『商店建築』の2009年4月号に『阿佐谷銘茶楽山 阿佐谷新店』が掲載されています。特集「フードストア」のページです。作品解説に一部私たちの書いたものと異なる部分があるようです。特に気にするほどのことでもないのですが、一応、下に原文を載せておきますので、併せてご参照下さいね。
同特集には卵の専門店、七味専門店、乾物店、熟成肉店などの個性的な食料品店が掲載されており、興味深く目を通しました。中でもN&Co.(鍋屋昌明氏)の手掛けた和菓子店『村中甘泉堂』の簡素で大胆な木格子による空間構成が印象的です。福井に足を運ぶ機会があれば、ぜひ拝見したいと思います。
商店建築/2009年4月号(商店建築社)
新しいコンテンツとしてstudyのページをアップしました。こちらには4月からlove the life のアトリエで毎月一回のペースで開く予定の「元浅草勉強会」に関する情報を掲載してゆきます。至って敷居の低い、ちいさな勉強会です。どなたもどうぞお気軽にご来訪下さい。
love the life / study(元浅草勉強会)
3/17発売の『商店建築』の2009年5月号増刊/新・店舗のディテール1「“集い”のディテール」に『dcb』がちょこっと掲載されています。見てね。
内容は飲食店のカウンターと大テーブルまわりのディテールを紹介するもの。ただし、部分詳細図よりもむしろ店舗全体の基本断面図に重きを置いているのが面白いところです。デザインコンセプトが写真で見る以上に良く読み取れ、本誌ではほとんど記憶に残らなかった作品に改めて見入ったりしています。また、2006年9月号に掲載されていた飲食店のカウンターに関する野井成正さんと水谷壮市氏へのインタビュー記事が再録されていることも何気にポイント高し。特にこれからインテリアデザインの実務に本格的に関わろうとしている方にお薦めします。
ところで、この増刊号も含めて、ここのところ商店建築誌の厚み(物理的な)が目に見えて少なくなっているのが気になります。今のところ内容そのものには直接の大きな影響は出ていないようですが、これも不況のせいなんでしょうかねえ。
3/8。地下鉄銀座線上野駅から東京都美術館へ向かう途中、JR高架下の交差点で国立西洋美術館の世界遺産登録推進に関する大きめのバナーが目についた。
バナーの取り付けられた解体用仮囲いの建物は『西郷会館』(1952)。設計を手掛けたのは土浦亀城。一般には『上野百貨店』、もしくはメインテナントであった『聚楽台』の名前の方が通りが良い。中央通りの突き当たりに位置し、上野公園の台地東側斜面にへばりつくようなデザインは、都心の近代建築物としては珍しく、ダイナミックな地形を生かしたものとなっている。銀座『三原橋センター』とともに、ユニークな敷地条件を生かした異色の土浦作品として知られる建物だ。『聚楽台』は2008年4月に閉店。改築後、2010年秋頃に再オープン予定とのこと。
国立西洋美術館云々については、基本的にフランス政府が目指すコルビュジェ作品のまるごと世界遺産登録の一環なわけで、台東区民としてはまあ勝手にやって下されば良いと思っている。
聚楽台(聚楽グループ)
昭和の残影 上野の老舗レストラン「聚楽台」閉店(産経ニュース)
閉店直前 上野の大衆食堂 聚楽台に行ってきた(メレンゲが腐るほど恋したい)
ル・コルビュジエの建築と都市計画の世界遺産推薦について(国立西洋美術館)
国立西洋美術館世界遺産登録推進(台東区)
3/7。矢来能楽堂で『日本の伝統芸能絵巻』を見てから神楽坂を下って『龍公亭(りゅうこうてい)』へ。1889年に『あやめ寿司』として開業。1924年の改築時に2Fを『龍公亭』とし、その後全フロアを中国料理店に。現在4代目が店主を務められているとのこと。2007年にビルの建て替えに伴い一時閉店。その間にheads(山本宇一さん)プロデュース、Kata(形見一郎さん)デザインによる姉妹店『SO TIRED』が新丸ビルにオープン。『龍公亭』は2008年6月にリニューアルオープンした。
