3/5。人形町で落語の後は『あっぷる』へ。1982年開業の喫茶店。炭火焙煎で有名な神戸・萩原珈琲の豆を使用している。人形町の交差点から日本橋方面へ歩くとほどなく煉瓦壁にくすんだグリーンの木製ドアを両開きに開け放った間口2間ほどのちいさな店構えが現れる。ドアの上に掲げられた木地の看板には達筆過ぎてほとんど判読できないアルファベットの白いカリグラフィ。道路から少し引いた位置にもう一枚ある木製ドアから店内へ。
内装は白い漆喰調の壁、天井に暗色の木造作をあしらったもの。細部の意匠は控えめで、すっきりと引き締まった印象の空間となっている。テーブル側からカウンター側へと曲面を描く天井が特徴的だ。古材風の装飾梁やエッチングガラスの用い方は往年の松樹新平スタイルを彷彿させる。ご当人が手掛けられたのかどうかは定かではない。入って右側手前にケーキのショーケースとレジ。その向こうにカウンター席があり、突き当たりの壁越しにキッチンがあるのが伺える。通路を挟んで左側はテーブル席が並び、壁にいくつか嵌め込まれたステンドグラスを間接照明が照らし出す。
遅い時間には大抵年配のご婦人が一人で店を切り盛りされている。一番手前のテーブル席に落ち着いて深煎りブレンドとマンデリンを注文。
丁寧にペーパードリップされた珈琲もまた店の雰囲気同様に押し付けがましさが無く、それでいてピンと筋の通った味わいがある。この日供されたカップはパープルの小花模様。おそらく勝野の着物の色に合わせて下さったのだと思う。さりげなく、嬉しくなる演出。毎日2、3種類の自家製ケーキもまたこの店の大きな魅力となっている。黒糖とピーカンナッツのタルトとは意外な組み合わせに思われたが、これが実に上品にマッチしており珈琲にも良く合う深みのある美味しさだった。
夜の人形町にあって極めて貴重な骨太の喫茶店だ。
あっぷる/東京都中央区日本橋人形町3-4-13/03-3639-1445
10:30-22:30(土12:00-22:30)/日祝休