life
life of "love the life"

食べたり飲んだり : 浅草・コルマ

2/15。夕食がてら浅草まで散歩。以前から気になっていた下町カレー食堂『KORMA(コルマ)』を初めて訪れた。2008年5月オープン。オーナーシェフ氏は『デリー』銀座店で店長を務められた方と聞く。

場所はたぬき通りに面したちいさな低層ビル1F。白地にカレー色のロゴがちょこんと収まったテントは、目印としてはあまりに奥ゆかしい。角波鋼板とガラス張りのファサードにはめ込まれた建売り住宅チックな木製ドアから店内へ。右手のカウンターキッチンで温和な笑顔のシェフ氏が迎える。中央の通路を挟んで左手にベンチシートのテーブル席がいくつか。全部で20席ほどのフロアにスタッフらしい人は見当たらず、たったお一人で切り盛りされている様子。ベージュのクロス張りにところどころ濃色の木材を用いた内装は明るく清潔な印象。外観同様、つくりは至って簡素そのものだ。

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最初にいただいたのがブジア(野菜炒め)。複雑で香り高いスパイスの風味と、しっかりした野菜の食感が繊細な仕事を物語る。この時点で続く料理の素晴らしさを確信。

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次にいただいたのがスパイシーチキン(上の写真)。これまた火の通し具合が絶妙。

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さらにコルマカレー(上の写真)と野菜カレーを。どちらも辛さは抑えめのややマイルドな仕上がり。と言っても軟弱なカレーでは全くない。どの料理にも共通しているのは、個々の素材の質感をくっきりと感じとれることだ。厳しくフォーカスの合った味わい、とでも例えるべきか。さっぱりとして潔く、品がある。これは日本の職人が作るカレーだなあ。美味い。

会計を済ませると、この日は客足が少なかったこともあってか、わざわざシェフ氏がドアを開けて見送って下さった。すっかり暖まった心地で『なにわや』へ移動。近いうちにまたぜひお伺いします。

コルマ/東京都台東区浅草1-16-7/03-3844-5203
11:30-22:00(ランチ -15:00)/火休

2009年02月26日 16:00 | trackbacks (0) | comments (2)

食べたり飲んだり : 関西ロールケーキ対決

年明け以降、神戸出張が続いている勝野。お土産は決まって『ボックサン』三宮店で購入の『拘りロール』。

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上の写真がその全景(パッケージの写真はこちら)。

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大人食い。

何度いただいても、このスポンジのインパクトは絶大だ。ふわっとひろがり溶けて、しっとりまとわりつく濃厚な風味。甘さは控えめ。至って品よくスタンダードな仕立ての生クリームが、絶妙な引き立て役として脇にまわる。どっしりとした味わいにもかかわらず、全く食べ飽きる気がしない。

続いては大阪・堂島『モンシュシュ』の『堂島ロール』。ラゾーナ川崎プラザ店で購入。

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上の写真がその全景(パッケージの写真はこちら)。

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大人食い。

見た目に明らかなように、こちらは生クリームが主役。その食感は意外に軽く、さっぱりしている。きめ細かで表面がやや固く張りのあるスポンジは、オーバーに例えるとまるでシュー生地のように印象が薄い。さっぱり+さっぱり。それでいて一切れ食べ終わると胃にずしりと留まる感覚が。

個人的には『拘りロール』の圧勝。とにかく生クリーム、という向きには『堂島ロール』もありかもしれない。

2009年02月23日 16:00 | trackbacks (0) | comments (0)

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2009年1月

1/16。日本橋三越本店新館7階ギャラリーで『画業40年 東京芸術大学退任記念 田淵俊夫展』。画家・田淵俊夫氏の手掛けた1966年から2007年までの主要な作品が一堂に。すべてが日本画のテクニックで描かれてはいるものの、用いられた多様なモティーフと手法に触れるうちに、それらを敢えて「日本画」と呼ぶことの無意味さを痛感する。水墨画ですら現代的な絵画として自然に受け入れられるくらいにストレートでニュートラルな田淵氏の表現が、厳しい写実によって支えられていることは興味深い。女竹の細密で瑞々しい輪郭をふわりと覆う緑色の霞。金色の海面にぽつんと浮かぶ一艘の船。深い藍色に塗り込まれた何気ない都会の風景。目の前に在る圧倒的なリアリティに、私たちはほとんど愕然とした心持ちになった。自身が感じた事物をこれほど真摯に作品化することが、果たして私たちに可能だろうか。

