1/14。サントリー美術館で『和モード 日本女性、華やぎの装い』、江戸東京博物館で『北斎 - ヨーロッパを魅了した江戸の絵師 - 』を見た。
期待をはるかに上回る見応えがあったのが『和モード 日本女性、華やぎの装い』。会場は6つの章に分かれて構成されていた。
1章と2章は平安から江戸時代にかけての和装の変遷を絵画や実際の衣装などで紹介するもの。和装の成立した平安時代と言えば十二単(じゅうにひとえ)だが、要するにこの頃は女性も男性も袴(はかま)履きの上に重ね着だった。平安末期に小袖(こそで)が登場し、室町時代に入るとそれが表着(うわぎ)となることでいわゆるキモノの原型が出来上がる。江戸時代には連続パターン一辺倒だったキモノの柄がぐんとグラフィカルな表現となり、いよいよファッション性が高まった。
興味深いことに、絵画を見る限り江戸前期までは誰一人として正座をせず、女性も男性もあぐらをかいたり片膝を立てたりと実に自由でリラックスした姿勢をとっている。キモノのかたちもまたゆったりしたもので、お端折の習慣は無く、帯はかなり細い。一体どのような経緯でキモノが現在のように窮屈なスタイルとなり、和室では正座が決まり事のようになってしまったのか。残念ながら展覧会ではそこまでのことは分からなかった。
3章は化粧や喫煙具、4章は髪型と髪飾りの変遷の紹介。特に髪飾りの展示は膨大で、その細工の精緻さといい実に圧巻だった。名も無き職人と江戸の大通たちのこうした小物のデザインに対する熱意には鬼気迫るものがあり、心底恐れ入る。5章は明治以降の女性のファッションの広告ポスターによる紹介され、6章はクリスマスと正月に因んだコレクション展示となっていた。
江戸東京博物館の特別展のボリュームは毎度大変なものだ。『北斎 - ヨーロッパを魅了した江戸の絵師 - 』もまたしかり。とりあえずオランダ商館からの発注により北斎とその工房が描いた肉筆画(そのほとんどがオランダ国立民族学博物館とフランス国立図書館からの一時的な里帰り)を重点的に見よう、と気構えたものの、やはり途中で目眩を覚えるような展覧会だった。
肉筆画の持つ迫力は実物ならではの醍醐味。緻密に描かれた各モチーフの輪郭と、ほとんどエアブラシを使ったようにしか見えない彩色の見事なグラデーション。生命感に溢れ、奥行きのある作品群に思わず息を呑んだ。
中盤の浮世絵のエリアは後ろ髪を引かれつつもどうにか流して見終え、国内所蔵の肉筆画のエリアに差し掛かってまた足が止まった。終盤の絵本・絵手本のエリアまでをじっくりと見て、なんとか閉館間際に終了。時には生々しく細密に、時には戯画化して軽快に、と自在にその表現を変えながら、対象物の持つダイナミズムとその本質を一枚の画にしてしまう北斎の洞察力と描写力はあまりに凄まじい。
展覧会の最後に、北斎が誰かに宛てた手紙が一枚展示されていた。そこには83才の北斎の自画像が添えられている。ユーモラスながら迷いの無い筆遣いは、全ての作品を見終えてなお一際印象に残るものだった。これまたオランダ国立民族学博物館の所蔵品なのがやけに情けない。お爺ちゃん、大事にしてもらってね。