9/10。夕刻『Cafe Ring』銀座並木通り店のプレオープンに伺った。名前はカフェだがお茶やコーヒーの店ではなく、プラチナとダイヤモンドをメインに扱うジュエリー店。内外装を手掛けたのは野井成正デザイン事務所。場所はプランタン裏の並木通り沿い。隣にはワークショップ108(西野和宏氏)デザインの『蕪屋』(1994)、斜め向かいには設計事務所imaデザインの『marimekko』銀座(2009)がある。店の様子のより良く分かる写真はこちらで。
明るいグレートーンのモザイクタイルで仕上げた内外装をサッシュレスのガラススクリーンで隔てた店構えは実に開放的だ。照明を埋め込んだボーダー状の天井造作のラインと、手前右側に2本ズラして配置された柱形ショーケースラインが縦横に連なり、店の奥行きを強調する。
店内の動線は左右の壁沿いに置かれた楕円形のカウンターショーケースによって滑らかにかたちづくられており、そのまん中から微妙にズレた場所にふたたび柱形のショーケースが1本そそり立つように登場する。この最少限の破調の要素が、せせらぎの中に打たれた杭のように、店内の移動にゆらぎをもたらし、眺めの起点となる。
上の写真はカウンターショーケースとその内部照明のディテール。回転可能な円いステンレスミガキのプレートは三本の柱で支えられており上下にも動かすことができる。このユニットがカウンター腰に内蔵されたハロゲンランプの光を商品へと反射する仕組み。調整にはやや手間取るかもしれないが、LEDなどでまんべんなくギラギラと照らすよりもずっと見た目に軽やかで品がある。
細かなアクリルのディスプレイ什器やミラー什器も野井さんのデザイン。これらがまた機能的で、いい佇まいなのだ。なんたる繊細さとクオリティ。
中央の柱形ショーケースには野井さんがデザインを手掛けたプラチナのリングが数種展示されていた。プレートを半円形に切って起こしただけのかたちが至ってシンプルで可愛らしい。野井さんもお気に入りとのことだった。
店構えから細部に至るまで、野井デザインならではの簡素の美に貫かれた快作。私たちもここまでの仕事を目指さねば。まだまだ精進。
9/6。神戸出張のお土産は『ツマガリ』のロールケーキ。西宮市甲陽園に本店のある1986年開業の洋菓子店。
焼印入りの立派な木箱はケナフで出来ている。美観と質感に加え、環境にもさりげなく配慮した優れもののパッケージ。『ピュアロール』を大丸神戸店で購入。
口に運ぶと実にどっしりしたヘビー級のインパクトがずしりと押し寄せる。アーモンド粉のマジパンを混ぜたスポンジといい、バタークリームといい、その風味は濃厚なことこの上ない。それでいて後口は素早く消え入るようで、しつこさは皆無。まさしく甘美な夢だ。
ロールケーキがここまで味わい深いものになり得るとは心底恐れ入った。『ボックサン』の軽快さか、『ツマガリ』の奥行きか。どちらも捨て難く、素晴らしい。しかも後者はある程度日持ちがするとあって、通販での入手も可能。これは有り難い。いや、しかしなんだか散財しそうで危険だな。
love the life が設計・監理を担当した神戸市垂水区の住宅の竣工が近づいています。来る10/12にオープンハウスを開催させて頂けることになりました。「ふつう」の施主のニーズに「ふつう」に応えた「ふつうの家」。「ふつう」であることの美しさを目指した質素な住まいの試行例をご覧ください。どうぞお気軽にお越しの上、ご意見、ご感想などいただければ幸いです。
・日時:2009年10月12日(月・祝)11:00-16:00
・場所:兵庫県神戸市垂水区美山台
工事の進行の様子はこちらからご覧下さい。
詳しい作品解説をこの下に掲載させていただきます。
9/5。神戸市『ふつうの家01』現場へ。
