8/9。目黒での打ち合わせから小泉誠展へ向かう途中、麻布十番で地下鉄を降りて遅い昼食を摂ることにした。向かったのは『更科堀井』。更科を屋号とする蕎麦屋の本家本元とされる堀井家の店。
更科の創業は1789年。様々な変遷を経て『更科堀井』が開店したのは1984年。麻布十番商店街の端っこと言って差し支えないこの場所だが、今では六本木ヒルズにほど近い好立地となった。煉瓦調タイルに覆われたマンションビルの1Fに掛かったその暖簾の様子は、雑多な植栽に埋もれてしまいそうなくらいに静かで控えめだ。
照明を押さえた店内に入ると目の前に大テーブル。それを挟むようにして右手に小さなテーブル席がずらりと並び、左手に座敷席という配置。小テーブルの列に割り込んで、店内を隈無く見渡せる場所にレジカウンターが置かれている。この日は少し奥の座敷に落ち着いた。もりの大盛りと冷しじゅん菜とろろそばを注文。
そばにはしっかりとしたコシがある。風味はさっぱりとして、のどごしが実にきれいだ。“洗練”という言葉の似合うこの店の味をストレートに楽しむなら、スタンダードな「もり」か、蕎麦の芯のみで打った「さらしな」がいい。「から」、「あま」の2種類のつゆが出されるのもこの店の特徴。「から」のつゆは並木とまでは行かないが、濃く、強い。冷しじゅん菜とろろそばは、たっぷりと盛られた具の食感と、そばとの相性が様々に楽しめる面白い品だった。
サービスは気さくながら目は十分に行き届いている。老舗のオーラを感じさせない自然体の雰囲気が好ましい。その庶民性ゆえにこの店の味は特別であり、蕎麦には素人の私たちにとって確かな指標となってくれる。そばは堀井。つゆは並木。
更科堀井/東京都港区元麻布3-11-4
03-3403-3401/11:30-20:30/水休