8/7。東京芸術劇場小ホールで「昔昔亭桃太郎三番勝負」第二夜。桃太郎師匠を見るのはこれがはじめて。訥々とした語り口で客の反応を見ながら次々と小ネタを繰り出す枕にぐいぐいと引き込まれる。そのままのノリで『金満家族』に突入。金が余り過ぎて困っている家族の夕食風景を描いた恐ろしくナンセンスな新作落語だが、途中の味噌汁をすする動作の表現などは見事な名人芸。現実と非現実の激しいギャップをひょいひょいと超えてゆく様子がなんとも軽妙だ。続いてゲストの柳家喬太郎師匠による『禁酒番屋』。師匠の声の良さが武士言葉で大いに際立つ。番屋役人の過剰なへべれけぶりに大笑いしつつ、古典の文脈に現代的な狂気を埋込む手法の巧みさに唸らされた。仲入と両師匠の対談を挟んで、桃太郎師匠の『御見合中』。こちらも新作落語。先刻に負けず劣らずの馬鹿馬鹿しい掛け合いの応酬に爆笑したり思わず引いたりの繰り返し。この正しく都会的なお笑いは、今や60代以上の人にしか演じられないだろうし、テレビの押し付けがましい一発芸に慣らされてしまった世代には理解することすら難しいかもしれない。また時代が一巡するまでの間、桃太郎師匠にはぜひとも頑張ってもらいたいと切に思う。
8/18。松戸市民会館で「柳家小三治独演会」。少し遅れて会場に着くと、柳家禽太夫師匠の『蜘蛛駕篭』が中盤に差し掛かったところ。キレのある江戸言葉が魅力的。これはちゃんと最初から聞かせていただくべきだった。要チェック。小三治師匠は唱歌・青葉の笛にまつわる長大な枕から『宗論』へ。真宗の親父vsカトリックの息子のいかにもステロタイプで間抜けな掛け合いに爆笑。仲入を挟んで、前の根多を枕さながらに、小三治師匠はいきなり『こんにゃく問答』を始める。終盤の問答でのジェスチャーや表情が面白過ぎてお腹が痛くなってしまった。キリストも仏も笑い飛ばして終了。師匠ならではのとぼけた味わいと、その場の空気の震えまで感じさせるようなデリケートな表現を久しぶりに堪能させていただいた。
8/26。三鷹市芸術文化センター星のホールで「柳家喬太郎独演会」。最後列ではあったものの、250の座席には十分な傾斜がとられておりステージが非常に見やすい。ここで喬太郎師匠の『死神』を見ることが出来たのは幸せだ。ベースとなる根多に細かな設定や登場人物の揺れ動く感情を描き加えた『死神』は極めてオリジナリティが高く、ぞっとするほど映像的だった。仲入を挟んで柳亭左龍師匠の『青菜』。流麗な語り口。表情が実に豊かで楽しい噺家さんだった。要チェック。続いての喬太郎師匠は新作落語『ハワイの雪』。お爺ちゃんと大学生の孫娘、お爺ちゃんの昔の恋人と力自慢のライバル、と言った人物設定やエピソードが絶妙に無理だったりリアルだったりして抱腹絶倒。「地獄に堕ちろ!」のところでは危なく笑い死にしそうだった。幕切れはそれまでの展開が嘘のように切なく、静かで美しい。思わず泣けた。聞きしに勝る名作。