1F西側リビングルームにキッチンがほぼ据え付け完了。晴れてLDKの様相に。既製品のなんてことの無いキッチンだが、その「なんてことの無い」を実現するためのサイズやパーツのオーダーにやたらと骨が折れた。デフォルトの仕様には必ずどこかしら痛痒があり、その変更には間違いなく不条理な制約がつきまとう。特注品を設計した方が作業的にも精神衛生的にも遥かに楽だ。一般消費者がいかに奇妙で使い勝手の悪いキッチンに甘んじているかを改めて実感。
2Fでも建具・家具造作の製作が大詰め。いよいよ全工程が仕上げに突入する。上の写真は北西角個室から南西角テラス方向を見たところ。
上の写真は2F北東角和室の天井見上げ。シナ合板目地張り。床の隅にツガ材の意匠柱(写真左:全景/写真右:上部ディテール)。
外壁のほぼ全面を覆う左官仕上げはすでに完了。足場の内側にはニュートラルな白い箱が出来上がっている。その全貌を伺うのは次回出張のお楽しみ。
8/17。上野・鈴本演芸場で『第20回 納涼名選会 鈴本夏まつり 吉例夏夜噺 さん喬 権太楼 特選集』。柳家喬之助師匠で『寄合酒』、三増紋之助師匠の曲独楽、柳亭燕路師匠で『だくだく』、ロケット団の漫才、古今亭菊之丞師匠で『片棒』、柳家甚語楼師匠で『狸賽』、鏡味仙三郎社中の太神楽、桃月庵白酒師匠で『佐々木政談』、仲入り、柳家小菊師匠の俗曲、柳家さん喬師匠で『木乃伊取り』、林家正楽師匠の紙切り、柳家権太楼師匠で『佃祭』。
燕路師匠は間抜けな登場人物ばかりのナンセンス極まりない噺を軽快に。菊之丞師匠は祭り好きの息子の場面だけをたっぷり。からくりの動作が最高。権太楼師匠の『佃祭』は期待を遥かに上回る素晴らしさ。多くの登場人物がそれぞれ魅力的に描かれ、それでいて全体の印象がちっとも重くならない。賑々しく、心を浮き立たせる。
8/18。お江戸日本橋亭で『第27回 オリンパスモビー寄席 春風亭百栄独演会』。春風亭ぽっぽさんで『ん廻し』、百栄師匠で『引っ越しの夢』、米粒写経の漫才、百栄師匠で『午後の審理』、仲入り、百栄師匠で『尼寺の怪』。
米粒写経が凄い。右翼とオタクが機関銃を打ち合うような掛け合い。こんな芸が見られるのが生の有り難いところ。百栄師匠の『午後の審理』は暴走するエロ妄想とキツい風刺の新作。こうした挑戦は今後もぜひ。対照的に前後の古典は至って馬鹿馬鹿しく長閑。師匠ならではのとぼけた風合いがほのぼのとして暖かい。
8/23。有楽町・よみうりホールで『立川志らく・林家たい平 二人会』。立川らく兵さんで『洒落小町』、たい平師匠で『青菜』、仲入り、翁家勝丸さんの太神楽、志らく師匠で『子別れ』。
らく兵さんから大いに笑う。こうした大きめの会場に向いた落語家さんかもしれない。たい平師匠の『青菜』は実に丁寧でくすぐりどころ満載。サービス精神のなんと旺盛なことか。お腹痛い。次が仲入りで命拾いした。志らく師匠の『子別れ』は亀吉以上に熊五郎とお光のふたりが可愛らしい。ラブコメとしての普遍性が高純度で抽出された素敵な高座。
8/28。人形町・日本橋社会教育会館で『市馬落語集』。柳亭市也さんで『道具屋』、柳亭市馬師匠で『お化け長屋』、仲入り、市馬師匠で『居残り佐平次』。
『居残り佐平次』の独創性に驚嘆。この佐平次は極めつけにドライな悪人だ。それまでのナンセンスな展開と、市馬師匠一流の明朗な口調が、サゲの恐さをより一層際立たせる。市馬師匠のダークサイドを垣間見たような気がした。『お化け長屋』も素晴らしかったと思うけど、おかげで吹っ飛んだ。
8/29。吉祥寺・前進座劇場で『寄席「噺を楽しむ」その三十八 納涼寄席 桂南光 米團治 ふたり会』。桂二乗さんで『子ほめ』、桂米團治師匠で『掛け取り』、桂南光師匠で『花筏』、仲入り、米團治師匠で『高津の富』、南光師匠で『あくびの稽古』。
たっぷりを二席ずつ。米團治師匠の『掛け取り』はオペラ根多を織り込んで賑々しく。初めて見た『高津の富』はサゲが可愛らしく控えめで魅力的な噺。大阪の風景が高座に浮かぶような好演。南光師匠は『花筏』が素晴らしいのなんの。提灯屋の徳さんと千鳥が浜がクラマックスに向けて次第に追い込まれてゆく様子が鮮やかな場面転換とともに小気味良く描かれる。『あくびの稽古』は極めつけに明るく軽妙に。お腹いっぱいの贅沢な会だった。
