば脈絡を欠いたヴィレッジバンガードのような状態。せっかくいいものをたくさん置いているのに、商品に見合ったディスプレイであるとは言い難い。勿体ないことだ。おそらく煩がられるだろうが、今後も折りを見て様子を伺いに行こう。
そんなわけで、今後への課題はあるものの、中身はとてもユニークなデザイン雑貨店なので、ぜひたくさんの方に訪れていただければ幸いです。個人的には時計とレザーバッグがお薦め。
studio graphia 丸の内店/東京都千代田区丸の内1-5-1新丸ビル4F
03-3211-5301/11:00-21:00(日祝-20:00)/無休
4/23。『風来坊』を出て久屋大通を北へと歩く途中に偶然『ルイ・ヴィトン名古屋栄店』を発見。1999年オープン。建築デザインは青木淳建築計画事務所。今や東京にも多くのブティック建築が見られるようになったが、この店はその端緒と言って差し支えないだろう。
思いがけず目の前に現れた姿は息を呑む美しさだった。表面のガラスと、その内側の壁に施された市松パターンの重なり合いが引き起こすモアレの効果が、建物としての実体やボリュームを包み込み、消し去る。
ガラス面に斜めから寄ると上の写真のような具合。
照明はガラスと壁の間の下面のみに入っている。よく見ると光が壁面に向かって照射されるよう、ルーバーが斜めを向いていることが分かった。
おそらく今後私たちの生活する都市環境の中で、建築的表現はこうした薄い皮膜のデザインとして再構築されてゆくのだろう。一見儚げなその存在には、街にも商業にも組みしないイノセントな力強さがある。
LOUIS VUITTON NAGOYA(青木淳建築計画事務所)
4/23。名古屋の地下鉄名城線市役所駅ホームにて。
サイズの小さな文字を太くしようとして無理が出たのか、「ナゴヤドーム」の文字が独特な雰囲気を醸し出している。ちょっと「ヤマト」っぽい。
ちなみに表示の駅名はナゴヤドーム・前矢田ではなく、ナゴヤドーム前・矢田。
4/23。ミッドランドスクエアから地下鉄で栄へ移動。『風来坊』栄店で夕食。『風来坊』は名古屋名物・手羽先(唐揚げにたれで味をつけたもの)の元祖とされる居酒屋チェーン。創業は1963年。その店舗数は市内を中心に国内・アメリカを合わせて70以上を数えるが、なぜか東京にはひとつもない。
松坂屋の交差点を瓦通沿いに東へ。二区画目の雑居ビルに栄店の看板が見つかる。地下の通路を奥へと進み、思いのほか小さな引戸を開けるとすぐそこがカウンター席。人数を告げ、店内通路のさらに奥にある座敷席へ。
内装のつくりはまったくもって正しい場末の居酒屋風。テーブルも入れると席は全部で60くらいはある様子。20時過ぎに訪れた時点での埋まり具合は半分ほど。客層は年齢も性別も大いに様々だ。
座布団に落ち着くと、店員さんにまず飲み物と手羽先の数を聞かれる。手羽先のボリュームがどのくらいなのか見当がつかないが、あまり多過ぎてもどうかと思ったので「2つ」注文してみた。で、登場したところが上の写真。一個のサイズがわりと小さめなので、これなら食べられそうだと一安心。後で周りの様子を伺うと、なんと一人で「4つ」を平らげる女性客も居るようだった。
甘くスパイシーなたれと胡麻のかかった手羽先の味は複雑で奥行きがある。ビールのつまみとしても最高だが、料理としての完成度の高さも感じられた。確かに美味い。
もも焼き(写真左下)も含め、全体に甘辛く濃い味のものばかりを頼んでしまったのはいささか失敗。つくね(写真右下)に黒胡麻が練り込まれていたのにはちょっと驚いた。さっぱりと生姜醤油でいただく霜降り(写真左上)で一息。意外に素晴らしかったのはみそ串かつ(写真右上)。これはまたぜひ食べたい品。
2時間程して勘定をしてもらう頃、月曜日の夜だと言うのに店はほぼ満席になっていた。それでもフロアでただ一人の日本人店員と思われるおばちゃんの応対は至ってマイペースなままで、それをとやかく言うような客も居ない。おそらく名古屋の人々にとって、この店は家庭の延長のようなものなのだろう。
風来坊栄店/愛知県名古屋市中区栄5-3-4
052-241-8016/17:00-1:00(LO24:00)/日休
