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身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2009年10月

10/2。汐留、アド・ミュージアム東京で『特別企画 広告跳躍時代 昭和の広告展3 - 1970年代・80年代 - 』。この施設へ伺うのは初めて。近藤康夫氏による総アルミのインテリアデザインはカッコ良かったが、まともにコンテンツを見せようとする気がほとんど無さそうな展示手法には萎えた。後半に気を取り直し、三木鶏郎先生のCMソングをたっぷり聞いて退散。キリンレモンも牛乳石鹸も素晴らしい名曲だ。

10/9。西高島平、板橋区立美術館で『一蝶リターンズ - 元禄風流子 英一蝶の画業 - 』。こちらも伺うのは初めて。こぢんまりした簡素な美術館で、展示手法はなんだか学園祭っぽく素朴な印象。
英一蝶の作品をまとめて見るのも初。個人的に最も心惹かれたのは意外にも『雨宿り図屏風』だった。屋敷の門前で様々な身分の人物達が雨宿りする様子が描かれた四曲の屏風。なんでまたこれを?と思うくらいに地味なモティーフだが、小技とユーモアと庶民への愛情に溢れた画面。いつまでも眺めていたくなる。『屋根葺図』、『投扇図』、『布晒舞図』、『不動図』の絶妙なストップモーション。『蟻通図』、『張果老・松鷺・柳烏図』、『社人図』の複数の軸によるコマ割的構成。江戸前期にしてすでにこんなダイナミックな表現があったとは。

10/13。下馬、tocoro cafeで『tocoro展 - 岡田直人 - 2009』。器を拝見しつつジェラートと冷えラテをいただく。tocoro cafeは3年ぶりの訪問。小泉誠氏デザインのインテリアは相変わらず居心地良く、エスプレッソ系ドリンクも美味い。岡田氏の器をまとめて拝見したのは初めて。独特の質感をもつ白釉に、ゆる過ぎずシャープ過ぎない薄手のフォルム。カフェで使用されている器の口触りの良さは実に忘れ難い。

10/15。慶應義塾大学三田キャンパスで『谷口吉郎とノグチルーム』谷口吉郎による慶応義塾大学に関する建築作品の写真展示と『ノグチルーム』の一般公開。写真はパラパラとお茶を濁す程度。『ノグチルーム』は谷口設計の第二研究室談話室で、インテリアデザインをイサム・ノグチが担当している。2004年に建物の一部ごと新しい南館ルーフテラスに移設された。
オリジナルの『ノグチルーム』が出来たのは1951年。戦後のデザイン再興期に美術作家によるインスタレーションとしての室内空間がいきなり登場したわけだ。以来1990年頃まで、日本のインテリアデザインは建築よりもむしろ現代美術と親密に同期しながら展開してゆく。私たちにとってここを訪れることはほとんど巡礼みたいなもの。午後から夕方にかけての光の中で見るノグチルームはあまりにも素晴らしかった。
造作や家具は想像よりもこぢんまりしており、互いに寄り添うような距離で配置されている。あたりまえの生活感覚と芸術が何の違和感も無く混交する室内。この場所を原点に、歩みを始めることのできた日本のインテリアデザイナーは本当に幸運だった。ノグチルーム移設にあたっての設計を手掛けたのは隈研吾氏。元の間仕切りや天井の代わりに設えた白く透けた布はやはり今ひとつ開放的に過ぎる。そのまんま移築していただきたかったなあ。

10/28。紀尾井町、ニューオータニ美術館で『肉筆浮世絵と江戸のファッション 町人女性の美意識』。江戸初期の美人を描いた屏風『舞踊図』に始まって、寛文小袖以降のハイファッションを簡潔に見せる内容。時代とともに緻密さを増し、グラフィカルに洗練されてゆく文様が、元禄を頂点にミニマルな空間的表現へと変遷してゆくのが面白い。古いものは300年ものの小袖や振袖を良好なコンディションで鑑賞。大変勉強になった。

10/30。上野、国立博物館『皇室の名宝 日本美の華 1期 永徳、若沖から大観、松園まで』午後遅くに到着すると、待ち時間こそなかったものの、中はやはりぎゅう詰め。第一会場を1時間半、第二会場を30分ほどでなんとか周り切った。
冒頭、狩野永徳常信の『唐獅子図屏風』の巨大さにいきなり度肝を抜かれた。そりゃ殿様も大喜びだろうさ、と納得。そして圧巻のハイライトは伊藤若冲『動植綵絵』全三十幅。江戸前期のシュールレアリスティックな画。驚異的細密さと画力、そしてボリューム。これが実質的デビュー作なのだから恐れ入る。現代の画家が一生かけてもこれだけの仕事を成し遂げる事は難しいんじゃないか。これだけでもうほぼお腹いっぱい。直後に見た酒井抱一の『花鳥十二ヶ月図』はまさに清涼剤の爽やかさだった。長沢芦雪『唐子睡眠図』、葛飾北斎『西瓜図』なども印象深い。
近現代の作品が並ぶ第二会場では並河靖之『七宝四季花鳥図花瓶』の凄まじい超絶技巧に驚愕。これが有線七宝とは信じ難い。上村松園『雪月花』は雅な筆致と斬新な画面構成にため息。松園作品は今後要チェック。

2009年11月13日 03:00 | trackbacks (0) | comments (0)
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