8/19。清澄・小山登美夫ギャラリー『建築以前・建築以後』展内のイベントとして開催された『CROSS TALK 菊竹清訓×妹島和世×西沢立衛』の簡単な覚え書き。
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菊竹:建築家にはキャリアの最初に自邸を建てる人と、後になってから立てる人が居る。/独立して最初の3年間の仕事は木造建築の改装ばかりだった。/好きなように建てたい、という思いから『スカイハウス』(自邸)へ。/九州の旧家の座敷を基にプラン。/傾斜地だったので湿気を逃がすため高床に。→風通しが良過ぎて冬はすごく寒かった。
妹島:菊竹氏を『梅林の家』へ案内した時に「すごく透明な家ですね」と言われたのが印象的。「透明であることは多様であること」とも。
西沢:近頃は「庭と室内が全く別の世界でもいい」と思っている。
菊竹:『スカイハウス』が出来て、隣の土地が売りに出されてしまった。また、庭によくゴミを捨てられた。/子供部屋を子供の寸法に合わせて小さなモジュールでつくったことは大きな失敗だった。子供部屋は大人の個室と同じようにつくれば良い。もしくは子供部屋自体無くても良い。/バスルームを小さくしたことも失敗だった。ゆっくりと過ごす上で全く合理的ではない。/キッチンを小さくしたのも失敗。料理が出来ない。/コアシステムは一般に問題が多い。家のまん中にトイレがあると、とても使い辛い。/清家清氏の自邸は水廻りが家の端にあり、かつ建具が無かった。実に合理的。/『梅林の家』は動線がひと続き。連続性が透明性に繋がる。ガラスを多く使ったからと言って必ずしも「透明」にはならない。
西沢:「軽やかさ」をテーマにしたことはない。結果的に軽くなってしまう。
妹島:「壁」を基本には考えない。軸組的に発想しているのかもしれない。
菊竹:「仮説」が立てられることが建築家の条件。「仮説」は考えて立てるものではなく、偶然にやってくるもの。/地主(九州の実家)の家には本は無い。日々の興味は「ぼーっと過ごすこと」と天気だけ。/日本の独自性があるとすれば、異質なものを改変しながら数百年かけて受け入れる能力だろう。/ヨーロッパのデザイン様式は流行っては無くなってゆく。日本人は様式を平行して持ち続ける。/50年代に「人間は土地をつくることが出来るのではないか」という仮説から様々なプロジェクトを手掛けて来た。以来ずっと同じことをやりつづけている。/「土地」の話をレム・コールハース氏にすると(『スカイハウス』来訪時)、深く共感していたようだった(コールハースはオランダ人)。「菊竹の活動はアーキグラムに近いものと考えていたが、全く違うことが分かった」とのこと。/建築はコンテンポラリーアートとは距離を置いた方が良い。
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ギャラリーでは菊竹氏による1950-70年代のスケッチや模型をいくつも見ることができた。純粋な夢と理想に溢れきらきらと輝くような作品たち。なんと言うかもう「癒し系」なのだ。氏がギャラリーの壁に直接描いたドローイングも素敵過ぎる。
今週末まで開催「建築以前・建築以後」展(August 27, 2009 / excite.ism)
こちらからの続き。
8/21に六本木・AXISギャラリーで見た『ナインアワーズ展 - 都市における新しい宿泊のカタチ』についてはこちら。
