5/21。鈴本演芸場でチケットを買ってから湯島の『デリー』上野店で遅い昼食。1956年開業のインド・パキスタン料理店。伺うのはこの日が初めて。
上野広小路から春日通りを西へ。やや湯島駅寄りの地点まで来ると、右手に黒いテント地の軒を張り出した間口2間ほどの小さなビルが現れる。テイクアウトの窓口を横目に黒いアルミの引戸から店内へ。通路を挟んで右側にカウンターキッチン。左側に二人掛けのテーブルがいくつか。あわせて二十数席ほどがぎゅっと詰め込まれている。数名のスタッフが忙しく動き回るキッチンは階段室やら柱型やらで入り組んでおり、これまた恐ろしく狭そうだ。蛍光灯に照らされた簡素な白い内装は街の定食屋の風情。最奥のテーブルに収まって、デリーカレーとカシミールカレーを注文。ごく自然で控えめな応対が心地良い。
上の写真がややマイルドなデリーカレー、こちらが激辛のカシミールカレー。どちらもさらさらのスープのような仕上がりで主な具材はチキン、デリーカレーにはじゃがいもがごろんと入っている。
見るからにシンプルなカレー。しかし口に運ぶとその印象は一変する。実にカラフルで複雑。しかも無数の味わいがひとつひとつ識別できそうなくらいに鮮やかであることに驚く。解像度が高いのだ。こうした感覚は弟子筋の『コルマ』にも共通するが、あちらはより優しく親しみやすさがあり、こちらはより厳しく洗練されているように思われた。ストイックに、ただ美味い。
また近いうちにあの目の覚めるようなカレーを味わいに行かねば。何しろまだ2品しかいただいてないんだから。
デリー 上野店/東京都文京区湯島3-42-2/03-3831-7311
11:50-9:30LO/年中無休
5/17。雷門で一之宮を見送ってから『梅園』へ。いつもの粟ぜんざいに加えて、梅園雑煮を初めて注文。
お椀の蓋を取るとなんともシンプルで可愛らしい眺め。思いのほか上品で優しい味の出汁が嬉しい。今しも宮入りが最高潮に盛り上がる仲見世の賑わいを間近に心地良く聞きながら、がらがらの店内でひと休みさせていただいた。
5/17。元浅草勉強会02の後、お祭り気分を味わいに浅草へ散歩。2年ぶりのお出ましとなった一之宮の宮入りを見物。予定から2時間遅れの20:30頃、雷門前に神輿が到着。
超速の手締めを合図に、折り畳まれた提灯をさらに突き上げんばかりの勢いで、神輿は仲見世へ突入していった。
5/7。昨年から数えて十数度めの神戸出張。『ふつうの家01』現場へ。3/14に施工契約が済み、4/23に着工、この日は地盤改良工事がほぼ完了した状態。
現場は傾斜地の北面を造成した住宅地。長さ6.5mのコンクリート杭が100平米の敷地に全部で30本ほど打ち込まれた。
頭のやや潰れた杭が整然と並ぶ様子はなんだか古墳のようだ。
5/2。遅ればせながら『Ao』を視察。青山・スパイラル斜め向かいに出来た約40ほどのテナントを抱える複合商業施設。2009年3月にオープン。その偉容を遠くから伺ったことはあったが、ちゃんと足を運ぶのは初めて。
この施設について、これまで人づてには散々な評判しか聞いたことがなく、実際に拝見してみた私たちにも特に書くべきことは思い当たらない。でも青山通りを逸れて細道をビルの裏側へまわれば意外に面白いことを発見した(上の写真/縦位置の写真)。
都心に取り残された低層の建物たちを背中にして見上げると、電線で細かく分割された空高く、乱雑なグリッドパターンがそびえ立つ。青山という街の混乱の縮図であるかのようなその眺めは、やや哀感を伴って、なかなか美しかった。
夜景になる前にそそくさと退散。あの電飾だけはどうしたって見るに堪えない。「LEDは工夫とセンスをもって使用すべし」って誰か法律で定めてくれないものか。いっそのこと「LED禁止」でもいいくらいだ。
