11/22に『元浅草勉強会 07』が開かれました。商環境デザインの歴史的移り変わりを、新進の建築家による『「建築」としての商環境デザイン』と、一部の先進的なインテリアデザイナーによる『「非建築」としての商環境デザイン』との対比で締めくくってみました。双方のアプローチが異なることは確かなのですが、その差をうまく表現する言葉は私たちにもまだ見つかりません。今思い当たるのは、商環境の骨格をスタティックな構造として捉えるか、ダイナミックで更新可能なものとして捉えるかの違いが、ひとつの要因なのかも知れないと言うことです。おそらく、都市生活のための環境は、今後より一層多様な文法によってかたち作られてゆくのでしょう。
『元浅草勉強会 07』でご提供したお茶とお茶請けは下記の通りです。
・玄徳茶(岡山県美作・吉岡農園・2009)*小澤さんにご提供いただきました。
・献上加賀棒茶(石川県加賀・丸八製茶場・2009)
・栗きんとん,栗蒸羊羹(東京都蔵前・栄久堂)
次回『元浅草勉強会 08』は12/13(日)14:00からの予定です。詳細が決まりましたらこちらでお知らせします。皆様のお越しを楽しみにお待ちしています。
love the life / stady(元浅草勉強会)
元浅草勉強会 07 のお知らせ(November 4, 2009)
あのトラビが電気自動車になって復活するとかしないとか。
笑ってるみたいな不細工可愛いエクステリアがなかなか良い。
写真は今年のフランクフルトモーターショーで発表されたモデル。2012年までの生産開始を計画しているのが、ヘルパ(ドイツの模型メーカー)だというのも面白い。発売の暁には誰かぜひ乗せて下さい。
10/18。午後のアトリエ前共用通路より。
現在の高さは200mくらいとのこと。2ヶ月前から50mほど成長した。最近では時折夜間工事が行われている様子。先月発表された高さ変更の影響があったりするんだろうか。高所で作業なさっている皆様、お疲れさまです。どうぞご安全に。
新東京タワーの名称決定(June 13, 2008)
藤枝、三方原に続いて3つ目の静岡茶は島田市・伊久美から。下の写真左からなかやす園の『大井早生』、『さやまかおり』、『静7132』、『伊久美の在来種』。
『大井早生』はその香りこそ控えめながら、上品なコクがふわりとひろがるようなまろやかさが素晴らしい。一方、印度雑種系統の茶葉を用いた『静7132』の香りは実に豊かで複雑。鮮烈な甘味を取り巻くようにして、桜やジャスミンを思わせる様々な風味が現れる。『蘭龍』のような重厚で強烈な個性派ではなく、やはり『大井早生』に共通する優しさと、独特の華やかさを兼ね備えたお茶だ。
このふたつに比べると『さやまかおり』、『伊久美の在来種』の個人的印象はやや弱かった。在来種本来の味を確かめたいので、次の機会にはぜひ『荒茶』を取り寄せてみようと思っている。
10/30。にしすがも創造舎で維新派『ろじ式』。
にしすがも創造舎は廃校となった中学校を再利用した施設。劇場手前に当たる元の校庭には「ろじ式のろじ」と言う名の屋台村が出現していた。上の写真はその入口あたり(ろじ近景)。
「ろじ」を抜けたところには屋台村と劇場とカフェを接続する木製デッキの「露地」。その間に人の背丈を超える大きさの幾何学的なオブジェがいくつか。
周囲に高層マンションが建ち並ぶ中、ぽっかりあいたクレーターのような空間には、まるで別の星にでも降り立った気分にさせる幻想的な光景がひろがっていた。
パフォーマンスは劇場内の比較的小さなステージに標本箱を模したキューブ状の造形をぎっしり整然と配置した可動セットの中で行われた。維新派をマイク無しの生音の中で観るのは初めてのこと。ラップよりもミニマルミュージックに近い関西弁の羅列が時にユーモラスに、時にクールに、言葉のゲシュタルト崩壊とともに劇場を満たす。