8/24。六本木・21_21 DESIGN SIGHTで『山中俊治ディレクション「骨」展』。「生物の骨をふまえながら、工業製品の機能とかたちとの関係に改めて目を向けます」と言うコンセプトに最も深く合致した作品は、やはりニック・ヴィーシー氏の『X-RAY』シリーズと、玉屋庄兵衛氏と山中俊治氏による『骨からくり「弓曵き小早舟」』だろう。他の作品も補足の役割を十分に果たし、一貫した楽しい展覧会となっていた。「電信柱を取り上げて欲しかった」との三原昌平氏の感想は興味深い。
8/30。千葉県佐倉市・国立歴史民俗博物館の第3展示室で『百鬼夜行の世界』。展示替えのため、オリジナルとされる大徳寺真珠庵蔵の『百器夜行絵巻』(1500年代・伝土佐光信)を見ることが出来なかったのは残念。それでも室町の頃から繰り返し描かれ、時代ごとに変容した『百鬼夜行』のうち主立ったものを一同に見ることができたことは貴重だ。万物から霊性を感受し、それをユーモラスに「キャラ」化してしまう日本人の、ひとつの原点がここにある。中でも伝土佐吉光とされる絵巻の、暗雲立ちこめる妖しいエンディングには心惹かれた。
同日、同館企画展示室で『日本建築は特異なのか - 東アジアの宮殿・寺院・住宅 - 』。先ずは床面にシート貼りされた長安、ソウル、平安京の同寸配置図を眺める。似通った骨格を持ちながらも、結局のところ三者三様の様相を呈しているのが面白い。宮殿、寺院、住宅、それに大工道具についても同様だ。展示手法的にキャプションに頼り過ぎでは、とは思ったが、結局のところ「特異」なのは日本建築だけではない、と言うことは理解できた。精巧な展示物の数々の中でも平等院鳳凰堂の実物組物彩色模型は忘れ難い。表面を埋め尽くした鮮やか過ぎる文様のなんとサイケデリックなことか。
同日、佐倉市美術館で『オランダデザイン展』。ドローグの名作の数々に今では懐かしさと新鮮さの両方を覚える。歴史になったんだな。マーティン・バースの『スモークチェア』は実物を初めて見た。焼け跡のエレガンス。実にクール。この展覧会の個人的ハイライトは中盤のポスター作品群だった。簡潔な平面に上位次元をするりと忍び込ませるような、巧みな表現が多く見られる。まるでパラレルワールドの覗き窓だ。終盤に展示されたリートフェルト、モンドリアンらのデ・スティル関連作品も見応えがあった。
8/21。六本木・AXISギャラリーで『ナインアワーズ展 - 都市における新しい宿泊のカタチ』。京都市に2009年12月オープン予定のカプセルホテル『9h』のデザインプレビュー。柴田文江氏がクリエイティブディレクションとカプセルなどのプロダクトデザインを、廣村正彰氏がサインやアメニティ類のグラフィックデザインを、中村隆秋氏がインテリアデザインを担当なさるとのこと。
上の写真が会場全景。右側にカプセルが壁に収まった状態をグラフィカルに再現し、うち5箇所にカプセルの実物が展示されていた。黒い床に大きく表示されたカプセルの位置を示す矢印と番号が、即物的で実にいい。カプセル手前の天井スリット内に整列した照明なども、おそらく実際のインテリアに即したものと思われる。
図面を見ると、計画そのものは至ってまっとうなカプセルホテルそのものだ。2機のエレベーターを男女別にして乗降できるフロアを限定することで動線を分離し、シャワー、WCなどの設備をそれぞれ別のフロアに提供している。女性用水廻りフロアのプランが男性用と同じだとするとパウダースペースが不足する可能性が高いが、実際のところはどうなのだろうか。
細かいことはさておき、シンプルながらも質の高い共用空間がカプセルホテルにもたらされることの意味は大きい。簡潔で力強いグラフィックデザインも、大いに快適性を高めてくれるだろう。実際のところ、既存のカプセルホテルの弱点の大部分は、カプセルそのものではなくむしろ共用部分の貧弱さにあることは、泊まったことのある人なら誰しも感じているはずだ。
上の写真はカプセルユニットの外観。優しい曲面を描くFRPの造作はコトブキが製作を担当したとのこと。こうして見ると、なんだかメタボリズム、あるいはアーキグラムが連想される。
