2/14。なかのZERO小ホールで『柳屋喬太郎独演会』。こちらの大ホールには以前に何度か訪れたことがある。あまりに空間が広過ぎて、落語の場合どうもステージに集中し辛いため、最近はここでの公演チケットを取るのを避けていた。初めて入った小ホールは客席の奥行きが小さく、傾斜が大きくとられており、後方でもステージの様子が手に取るように分かる。かなり古そうな施設で、時折外の音がわずかに漏れ聞こえたりはするものの、落語を見る分にはほぼ言うこと無し。いいハコだ。
柳屋こぞうさんの『真田小僧』に続いて喬太郎師匠の登場。バレンタインデーに因んでの演目は自作の新作『白日の約束』。同僚のOLとモテ男社員の演技が違和感アリアリに誇張されるのに対して、噺の中心となる男は丸っきりの与太郎で、そのギャップが面白い。夜のデートの途中でOLに「そろそろ行こうか」と連れ出されてからの不条理な展開で観客を一層引き込んだと思ったら、見事な駄洒落でさげて終わってみるとちゃっかり落語になっている。流石。
さらにねこマジさんの美声で寿限無を堪能してから仲入り。この流れで最後に喬太郎師匠が持ってきたのは驚いたことに人情噺バージョンでの『おせつ徳三郎』通し。師匠一流の美しく映像的なラストシーンに涙。
2/17。三鷹市芸術センター星のホールで『林家たい平独演会』。こたい平さん(たい平師匠の御子息。小学生!)の『転失気』(てんしき)に続いてたい平師匠の『不動坊』。終盤、幽霊登場の場面の描写がやたらと細かくて、もう笑いっ放し。
仲入りに続いて花島世津子師匠のゆるーいマジックで和んだ後、たい平師匠の『愛宕山』。以前からこの演目は師匠にハマるだろうな、と思っていたが、これがもう想像以上の素晴らしさ。最初から最後まで、先ほどの『不動坊』を上回る鮮やかさでディテールを紡ぎながら、まさに全力疾走での熱演は感動的なものだった。いやーよく笑った。
2/23。深川江戸資料館小劇場で『特撰落語会第4回 柳屋喬太郎とすわ親治の二人LIVE』。柳屋小きちさんの『松竹梅』、喬太郎師匠の『金明竹』(きんめいちく)に続き、楽しみにしていたすわ親治氏の一人コメディ。静かにステージへと登場し、自己紹介がてらあの甲高い笑い声を一瞬聞かせて下さった。この時点ですでに私たちは鳥肌状態。イッセー尾形方式でステージ袖で衣装替えをしつつ、次々に繰り出されるコントはどれも短時間で極めつけにシンプル。一瞬の間合いで虚を突くようにして挿入されるオチが凄い。ショックと同時に爆発的な笑いが劇場を包み込む。新鮮さと懐かしさ。私たちが目の当たりにしたのは間違いなくあのドリフターズの笑いであり、そのひとつの進化形だった。今後のライブをしっかりチェックせねば。お二人の対談後、仲入り。
続いて喬太郎師匠で『錦木検校』(にしきぎけんぎょう)。三味線栗毛のエピソードを前半に置いて、人情噺に仕上げたもの。角三郎が友人の按摩師・錦木に口語で話しかけるところで思わず涙。また泣かされた。喬太郎師匠の演じる武士は本当に格好良い。
2/27。東京芸術劇場小ホール2で『上方落語の花形来る!vol.2 桂南光・こごろう親子会』。最初に登場した桂ちょうばさんの『時うどん』が良かった。上方の若手は人材豊富だ。続いて桂こごろう師匠で『動物園』。シンプルな根多を豊かな表情と丁寧な演技で見事に膨らませる。園長が着ぐるみの男に虎の歩き方を教えるところがいい。そしていよいよ南光師匠の登場。演目は『初天神』。軽めに終わるかと思いきや、師匠の手にかかるとこれが実にひねりと小技の詰まった根多となるのに驚いた。買い物をせがむ子供がなんともしたたかさで憎たらしい。
仲入り後、こごろう師匠の『阿弥陀池』(東京に『新聞記事』と言う似た根多がある。何か関係がありそうだが、はて)。知ったかぶりの男の間抜けぶりが、上方落語らしくオーバー気味に描写されるのがこれまたいい。軽妙にして濃厚。最後は南光師匠の『素人浄瑠璃』(『寝床浄瑠璃』とも言う。東京の『寝床』の原型)。以前に林家染丸師匠で見た時とはがらりと印象の異なる爆笑根多だった。先の『初天神』といい、エピソードだけを抜き出すとえげつなかったりしつこかったりするはずが、流麗な関西言葉や巧みな間合いと相まって、終わってみると不思議なくらいに上品な後味を残す。独特のかすれた声質もまた耳に心地良い。格調高く骨太な芸を堪能させていただいた。もっと東京で演って下さらないものか。