本日2007年5月5日でlove the lifeのホームページは10周年を迎えました。最近は直接このブログにアクセスされる方がほとんどだと思うので、トップページのアクセス数はチェックしていませんでしたが、久しぶりに見るとちょうどカウントが40万を超えたところのようです。
インターネットという環境があって当たり前の昨今、この40万と言う数字自体は大したものではありませんし、インターネットを通じていいことも悪いこともたくさんありました。それでもlove the lifeがこうしてなんとか生き延びて来れたのは、間違いなくこのホームページを通して知り合った方々の支えと叱咤激励のおかげです。あの時代にホームページをはじめて本当に良かった。皆様に心よりお礼を申し上げます。
生活が続く限り、love the lifeは無名の一デザイナーとしてひっそりと、勝手に情報を発信してゆくでしょう。これからもどうぞよろしくね。
名古屋『ミッドランドスクエア』のつづき。テナントにもインテリアデザイン的にユニークなものがいくつかあった。
筆頭はイデアインターナショナルの扱うデザイングッズとボディケア用品の大半を見ることができるショップ『Idea Flames』(3F)。店舗区画を二分する防炎垂壁を天井造作に、防火扉をショーウィンドウに取り込むことで、大胆な空間構成が実現されている。ややこしいロケーションを味方につけてしまう見事な手腕。
ゴムテープのルーバー内に配線を収納できる中央什器、ライン状のステンレスカバーに収納された床コンセントと配線スペースなど、この手の物販店ならではの工夫もまた面白い。表参道ヒルズにも『Idea Flames』はあるが、空間の質的にこの名古屋店とは比較にならない。プロフェッショナルで遊びのある仕事はKata(形見一郎さん)によるもの。
オーガニック食材を扱うデリ・カフェ『beOrganic』(B1F)のインテリアは木の質感を生かしたシンプルな構成。壁面にある野菜のディスプレイや調理台と一体になったデリカウンター、半オープンのキッチンなどで、独特の活気ある雰囲気が演出されている。共用通路側の大きな木枠引戸には目線の高さにリサイクルガラスがあしらわれ、イートインのエリアにはHIDAの杉材チェア。空間にも店のコンセプトがあくまでさりげなく表現されている。インテリアデザインはイガラシデザインスタジオ(五十嵐久枝氏)。
有機野菜のサラダをメインとするメニューは極めてシンプルだが、実に納得の美味しさ。シーザーサラダのセットとローストポテトは絶品。早く東京にも出来ないものか。
どなたがデザインしたのかは不明だが、『バカラ』(1F)のショップのシンプルで力強い空間構成も印象に残るものだった。高い天井に大きなシャンデリアが嫌味無く映える。
4/23。愛知出張の合間に名古屋駅前の『ミッドランドスクエア』を視察。2007年3月にオープンした複合商業施設。内外装のデザインを手がけたのは日建スペースデザインとジオ・アカマツ。
名駅通りに面してブティックがパッチワークのように並んだファサードは上品とは言い難いが、商業エリアの環境デザインはモノトーンを基調にスッキリとデザインされている。
通路幅は広く、天井は高い。特に低層部の共用通路の広大さは東京の商業施設では体験できないものだ。地上階に並ぶショーメやセリーヌ、バカラなどのテナントも、そのスケールを生かしてのびのびとブランドを演出している。施設全体のプランニングは東京ミッドタウンなどと同様、吹き抜けの周辺を通路とテナントが取り囲むごく一般的なものだが、余計な装飾にまみれていないことがかえって豊かさと余裕を感じさせる。
上の写真は吹き抜けに面したエレベーター。ミニマムながら存在感のあるデザイン。アップルストア銀座を拡大したよう。
と、オープンラッシュの東京の商業施設に比較してデザイン的には圧勝の感のある『ミッドランドスクエア』だが、1日に数回の頻度でちょっと驚くようなことが起こる。
吹き抜けの天井に並んだ照明オブジェが音楽とともに昇降、変形し、様々にその色を変える演出は、まあふた昔ほど前に流行ったからくり時計の親玉のようなものか。あきれる程のダイナミックさに、思わず笑ってしまった。
つづきはこちら。
4/21。『並木薮蕎麦』の後、少々お腹に余裕があったので、二本東側の通り沿いにある『浅草志乃多寿司』でテイクアウト。こちらも訪れるのは初めて。
