6/20。須賀さんご夫妻と新橋ー丸の内間を散策。『かおりひめ』で昼食後、中央通りを北へ。博品館の斜め向かいにある『スワロフスキー銀座』を初めて訪れた。2008年3月オープン。内外装デザインは吉岡徳仁氏による。
ファサードを構成するのは数にして幾千本と言う六角のステンレス製異形パイプの束。圧倒的量感。無数の鏡面が通りの風景をモザイク状に変換する。
上の写真左はクリスタルビーズを混ぜ込んだテラゾタイルの床(左)。研ぎ出されたクリスタルビーズがこれほど美しい光沢を放つとは驚いた。写真右はファサードのステンレスパイプのディテール。パイプ下面にある小さな穴は水抜き用だろうか。
店内の什器は壁埋込のガラスケース(カードキーで開閉される)をメインにゆったりと構成されている。独立の什器やカウンター類の存在は至って控えめ。フロア中央では踏面にクリスタルビーズを敷いた階段が地上階と2階を貫通する。階段室はガラスの間仕切りと光天井で囲われ、その明快なボリュームによって店内は道路から見て手前側と奥側に大きくゾーン分けされる。
主要な壁はファサードの意匠を踏襲した白いアクリル製のレリーフで覆われている。地上階左側奥の壁面のみ人工大理石で仕上げられており、スワンのマーク形にくり抜かれた内部にクリスタルビーズが詰められている。床は屋外と同様に全面テラゾタイル。『Cascade(滝)』、『Ice Branch(氷の枝)』と題された巨大で造形的なシャンデリア(それぞれヴィンセント・ヴァン・デュイセンとトード・ボーンチェのデザイン)も、贅沢な余白を背景にしてその存在をもてあますことがない。また、現在2階の展示スペースでは吉岡氏によるインスタレーション『シューティングスター』を見ることができる。
細部を見ればまさしく贅の極みでありながら、空間そのものは極めてシンプルで開放的。スノビズムとは無縁のラグジュアリー感が新鮮で心地良い。デザインテーマを「クリスタル・フォレスト」と聞いて正直あまりピンと来なかったが、おそらくここで言う「森」とはビジュアル的なものではなく「環境」としての意味合いなのだろう。
素材の持つ本質的な美しさに触れること無く、とにかくたくさん使えば高級だ、とばかり闇雲にクリスタルビーズを用いた単細胞なインテリアが巷に溢れる昨今、スワロフスキーが決断した流行とは無縁のキャスティングは実に冷静で賢明なものだ。渋谷『スタイラス』の閉店以来久しぶりに、国内で吉岡氏の研ぎ澄まされた空間デザインを堪能できる場所が生まれたことを心から喜ばしく思う。