3/6。青山・ワタリウム美術館で『島袋道浩展:美術の星の人へ』。島袋氏がゆるゆると手掛け続けるアートプロジェクトのうち、2001年から2008年までに手掛けられた十数点を主にビデオによって紹介する内容。オオタファインアーツで見た『シマブクロ・シマフクロウ』(1996)からいつの間にやら十数年。その作風はますます下らなさを増し、洗練され、強靭になっていた。探し物が見つかったり見つからなかったり、思わぬ出会いがあったり無かったりのプロジェクトは、どれも格好良く収束することはなく、ただ漫然と拡散してゆく。作品も下らなければ、それをぼんやり眺める私たちもまた実に下らない。生きてるってそんなもんだよね。と思ったり思わなかったりしながら会場を出た。何より最高だったのが『自分で作ったタコ壺でタコを捕る』(2003)。タコが捕れた瞬間の皆の嬉しそうな顔!、そして岸から海へと還されるタコの姿が忘れられない。
3月某日。初台・東京オペラシティアートギャラリーで『都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み』。これを見逃さなくて本当に良かった。スイス・バーゼルを拠点にヨーロッパ各地のプロジェクトを手掛けるD&Dの展覧会。彼らのデザインする建物は都市景観の中で擬態するように、あるいはひっそりと佇むように存在し、何らこれ見よがしなところがない。そこに周到に仕組まれた規則性と精緻なディテールが、日々建物を訪れ通り過ぎる人々の生活の中へと、美しい旋律を響かせるだけだ。会場の展示デザインもD&Dの手による。通常の展覧会では閉じられているギャラリー2手前の戸が、ここでは大きく開かれエントランスへと通じていた。些細なことながら、いつにないその風通しの良さが心に残る。チラシやポスターの「窓からの眺めも、私の部屋の一部なのでしょうか?」というコピーに『東京窓景』を思い出した。
3月某日。上野・東京都美術館で『「生活と芸術 - アーツ&クラフツ展」ウィリアム・モリスから民芸まで』。モダンデザインに反商業主義の遺伝子を組み込んだ男、モリスのことが最近とみに気になっている。タイミングよく拝見できてラッキーだ。会場冒頭、「役に立たないもの、美しいと思わない ものを家に置いてはならない」というモリスの言葉にいきなりガツンとやられる。ジョン・ラスキンのスケッチにはじまり、イギリスから中央ヨーロッパ、ロシア、北欧へのアーツ&クラフツのひろがりを一通り見ることができたのは有り難い。フィリップ・ウェッブのモダンな感覚、モリスのタペストリーの精巧さ(しかもかなり大きい)も印象的だった。後ろ1/3の日本の民芸運動に関するエリアにも見るべきものは多かった。でも全体としてはやや蛇足だったかも。
4/3。谷中・SCAI THE BATHHOUSEで『光の場 - 大庭大介』。7.5m×2mの大作を含む淡いパールカラーで点描された森の樹々のシリーズが素晴らしかった。角度によってその表情がダイナミックに変化することから、見るものは自然と身体を動かし、さながら絵の中を散策するような気分になる。ギャラリーを出ると、墓地周辺のあちこちで咲く満開の桜がこれまた点描の風景だった。
さらに同時開催の展覧会を見に4/5に恵比寿・magical ARTROOMへ。こちらは同様の画材を用いながらもぐっと抽象的な作品シリーズ。光学的イリュージョンの試行としてはより分かりやすいものの、細部に残る手仕事の跡がノイジーに感じられる。やっぱり森が好き。