料金は一泊4900円とのこと。場所は四条寺町を下ったところで利便性は高そうだ。チャンスがあればぜひ利用させていただこう。
8/6。乃木坂・ギャラリー間で『カンポ・バエザの建築』。スペインの建築家、アルベルト・カンポ・バエザ氏はヤギにとって古くからの心の師匠的存在。簡潔な展示にやや物足りなさは残ったものの、ノーチェックだった近作をいくつも拝見できたのは有り難い。扱う空間のサイズは大きくなっても、作風は相変わらずミニマルなまま。そこを満たす光はますます詩情を豊かにしている。
同日、赤坂見附・ニューオータニ美術館で『謎のデザイナー 小林かいちの世界』。京都の図案化・小林かいちが大正後期から昭和初期にかけてデザインした絵葉書・絵封筒を一堂に集めた展覧会。ひとつひとつの作品はほんのちいさなもの。しかし木版で制作された精緻な画面が極めて饒舌に語りかける。和洋をひとつの世界観に束ねるかいち独特のセンスは今なお斬新で、そのクールな描線には生き生きとした力が漲っている。終わってみれば見応え十二分の重厚な展覧会だった。
同日、赤坂見附・オカムラデザインスペースRで『透明なかたち』。建築家・妹島和世氏、構造家・佐々木睦朗氏、美術家・荒神明香氏によるインスタレーション。厚さ3mmの透明アクリルの曲面パネルが組み合わさって自立し、迷宮的な空間が現れる。薄い紙で出来た押し花のような造花がパネルをなぞり、時折その内側に浸透しながら、境界の存在を一層曖昧なものにしてゆく。自分自身までが幻想の中に溶けてゆくような、不可思議な感覚。
8/8。ギンザグラフィックギャラリーで『ラストショウ:細谷巖アートディレクション展』。1Fに1950年代から90年代にかけての代表的なポスター作品が、B1Fには過去の細谷氏の発言、記述に新しくビジュアルを組み合わせたパネルがずらり。2006年の『クリエイターズ』展以来久しぶりに拝見した初期のポスターは、やはり強烈だ。『Oscar Peterson Quintet』が19歳、『勅使河原蒼風展』が20歳の頃の作品。骨太とはこういうことか。B1Fの展示では1956年の日宣美展出品前夜の様子を書き留めた文が心に染みた。デザインと青春。
同日、銀座・ギャラリー小柳で『石上純也+杉本博司』。両氏の建築作品を紹介する写真と模型、ドローイングなどの展示。美術家・写真家である杉本博司氏の建築作品を初めてまとまったかたちで見ることができた。地形を読み取り宇宙と繋がるランドアート的作風と、ディテールに集中することで一点突破する作風の対比が興味深い。石上純也氏の作品については、先ずは実物を拝見しないと。
8/14。上野・東京国立博物館で『染付 - 藍が彩るアジアの器』。中国、ベトナム、朝鮮、日本の染付の歴史を概観。スペースは平成館の特別展示室第1室と2室。いつもの特別展の半分なので余裕で見終わるかと思いきや、あまりの見応えにすっかり足が棒になった。染付の技術は元の時代の景徳鎮でいきなりほぼ完成の域に達している。『青花蓮池魚藻文壺』(せいかれんちぎょそうもんつぼ/1300年代・中国)の鮮やかな発色と、生命感あふれる筆致に思わず見入った。ベトナムの染付の奔放で力強い描線、朝鮮の染付の余白を生かした素朴美にも心惹かれる。それにしても1700年代後半以降の鍋島など、日本の染付に散見されるクールなグラフィックセンスはちょっと異様なほどだ。中でも『染付連鷺文三足皿』(そめつけれんろもんさんそくさら/1600-1700年代・鍋島)の洗練性は頂点にある。『染付子犬形香炉』(1800年代・三川内)のスーパーリアルな造形と愛らしい表情も忘れ難い。
8/21に六本木・AXISギャラリーで見た『ナインアワーズ展 - 都市における新しい宿泊のカタチ』についてはこちら。
続きはこちら。
8/30。ウヱハラ先生のメガーヌ号で千葉県佐倉市へ。国立歴史民俗博物館と佐倉市立美術館をはしごした後、都内へ戻って台場へ。折しも台風11号が関東へ接近中。
