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life of "love the life"

掲載誌・書籍など : 商店建築 2009年4月号など

『商店建築』の2009年4月号に『阿佐谷銘茶楽山 阿佐谷新店』が掲載されています。特集「フードストア」のページです。作品解説に一部私たちの書いたものと異なる部分があるようです。特に気にするほどのことでもないのですが、一応、下に原文を載せておきますので、併せてご参照下さいね。

同特集には卵の専門店、七味専門店、乾物店、熟成肉店などの個性的な食料品店が掲載されており、興味深く目を通しました。中でもN&Co.(鍋屋昌明氏)の手掛けた和菓子店『村中甘泉堂』の簡素で大胆な木格子による空間構成が印象的です。福井に足を運ぶ機会があれば、ぜひ拝見したいと思います。

商店建築/2009年4月号(商店建築社)

商店建築2009年4月号掲載『阿佐谷銘茶楽山 阿佐谷新店』解説原文

「阿佐谷銘茶楽山」はJR阿佐ヶ谷駅の近くで長らく日本茶と海苔の製造販売を営んでいる。地元の人々の生活に深く定着したその暖簾が、北口そばのちいさな商店街沿いにもうひとつ掛かることになった。こちらは二代目の古川貴則氏による新店だ。近隣には煎餅店、米穀店、和菓子店などが軒を連ね、道幅の狭さのわりに交通量は昼夜を問わず多い。
まずは往来の流れを無理なく受け止めるため、エントランスの木製サッシを通りに対してやや斜めに置いた。そのラインに右手のカウンターショーケースのブーメラン形が呼応する。間口を最大限に開放するため、左手の棚什器は道路側を頂点に奥へと徐々に拡がる三角形とした。もとより奥行きの小さな商品を主に扱う業態なので、こうした不整形が問題になることは少ない。結果として商品ディスプレイに多様性をもたらし、視線を自然に店内へと導く至って合理的なプランが出来上がった。
天井面には300mm余りの段差がある。右側の造作はセン柾材で仕上げ、エントランスの引戸に合わせて天井高を抑えた。主要動線のある左側はバナナ繊維壁紙張りとし、高さを最大限に確保した。異なる素材が間接光を介して上下に重なり、斜め基調のプランと相まって簡潔な折り紙のような空間が立ち現れる。サイズのまちまちな3本のステンレス柱が、破調のリズムをより増幅する。突き当たりのタペストリーミラーは店内を掛軸状に切り取り、淡色の移ろいに変換する。
バックカウンターと吊戸棚の狭間にある横長の壁面は堀切健治氏の左官で仕上げられた。ゆるやかな円弧が上下を分けたその景色には、静岡の平野から望む富士の裾野が暗示されている。

勝野明美+ヤギタカシ(love the life)

ついでながら、同誌2009年1月号巻頭の特別アンケート『デザイナーが選ぶお気に入りホテル&旅館』の終わりの方にlove the life の回答がさりげなく掲載されています。記事は総勢91組のデザイナーがそれぞれ3つの宿を挙げるというもの。皆さんお金持ちなんだなあ、バリ島が好きなんだなあ、という内容です。love the life は『洋々閣』(唐津)と『イル・パラッツォ』(福岡)、そして今は無き『ホテルコジマ』(上野)のことを書いています。これまた気にするほどのことではないのですが、文面に一部変更が加えられているようですので、下に原文を載せておきます。

商店建築/2009年1月号(商店建築社)

商店建築2009年1月号掲載 love the life のアンケート回答原文

1. ホテルコジマ(東京都台東区/1994開業/設計:菊竹清訓建築設計事務所)
2. 洋々閣(佐賀県唐津市/1893開業/改修設計:柿沼守利)
3. イル・パラッツォ(福岡県福岡市/1989開業/設計:内田繁,A.ロッシほか)

貧乏暮らしの私たちは所謂高級ホテルや高級旅館に縁が無く、あまり興味もありません。専ら利用するのは街歩きの拠点となるコンパクトでリーズナブルな宿。気の利いたサービス(無論デザイン性も含まれます)がそこにあれば言うこと無しです。
上野のホテルコジマは各階の客室が樹状に張り出す独特な形状の建物でした。オープン翌年にソフィテル東京と改称し、やがて運営会社が替わって、2007年に閉鎖・解体されています。往時には奇抜な外観ばかりが話題でしたが、実のところ中身は素晴らしいものでした。フロントまわりの明るく悠揚な雰囲気と、肩のこらないサービスが印象に残っています。客室は極めてコンパクトながら質感の高い設えで、朝夕ベッドから大きな開口部越しに不忍池を見下ろすと、ちょっとした極楽気分だったものです。その「反・山の手」的な在り様と、都市型ホテルとしての洗練性とのギャップは実に痛快でした。あれほど個性的なホテルは、東京にはおそらく二度と出現しないでしょう。
洋々閣については説明不要かと思います。唐津市街からさほど離れていない立地。こぢんまりとした質素な佇まい。隆太窯の器に盛られた地魚料理。地方都市と旅館の間柄におけるひとつの理想型を見ることが出来ます。
福岡のイル・パラッツォはデザインホテルの嚆矢であり、同時に止め(とどめ)とも言えるでしょう。開業の頃ホテル全体に満ちていた祝祭的な高揚感は今も忘れられません。20年近くを経て付帯施設は様変わりし、客室に傷みが目立つようにはなりましたが、カジュアルな料金と必要十分なサービス、そして破格に質の高い空間はしっかりと維持されていました。全面改装(2009年予定)後の状況が気がかりです。
活力ある都市には魅力的なホテルや旅館が必ず存在するものです。時代に流されず、自閉せず、気骨のある宿がこれからも各地に生まれ、また生き残ってゆくことを願って止みません。

勝野明美+ヤギタカシ(love the life)

2009年03月31日 13:00 | trackbacks (0) | comments (0)
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