同日。日本橋高島屋8階ホールで『智積院講堂襖絵完成記念 田淵俊夫展』。計60面の墨絵の襖がゆったりと展示された贅沢な空間。三越の後で見ると、一連の襖絵がこれまでの田淵作品の集大成としての意味合いを持つものであることがよく分かる。5室のうち、最も強い印象を受けたのは、秋の情景を描いた『智慧の間』。無数のレイヤーを重ねたような奥行きを感じさせるすすき野が、一発勝負の墨で描かれたものであるとは信じ難い。枝一杯に実をつけた柿の木は、田淵氏の言う「寂しさ」よりも、むしろ爆発的な生命の喜びを強く感じさせた。

さらに同日。六本木・21_21 DESIGN SIGHTで『第4回企画展 吉岡徳仁ディレクション「セカンドネイチャー」展』。全体に作品の成り立ちや背景に関する解説が乏しく、一般向きの内容とは言い難い。メインの展示室は全て吉岡氏の作品に割かれており、ほぼ個展の様相。場末に追いやられた他の7組がなんだか気の毒ではあったが、あからさまにアンバランスなスペース配分はある意味見物だったかも。
特に印象的だったのは東信氏(あずままこと/フラワーアーティスト)とロス・ラブグローブ氏の作品。骨の組成を下敷きにした光造形によるスタディモデル『CELLULAR AUTOMATION Origin of Species 2』(ラブグローブ作/2008)は、そのレゴブロックさながらの不完全さがかえって自然の造形のエレガントさを思い知らせる。わさわさの葉っぱをトルソに組み合わせた『LEAF MAN』と五葉松を氷漬けにした『式2』(どちらも東作/2008)は、乾いたユーモアの刃で命の本質へ斬り込む。瞬殺的。他方、中川幸夫氏の作品『迫る光』(1980)は断ち落とされたような片腕を象った透明なガラスのオブジェ。植物どころかまったくの無機物であるにも関わらず、生々しいことこの上ない。逆説の生け花。期せずして見応えある新旧フラワーアーティスト対決を楽しませていただいた。

1/23。京橋・INAXギャラリー1で『デザイン満開 九州列車の旅』水戸岡鋭治氏(ドーンデザイン研究所)がデザインを手掛けたJR九州の車両の数々を紹介する内容。スケッチや図面、実際に使用されている部材や資材などがギャラリー狭しと詰め込まれていた。ここでの水戸岡氏のデザインの対象は車両本体だけでなく、ロゴやポスターなどのグラフィック、椅子とその張地、乗務員のユニフォーム、弁当のパッケージにまで及ぶ。結果として、水戸岡氏はほとんど都市環境規模と言えるくらいのクリエイティブディレクションをやり遂げてきた。『つばめ』や『ソニック』などの言わずと知れた代表作の影には、地味ながら魅力的なローカル車両が数多く存在する。その丁寧なデザインがあたりまえのように生活に馴染んでいる様子は感動的だ。列車に乗ることを目的に、また九州を旅してみたくなった。

2009年02月22日 08:00 | trackbacks (0) | comments (0)

身体と空間の芸術 : パフォーミングアート観覧メモ 2008年後半

8/2。国立能楽堂で『納涼茂山狂言祭2008』。演目は『船渡聟(ふなわたしむこ)』、『蝸牛(かぎゅう)』、『髭櫓(ひげやぐら)』。
船頭(茂山千之丞)と聟(茂山宗彦)の能天気な掛け合いが微笑ましい『船渡聟』。“ちりとてちん”宗彦氏のいかにも意志が弱そうな感じが素敵。ほのぼの。『蝸牛』の印象が弱かったのは、たぶん以前に見た野村萬斎氏が鮮やか過ぎたせい。『髭櫓』はDV亭主(茂山千五郎)と女房軍団の荒唐無稽な対決シーンがあまりに馬鹿馬鹿しくて爆笑。いつもながら、千五郎氏の演じる強面キャラはなんとも魅力的で味わい深い。

9/21。彩の国さいたま芸術劇場大ホールで勅使川原三郎『Here to Here』(1995初演)。三方と天井を白い面が囲うステージ。完璧にフラットな空間。そこには勅使川原氏の動きだけが対置され、影さえもすっかり消去されている。一体どこから照明が当たっているのか。途中、氏が壁際ぎりぎりにまで近づくと、ようやくその影らしいものがうっすらと現れるが、壁から離れても影は消えずに残る。目を疑うようなシュルレアリスティックな光景に思わず息を呑む。
やがて天井がゆっくりと落下し、勅使川原氏がその下敷きとなる場面で、ようやく私たちは白い面が弾力性のあるファブリックで出来ており、その裏側からの照明によって空間全体が行灯の状態となっていることを推測する。先ほどの影は、壁の裏側に居た別のダンサーの影だったのだ。さらに宮田佳氏と佐東利穂子が登場し、ダンスに巨大な影絵の演出を交えながらステージは賑々しく展開。やや唐突な印象の幕切れへと向かう。ミニマルな中に、後の勅使川原作品の雛形がぎっしりと詰まった野心作。見応えがあった。