白く塗り潰された煉瓦調のファサードに黒いフレームの開放的なガラススクリーン。大きめの自動ドアから店内へ入ると、レジカウンターのすぐ手前にデザートのショーケースが置かれている。アイドルタイムを廃し、カフェとしての営業にも力を入れている模様。フロアは最奥にキッチンを備えた1Fと、神楽坂を見下ろすテラスのある2Fに分かれている。この日は1F中ほどのベンチシートへ。見渡すと『SO TIRED』と同じ三方の競演となった店構えのそこかしこに、それらしいディテールが見られる。特に階段脇のカラーガラスのスクリーンは、姉妹店の記号、と言った趣だ。
赤と銀による力強い構成が印象的なグラフィックデザインを手掛けたのは、なんと松永真氏。上の写真はメニュー表。裏面にはローマ字ロゴとイラストが。
蒸し鶏のネギ・ショウガ風味、中国野菜の海老味噌炒め、カニ玉に酢豚。どの味にも尖ったところが無く、ホっとするようなやさしさと安心感がある。
そしてチャーハンの食感の素晴らしいこと。まさにザ・スタンダード。甘さ控えめの中国茶あんみつにマンゴープリン、フルーツソースと相性抜群の杏仁豆腐も美味しくいただいた。サービスを含めどこを取っても至ってさりげなく、それでいて質の高い、新しい老舗。虚勢と厚化粧に彩られた神楽坂という街の真ん中にあって、実に地に足の着いた爽やかな印象の店だった。『SO TIRED』も含め、またぜひお伺いします。
龍公亭/東京都新宿区神楽坂3-5/050-5535-3972
11:00-22:00LO(金23:00LO)/年中無休
2/14。銀座・巷房で『佐藤卓展「2つの実験」』。巷房は奥野ビルディング(旧銀座アパートメント)内に3つのスペースをもつギャラリー。奥野ビルディング(鉄筋コンクリート造7階地下1階建)は1932年築。西条八十、吉田謙吉(参考)らが入居した由緒ある古ビルだ。設計を手掛けたのは川元設計事務所とされており、この「川元」が川元良一だとすると、奥野ビルディングは同潤会アパートや九段会館(旧軍人会館)の兄弟、と言うことになる。
さて、先ずは地下へ。小部屋が1室と階段下が展示スペース。小部屋には円筒形の台が置かれ、その天面に小さな人形が埋め込まれていた。レトロでバタ臭い様式のキャラクターは、上方から投射されるビデオプロジェクターの映像や光で刻々と表情を変え、やがてたどたどしい子供の声色で「いろは」を順に喋りはじめる。固有の表層を持たないアウトラインデータとしてのキャラクター。階段下ではその様子をビデオモニターを介して見ることができた。照明が落とされたフロアはビルのつくりと相まって、いかにも怪しい実験室の様相。
3Fのギャラリーに入ると、一辺30cmほどの木の小箱が床上にずらりと並ぶ。数にして50ほど。透明の上蓋を通してひらがながひとつずつ収まっているのが見える。ひらがなは白い紙がゆるやかに変形しながら積み重なることで立体化されており、それぞれに特徴的なボリュームを持つ。質感を伴ったオブジェクトとしての文字。「い」には「い」らしいかたち、「ん」には「ん」らしいかたちが与えられているのが楽しい。いや、しかし、地下の展示を思い返すとなんだか不気味だ。ここでは実体と非実体が容易に入れ替わり、その曖昧な境が現実世界を浸食するように思えて来る。小さいながら、とても印象深い展覧会だった。
同日。六本木・サントリー美術館で『国宝 三井寺展』。個性豊かな仏像群に目を奪われた。中でも不動明王立像(通称:黄不動尊/鎌倉時代・13世紀)は凄かった。息づかいが聞こえてきそうな生々しさと、近寄り難い高潔さを同時に感じさせる佇まい。如意輪観音菩薩坐像(平安時代・10世紀)のしなやかなポーズ、毘沙門天立像(小振りでリアルな方/平安時代・10世紀)の凛々しさ、阿弥陀如来立像(鎌倉時代・13世紀)の超絶ディテール、十一面観音菩薩立像(平安時代・9世紀)の愉快な四頭身、新羅明神坐像(平安時代・11世紀)の繊細な造形とミステリアスな表情も忘れ難い。狩野光信の障壁画は個人的には今ひとつ。