4/5。パルコファクトリーで『浅田政志写真展 浅田家 - あなたもシャッター押してみて』。実在の「浅田家」であるご両親と兄弟の四人家族全員が揃って、大掛かりながら微妙にゆるいコスプレ(と言っても題材は「消防隊員」とか「ロックバンド」とか「選挙カー」とか)でおさまった写真がずらり。滑稽極まりないその様子が、やがていとおしくなる。なんて楽しそうなんだ、この家族は。馬鹿馬鹿しいくらいに単純であり、ハッピーであることが、なにより鋭く心に刺さり、泣ける。
5/17に『元浅草勉強会 02』が開かれました。『元浅草勉強会 01』にご参加のお二方と、佐藤振一写真事務所の皆様にお越しいただき、今回も盛況のうちに終了することができました。ご参加いただいた皆様、どうもお疲れさまでした。
『元浅草勉強会 02』でご提供したお茶とお茶請けは下記の通りです。
・在来種 荒茶仕立て(越後村上・富士美園・飯島剛志作・2008)
・ほんまもんむぎ茶(JA香川県・2008)
・小澤さんのソーニョス
・草餅とごま大福(栄久堂)
小澤さんのソーニョス(ポルトガルの揚げシュー)、大変美味しかったです。素敵な差し入れをありがとうございました。
次回『元浅草勉強会 03』は6/20(土)14:00からの予定です。詳細が決まりましたらこちらのブログでお知らせします。また、7月の勉強会の日程が変更となりましたので、あわせてご確認下さい。皆様のお越しを楽しみにお待ちしています。
love the life / stady(元浅草勉強会)
元浅草勉強会 02 詳細(April 28, 2009)
4/4。深川江戸資料館で『第13回特撰落語会』。三遊亭歌る美さんで『たらちね』、柳亭市楽さんで『長屋の花見』、瀧川鯉昇師匠で『千早振る』、仲入り、柳亭市馬師匠で『あくび指南』、柳家さん喬師匠で『井戸の茶碗』。
微妙過ぎる間合いと仕草。のんびりと自由な雰囲気のなかに突発的な笑いどころが断続する鯉昇師匠の高座の楽しさは、ちょっと殺人的だ。おなか痛い。市馬師匠はさらりと終えて、さん喬師匠は安心のお得意根多。とても贅沢で幸せな気分の残る会だった。
4/9。青山・OVEで『古今亭菊之丞独演会』。柳家花いちさんで『たらちね』、菊之丞師匠で『茶の湯』、利休饅頭とレモングラスほうじ茶付きの仲入りを挟み、菊之丞師匠で『お見立て』。
ギャグ満載でたっぷりの『茶の湯』から仲入りのおやつへの流れが楽しかった。利休饅頭は丸きり想像通りのデンジャラスなビジュアル。食べてみると意外な美味しさに二度びっくり。続いての『お見立て』は極めて丁寧に、それでいてのびのびと。楽しいと同時にため息の出るような絶品の高座。会場設備や音響がもう少し整えば相当良い会になりそう。ぜひ続けていただきたい。
4/11。三鷹市芸術文化センター星のホールで『柳家さん喬独演会』。柳家わさびさんで『狸の鯉』、さん喬師匠で『らくだ』、仲入り、ダーク広和先生のマジック、さん喬師匠で『たちきり』。
二席ともに圧巻。噺の流れを簡略化しつつ、細部を徹底して情感豊かに描く。それによって、特に『たちきり』は終盤わずかにカットインする三味線に加え、夢から覚めたような軽やかでバッサリとしたエンディングが鮮やかに際立つ。
4/17。なかのZERO小ホールで『落語教育委員会』。三師匠のコントに続いて春風亭一左さんで『幇間腹』、三遊亭歌武蔵師匠で『寝床』、仲入り、柳家喜多八師匠で『明烏』、柳家喬太郎師匠で『肥辰一代記』。
旦那と繁蔵の絶妙な掛け合い、さらに細かなギャグをこれでもかと散りばめて、笑いを途切れさせない歌武蔵師匠。爆笑。続く喜多八師匠は源兵衛と多助のキャラクターを生き生きと魅力的に描く。緩急激しい展開に目はもう釘付け。そして喬太郎師匠は三遊亭円丈師匠の新作。思い切りシモな設定の噺を、端正な語り口でなんだかイイ噺にねじ伏せてしまうイリュージョン。汲めるっ!