10/3。世田谷パブリックシアターで山海塾『降りくるもののなかで - とばり』(2008初演)。背景にひろがる星空。ステージ一面に象牙色の細かな砂が敷かれ、中央には砂漠のオアシスを思わせる巨大な楕円形の鏡面。その裏側に仕込まれた無数の白色LEDが、途中鏡面を星空へと変換する。それを周回したり横切ったりしながらさまざまな動作を見せるダンサーたちの様子は、なんとも奇妙でユーモラスだ。やがて夜明けとともに沈黙が訪れる。前回に見た『時の中の時 - とき』の純粋・高潔さとは一変した、とめどなく具象の溢れ出すような演出。こんな山海塾もまた楽しい。

2009年02月20日 13:00 | trackbacks (0) | comments (0)

落語初心者のメモ : 落語初心者のメモ 2009年1月

1/21。みたか井心亭で『寄席井心亭 数えて百六十四夜 睦月』。立川志らく師匠の会。立川らく太さんで『親子酒』、立川志ららさんで『壺算』、志らく師匠で『松竹梅』、仲入り、志らく師匠で『付き馬』。
暴走機関車のような『松竹梅』。笑い過ぎて死にそう。『付き馬』は掛け取りの男が下らない蘊蓄を並べ立てながら早桶屋へ向かう場面が見物だった。志らく師匠ならではのいかがわし過ぎるキャラクター。

1/22。赤坂区民センターホールで『夕刊フジ第13回平成特選寄席』。立川らく次さんで『やかん』、春風亭百栄師匠で『岸柳島』、立川志らく師匠で『抜け雀』、仲入り、立川生志師匠で『寿限無』、柳家花緑師匠で『不動坊』。
らく次さんの講釈根多は安心感があって楽しい。ナンセンスで芝居掛かったところのある『岸柳島』は百栄師匠に大いにハマる。サゲがなんとも粋。志らく師匠の絵師は思い切りエキセントリックで抱腹絶倒。芸術は爆発だ。花緑師匠は愛すべきダメ男たちのドタバタ劇をじっくり丁寧に描く。前半をバッサリ切り捨てることによって自由度がぐんと拡がった。見事な演出。

1/31。三鷹市芸術文化センター星のホールで『柳家花緑独演会』。柳家緑君さんで『金明竹』、花緑師匠で『無精床』、『権助提灯』、仲入り、花緑師匠で『片棒』、『笠碁』。
『無精床』が凄かった。ぞっとするくらいに存在感のある床屋の親父。静かにデンジャラス。やはり花緑師匠の本領はダークサイドにあると見た。続く三席は明るく剽軽に。『笠碁』の雨のシーンがやや臨場感を欠く印象。個人的にはやっぱりこの根多は鬱な演り方が好みかも。

2009年02月20日 07:00 | trackbacks (0) | comments (0)

食べたり飲んだり : 神田・万惣フルーツパーラー

1/23。午前中にコイズミ照明で打合せ。その後、神田まで歩いて『万惣フルーツパーラー』へ。

万惣は1846年開業の果物店。中央通りに面した神田須田町の万惣ビルは1Fが果物売場、中2Fと2Fがフルーツパーラーとなっている。私たちが特に好きなのは中2F。壁一面を銅色のモザイクタイルで覆い、クリアガラスで若干の間仕切りを施したインテリア。低めの天井にスチール製の角パイプがシャープなボーダーラインを描く。至って明るく開放的でありながら、同時に重厚で落ち着いた雰囲気の感じられる空間だ。残念ながら完成年、デザイナー名ともに今のところ不明。

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注文するのはフルーツ、ではなく、もっぱらホットケーキ。この日はフルーツホットケーキ(上の写真)と普通のホットケーキを注文。バターとカスタードクリーム、メープルシロップが添えられる(下の写真)。

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ホットケーキの食感は上品で実に軽やか。香ばしい風味を残して、いつの間にか夢のようにどこかへ消えてしまう。食べてしまっただけなんだけど。

万惣フルーツパーラー/東京都千代田区神田須田町1-16万惣ビル中2F,2F
03-3254-3711/11:00-20:00(LO)/日祝休

2009年02月18日 02:00 | trackbacks (1) | comments (0)