これと言ったスペクタクルの無い淡々とした展開も、数年に一度しか維新派を見る機会の無い私たちにとってはかえって新鮮だ。数十人のパフォーマーによるダンスとマスゲームの中間的な動作は、ここ数年洗練味を増しつつある維新派作品の中でも随一の完成度であるように思われた。日本人の貧弱でアンバランスな身体でしか表現できない研ぎ澄まされた感覚。それはノスタルジックでも未来的でもある。
10/2。汐留、アド・ミュージアム東京で『特別企画 広告跳躍時代 昭和の広告展3 - 1970年代・80年代 - 』。この施設へ伺うのは初めて。近藤康夫氏による総アルミのインテリアデザインはカッコ良かったが、まともにコンテンツを見せようとする気がほとんど無さそうな展示手法には萎えた。後半に気を取り直し、三木鶏郎先生のCMソングをたっぷり聞いて退散。キリンレモンも牛乳石鹸も素晴らしい名曲だ。
10/9。西高島平、板橋区立美術館で『一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 』。こちらも伺うのは初めて。こぢんまりした簡素な美術館で、展示手法はなんだか学園祭っぽく素朴な印象。
英一蝶の作品をまとめて見るのも初。個人的に最も心惹かれたのは意外にも『雨宿り図屏風』だった。屋敷の門前で様々な身分の人物達が雨宿りする様子が描かれた四曲の屏風。なんでまたこれを?と思うくらいに地味なモティーフだが、小技とユーモアと庶民への愛情に溢れた画面。いつまでも眺めていたくなる。『屋根葺図』、『投扇図』、『布晒舞図』、『不動図』の絶妙なストップモーション。『蟻通図』、『張果老・松鷺・柳烏図』、『社人図』の複数の軸によるコマ割的構成。江戸前期にしてすでにこんなダイナミックな表現があったとは。
10/13。下馬、tocoro cafeで『tocoro展 - 岡田直人 - 2009』。器を拝見しつつジェラートと冷えラテをいただく。tocoro cafeは3年ぶりの訪問。小泉誠氏デザインのインテリアは相変わらず居心地良く、エスプレッソ系ドリンクも美味い。岡田氏の器をまとめて拝見したのは初めて。独特の質感をもつ白釉に、ゆる過ぎずシャープ過ぎない薄手のフォルム。カフェで使用されている器の口触りの良さは実に忘れ難い。
10/15。慶應義塾大学三田キャンパスで『谷口吉郎とノグチルーム』。谷口吉郎による慶応義塾大学に関する建築作品の写真展示と『ノグチルーム』の一般公開。写真はパラパラとお茶を濁す程度。『ノグチルーム』は谷口設計の第二研究室談話室で、インテリアデザインをイサム・ノグチが担当している。2004年に建物の一部ごと新しい南館ルーフテラスに移設された。
オリジナルの『ノグチルーム』が出来たのは1951年。戦後のデザイン再興期に美術作家によるインスタレーションとしての室内空間がいきなり登場したわけだ。以来1990年頃まで、日本のインテリアデザインは建築よりもむしろ現代美術と親密に同期しながら展開してゆく。私たちにとってここを訪れることはほとんど巡礼みたいなもの。午後から夕方にかけての光の中で見るノグチルームはあまりにも素晴らしかった。
造作や家具は想像よりもこぢんまりしており、互いに寄り添うような距離で配置されている。あたりまえの生活感覚と芸術が何の違和感も無く混交する室内。この場所を原点に、歩みを始めることのできた日本のインテリアデザイナーは本当に幸運だった。ノグチルーム移設にあたっての設計を手掛けたのは隈研吾氏。元の間仕切りや天井の代わりに設えた白く透けた布はやはり今ひとつ開放的に過ぎる。そのまんま移築していただきたかったなあ。