4/18。三鷹市芸術文化センター星のホールで『立川志らく独演会』。柳家一琴師匠で『真田小僧』、志らく師匠で『短命』、仲入りを挟み志らく師匠で『紺屋高尾』。
三人家族のほのぼのしたやりとりがホームドラマを彷彿させる一琴師匠。ミラクルなボケっぷりの八五郎と、暴走する隠居の会話がスリリングな志らく師匠。なんとも楽しく、凄い。『紺屋高尾』は久蔵の狂気を際立たせる演出が新鮮。全体的には未完成の感はあるものの、今後の進化が実に楽しみ。またぜひ拝見せねば。
4/28。打合せが延びた夕刻、気分転換に浅草まで歩いて『あづま』で軽く食事。雷門通りからすし屋通りに入って歩くこと少々。右手にくすんだ黄色地に黒文字で「柳麺 餃子 あづま」と書かれたテントが現れる。行灯の置き看板には「純レバ DXラーメン」。はて、純レバとは?と首を傾げてからずいぶんと月日が経ってしまった。伺うのはこの日がはじめて。
枯れた感じのサンプルケースを横目に自動ドアをくぐると、すぐ右に白い化粧板のカウンターキッチン。そこに十数席のスツールが並んでいる。照明はほとんどキッチンの蛍光灯で賄われており、中で忙しく動き回る三方とステンレスの鈍い光がこの店の第一印象のほぼ大半を占める。内装については壁面が羽目板張りだったことくらいしか記憶に無い。2間強の間口の店内は奥へと長く、突き当たりには若干のテーブル席がある様子。自動ドア脇のケースにビール、フロア中ほどの背中側にウォーターサーバーが置かれ、それぞれセルフサービスとなっている。純レバ丼とラーメン、餃子を注文。
さて、純レバとは甘辛く炒めた鶏レバーとハツに刻んだネギをどばっとかけたものだった。それがごはんに乗って純レバ丼。材料、見た目ともにシンプル(ゆえに「純」なのだそうだ)ながら、食感と風味のバランスが素晴らしい。食べるに連れて唐辛子が効いてごはんが進む進む。
ラーメンも至ってシンプル。具材はチャーシューが一枚ともやしにネギが少々、とこれだけの潔さ。細いストレート麺と飴色のスープ。上品な甘味とコク、さっぱりとした後味が実に見事。強力な二品を前にしてやや印象が薄くはなるものの、丁寧なつくりの餃子もまた好ましいものだ。
白髪まじりの口ヒゲをたたえた店主氏の存在は大きい。客と小気味良く掛け合いながら、カウンターを一手に仕切るその楽しげな様子は、間違いなくこの店の味わいのひとつ。帰り際の控えめで、かつ明確な笑顔がなんとも男前だった。
次はDXラーメンをぜひいただいてみよう。壁に赤い筆文字で「あれ」と貼紙があったのも気になるな。
あづま/東京都台東区浅草1-13-4/03-3841-2566
16:00-24:00(日祝15:00-23:00)/水木休
4/11。花見の後、旧山手通りを鎗ヶ崎交差点方面へ向かう途中で『TKG代官山』の前を通り掛った。小山登美夫氏の運営するギャラリー。2007年10月オープン。閉廊後も照明が点された店内は、ほぼ「ショーウィンドウ」と言って差し支えの無いくらいにこぢんまりとしている。
内装デザインを手掛けたのは西沢立衛建築設計事務所。フロアのまんなかで透明アクリルのパーティションが大きくうねるような曲面を描く。いくつかのユニットを上下のちいさな金具で繋ぎ、床置きで自立させている。なんという軽やかさ。
実際に間近で見ると、その空間は図面や写真から想像するよりもはるかに楽しげだ。引いた位置から大きな作品を見るにはパーティションが邪魔になるかもしれないが、このギャラリーは手頃な小品の販売に注力しているようなのでさほど問題は無いのだろう。やや難があるとすればライティングの「むら」くらいか。
近いうちにぜひ中へ伺ってみよう。昼間の様子もきっと美しいに違いない。
TKG代官山/東京都渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドテラスA棟1
03-3780-2150/11:00-19:00/日月祝休
4/11。午後に三鷹・星のホールで柳家さん喬独演会を見て夕刻代官山へ。『boy』で髪を切り、『猿楽珈琲』で二十三番地珈琲とバニラアイスのせアイスコーヒーをいただいて一息ついた後、夜のヒルサイドテラス(1967-1992/設計:槇総合計画事務所)を少し散歩。