都市とデザインと : CSデザインの過去・現在・未来

CSデザインセンターで開催された『2つのトークセッション - CSデザインの過去・現在・未来』に関する簡単な覚え書き。

トークセッション〔1〕(11/25)永井一正×内田繁
ナビゲーター:萩原修

CSデザイン賞概説(中川ケミカル・中川幸也社長)
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看板製作『中川堂』 - ペンキを顔料から調合する時代
・1940年代に蛍光灯の普及
 行灯看板の増加/ペンキを延ばしてフィルム化して対応
・戦後の経済復興/技術者不足
・デパートのディスプレイ製作の増加/工事時間短縮の必要
→1961年にディスプレイ用新製品開発に着手
・カッティングシート(CS)の誕生
・ほとんど売れずに数年が経過
・新幹線や成田空港のサインなどから普及
・CIブームへの対応
→『中川ケミカル』の分離独立
・色公害への懸念
・ボカシができないことによる新しい表現の必要性
→デザイン賞を発案
勝見勝氏へ審査員を依頼/トロフィーは五十嵐威暢氏がデザイン

歴代CSデザイン賞受賞作品解説(永井氏,内田氏)
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・第1回:つくば万博の告知/ビルファサードへのグラフィック表現
・第2回:タイポグラフィとパターンの複雑化
・第3回:西武美術館(田中一光)/グラフィックとCSが格調高く結びつく
・第4回:松屋ウィンドウ(ハルオ宮内)/イラストの拡大による表現
・第5回:七十七銀行/地方での表現の可能性がひろがる
・第6回:なんば高島屋/立体的表現
・第7回:地下鉄南北線/切り絵イラストとのマッチング
・第8回:金馬車(妹島和世)/建築素材化するCS
・第9回:イッセイ・ミヤケのウィンドウ/多彩な色による表現
・第10回:資生堂(工藤青石)/はがすことで変化するグラフィック
・第11回:資生堂(工藤青石)
・第12回:原宿のビル工事仮囲い/都市空間に対する節度ある表現
・第13回:名古屋デザインデパート/フロア全体にグラフィック
・第14回:ヒロオ・コンプレックス(廣村正彰)/建築表現の深まり
・第15回:イナリアンジェラート・ロノ(三宅博之)/「影」の素材化

まとめ
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永井氏
・時代の証言としてのCSデザイン賞
・グラフィック・建築・素材の三位一体的表現の発達
・空間デザインとグラフィックデザインのボーダーレス化
内田氏
・軽さ・薄さ・はかなさへの志向
・サイズに制約の無い平面表現

トークセッション〔2〕(12/5)廣村正彰×小泉誠
ナビゲーター:萩原修

廣村正彰氏・小泉誠氏とカッティングシート(CS)
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廣村氏
・第14回の大賞などを受賞
小泉氏
・第9回の装飾部門銀賞受賞
・住空間にCSはほとんど使わない
・展示イベントでは自分でシート貼りをやることがある

CIとカッティングシート(中川社長)
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・全く同じ色を繰り返し使用できる
・コンピューターカッティングの発達
リタックシート、カバーシートの開発
→第3回CSデザイン賞でふたつの準大賞 - 三菱銀行CI,日石CI

CSデザイン賞について(廣村氏,小泉氏)
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・金馬車(妹島和世建築設計事務所)
 小泉氏:現代の看板建築/ソットサスが高く評価していた(JCD
・ヒロオ・コンプレックス(廣村デザイン事務所
 廣村氏:単なる「表面」ではなくなってゆくCS
    「素材だけでは伝わりにくいもの」を意識化するCS
・イタリアンジェラート・ロノ(三宅博之デザインオフィス
 廣村氏:物質性に寄らないデザインの可能性
     →案内サインに物質性は必要ない
 小泉氏:フェイクぽさが個人的に好きではない
・東証アローズ(廣村デザイン事務所)
 小泉氏:空間に挑むCS
・丸ビル(廣村デザイン事務所)
 廣村氏:空間に入り込むCS
・横須賀美術館(廣村デザイン事務所)
 廣村氏:ピクトサインがあれば文字サインはいらない
     写真をサインに使おうとしたが却下される
     →女子社員に判断を委ねるクライアント担当者について
     「カッコいい」が「カワイイ」に負ける
     「カワイイ」を取り入れながらデザインする
・心斎橋そごう工事仮囲い(イチハラヒロコ)
 廣村氏:言葉(コピー)の力を再認識させられた
     元来工事仮囲いは新しいメディアとして「表現」された
     →現在は「広告」化して別物となりつつある

まとめ
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小泉氏
・手切り“リアル”な表現もあり得るのでは
 (コンピューターカッティングだけではなく)
廣村氏
・住宅にCSが入っていない原因は何か?
 →CSは生活に入ってゆけるのか?
・グラフィック表現の空間化・建築化
 →より体験的な部分にまで評価基準を拡げることは可能か?
 (単なる見た目による評価ではなく)