10/28。紀尾井町、ニューオータニ美術館で『肉筆浮世絵と江戸のファッション 町人女性の美意識』。江戸初期の美人を描いた屏風『舞踊図』に始まって、寛文小袖以降のハイファッションを簡潔に見せる内容。時代とともに緻密さを増し、グラフィカルに洗練されてゆく文様が、元禄を頂点にミニマルな空間的表現へと変遷してゆくのが面白い。古いものは300年ものの小袖や振袖を良好なコンディションで鑑賞。大変勉強になった。
10/30。上野、国立博物館『皇室の名宝 日本美の華 1期 永徳、若沖から大観、松園まで』午後遅くに到着すると、待ち時間こそなかったものの、中はやはりぎゅう詰め。第一会場を1時間半、第二会場を30分ほどでなんとか周り切った。
冒頭、狩野永徳・常信の『唐獅子図屏風』の巨大さにいきなり度肝を抜かれた。そりゃ殿様も大喜びだろうさ、と納得。そして圧巻のハイライトは伊藤若冲『動植綵絵』全三十幅。江戸前期のシュールレアリスティックな画。驚異的細密さと画力、そしてボリューム。これが実質的デビュー作なのだから恐れ入る。現代の画家が一生かけてもこれだけの仕事を成し遂げる事は難しいんじゃないか。これだけでもうほぼお腹いっぱい。直後に見た酒井抱一の『花鳥十二ヶ月図』はまさに清涼剤の爽やかさだった。長沢芦雪『唐子睡眠図』、葛飾北斎『西瓜図』なども印象深い。
近現代の作品が並ぶ第二会場では並河靖之『七宝四季花鳥図花瓶』の凄まじい超絶技巧に驚愕。これが有線七宝とは信じ難い。上村松園『雪月花』は雅な筆致と斬新な画面構成にため息。松園作品は今後要チェック。
10/16。日本橋社会教育会館で『人形町市馬落語集』。柳亭市楽さんで『天災』。柳亭市馬師匠で『巌流島』、続いて『親子酒』、仲入り、市馬師匠で『王子の狐』。のどかなトーンの根多が続いて会場はほんわかした雰囲気。絶品は先代小さん師匠もお得意だった『親子酒』。酔っ払い親子がチャーミング過ぎる。幸福感満点。
10/19。練馬文化センター小ホールで『柳亭市馬・立川談春二人会』。柳亭市楽さんで『鮫講釈』、談春師匠で『牡丹灯籠 - お札はがし』、仲入り、笑福亭鶴瓶師匠で『オールウェイズお母ちゃんの笑顔』、市馬師匠で『らくだ』。情念の塊のようなエピソードを、伴蔵、お峰の夫婦のやりとりに焦点を当てつつ、滑稽かつドライに描写してしまう談春師匠。それがかえって登場人物の業の深さを印象づける。鶴瓶師匠はお得意の私落語。さらりとスピーディーな展開に爆笑を詰め込んで最後にほろり。市馬師匠の「らくだ」を通しで拝見したのは初めて。師匠ならではの軽快な展開に半次の極悪さが際立つ。幕切れはなんとも爽やかで、心晴れ晴れとした終演。
10/23。練馬文化センター小ホールで『ふたりのビッグショー』。柳亭市也さんで『出来心』、寒空はだか先生のスタンダップコメディー、柳家喬太郎師匠で『中華屋開店』、仲入り、柳亭市馬師匠のデビュー三十周年口上、柳家さん弥さんで寿舞『九段の母』、市馬師匠で『淀五郎』。口上で涙に声を詰まらせる喬太郎師匠。さらに、はだか先生の落研時代の高座名・大詰亭冷奴(おおつめていひややっこ・字は確証無し)が判明。個人的にツボだったのは喬太郎師匠。中華屋開店を目指す心理学者とその助手、心理学者をストーキングする女子大生とその執事・長谷川の4人が繰り広げる不条理劇。サブカルにハマったことのない層には理解し難いであろう喬太郎ワールド。そして完璧なる古典落語的サゲ。終演後「中華屋開店、どう思う?」と言った会話がそこかしこから聞こえて来たのが面白かった。高度な実験性と洗練性。まさに問題作。市馬師匠は流麗な芝居噺にうっとり。
