11/7。『第40回東京モーターショー 2007』を見に幕張メッセへ。いつもは閉場の2時間ほど前に到着し、荒天に翻弄され、駆け足に疲れ果て、困憊の体でぎゅう詰めの京葉線に揺られながら帰るのだが、今回は珍しく早起きして、天気の良い日を選んで訪れたので気分は上々。展示ブースのデザイン視察に重点を置きつつ、じっくりと会場を巡った。
今回最も印象に残ったのはメルセデス・ベンツの展示ブース。照明入りのルーバー造作が流れるような曲線を描きながら展示スペースの上空をぐるりと囲う。通路部分の床は全面がグレートーンのシャギーカーペット敷き。こうした展示イベントではほとんど経験したことの無いふわふわした歩行感覚が新鮮だ。
間仕切やカウンターなど、他の造作は床から生えて来たような黒いボリュームとしてデザインされており、グラフィック類はごく控えめ。全体に要素が少なく、落ち着きと一体感のある空間が構成されている。
リサーチカー『F700』の展示エリアでは、プレゼンテーターが曲げアクリルの映像モニターを前に解説を行っていた。モニターには床下からビデオプロジェクターの映像が投影され、その内容は右側壁面の大型モニターと連動する。アクリル板を支えるフレームにはタッチセンサーが仕込まれているようで、素手で画面を操作しながらプレゼンテーションを行っていた(F700プレゼンテーションの様子)。微妙に未来的な演出が『F700』の堅実なコンセプトに良くマッチしているように思う。
その他の写真:全景/部分1/部分2/スマート展示1/スマート展示2
続いて挙げたいのはヤマハ(二輪車)の展示ブース。デザインを特徴づけるのはこれまたルーバーだが、独特の力強い造形感覚によってメルセデス・ベンツのブースとはひと味違う空間が構成されている。床面と展示用ステージの仕上げは共に薄塗モルタルを思わせる質感。軽快さと重厚感、鋭利さと量感の対比が際立つ。
三菱ふそう(商用車)の展示ブースはゲート状の造作の配置による極めてシンプルで大胆な構成。手前の大型観光バスが小さく見えるほどのスケールを持つ無柱の広場は、開放的でありながらまとまりを感じさせる気持ちのよい空間だった。
アウディの展示ブースは巨大なボリュームを上部に浮かせたデザイン。造作を円筒形にくり抜いた内面に施されたグラフィックと、ダウンライトやスポットライトなどの点光源を主体としたライティングの手法は単純にオーソドックスであると言わざるを得ないが、空間全体の印象としては至って潔く、好感が持てる。
例年見事なデザインを見ることのできるBMW(写真)とMINI(写真)の展示ブースだが、今回は2005年のデザインをほぼ踏襲したものとなっていた。文字情報を大きくあしらったグラフィックの羅列はどうにも古びて見える。次回に期待。
その他、国内の乗用車メーカーの展示ブースとして、事前情報ではトヨタ(写真)と日産(写真)も注目を集めていたようだったが、個人的には印象に残らなかった。特に日産の展示ブースに見られる薄っぺらな和風趣味は、2001年、2003年の明快な建築的手法に比べてずいぶん後退してしまったように思えてならない。
国外メーカーが軒並み中国市場へとプロモーションの比重を移してしまった後に行われる初の東京モーターショーは、見終わってみるとやはりいつもに比べて少々華やかさに欠けるものではあった。国内市場の活性化を狙う国内メーカーを除いて、展示ブースは概ねヨーロッパ各地のショーで用いられたデザインを踏襲し、部材を流用したものであるとの話も聞く。
とは言え、極端な大画面映像や、無数のムービングライトなどの「これでもか」的な演出が下火となったことはむしろ喜ばしい。部材の持ち回りについてもヨーロッパのディスプレイデザインを(廉価版とは言え)概ねそのまま見ることができると言う面においては(また環境的見地からも)歓迎すべきかもしれない。展示ブースのデザイントレンドは企業の打ち出すテーマを冷静かつ確実に伝える手法へと移行している。
