7/12。銀座ブロッサムで「大銀座落語祭」初日。第1部はコント劇団、ザ・ニュースペーパーのスペシャルライブ。テレビでは放送不可能であろう際どい政治ネタの応酬に爆笑しつつも時折冷や汗をかいたり感心したり。これほど骨太で、丁寧に練り上げられたコントを目の当たりにするのは十数年ぶりではないか。恐ろしくカッコいい芸だ。こりゃまた拝見しなくちゃ。
第2部は桂ざこば・桂南光・桂雀々三人会。この三師を東京で揃って聞くことが出来るとはなんたる幸せ。最初に登場した雀々師匠の演目はなんと『代書屋』。しかも「ポンでーす」のバージョン。さすがに少々緊張の面持ちではあったが、枝雀落語の継承者としての覚悟を感じさせる高座に笑い泣き。南光師匠は『ちりとてちん』。独特の枯れた声質と柔らかな口調が上方落語のトーンを際立たせる。カラフルな表情に枝雀落語の面影を見てまた泣き笑い。ざこば師匠は『遊山船(ゆさんぶね)』。お馴染みの怒り顔と素っ気無い枕が嬉しい。お囃子を取り入れての華やかな演出は上方落語ならでは。時折大阪ことばの解説を織り交ぜながら、素晴らしくテンポ良く聞かせる。そのサービス精神と技の凄みに心打たれた。
第3部は立川志の輔の会。『柳田格之進』をたっぷりと。抑制された展開の中で、師匠ならではの緻密な人物描写が見事に際立つ。もう言うこと無し。ただ感涙。
7/18。よみうりホールで「談志・志らく親子会」。最初は立川志らく師匠の『片棒』。映画ネタ、懐メロネタを軸に据えた大胆なアレンジと目まぐるしい展開が圧倒的。続いて立川談志師匠の『木乃伊取り(みいらとり)』。『木乃伊取り』を師匠で聞くのは2度目だが、印象は前回とは全く別物。特に間にお囃子を入れての関西風の演出と、サゲの意外なアレンジには驚いた。途中一度噺に詰まる場面はあったものの、座布団から転がり落ちたりしながらの(「弟子の前でやる芸じゃねえなあ」には笑った)熱演。久々に師匠ならではの鋭さを感じさせる嬉しい高座だった。仲入を挟んで志らく師匠の『茶の湯』と『浜野矩随(はまののりゆき)』を立て続けに。こうした聞かせ方は実に楽しく、志らく師匠らしい。ようやく私たちなりに志らく落語の楽しみ方が分かってきたかも。いや、まだまだ甘いな。
7/20。紀伊國屋サザンシアターで「桂文珍大東京独演会vol.1」。ビデオ上映を開口一番にかえて文珍師匠の登場。先ずはお馴染みの小咄『マニュアル時代』でタイムリーな時事ネタを織り交ぜつつ客慣らし。続いて柳貴家小雪師匠の水戸大神楽。変わらぬ芸の安定感と美しく切れのある所作が素晴らしい。再登場の文珍師匠の演目は『らくだ』。大阪ことばでの『らくだ』を聞くのは初めて。豹変するくず屋の丁寧な描写には大いに笑いながらもぞっとさせられるものがあった。この凄みもまた文珍落語か。仲入を挟んでは桂米左、林家うさぎ、林家市楼の三師による大阪・天神祭りのだんじり囃子の演奏。重厚で複雑なリズムが超クール。二丁鐘(すり鐘)の響きに汎アジア的な雰囲気がある。トリは文珍師匠の得意演目の中でも私たちが最も好きなもののひとつ『商社殺油地獄(しょうしゃごろしあぶらのじごく)』。見事な老松の描かれた鏡板を背に、途中お囃子を従えての豪華バージョン。何度聞いても抱腹絶倒の傑作。
7/31。紀伊國屋ホールで「第三回黒談春」。黒談春は立川談春師匠によるマニア向けの会。最初は謎の前座・春作さん(眼鏡をかけた談春師匠)の『力士の春』(春風亭昇太師匠の新作)とそのパロディ『噺家の春』を立て続けに。力の抜けまくった棒読みっぽい口調が妙に可笑しい。『噺家の春』の内容はかなりマニアックで、落語初心者の私たちには半分くらいしか分からなかったが、全部分かりたいような、分かりたくないような。それにしても斬新な演出だなこりゃ。続いては着替えを挟んで談春師匠による根多おろしの『質屋庫(しちやぐら)』。しつこいくすぐりが延々続く展開のためか、東京ではあまりやる人が居ないとのことだが、力量によっては大ネタに化ける演目。私たちは以前桂歌丸師匠で聞いたことがあるがそれはもう見事なものだった。談春師匠は笑福亭仁鶴師匠の演出を下敷きに、得意の流麗な江戸ことばであえて淡々とよどみなく聞かせる。仲入に続いて登場した談春師匠は「会場に録音している奴が居るらしい」と凄むといきなり三遊亭圓朝作の怪談『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)/豊志賀(とよしが)』へ。これも根多おろし。途中、枕代わりとばかりに嫉妬にまつわる打ち明け話を挟んで笑わせつつ、これまた流れるような口調で語り終える。『質屋庫』といい、師匠の話芸の卓越ぶりと今後の可能性とを同時に感じさせる高座だった。