life
life of "love the life"

身体と空間の芸術, 都市とデザインと : 展覧会行脚のメモ 2009年12月-2010年1月

12/11。初台・東京オペラシティアートギャラリーで『ヴェルナー・パントン展』。デジャヴと言うかなんと言うか、実に不思議な感覚にとらわれた。20年近く前から作品集で見るたび大きな刺激をもらっていた「ファンタジーランドスケープ」。本物を体験できるとなると感動で涙ぐむんじゃないかと思っていたが、いざ中に入るとまるで実家に帰ったみたいに懐かしく、すっかりリラックスしてしまった。あまりに好きで、すでに自分の一部になってしまっていたんだろうか。ビデオ映像のパントン師匠が、デザインにおいて先ず考えるのは機能、フォルムよりも重要なのは色、と語っておられたのが特に印象深い。

1/8。三菱一号館で『一丁倫敦と丸の内スタイル』。これは予想外の収穫だった。1968年に解体、2009年に復元された三菱一号館の詳細な建築的解説を中心に、3作家の写真展を絡めながら、丸の内の発展史とそこでのライフスタイルを紹介する内容。ホンマタカシ氏の作品は230万個の煉瓦を製造した中国の工場を取材したもの。神谷俊美氏の作品はこの10年間の丸の内の風景をモノクロで捉える。順路の一番最後に控えた梅佳代氏の作品は三菱一号館の復元を工事現場で支えた人々のスナップ写真。この構成はずるい。泣ける。

1/10。サントリー美術館で『清方ノスタルジア』。最終日手前の会場は着物のご婦人方で盛況。お一人でじっくり鑑賞なさっている姿が多数あった。都市部での着物ブームと日本美術ブーム、双方が定着しつつあるような。
鏑木清方は美人画があまりに有名な明治前期生まれの画家。そうした代表作もさることながら、個人的に最も関心を覚えたのは風俗画と風景画。「朝夕安居」や「明治風俗十二ヶ月」は庶民生活の描写がなんとも瑞々しい。卓越したデッサン力。「暮雲低迷」の幽玄な空気感は「松林図屏風」(等伯)を彷彿させる。三遊亭円朝の肖像、その円朝の高座に落涙する月岡芳年の肖像など、清方が明治期サブカルチャーの直中に居たことを伝える作品も興味深い。「絵をつくるに、私は一たい情に発し、趣味で育てる。絵画の本道ではないかも知れないが、私の本道はその他にない」との気概には時代を超えての共感を覚える。

1/17。両国・江戸東京博物館で『いけばな - 歴史を彩る日本の美 - 』。ややシブめの内容だが、日本のディスプレイデザインの基本を知る上では外せない。仏事の供花から書院の成立、茶花から生花の発展までを網羅。元来男のものだったいけばなが江戸時代前期以降には女郎衆の芸事として広まり、明治以降には一般女性のたしなみとなってゆく過程も興味深いものだった。初代池坊専好による大砂物の再現CGは圧巻。信じ難い贅沢さ。

1/20。青山・スパイラルで『九谷焼コネクション』。最終日に滑り込み。これは本当に見逃さなくて良かった。上出恵悟氏が伝統工芸としての九谷焼を最少限の操作によってパロディ化した陶器とインスタレーションの数々。見附正康氏といい、九谷には突出した才能が生まれる土壌がありそうだ。

1/24。日本橋・三井記念美術館で『柴田是真の漆×絵』。柴田は江戸末期から明治にかけて活動した超絶技巧の漆芸家。軽妙で洒落っ気のある作風、抜群のグラフィックセンスに大いに刺激を受けた。多くの作品は米国キャサリン&トーマス・エドソン夫妻のコレクションから。図録にあるお二人の言葉「是真という人物の中に、私たちが時間をかけてこたえていきたくなる人間性を発見したのです。」との言葉は感動的だ。

同日、銀座・松屋銀座デザインギャラリーで『碗一式』。蒼々たるデザイナー師匠方が飛騨の春慶塗の手法による汁碗、箸、盆のデザインに挑む。小さなスペースながら破格の見応え。個人的に最も欲しいと思ったのは川上元美氏の一式だった。なんと簡潔で瑞々しく張りのあるフォルム。

1/29。六本木・サントリー美術館で『おもてなしの美 宴のしつらい』。サントリーの所蔵品から日本のパーティーグッズを集め、いつもよりゆったりとフロアを使いながらの展示。
個人的ハイライトは「月次風俗図屏風」(1600年代)。六曲一隻を上下二段の画面に分け、京都庶民の12ヶ月の風俗を描いたもの。群衆の生き生きとした様子のみならず、その装束や持ち物、当時の京町家の様子も克明に極めて克明に描かれている。さしづめ「熈代勝覧」の京都版。楽しい。平安セレブの新年会のセッティングを詳細に記録した「類聚雑要抄指図巻」の実物を見ることができたことも商売柄大変有り難かった。江戸末期の料理屋の様子を透視図的に描いた広重の「江戸高名会亭尽」の存在をこれまで知らなかったのは何とも迂闊。勉強しとかないと。
他の工芸品にも「縞蒔絵徳利」、「牡丹沈金八角食籠」、「吉原風俗蒔絵堤重」、「銀象嵌花丸文手燭」などなど、デザイン的に見応えのあるものが多い。「色絵春草文汁注」他で乾山の魅力も再確認。根来の漆器類の力強いフォルム、光悦の「赤楽茶碗 銘 熟柿」も素晴らしかった。

1/30。勝どき・btfで『鏡の髪型 清水久和』。平面的な作品かと思いきや実物は物体としての存在感が凄い。素朴なフォルムのインパクト。バリエーションが一気に増えたことが作品性を一段と強化する。もはや登録商標。路線継続に期待。

同日、銀座.松屋デザインギャラリーで『重と箱 見立てる器』。『碗一式』に続いて8名のデザイナー師匠方による飛騨春慶漆器の展覧会。
今回個人的に最も印象的だったのは岩崎信治氏による菱形の重。春慶の特徴を最大限に引き出す鋭角的フォルム。深沢直人氏の手提げ仕切り重も素晴らしい。簡潔なフォルムから匂い立つ趣味の良さ。川上元美氏の作品は鼓の形態を持つ弁当箱とへぎ目を生かした縁高重。前回のミニマリズムから一転、具体的な景色を感じさせる。恐るべき懐の深さ。数寄者だ。

1/31。上野・東京国立博物館で『国宝 土偶展』。土偶ってこんな感じ?という固定概念がものの見事に崩壊した。時代によってポーズや装束などに一定のフォーマットがあるにはあるが、造形そのものは皆さん自由過ぎ。
特に印象的だったのは「縄文のビーナス」と通称される品。フォルムといい文様といい、極めて簡潔で力強い。「立像土偶」や「ハート型土偶」などはシビれるファッショナブルさ。お洒落でカッコいい。かと思えば、同時代の土偶の仲間には腰の砕けそうな品も。アヒルとカメのハイブリッドのような「動物型土製品」など全く訳が分からない。アホアホかつシュール。「釣手土器」に付いたコウモリの装飾のポルコロッソぶり、「人と頭型土製品」の深遠な表情も忘れ難い。

2010年03月02日 00:00 | trackbacks (0) | comments (0)
comments

post a comment




*ご記入のメールアドレスはブログ管理者にのみ通知され非公開となります。



back|mail
copyright