祝祭は終わり、クルマはその本質的な必要性を問われているようだ。
クルマについてはこの続きで。
個人的に最も気になったクルマはやはりメルセデス・ベンツのブースにあった。ディーゼルの技術を応用し超低燃費を実現したガソリンエンジン『ディゾット』、路面のギャップを計測して事前にサスペンションを最適化する『プリスキャン』を搭載のリサーチカー『F700』。
エクステリアだけを見ると、メルセデス・ベンツが公開するにしてはデザイン的にまとまりを欠いた印象は否めないが、インテリアは極めてユニークだ。車内を進行方向に二分する低いパーティションを挟んで、左右の後部座席はそれぞれ前後どちら向きにも電動でセッティングできる。パーティションを簡易テーブルとして、向かい合わせでミーティングを行うことも可能。単純にシートが回転するのではなく、尺取虫のようにぐにーんと変形するのが面白い(写真ではその辺がさっぱり分からないのが残念)。
上の写真は同じくメルセデス・ベンツのブースの一角に置かれていたスマートのインテリア。スマートも大人になった。個人的には以前のモデルより好ましい。他のクルマとは比べようのない視認性の良さは相変わらず。エクステリアの写真はこちら。
上の写真はルノーの『カングー・コンパクト・コンセプト』。フロントからルーフへと大きくまわりこんだグラスエリアが特徴的。フレームの無いサイドウィンドウといい、徹底的にオープンなデザインとなっている。リアハッチにローラーブレードがくっついているのはショーモデルらしいご愛嬌。明るく、能天気で、洒落ている。
予想以上に良かったのが同じくルノーの『トウィンゴ』ニューモデル(上の写真)。以前にスケッチや写真を見た限りでは「安いクリオ(ルーテシア)」的ネガティブな印象が強かったが、実物の造形は張りのある面の処理が思いのほか個性的で魅力のあるものだった。インテリアも以前のモデルに比べかなり大人しくはなったとは言え、やはり楽しく可愛らしい。
アルファ・ロメオのブースでは『8Cコンペティツィオーネ』の実車をついに見ることができた(上の写真/サイドビューはこちら)。一見してクラシックカーそのままのフォルムでありながら、ディテールは妥協無く研ぎ澄まされており、その揺らぎの無さがかえって非現実的ですらある。なんと言うか、人間ではなく仏像を眺めているような、独特な感覚を呼び起こす物体なのだ。日本市場用の70台はすでに完売しているとのこと。いつか路上で出会えるだろうか。
上の写真はボルボの特別展示車『PV445デュエット』(1953)。
古い家具のような佇まい。
最後はいすゞの特別展示車『エルフ(初代)』(1959)。
四角くて可愛い。ドアヒンジが後方にある。
ああ…モーターショー…チケットごめん。
オレは諸般の事情により11/9現在、現地に寄る事ができておりません。
いいなあ、カングーCC & ヌーベルトゥインゴ実車。
ヌーベルトゥインゴは“ルノーのコンパクト”としてはアリだけど、
トゥインゴかと言われると疑問が残るお年頃です。
ランボルギーニ・レヴェントンはどう?
東京在住の日本人が1台買ったらしいけど。
ついでに12/8 AMに町田でちょっとしたフランス車の集いがあります。
お暇で早朝移動可であれば是非。
>ウヱハラ先生
新トゥインゴは素晴らしくグッドデザインなクルマです。多分先生も意外に気に入るんじゃないかと。もはや『トウィンゴ』ではないのは間違い無いね。ランボルギーニのブースは人だかりが凄過ぎてレヴェントンには5m以内に近づくことができませんでした。とりあえずデカかったよ。12/8は今のところ大丈夫なのでゼヒ。早朝集合上等!