旧山手通り南側、D棟とC棟の間にある猿楽塚古墳(6-7世紀)のまわりをぐるり。C棟中央の細い通路を駐車場の方へ向かう途中で右手の視界がぱっと開け、ライトアップされた立派なしだれ桜が目に飛び込んできた(縦位置の写真)。
桜左手にヒルサイドプラザ(多目的ホール)への入口、右手には旧朝倉家住宅(1919)が見える。地下への階段に植え込まれたつつじもすでに満開。
思いがけず、今年最高の花見に。代官山にヒルサイドテラスがあって良かった。
地名で読む街の歴史 恵比寿・代官山・中目黒編(TokyoRent通信)
猿楽塚古墳(坂東千年王国)
代官山ヒルサイドテラスに今も残る旧家と古墳(東京レトロ散歩)
猿楽町 (渋谷区)(Wikipedia)
3/4。みたか井心亭で『寄席井心亭 数えて百六十五夜 如月』。林家たい平師匠の会。たい平師匠で『二番煎じ』、林家たけ平さんで『星野屋』、神田茜師匠で『あの頃の夢』、仲入りを挟んでたい平師匠で『らくだ』。
たい平師匠の『らくだ』はこれまでに見た誰の『らくだ』よりも綺麗で無駄がない。落語の構造を徹底的にシンプル化しながら、味わいあるディテールを丹念に積み重ねてゆく。そのやり方は『二番煎じ』も、と言うよりむしろ、たい平師匠の落語そのものが、まっすぐ同じ方を向いているのではないか。そう思い当たるには十二分の力演だった。さらには茜師匠のほんわか高座がものの見事に緊張感を緩和。まさに強力タッグ。たけ平さんも今後要チェック。
3/6。新宿区立箪笥町区民センター神楽坂劇場で『神楽坂劇場二人会』。立川志らく師匠と柳家喬太郎師匠の会。立川らく兵さんで『十徳』、志らく師匠で『洒落小町』、喬太郎師匠で『古典七転八倒』、仲入りを挟んで喬太郎師匠で『たいこ腹』、志らく師匠で『浜野矩随』。
独特な力配分で目が離せないらく兵さん。志らく師匠の『洒落小町』はお松さんの暴走ぶりが絶品。カリフラワーの業平。続く喬太郎師匠は根多を決めかねている様子。『錦の袈裟』を冒頭でつまづいて、長屋の連中が今日は落語に出るの出ないのと話し合いを始め、ついには会場にリクエストを求めたりとご本人が暴走。ようやく『初天神』がはじまったと思ったら『反対俥』を織り交ぜつつ筋は『粗忽長屋』へとスライド。さらには『黄金餅』、『寝床』、『らくだ』が小気味良く連なり渾然一体となったところでサゲ。爆笑に次ぐ爆笑。それにしても手に汗握るミラクル高座だった。仲入り後はお二人とも至って端正に。
3/19。練馬文化センター小ホールで『談春、喬太郎、桃太郎 3人会』。瀧川鯉斗さんで『転失気』、昔昔亭桃太郎師匠で『弥次郎』、立川談春師匠で『白井権八』、仲入りを挟んでトークショー、柳家喬太郎師匠で『死神』。
桃太郎師匠の新作かと思うくらいにナンセンスギャグ満載の『弥次郎』。そのエピソードつながりで談春師匠は『白井権八』。リラックスした様子で軽快に。トークショーの桃太郎師匠は普段着で登場。その時点でもう爆笑。協会がらみの話題に三者三様、接点の無いコメントが続いて、結局のところ喬太郎師匠がいじめられ役。談春師匠の容赦のないツッコミをのらりくらり、かわしたりかわさなかったりの桃太郎師匠がキュート。久々に見た喬太郎師匠の『死神』は映像的かつSF的で実に鮮やか。カジカザワカンタンジャナイトオモイマス。
3/21。よみうりホールで『よってたかって春らくご 21世紀スペシャル寄席ONEDAY』。柳亭市丸さんで『牛ほめ』、春風亭百栄師匠で『お血脈』、三遊亭白鳥師匠で『真夜中の襲名』、仲入りを挟んで柳家三三師匠で『加賀の千代』、柳家喬太郎師匠で『純情日記 - 横浜編』。
三平師匠に絡めたタイムリーでナンセンス、かつ美談な根多で会場を完全掌握の『真夜中の襲名』。個人的ベスト白鳥師匠高座。擬人化最高。三三師匠は季節外れの大晦日の根多。馬鹿でがさつだが根っからの善人である甚兵衛の人物像がなんとも魅力的に描かれる。ほのぼの。喬太郎師匠は自作の甘酸っぱい新作。
3/27。雀のおやどで『桂雀三郎還暦記念30日間連続落語会』。桂吉の丞さんで『米揚げ笊』、 桂雀三郎師匠で『悋気の独楽』、林家花丸師匠で『あくびの稽古』、雀三郎師匠で『雨月荘の惨劇』。