台場夕景。嵐の中、屋形船が色とりどりに浮かれる。
一方、ガンダム立像。柵の外側を取り巻く大勢の人々が、夏の終わりを告げるにしては冷た過ぎる風雨に打たれながら、不思議なくらい静かに、その中心をじっと見守る様子が心に残った。
8/29。国立能楽堂へ茂山狂言を見に行く前に時間が空いたので、以前から行かねばと思っていた『ユーハイム』千駄ヶ谷店でお茶。1988年オープンのレストラン&カフェ。インテリアデザインを手掛けたのはカザッポ&アソシエイツ(植木莞爾氏)。書籍では作品名を『レストランユーハイム イン津田ホール』などと紹介されている。場所は千駄ヶ谷を出ると右手目の前にある津田ホールの地下。
チェーン店でしかもできたのが20年以上前、ということからコンディションにはあまり期待していなかったが、インテリアの状態はかなりオリジナルに近かった。特にエントランス右手のカウンター席まわりはほぼ往時のまま。イエローの地にビアンコの大理石を散りばめたテラゾタイルも健在だ。上の写真はエントランス左手のカウンターショーケース前からカウンター席越しにテーブル席のエリアを見たところ。
カウンター席を反対側から見ると上のような具合。赤味掛かった木の内装を背景に、ミガキのステンレスによるショーケースやカウンターチェアのマッシブな造形が映える。天井には完成時には無かったスポットライトが増設されていた。二箇所にある光天井の光源色が違ってしまっているのはなんとも残念だ。
客席はL字に曲がりながらさらに奥へと続いている。こちらは白い塗装とダーク色のウッドフローリングの空間。上の写真はテーブル席のエリア手前から最奥を見たところ。天井に並ぶ逆円錐型の掘り込みはインパクト大。しかしその中に取り付けられたシーリングライトは完成時とは似ても似つかぬものだ。テーブルとチェアもオリジナルではない。
上の写真左はテーブル席エリア床ステップ部分のディテール。左手の床に取り付けられたステンレスのバーは壁に家具がぶつかるのを防ぐためのもの。こうした細かな心配りとヘビーデューティー性は植木デザインならでは。壁にある小さな丸い照明器具は点灯していなかった。写真右はカウンター席チェアのディテール。西洋甲冑を連想させる重厚さとふくよかなフォルム。ハイチェアながら座面はたっぷり。高齢の方が好んで陣取っておられる様子だったのが印象に残る。
テーブル席奥に向かって左手のパントリー(写真左)もまたピカピカのステンレスによる造形が特徴的。ただ、ショーケースともども現在はあまり有効に活用されておらず、物置に近い状態になってしまっていた。他にも間接照明が消えてしまっているところがあったりと荒れた使用状況が目立つのは、デザイナーとしても客としても重ね重ね残念でならない。とは言え、貴重なデザイン遺産が曲がりなりにも維持されていることは素晴らしい。今のうちにオリジナルの状態へと完全復活させられれば、ユーハイム(創業100周年とのこと)も津田塾大も株が上がるというものじゃないか。たぶん。
バウムクーヘンとカプチーノをいただいて、いざ能楽堂へ。振り返ってエントランス(写真右)を見ると、嬉しいことにここも完成時の写真で見たままの姿だった。ステンレスフレームの華奢なゲートに赤いファブリックのサインがエレガントな旗印を思わせる。
ユーハイム 千駄ヶ谷店/東京都渋谷区千駄ヶ谷1-18-24 津田ホール
03-3401-1357/11:00-22:00/無休
9/16。夕刻前にアトリエから出かけようとすると、ビルの共用通路から工事中の東京スカイツリーが見えることに気がついた。
現在の高さは150mくらいとのこと。まだ1/4だ。完成時の高さを想像するとちょっと目眩がしそうになる。タワーの直径は意外に大きく、構造体はこれまた意外にがっちり。この調子だと完成予想図のような繊細なイメージは期待できそうにないが、不安定な印象を与えることもないだろう。
なんだか今後の成長が楽しみになって来ちゃったなあ。