間口の小さな茶色いタイル張りのビル1Fに茶色いテントを突き出した店構えはなんとも素っ気無い。暖簾をくぐると開け放たれたアルミサッシの引戸のすぐ向こうにショーケース。メニューは稲荷寿司と干瓢巻のみ。八個詰を注文すると店主氏がおもむろに握りはじめる。出来上がるまでの数分、店先の小椅子で待つ。
油揚げと固めの飯に甘辛い出汁をたっぷりと含んだいなり寿司。干瓢巻きの風味とやわらかな食感もまた申し分無い。
浅草志乃多寿司/東京都台東区雷門1-1-10/03-3844-1795
営業時間も定休日も不明。今度聞いとこう。
4/21。近所で用事を細々と済ませたついでに軽く昼食。『並木薮蕎麦』を初めて訪れた。蕎麦好きには知らぬ者の無い老舗。1913年創業。
店舗は雷門と駒形橋の交差点の中ほどにある木造二階建。こじんまりとした外観がかえって目に留まる。暖簾をくぐると店内は中央の通路を境にテーブル席と座敷に分かれ、突き当たりにキッチンと会計窓とトイレが並ぶ。内装は古く、照明は控えめ。木部と聚落壁のしっかりした造りが印象深い。歯切れ良い応対の店員さんにもりと天せいろを注文。
コシの強い細打ちそば自体大いに平均を上回るのものだが、何と言っても驚いたのはつゆ。その量は少なく、色は黒く、醤油と鰹節の味の強さは「キリっとした」などと形容できるような生易しいものではない。辛口とは聞いていたが、ここまでとは。ほんの少しだけ漬けてすするそばの風味は実に格別。なるほど、粋だ。
天婦羅もまた美味い。この日いただかなかったかけそばの出汁は鯖節とのこと。また近いうちに伺わねば。
並木薮蕎麦/東京都台東区雷門2-11-9
03-3841-1340/11:00-19:30/木休
ところで、蕎麦屋の屋号についてはいろいろと面白い記述があるようだ。
深川・薮そば(深川散歩)
薮(蕎麦屋)(Wikipedia)
江戸そばの源流(大阪・上方のそば)
東京ミッドタウンのつづきでもうひとつ。オフィス・商業棟北側のミッドタウンガーデンへ出ると、その最奥に見える低層の別棟が『21_21 DESIGN SIGHT』(何と読むのだろう?)。建築デザインは安藤忠雄建築研究所。この日はギャラリー1でウィリアム・フォーサイス氏のインスタレーション『Additive Inverse』とアレッシオ・シルヴェストリン氏によるパフォーマンスを、ギャラリー2でオープニング展『安藤忠雄 2006年の現場 悪戦苦闘』を見ることができた。
建物としてのボリュームの大半を地下に埋めたデザインミュージアムは、それ自体が最良の常設作品だ。立体的な回遊動線がコンパクトに収められ、その造形的な内部を鈍い自然光が照らす。実に簡潔で力強い空間。おそらく国内でも指折りの安藤建築だろう。展覧会では図面や模型、素材サンプルなどの展示物の大半が長テーブル(建設用足場で組まれたもの)上にずらりと並べられ、観覧者はその周囲をベルトコンベアよろしく一方通行の動線に従って流れてゆくよう構成されていた。これまた笑えるくらいにシンプル。
ウィリアム・フォーサイス氏のインスタレーションはギャラリー中央に置かれたプール状の造作内をスモークで充たし、その上部から映像を投影するもの。プールの上に蓋は無く、ほんのちょっとした空気の流れが映像にゆらぎをもたらす。急いで動くとスモークが溢れて消えてしまいそうだ。陽炎のように幻想的で儚げな存在感が印象的。
アレッシオ・シルヴェストリン氏のダンスパフォーマンスが行われたのはスモークのプールから少し離れた場所。観客との距離のあまりの近さに驚いた。ほとんど見えるか見えないかの細い糸で自ら動きを拘束しながらの表現は、インスタレーションと同様極めて繊細で美しいものだった。
さて、そんな充実した内容の『21_21 DESIGN SIGHT』だったが、残念ながらその周辺環境はまともにデザインされているとは言い難い。建物の写真を少し引いて撮ろうとすると、途端に絵にならなくなってしまう。
この植栽とか、もう少しなんとかならなかったのだろうか(建物の背後に見える針葉樹の並木は実のところ隣地の中学校のもの)。水飲場とかベンチに至っては思わず泣けてくるような代物なんだなこれが。。。
東京ミッドタウン・とらやとMUJI(April 29, 2007)
東京ミッドタウン・SAYA、Ideaなど(April 30, 2007)