10/11。イイノホールで『三遊亭白鳥 柳家喬太郎 二人会 デンジャラス&ミステリアス』。客席を見回したところ、いつもの落語会よりも平均年齢が20才くらい若いような気がした。それでもせいぜい40才くらいだが。18:30開演の落語会を平日に見に来れるダメ人間が同年代にこんなに大勢居るとは実に心強い。
お二人でのトークに続いて、喬太郎師匠の『午後の保健室』。お得意の誇張・デフォルメされたキャラクターの立ち具合、それのみで根多を成立させてしまう。極めてシンプル。これはもう喬太郎師匠以外の人には出来ない力技だ。強力なオヤジキャラを与えられた中学生の繰り出すギャグが吹雪のように吹き荒れ、ねじれた笑いが爆発する。
そして白鳥師匠の『サーカス小象』。白鳥師匠の高座を見るのはこの日が初めて。アニメや漫画のストーリー設定をもじりつつ細かなギャグをてんこ盛りにしたウケる世代の限定されそうな根多。少々詰め込み過ぎのきらいはあったが、その後2週間近く語尾に「…だぞ〜う」を付けるのが我家で流行するくらいに洗脳されてしまった。
仲入を挟んで再び白鳥師匠の『アジアそば』。蕎麦が食べたい客とインド人とのまるで噛み合ない会話にスパイシーなギャグが散りばめられる。内容は現代的、その実、構造的には完璧なる古典落語。馬鹿馬鹿しく、短い根多だが素晴らしく気が利いている。粋だ。
最後は喬太郎師匠の『ハワイの雪』。仕込(落語前半の根多設定の説明となる部分)を間違えるなどのトラブルがあり、星のホールで見た時ほどの締まりはなかったが、やはりいい根多。
10/23。深川江戸資料館小劇場で『入門30周年記念 桂小春團治独演会』。天井が高く、綺麗で立派なホール。
先日渋谷繁昌亭で拝見し、上方にもこんなに凄い新作をやる人が!と驚いて、すぐにこの日のチケットを取った。開口一番、笑福亭呂竹にさん続いて小春團治師匠の『冷蔵庫哀詩』。桂春雨師匠の『稽古屋』と来て再び小春團治師匠の『職業病』。仲入を挟んで小春團治師匠のヴィジュアル落語『漢字悪い人々』。
冷蔵庫の中、ファミリーレストランの中と、極めて限られた空間を舞台としながら、そこにバラエティ豊かなキャラクターをこれでもかと盛り込んで、全てを破綻無く演じ分けてしまう小春團治師匠の話術は実に幻惑的だ。『冷蔵庫哀詩』に至ってはプッチンプリンを主人公にしながら微妙に人情話のテイストまで含むのだから信じ難い。『職業病』では元葬儀屋のウェイターの緻密な描写に感心しつつ爆笑。『漢字悪い人々』はプロジェクターを使用し、小春團治師匠自らPCを操作しながらの高座。ロードオブザリングとスターウォーズをごっちゃにしたようなストーリーの舞台となるのは擬人化された文字の世界。一体スケールが大きいんだか小さいんだか。おもちゃ箱の中を鮮明な広角レンズ越しに覗くような、不思議な世界観を堪能させていただいた。東京ではまだ知名度が低いのか、客席の入りが2/3程だったのがなんとも惜しい。今後要チェック。
10/28。歌舞伎座で『第一回落語大秘演会 伊藤園 鶴瓶のらくだ』。
以下はまだ公演中につきネタバレを含むため続きへ。
巨大な緞帳の前でジーンズにジャケットのラフな出で立ちの笑福亭鶴瓶師匠によるトーク。続いて舞台に巨大葬儀セットが登場。鶴瓶師匠がこの公演直後に亡くなった、という趣向。花道の中ほどで葬儀の様子を見つめていた鶴瓶師匠は床下へと吸い込まれ消えて行く。続いて舞台が回転し、鶴瓶師匠が高座に登場。最初はお馴染みの傑作『青木先生』。この日はあの『かくれんぼ』の作者である嶋岡晨氏も観客席に居られたようだ。続いて『オールウェイズ お母ちゃんの笑顔』。再び回り舞台で葬儀セットが登場した後、いよいよ『らくだ』へ。故六代目松鶴が得意とした上方落語の大根多。鶴瓶師匠のほとんど白に近い淡い柄の着物が死装束を思わせる。この間、仲入無しのぶっ通し。
私落語でのウォーミングアップを終えた鶴瓶師匠は実に力強かった。熊五郎と豹変後の屑屋の凶悪さは期待をはるかに上回り、ガラの悪い大阪言葉は往時の松鶴もかくやと思わせる凄まじさ。高座をドンドンと足で叩く葬礼(そうれん)の鬼気迫る演出は鳥肌ものだった。火屋に至るまで全く緊張感を解かずに演じ切る完璧な『らくだ』。見事と言うより他は無い。
回り舞台で三たび葬儀セットが登場し、鶴瓶の葬礼の掛け声で棺桶が去って行く。これで終わりかと思いきや、鶴瓶師匠の高座へと舞台は逆戻りし、ふぐの毒で仮死状態になっていたらくだが眼を覚まして「冷酒(ひや)でええから、もう一杯」の下げをリフレイン。なんとも粋な演出で会場は沸きに沸く。緞帳が下がり、カーテンコールにもう一度上がると松鶴の遺影を背にした鶴瓶師匠の短い挨拶。「らくだの松鶴を生き返らせたい一心で。。。」と涙に詰まりながらの終演。
いかにもテレビ屋さんが考えそうな葬儀セット(演出はフジテレビ・小松純也氏)は明らかに余分ではあったが、『らくだ』の素晴らしさが帳消しにしてくれた。