10/28。なかのZERO小ホールで『落語教育委員会』。柳家喜多八師匠、三遊亭歌武蔵師匠、柳家喬太郎師匠の刑事ものコントに続いて柳家小太郎さん(前座名・小ぞう)で『時そば』、喬太郎師匠で『錦の袈裟』、仲入り、歌武蔵師匠で『植木屋娘』、喜多八師匠で『棒鱈』。小太郎さんのポテンシャルを再確認。しゃくれ顔の小男が妙にフェミニンな仕草を見せるのが気持ち悪くて良い。喬太郎師匠は与太郎のキャラクターが独創的で愛らしい。歌武蔵師匠は間抜けな植木屋夫婦の凄まじい暴走ぶりに爆笑。喜多八師匠もいつに増してアグレッシブで痙攣的な語り口が大いに冴える。
10/29。浅草橋区民館で『鳥越落語会』。春風亭昇吉さんで『道灌』、春風亭一之輔さんで『提灯屋』、柳家喜多八師匠で『鈴ヶ森』、仲入り、林家花さんの紙切り、喜多八師匠で『片棒』。昇吉さんは古典の方がお得意の様子。江戸っ子口調が板に付いている。初めて拝見した一之輔さんは聞きしに勝る達者な高座。端正な容姿とクールな語り口から透けて見える腹黒さが実にいい。花さんの高座は俗曲の師匠に通じる客あしらいと紙切りの組み合わせがユニーク。こりゃ新しい。二日連続で拝見の喜多八師匠は今日も軽妙かつアグレッシブ。『片棒』の息子の丸っきり適当で能天気なキャラクターと、心底弱り果てて死にそうな旦那。このギャップが可笑しいのなんの。
10/22。JR京都駅新幹線ホームにて。
夕焼けに映える駅ビルは完成後12年を経て未だピカピカしている。その手前に並んだホームは良くも悪くも近代初頭から代り映えのしないままだ。この風景のコントラストはおそらくこれからも当分中和されることはないだろう。
10/22。おそらくずいぶん前からある街灯のデザインがこの日妙に気になって撮影。京都四条寺町・藤井大丸前にて。
こんなあたまをした怪獣の類いを何かで見た気がする。
もう一枚。
11/22(日)の14:00から『元浅草勉強会 07』を開きます。
ショートレクチャーのお題は『自閉のおわり/ふたたび都市へ - 1990年代から』。1990年代以降現在に至る日本の商環境デザイン、インテリアデザインの状況を分析するとともに、その未来に向けての可能性を、参加の皆さんとご一緒に考えてみたいと思います。
21世紀を前にして、インテリアデザイナーによる商環境は類型化の道を辿り、流行のインテリアアイテムの羅列へと向かってゆきます。また、経済活動の規模が次第に縮小する中、時代はよりシンプルかつコンセプチュアルで視覚的インパクトのある商環境デザインを求め始めます。その需要に応えたのは、クラインダイサムアーキテクツや荒木信雄氏らの先駆的な活動に触発された新進の建築家たちでした。一方、海外アパレルの商業建築を中心に、ファサードデザインにのみ建築家を起用することで、効果的にブランディングを強化しようとする動きも発生します。商環境デザインの大勢は、その外皮と中身とを分離したまま現在に至っています。
そうした中、まだ萌芽の段階ではありますが、商環境と都市環境との直接の融和を図るプロジェクトを、元来インテリアを専門としたデザイナーたちが手掛けはじめています。商環境デザインは長い自閉の時期からようやく解き放たれ、さらに建築を含む周辺領域との協同を深めることによって、都市生活の新しいあり方を切り開くための有効な手だてとなってゆくかもしれません。
ティータイムにお出しするオルタナ系日本茶は「長生殿」(2009/静岡三方原・根洗松銘茶)ほかを予定しています。
お題はなんだか難しそうですが、いたってアットホームで、ちいさな勉強会です。デザインにご興味がお有りの方ならどなた様でも、どうぞお気軽にお申込み・ご来訪下さい。
元浅草勉強会 07
ショートレクチャー担当:love the life(ヤギタカシ・勝野明美)
テーマ「自閉のおわり/ふたたび都市へ - 1990年代から」
・日程 :2009年11月22日(日)14:00より
・場所 :love the life アトリエ(住所などはこちら)
・お茶代 :一般 1000円,学生 500円
・各回定員:だいたい5名様くらい(申込先着)。