2009年02月16日 04:00 | trackbacks (0) | comments (0)

都市とデザインと : 銀座『樽』へ行くなら今のうち

先日、都市徘徊blogを見て気がついた。銀座の『樽』はどうやら数年以内に無くなりそうだ。『樽』は1953年開業のバー。渡辺力剣持勇の両氏がインテリアデザインを手掛けている。

初代オーナーの故・赤羽猛は銀座でバー『機関車』も経営していた。こちらは交詢ビル隣の瀧山町ビル(第22ポールスタービル/1928年築/設計:三輪幸左右衛門)内に1934年開業。翌年同ビルに『ミラテス』(ブルーノ・タウトがデザイン、経営に携わった雑貨店/現存せず)も開業している。『機関車』の最初のオーナーは俳優・斉藤達雄で、赤羽が店を譲り受けたのは1938年頃。1966年にコリドー通りへ移転し、1988年に赤羽の逝去とともに閉店した。瀧山町ビルの『機関車』は舞台美術家・吉田謙吉(今和次郎とともに考現学の成立に寄与した人物)が、コリドー通りの『機関車』は先の渡辺・剣持両氏がインテリアデザインを手掛けている。ふたつの『機関車』を橋渡すように、伝説となるべくして『樽』は開業した。

さて、『樽』があるのは銀緑館(第一銀緑ビル/設計はビルオーナーの松岡清次郎が手掛けたようだ)の地下1階。1924年築の建物だから、おそらく『樽』の開業時にはすでに結構な古ビルだったに違いない。その後オーナーやバーテンダーの代替わりを経て、銀緑館ともども『樽』はしぶとく生き延びてきた。
そして、今世紀に入って松坂屋と森ビルが進める松坂屋銀座店および銀座六丁目2街区の一体開発計画が徐々に具体化し、その命運は遂に絶たれようとしている。2007年の報道によると、地上15階建(松坂屋は低層階のみ)程度となる新ビルのデザインは谷口吉生氏が手掛ける予定とのこと。インテリアデザインの名店が消えることは残念だが、谷口氏が開発の完了(今のところ2013年を予定)まで関わるなら、あの場所にさぞかし端正な景観が生まれるに違いない、と期待も膨らむ。

バーとしての『樽』は別段突出した美点の無い店だ。人に薦めはしない。それでも、ふたりの巨匠がその最も脂の乗った時期に共作した空間は、いまそこにしかない。長いカウンターと変形の大テーブルが広いフロアにざっくりと配置された居心地の良いその空間には、インテリアデザイン全盛を目前に控えた時代の自由でカジュアルな雰囲気が息づいている。

/東京都中央区銀座6-11-10銀緑館B1F/03-3573-1890
18:00-1:00/日休

銀緑館銀緑館 その2(都市徘徊blog)
松坂屋、銀座店の高層化断念(看板よもやま話)
松坂屋銀座店(J.フロントリテイリング)
銀座の街に、昭和モダンの名残りを求めて(枝川公一)
解体されます。瀧山町ビルヂング(ゆる〜り、ゆるゆると〜)

2009年02月12日 11:00 | trackbacks (0) | comments (0)

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2008年11,12月

11/1。江戸東京博物館で『ボストン美術館 浮世絵名品展』。江戸中期から幕末までの浮世絵を網羅する内容。懐月堂派にはじまり、鈴木春信鳥居清長喜多川歌麿東洲斎写楽葛飾北斎歌川広重歌川国芳らの作品がぎっしりと居並ぶ様は壮観。見終えてぐったり。画面を覆う繊細なエンボスは数百年の時を越えて未だ生々しい。
春信の作品をまとまった数で見たのは初めてのこと。簡潔で、女性的で、なんとも可愛らしい。写楽の後期作品(全身像の役者絵)には印刷物を見る限りではさほど魅力を感じなかったが、実物はやはり力強い。ポスターにも使用されていた歌川国政の作品は、少数ながら期待を上回る素晴らしさ。生命感漲る輪郭線によってキャラクター化された役者のクローズアップ。極めつけに現代的でグラフィカル。

11/7。田町・ AATロビーギャラリーで『武藤奈緒美作品展 空想文学旅 VOL.1』。文学作品に寄せた三重・和歌山の風景写真。展示手法としてはやや散漫な印象だったものの、写真から伝わる空気感はガツンと濃密。妙な言い方かもしれないけど、まるで人物写真のような風景写真だ。『かわら版』などで撮り続けておられる落語家の写真展をぜひとも見たい。

