6/11。打ち合わせからの帰りに浅草で『なにわや』を初めて訪れた。オレンジ通りとすしや通りのあいだ、食通街と呼ばれる路地の中ほどにあるちいさな自家焙煎珈琲店。2006年にオープン。
店舗は小料理屋の居抜きで、外装にも内装にもそこかしこにそれらしい痕跡が残っている。格子の引戸を入ると右手にある10席足らずのカウンターは、内側の作業台に比べて少々低過ぎるようで、手元が見え過ぎるくらいによく見える。豆の瓶が並ぶバック棚といい、いかにも急ごしらえの普請だ。フロアは黒石の洗い出し。左手の窓際に座卓2つの小上がりが残されているのは珈琲店には珍しく、面白い。暗色の木造作のあいだにあって、妙に可愛らしい白いビニールレザー張りのカウンターチェアに落ち着き、なにわやブレンドと深煎りブレンド、自家製コーヒーゼリーを注文。
店内のゆるい造りに比べ、短髪に眼鏡とピアス、関西弁の店主氏は対照的に鋭い雰囲気を漂わせている。その動作には一切の無駄がない。湯温を温度計でチェックし、仕上がりをスプーンで確認しながら、ひとつひとつの行程を実に丁寧に重ねる。ブレンドはその場で数種の豆を計り合わせてミルにかけている様子。丸見えのカウンター内はまるで実験室のようだ。
カップにたっぷりとでき上がった珈琲を一口いただくと、その風味は見事なまでに澄み切っていた。実のところあまりにクリア過ぎて、最初は「おや?」と首を傾げたが、冷めるに従って豊かな味わいが沸き上がるようにして現れる。個人的には弱く酸味を残したなにわやブレンドの方が、よりこの店の嗜好を表すように思う。それにしてもこの雑味の無さはどうだ。「理科系の珈琲」と言うフレーズがふと頭に浮かぶ。
時間とともに楽しみの増す珈琲に対し、コーヒーゼリーのインパクトは最初の一口からして強烈。この分だとアイスコーヒーにも大いに期待が持てる。ミックスジュースも近いうちにぜひいただいてみたい。トーストにはペリカンのパンを使っているとのこと。主なメニューはワンコイン(500円)、と言う値段設定の仕方も実に浅草らしく都会的で好ましい。しかし果たしてこれで儲かるのだろうか?他人事ながら心配だ。
なにわや/東京都台東区浅草1-7-5/03-5828-8988
10:00-23:00/火休