・申込方法:メールでどうぞお気軽に。
ご参加日、お名前、ご連絡先、ご参加人数、
一般・学生の区別をお知らせ下さい。
元浅草勉強会の概要はこちら。
10/22。京都へ日帰り出張。『Cao Cafe Ishikawa(カオカフェイシカワ)』で遅い昼食を採った。建築・インテリアデザインは辻村久信デザイン事務所。
三条を烏丸通りを越えて西へ。新町通りを越えると、左手に小さな前庭と簡潔なファサード(上の写真)を持つ妻屋根平屋の白い建物が現れる。現代の京都市街にあって、その潔くこぢんまりした佇まいはかえって印象的だ。
場所柄当然ながら間口の狭さに比べて敷地は奥へと随分長い。上の写真は最奥のテーブル席からエントランスを見返したところ。インテリアの造作も至って簡潔そのもの。白くフラットなひと続きの壁と天井を、モルタルの床下からの間接光が照らす。店内中央にある木地の間仕切りの中にキッチンとWC、空調機器が納まっている。エントランス側にはハイカウンター席。
上の写真左はキッチン側からテーブル席全体を見たところ。敷地の最奥は黒板塀に砂利敷きの小庭。写真右は建物南端のディテール。まわりにあまり高い建物が無いため、テーブル席は明るく開放的で、かつプライベート感の強い空間となっている。BGMが半端にアッパーでボリュームがやや大きいことを除けば、素晴らしく居心地が良い。
Cao Sodaと野菜たっぷりカレーを注文(写真左)。味は価格に対して可も無く不可も無く、と言ったところ。食後のカオチョコ(写真右)は大変美味しくいただいた。
店は2009年3月にオープンしたばかり。しかし空間的ポテンシャルは抜群だ。夜2時までの営業(2009年11月時点)とは近くの方が羨ましい限り。京都ならではの現代的な憩いの場所として末永く頑張っていただきたい。またお伺いします。
Cao Cafe Ishikawa/京都府京都市中京区三条通新町西入ル釜座町31
075-211-1814/11:00-2:00(LO1:00)/不定休
love the lifeの作品「Ordinary House 01」のページを更新しました(Aug. 17, 2012)。worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「ふつうの家 01」は神戸市垂水区中部の高台北側を造成した住宅地にある。建築面積はおよそ60平米。敷地いっぱいに立ち上がった木造2階建の外観は、左官仕上げの白い箱に片流れの屋根を乗せただけの簡潔なものだ。1Fは大部分を南側の傾斜地に面したひと続きの和室+LDKに充て、残りにその他のユーティリティと駐車場を配置している。2Fには中廊下を挟んで3世代4人の居室を振り分け、1F和室の直上にあたる南側にテラスを設けた。2Fのトイレには妻屋根を模した天井と階段室に面する小窓を開けた。この「家のなかの家」は、家族のつながりの象徴として生活動線の中心に配置されている。
室内は大部分を白いクロスで仕上げ、床面と建具まわり、2Fの天井面はそれぞれ木地を生かして仕上げている。キッチン、洗面台まわり、ユニットバスルームには既成のシステムを用いた。そられの部材やパーツは単純で機能的な形状のものだけを選び、色は白またはシルバーに限定した。意外なことに、こうした至極「ふつう」の選択は国内メーカーのカタログスペック上かなりイレギュラーであり、入念な手続きが必要とされた。
ただ丁寧にデザインされただけの質素な住まいが、出来上がるに連れて不思議に安らかで軽やかな佇まいを得てゆく様子は、私たちにとって興味深いものだった。この家は、生活者の多くがさもあたりまえであるかのように甘受させられている商品住宅の奇矯さからも、建築家やデザイナーの志向する建築らしさからも、無縁の彼岸にあるのかもしれない。