12/16。ギャラリー間で『安藤忠雄建築展 挑戦 - 原点から - 』。原寸大『住吉の長屋』に度肝を抜かれた。ギャラリーと屋上テラスを隔てるガラススクリーンを取り去り、2つのフロアに跨がっての完全再現。単純明快で破壊力満点なこのやり方はいかにも安藤氏らしい。極小の敷地に最大限の自然を取り込みつつも周辺環境から隔絶された室内には、さながら孤島のようなユートピア性が感じられる。他にもいろいろ展示されていたような気がするが、『住吉の長屋』のおかげですっかり記憶から吹っ飛んでしまった。

2009年02月11日 13:00 | trackbacks (0) | comments (0)

落語初心者のメモ : 落語初心者のメモ 2008年11・12月

11/13。関交協ハーモニックホールで『第18回オリンパスシンクる寄席スペシャル 』。春風亭ぽっぽさんで『子ほめ』 、春風亭百栄師匠で『コンビニ強盗』、立川談笑師匠で『片棒・改』 、仲入り、談笑師匠で『時そば』、百栄師匠で『茶金』(はてなの茶碗)。
初めてしっかりと見せていただいた談笑師匠。ふたつとも実に凄まじかった。特に『時そば』。細かなチューニングのみでベタ根多に異空間を構築してしまうセンスと力技。

11/19。みたか井心亭で『寄席井心亭 数えて百六十二夜 霜月』。林家たい平師匠の会。たい平師匠で『家見舞』、柳亭こみちさんで『四段目』、林家源平師匠で『蒟蒻問答』、仲入り、たい平師匠で『長短』。
こみちさんの定吉がチャーミング。たい平師匠の『長短』は間合いも描写も至ってミニマムでありながら、味わい深く、美しい。なんとも贅沢な時間。

11/20。練馬文化センター小ホールで『史上最笑の2人会』。春風亭昇々さんで『たらちね』、昔昔亭桃之助さんで『熊の皮』、昔昔亭桃太郎師匠で『ぜんざい公社』、仲入り、トークショー、笑福亭鶴瓶師匠で『青木先生』。
桃之助さんが面白い。今後要チェック。歌入りの『ぜんざい公社』は殺人的馬鹿馬鹿しさ。私的ベスト桃太郎落語。きゅっきゅきゅー。トークで時間が押した分、アグレッシブになったのが幸いした『青木先生』。鶴瓶師匠の生の迫力を改めて思い知る。

11/22。三鷹市芸術文化センター星のホールで『立川志らく独演会』。立川らく次さんで『鮫講釈』、志らく師匠で『寝床』、仲入り、ミッキー・カーチス師匠のハーモニカと歌で『枯葉』、志らく師匠で『芝浜』。
講釈根多が見事に滑らかならく次さん。ミッキー師匠の醸したしっとりと肌触りの良い空気を受けての『芝浜』。質素ながらも晴れがましい大晦日に、どことなく居心地の悪そうな魚屋の表情がたまらない。狂気を発散するような『寝床』とのコントラストが凄まじいこと。

11/24。内幸町ホールで『栄助改メ春風亭百栄真打昇進披露目…っぽいね。』。三遊亭玉々丈さんで『酒の粕』、林家きく麿さんで『金明竹(博多弁)』、百栄師匠で『時そば』、春風亭栄枝師匠はお馴染みの小噺をあれこれ、三遊亭円丈師匠で『新蝦蟇の油』、仲入り、口上、百栄師匠で『マザコン調べ』。
百栄師匠を除き全員私服の口上に場内大爆笑。皆さん自由過ぎ。「もうたくさんです…」と漏らす百栄師匠にまた爆笑。きく麿さんの『金明竹』翻案は完璧。サゲのどうでも良さがまたいい。

12/3。みたか井心亭で『寄席井心亭 数えて百六十三夜 師走』。柳家喬太郎師匠の会。喬太郎師匠で『まんじゅうこわい』、柳家獅堂師匠で『たいこ腹』、仲入り、林家久蔵師匠で『町内の若い衆』、喬太郎師匠で『禁酒番屋』。
意外にもスタンダードナンバーが揃う。喬太郎師匠の『禁酒番屋』は苦手とのコメントもまた実に意外。軽く、和やかで暖かい雰囲気が年末らしくて心地良い。

12/8。国立演芸場で『百栄の落語ぷれいばっくPART1』。柳家小ぞうさんで『初天神』、春風亭百栄師匠で『素人義太夫』、柳家喬太郎師匠で『粗忽の使者』、仲入り、対談、百栄師匠で『リアクションの家元』。
国立の空気感をついに掌握した小ぞうさん。今後ますます要チェック。百栄師匠はお疲れか、動きの激しい根多もやや空回り気味。ま、そんなこともあるさ。喬太郎師匠は設定的に無理だらけの根多を流れるように見せる。カッコいい。