2/24。銀座・ギャラリー現で『倉重光則 - 不確定性正方形 - 』。ガラス部分を鉄板で閉ざされたドアを開け、ギャラリーに入ると床一面がこれまた鉄板で綺麗に覆われていた。まるで重力が増したような錯覚を覚えながら壁面へ目を向けると、ビデオプロジェクターから白い正方形が投射されている。明滅する正方形とギャラリーの床壁の際を、それぞれ一部分ずつ赤いネオン管が縁取って不完全な領域を強調する。軽やかさと重厚さ。静けさと凶暴さ。極めつけに単純で、体験的なインスタレーションだった。
眺めていると、なんと倉重氏ご本人からお声がかかった。ギャラリーのスタッフの方からコーヒーをいただきつつ、初期の作品とアメリカのミニマル・アートとの偶然の同時性について、昨年開催された赤坂アートフラワー08で自分の作品を見るために行列に並んでみたこと、などなど、貴重なお話や愉快なお話を伺う。私たちにとって奇跡のような数十分だった。ギャラリーを出てから感激がじわじわと。作品の厳しい抽象性からは全く想像のつかない気さくなお人柄にかえって面食らってしまったことが悔やまれる。願わくば日本のミニマリストたちが体験した1970年前後の空気感について、もっとお話が伺ってみたい。
倉重光則(JDN)
2/18。みたか井心亭で『寄席井心亭 数えて百六十五夜 如月』。柳家花緑師匠の会。柳家花いちさんで『狸札』、花緑師匠で『権助提灯』、立川談春師匠で『六尺棒』、仲入り、花緑師匠で『竹の水仙』。
続けて聞いても楽しい花緑師匠の『権助提灯』。談春師匠の『六尺棒』は親子の言い争いの切れ味が洒落にならない凄さ。なのに味わいは軽やかで、どことなく楽しそうにさえ見える。カッコいい。花緑師匠の『竹の水仙』は宿屋の夫婦のキャラ立ちが抜群。この根多でこんなに爆笑したのは初めてだ。
2/25。千代田区立内幸町ホールで『権太楼ざんまい』。柳亭市也さんで『転失気』、柳家小権太さんで『のめる』+寄席の踊り(奴さん、姉さん)、柳家権太楼師匠で『宿屋の仇討ち』、仲入り、権太楼師匠で『一人酒盛』。
お杯にはじまって全根多酒繋がり。流れよくまとまった素晴らしい会だった。バカボン顔の小権太さん。声の通りがいい。ロボコップな「踊り」はある種才能を感じさせる。権太楼師匠の『宿屋の仇討ち』は似たシチュエーションの繰り返しが実に軽快で爆笑を誘う。ラストのどんでん返しもからりと爽快。一転して『一人酒盛』はほとんど一人の人物だけを演じつつ、丁寧にディテールを積み重ねてゆく。酔っぱらいの理不尽な振る舞いが生々しい。やっぱり権太楼師匠の酒飲みキャラには独特の凄みがある。
2/27。日本橋社会教育会館ホールで『市馬落語集』。柳亭市也さんで『子ほめ』、柳亭市馬師匠で『山崎屋』、仲入り、市馬師匠で『あくび指南』。
「百そこそこ」のいい間違いで一気に会場を暖めたりしつつも、通してそつのない高座の市也さん。今回の市馬師匠の根多下しは『山崎屋』。内容的にものすごく設定が細かく、かつボリュームが大きい。それでも師匠の手に掛かるとなんとも粋で軽やかに。この先、多少枝葉を整えれば、ますます師匠ならではの見応えある根多になりそうな期待大。『あくび指南』は驚きの小気味良さ。のんびりした展開でしか見たことがないだけに、こんな演り方があったか、と目から鱗。
2/28。三鷹市芸術文化センター星のホールで『立川談春独演会 冬談春』。立川春太さんで『間抜け泥』、談春師匠で『除夜の雪』、仲入り、談春師匠で『宿屋の仇討』。
『除夜の雪』は桂米朝師匠の根多(永滝五郎作)。町中の寺の大晦日。3人の修行僧の滑稽なやりとりが丁寧に描かれる。やがて静かな雪の夜の空気感がかたち作られ、その静けさのまま幕切れ。救いの無い噺なのに、不思議と暗さも無いのが粋であり、米朝的だ。この乾き切ったニヒリズムを表現できるのは、東京だと談春師匠くらいか。米朝版のサゲ(バッサリ)と談春版のサゲ(やや文学的)の微妙な違いが興味深い。『宿屋の仇討』は一転してお祭り騒ぎ。はじけた三人衆の愛すべき下品さに涙が出るほど爆笑。こーしてこーしてこーなるのっ。