新東京タワーの名称決定(June 13, 2008)
10/17(土)の14:00から『元浅草勉強会 06』を開きます。
ショートレクチャーのお題は『カットアップ/サンプリング/リミックス - 1980年代から』。日本の商環境デザイン、インテリアデザインの流れを辿り、行きつ戻りつしながら進んできた勉強会は、いよいよ歴史的な視点からは誰もまともに振り返ったことのない近過去へと踏み込んでゆきます。
ジ・エアー(沖健次氏・渡辺妃佐子氏)、近藤康夫氏らの先駆的な活動に始まって、80年代の商環境は全く新しい展開を繰り広げてゆきます。そこに現れたのは、かつてあったスタイルや誰もが既視感を覚えるモティーフから、それぞれ固有の要素を抜き出し、自由なやり方で組み合わせてゆく協奏のデザインでした。ポップアートの再構築としての側面を持つ彼らの活動は、70年代に早くも洗練の極みを見たインテリアデザイン手法と施工技術を下敷きに、ポストモダンを跳躍台として、商環境デザインの裾野を一気に拡大します。
さらにバブル経済期以後の商環境デザインは、市場経済とのドライな相互利用の関係をより深めながら、「協奏」のコンセプトを一層研ぎ澄ませてゆきます。そうした活動を力強く戦略的に展開し、現在へと至る商環境デザインの大きな流れを形づくったのが、森田恭通氏とその同世代にあたるスターデザイナーたちでした。
ティータイムにお出しするオルタナ系日本茶はまだ未定です。
至って敷居の低い、ちいさな勉強会です。どなたもどうぞお気軽にお申込み・ご来訪下さい。
元浅草勉強会 06
ショートレクチャー担当:love the life(ヤギタカシ・勝野明美)
テーマ「カットアップ/サンプリング/リミックス - 1980年代から」
・日程 :2009年10月17日(土)14:00より
・場所 :love the life アトリエ(住所などはこちら)
・お茶代 :一般 1000円,学生 500円
・各回定員:だいたい5名様くらい(申込先着)。
・申込方法:メールでどうぞお気軽に。
ご参加日、お名前、ご連絡先、ご参加人数、
一般・学生の区別をお知らせ下さい。
元浅草勉強会の概要はこちら。
9/14から10/14まで、ブエノスアイレスのMARQ(Museo de Arquitectura y Diseño)で建築展『Antípodas : arquitectura japonesa desde miradas argentinas』が開催されています。love the lifeもちょこっと作品資料を提供させていただきました。ウェブサイトがスペイン語だけなので、詳しいことは全然分からないのですが、日本の現代建築をユニークな視点から、わりと網羅的に紹介する内容になっている模様です。なんでまたウチにお声がかかったんでしょうか?ともかく、期間中アルゼンチン方面へお越しの方は、ぜひ足をお運びいただければ幸いです。
展覧会名:Antípodas : arquitectura japonesa desde miradas argentinas
会期 :September 14, 2009 - October 14, 2009
会場 :MARQ (Museo de Arquitectura y Diseño)
Avda. del Libertador 999 esquina Callao
Buenos Aires, Argentina
4800-1888
museo@socearq.org
8/25。午後から中目黒。豪雨が静まって仕事先から駅へ向かう途中で『ヨハン』に立ち寄った。1978年開業のチーズケーキ専門店。味の評判とともに、定年退職後のご同僚の方々を中心に運営されていることでも知られる。場所は目黒川沿いの駅寄り徒歩3、4分のビル1F。両開きの大きな木製自動ドアが目印。入ると目の前に冷蔵ショーケースが控えるこぢんまりとした店だ。商品はチーズケーキ4種のみ。いただくのはこの日が初めてなので、まずは1つずつ4種全部を購入。ナチュラル、メロー、サワーソフト、そしてブルーベリー。