12/25。天満天神繁昌亭で『天神寄席 第二十六回・十二月席』。笑福亭たまさんで『動物園』、桂わかば師匠で『いらち俥』、笑福亭仁嬌師匠で『代脈』、笑福亭福笑師匠で『はははぁ家族』、仲入り、桂三風師匠で『祭り囃子が聞こえる』、露の都師匠で『堪忍袋』、林家染丸師匠で『掛取り』。
仁嬌師匠が凄い。静かで淡々とした語り口はまさに極上。上方落語ならではの可笑しさだが、今この感じは東京の方がウケるかもしれない。一転、福笑師匠の圧倒的なアヴァンギャルドさに涙が出るほど爆笑。都師匠の『堪忍袋』は関西のおばちゃんにしか演じられないベタさが素敵。染丸師匠の軽妙な話術と多芸ぶりが遺憾なく発揮された『掛取り』はまさに絶品。感動。

同日。天満天神繁昌亭で『できちゃったらくご クリスマススペシャル』。全員のじゃんけんで出演順を決めたりのトークに続いて、旭堂南湖笑福亭たま桂三風のリレー落語。滅茶滅茶な流れがいつのまにやらいい話に。続いて月亭遊方桂三金桂あやめのリレー落語。いじられまくりの三金さんに下ネタ爆発のあやめ師匠。なぜか林家彦いち師匠が引っ張り出されての賑々しいエンディング。それぞれの出来がどうこうと言うよりも、各師匠の持ち味を垣間見せていただけたことが大きな収穫。楽しみが増えた。

2009年02月10日 20:00 | trackbacks (0) | comments (2)

暮らしの道具たち : 京都・岡重の風呂敷

1/8。『三浦清商店』で帯揚を頼んだのと同じ日に買った『岡重』(おかじゅう/友禅・雑貨/外観)の洒落衣復刻文様柄・鯛の風呂敷を開封。

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ちいさな畳紙(たとうがみ)に可愛らしく包まれていた。

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ひろげるとこうなる。気持ち悪くて実にいい。単純に絵柄として凝っているだけでなく、ちゃんと連続するようにデザインされている。この風呂敷は750×750mmのポリエステル製。発色は綿の方が良かったのだが、今後積極的に使うことを考慮した。

のたうつ鯛が地表を埋め尽くす光景を想像して、しばし恍惚。

帰省ツアー 2008-2009・1日目(January 15, 2009)

2009年02月07日 15:00 | trackbacks (0) | comments (2)

暮らしの道具たち : 京都・三浦清商店の帯揚

1/8。年末の帰省ツアー時に『三浦清商店(みうらせいしょうてん)』(白生地の販売と染め・悉皆の店)でオーダーした帯揚が早々に到着した。

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ストライプのパターン違いで青緑と赤紫(写真はピンクぽく見えるが、実際にはもっと濃い)の2種。それぞれに「竹リン」、「牡丹色」と書かれた紙札が同梱されていた。深く、目に鮮やかな色味と光沢。

正月を挟んで実に二週間強の短納期。梱包そのものは至って簡素ながら、丁寧な手書きの挨拶状を添えていただき、店頭での感動が何倍にも増幅されて蘇った。なんという充足感。これはちょっとやそっとのスキルでこなせるサービスではない。心底、恐れ入った。

他で新品の帯揚を購入する気はさらさら無くなった。またぜひ、近いうちにお世話になりたいものだ。

帰省ツアー 2008-2009・1日目(January 15, 2009)

2009年02月06日 20:00 | trackbacks (0) | comments (0)

オルタナ系日本茶 : 埼玉/狭山・清水園

久しぶりに煎茶を取り寄せてみた。今回は狭山茶。下の写真左から清水園の『狭山一(読み方が分からない。“さやまはじめ”だろうか?)』(100g)、『狭山みどり』(100g)。

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狭山茶は埼玉県南部から東京都北部にかけての地域で生産されており、お茶としてはかなり北方のもの。茶木に厳しい条件下で育った厚みのある葉から生まれる独特の味が、特に地元とその周辺において親しまれていると聞く。

素晴らしかったのは『狭山一』。濃厚なコクと甘味。香りはそこそこ、と言った印象ながら、味わいにおいてはパンチ力抜群だ。根洗松銘茶、マルミヤ製茶(どちらも静岡の茶園)とは火入れの仕方がだいぶ異なるようで、とろりとした舌触りと濃い水色は一般的な深蒸茶に近い。可能であればぜひ普通に蒸されたものをいただいてみたいところ。
『狭山みどり』はその名の通りのストレート茶(『狭山一』はおそらくブレンド)。こちらはちょっと不思議なお茶だった。一煎目には「なんだか弱々しい深蒸茶だな」と思ったが、二煎を飲み進むうちに青く爽やかな香味が沸き上がるようにして現れてきた。三煎目もいける。はて、入れ方が良かったのか悪かったか。何しろ面白いことには違いない。