雀三郎師匠を拝見するのは歌舞伎座以来二度目。そのパワフルさときたら大阪・鶴橋のちいさな会場が爆発するんじゃないかと思うほどだった。特に小佐田定雄先生作の『雨月荘の惨劇』は、冒頭からぐんぐん加速しエスカレートするナンセンスさに振り回されっ放し。そして美声炸裂のサゲ。なんという独創性。この根多を見ることができて幸運だ。東京にもぜひお越しいただきたいなあ。対して花丸師匠の高座は流れるように美しく。東京でよく見る型よりもずいぶんとエピソードが多いのが興味深かった。
3/28。ワッハ上方ホールで『第六回東西師弟笑いの喬演』。内海英華師匠で女道楽、柳家喬太郎師匠で『粗忽長屋』、笑福亭松喬師匠で『崇徳院』、仲入りを挟んで笑福亭三喬師匠で『べかこ』、柳家さん喬師匠で『柳田格之進』。
上方ならではの淡々とした展開の端々に松喬師匠ならではの可愛らしい人物描写が登場する『崇徳院』。敢えて控えめな根多を選びつつも見応えは十二分。三喬師匠は泥丹坊堅丸なる落語家が登場する珍しい顔芸根多。救いの無さゆえに思わず吹き出す破壊的なサゲがいい。東京の両師匠は得意の根多を丁寧に。
3/29。天満天神繁昌亭で『早朝もっちゃりーず寄席』。桂佐ん吉さんで『阿弥陀池』、桂三ノ助さんで『河豚鍋』、桂福車師匠で『手紙無筆』、内海英華師匠で女道楽、笑福亭仁福師匠で『始末の極意』。
大きな表情、大きな仕草の佐ん吉さん。明るく迫力ある高座に引き込まれた。今後要チェック。でも東京で見れるのか。仁福師匠はケチのキャラクターを生々しく描きながらも、ゆるーいムードで総体を包み込んでしまう。サゲの間違いも根多のうちではないか、と思わせるところが凄い。浅草在住者の心を鷲掴みにするナンセンスぶり。と言っても、やっぱり東京じゃ見れないんだろうなあ。
3/30。『アメリカン』を出て地下鉄四つ橋線で本町まで。靭公園を縦断して『VADE MECVM. Showroom #2』(ヴェイディミーカン・ショールームナンバーツー)へ。2006年4月開業のギャラリーショップ+カフェ。内外装のデザインを手掛けたのはISOLATION UNIT(柳原照弘氏)。柳原氏の作品を拝見するのはこれが初めて。
店は靭公園に裏側を面した小さなビルの1Fにあり、公園から直接入ることができる。黒いフレームの大きな窓越しに、店内のすっきりとした内装がよく見える。
エントランスのすぐ脇に、窓と平行してレジとキッチンとディスプレイを兼ねたコンクリート製のカウンターが床面から直接立ち上がっている。他には、おそらく柱型を利用したものと思われるふたつの棚を除き、固定物は置かれていない。客席には学校用の椅子と机を黒くペイントしたものが十数組使われており、客の人数に応じてそれらが並べ替えられる。黒尽くめのスタッフ諸氏が入念に客席を配置するのを待つ間、店内を興味深く拝見したり、壁にプロジェクターで流されていた『おいしいコーヒーの真実』を眺めたり。この日は上映のせいもあってかフロアの状態はゆったり、と言うよりほとんどがらんとしていた。なんとも商売っ気が薄い。ゆえにショールームなのか。
これ見よがしな造作は一切ないが、空間そのもののディテールに見所がいくつもある。特にパネル材による天井造作とエアコンの納め方、照明器具の選び方などに独特のセンスが感じられる。この店のデザインテーマは、そうしたさりげないディテールが構成する空間の、容器としての佇まいにある。濃密な「がらんどう」。その在り方はまさに公園の延長であるにふさわしい。
デザートメニューは『BROADHURST'S』製とのこと。これが実に美味かった。
VADE MECVM. Showroom #2/大阪府大阪市西区京町堀1-13-21高木ビル1F奥
06-6447-1335/8:00-19:00/水休
夕刻に店を出て、阪神百貨店でいか焼き。ホテルへ戻り荷物をピックアップして新幹線で帰京。
倉俣史朗デザインの公園を発見したのでメモ。
作品名は『マンションの中の児童公園』。ふたつの集合住宅棟のあいだにある。建物の竣工は1971年7月とのこと。その他のデータは一切不明。『JAPAN INTERIOR DESIGN』1975年4月号(no.193)に掲載。航空写真を見る限りコンディションは割合良さそうだ。ただし完成当時公園の北端に置かれていた飛行機(おそらくモランソルニエMS-880bの実機)は撤去されている模様。
近いうちに見に行ってみよう。