上の写真はナチュラル。レアチーズケーキながら食感はしっかりしている。タルトの存在感はごく控えめ。口に運んだ途端に「おお、チーズ」と思わずつぶやきたくなる濃厚で鮮やかな風味。
この味をベースにメローはやや酸味と甘味が加わり、サワークリームはメローよりもやや酸味よりの爽やかさ。ブルーベリーは上層のベリーソースと本体のケーキの両方が遠慮がちで、意外にも印象が薄い。
個人的には風味、甘味、酸味の全てがリッチなメローが好み。素晴らしく美味しかった。なんでもっと早くに来なかったのかと悔やまれるほどだ。日持ちがするので機会があればメローかナチュラルをホール買いしようかと思ったり。
ヨハン/東京都目黒区上目黒1-18-15/03-3793-3503
10:00-18:30/無休
8/14。浅草『あづま』を再訪。前回いただかなかった品にトライ。
純レバ。純レバ丼の倍近くありそうなレバのボリュームが嬉しい。しかし食べ進むうちにやはりライスが欲しくなるのが悩ましいところ。
DXラーメン。具材はメンマにネギが少々に刻みチャーシュー、とスタンダードなラーメン同様のシンプルさ。飴色の美しいスープはスタンダードよりも一層さっぱりとした上品な味わいで、しかも刻みチャーシューが渾然一体となることでコクとまろやかさをぐんと増している。実に美味い。筋金入りのラーメン好きには物足りないかもしれないが、私たちにとっては十分に過ぎるご馳走だ。炒飯も注文。期待値通りの味ではあるものの、先の二品の前ではさすがに分が悪い。
浅草・あづま(May 14, 2009)
あづま/東京都台東区浅草1-13-4/03-3841-2566
16:00-24:00(日祝15:00-23:00)/水木休
8/8。『妻家房』日本橋店から銀座方面へ移動。途中、京橋で『100%ChocolateCafe.』に立ち寄った。明治製菓が運営するチョコレート専門店&カフェ。内外装デザインはWanderwall(片山正通氏)。グラフィックデザインはgroovisions。オープンは2004年。これまた5年も経っていたとは。
ガラス面にふたつ小さくシート貼りされた店名を除き、看板らしいものの無い極めてすっきりした昼間の店構え。暗くなると店内最奥の白いタイル張りの壁に取り付けられたステンレス製の大きなロゴが、ダークな染色の木造作による板チョコ状の天井とともに象徴的に浮かび上がる。ロゴを挟んで右側のドアがトイレ、左側のドアがキッチンへ続いている様子。中央のドアを開けると、右側に二人掛けのハイテーブル席がずらり。左側に物販・レジカウンター。先に会計を済ませてから席へ移動。背後の壁一面に並ぶショーケースには2リットルくらいの大きさの透明樹脂ケースが56個。それぞれに異なる種類のチョコレートが詰まっている。
売り物を明確に示した直球のテーマ性と、ぬめるような質感を感じさせる光は、片山作品に特有のものだ。時間によっては行列のできる人気店だが、内装全体が良好なコンディションのまま維持されていることも素晴らしい。
上の写真はショコラドリンク(HOT)とショコラスカッシュ。どちらもなかなかの濃厚さ。
上の写真はワッフレート。長円皿から威勢良くはみ出すサイズに驚いた。細長い箱状のワッフルにチョコレートがみっちりで満足度大。
内装と同様、店先の置き看板も実に可愛らしく細部まで美しい。
価格設定は全体に至ってリーズナブル。今度はチョコレートケーキをいただいてみよう。
100%ChocolateCafe. /東京都中央区京橋2-4-16明治製菓本社ビル1F
03-3273-3184/8:00-21:00(土日祝11:00-19:00)/無休
100%ChocolateCafe.(Wonderwall)