清水園

2009年02月04日 02:00 | trackbacks (0) | comments (3)

旅に出てきました : 帰省ツアー 2008-2009・番外編3

徳島県藍住町辺り、吉野川北岸にて。

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2009年02月04日 01:00 | trackbacks (0) | comments (0)

旅に出てきました : 帰省ツアー 2008-2009・7-11日目

12/28。高速バスで高速舞子から徳島駅へ。ヤギの弟のクルマで吉野川大橋を渡り、国道沿いの『カフェ・ケストナー』へ。2000年オープンの自家焙煎珈琲店。

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外観はごく一般的なロードサイド店。ドアを開けると小さいながらも明るい染色の木造作に覆われた落ち着きのある空間が広がる。エントランスの左脇にはガラス張りの焙煎室があり、丁寧にハンドピックをする様子が見える。物販棚に並ぶドリッパーはバッハ式だった。ケストナーブレンドなどを注文。

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ブレンドはさすがに香り高くクリアな味わい。しかし私たちの品のない舌にはあまりに軽く、物足りなく感じてしまう。丁寧な仕事ぶりが伺えるだけにもったいない、と言うのはまあ大きなお世話か。アイスコーヒーコーヒーゼリーの豊かな風味にホっと一息。

12/29。ヤギの実家で起床。午後過ぎから弟のクルマでふたたび徳島市内へ。最初に訪ねたのは中央郵便局の裏手にある『いかりや珈琲店』。1955年創業の自家焙煎珈琲店。堂々とした、でもどことなく可愛らしい店構え店頭に大谷焼の器がずらりと並び、その中に豆が入っているのが面白い。

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フロアは延々と奥深く、向こう側の道路にまで通り抜けが出来るようになっている。かなりの席数がありそうだ。グリーンの床タイルの質感が美しい。中ほどのテーブル席でオリジナルブレンドとよしこのブレンドなどを注文。メニューにはデザートやトースト、サンドイッチなども割合充実している。珈琲はまろやかさが特徴的で、やはり軽め。

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さらにもう一軒、市内を東へ移動して福島橋を渡り、末広の住宅街にある『とよとみ珈琲』へ。2003年オープンの自家焙煎珈琲店。

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木工所の倉庫を改装したというなんともワイルドな店構え。店内は至ってカジュアルな雰囲気で一安心。店主氏は波乗りがお好きのようで、そこかしこにサーフボードやアロハシャツなどが飾り付けられている。エントランスの左側にテーブル席があり、正面奥にカウンター席。エントランス右側の階段を上がると、2Fはギャラリーとなっている様子。とよとみブレンドとエスプレッソなどを注文。

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エスプレッソのコクと深み、バランスの良さに思わず歓声。ブレンドもまた実に綺麗な味わいで、かつパンチがある。地方向けのチューニングを一切施されていないばかりか、東京でも滅多にお目にかかれないような見事な珈琲だが、周りを見ると席はほぼ満杯で、その客層は幅広い。カウンターに若い方が多いのは、自家焙煎珈琲店には珍しい風景かもしれない。美味しいものはちゃんと受け入れられるんだな、と改めて思う。ストレートやラテなどもいただいてみたかったが、時間の都合で諦めざるを得なかった。次回はぜひ。

12/30は『新見家』でたらいうどん。大晦日はのんびりと過ごして元日に帰京。

2009年02月02日 10:00 | trackbacks (0) | comments (0)

都市とデザインと : 歌舞伎座建て替え計画案

歌舞伎座、再開発で29階建て複合ビル併設(2009.01.31/銀座経済新聞)

なんだろうか、この完成予想図から漂うやる気の無い感じは。

歌舞伎座、装飾を抑え現代風に(2009.1.28/asahi.com)

いろいろと横やりが入ったみたいだけど、本当にこんなハエ男みたいな建物になってしまうとしたらなんとも残念な話だ。挑戦さえ恐れなければ、伝統に則った、この地にふさわしい高層建築はきっとあり得るはずなんだが。

歌舞伎座(東京・銀座)建替(2008.10.29/日刊建設工業新聞)

発表された立て替え案のニュースに、デザインを担当するはずだった隈研吾氏の名が全く出て来ないのが少々気になるところ。

2009年02月01日 09:00 | trackbacks (0) | comments (4)
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