9/27。三鷹で『柳家権太楼独演会』の後、日暮里へ。SCAI THE BATHHOUSEで『塩保朋子 Tomoko SHioyasu "Cutting Insights"』の最終日に滑り込み。
エントランスのすぐそばに高さ2m以上はあろうかと思われる大作があった。合成紙を重ね、ハンダごてで無数の穴を開けたもの。壁から床にかけてだらりとしなだれかかった平面とも立体とも言い難い姿は、岸辺のあぶくか打ち上げられた珊瑚を連想させる。
小さめの立体作品やドローイングを見てから奥の展示室へ進むと、高さ6m、幅3.5mという超大判の白い紙が一枚、フロア中央やや後ろに寄せてタペストリー状に下がっていた。そのほぼ全面に、細かな有機的パターンが丹念にカッターナイフで切り抜かれており、手前上方からの強いライティングが、その影を背後の床と突き当たりの壁一面へと写し出す。見ようによって波しぶきにも、鱗に覆われた巨大生物の身体にも、木漏れ日にも、あるいは凶悪な劫火にも思われるパターンが、一度では視界に捉えることのできないくらいのスケールで猛然とうねり、とぐろを巻く。
ふたたび近づけば、その細部の緻密さと、一枚の薄い紙でしかない実体のはかなさがあらためて胸を打つ。あまりにシンプルで、かえって目の前で起こっていることが信じ難い。現代美術を見てこんな思いをしたのはずいぶん久しぶりだ。