6/23。『京のつくね家』で夕食を摂った。鶏料理で有名な『八起庵』のディフュージョン店。開業は1998年。
川端丸太町の交差点から東へ向かってすぐの路地を北上すると、ほどなく左手にある木造二階建ての軒先に店の暖簾が現れる。木戸を引くと正面に階段。左側のフロアにテーブル席がいくつか並ぶ。突き当たりに小さなレジ台があり、その奥がキッチン。内装はベージュ基調に黒い塗装の木造作。どこにもヤレはほとんど感じられず、明るく清潔な食堂の風情だ。石目柄のテーブルトップは中央にIHコンロを備える。レジ脇の席でつくね揚げ定食と親子丼を注文。以下、写真はクリックで拡大。
上の写真が親子丼。まさしく“ふわとろ”な食感とともに濃厚な玉子の風味が押し寄せ、ひろがる。
上の写真がつくね揚げ定食。この店で最も気に入っているメニューのひとつ。親子丼のエレガントさに比べると見た目はぐんと素朴ではあるものの、このつくねが実にいい。一口大のかたまりに鶏の旨味が凝縮されている。野菜中心の付け合わせが外食の多い身にはこれまた嬉しい。
至って気軽でリーズナブルに、かしわ天国・京都の一端に触れることのできる店。次回は鴨なんばにしようと今から決めている。
京のつくね家/京都府京都市左京区東丸太町8-3/075-761-2245
11:30-15:00, 17:00-20:30/月休
6/22。『明治軒』から食後の珈琲をいただける店へ移動した。通りを東へ向かってすぐの交差点を右折。少し南下すると左手に安藤忠雄建築研究所1988年の作『ガレリアアッカ』が現れる。『Le Premier Cafe in Galleria Akka』(ルプルミエカフェ イン ガレリアアッカ)があるのはその一角。『Le Premier Cafe』は1998年頃に開業した珈琲店。現在心斎橋界隈に2店舗を構える。こちらは2009年オープンの新店で、もうひとつは鰻谷通り沿いにある『Le Premier Cafe in BIGI 1st』(ルプルミエカフェ イン ビギファースト)。やはり安藤物件。店名の付け方といい、オーナーの建築ファンぶりが窺える。以下、写真はクリックで拡大。
建物中央の細い階段を上へ。吹き抜けに面した2Fの突き当たりにガラス張りの店構えが目に入る。店内に入ると一人掛けソファ中心の客席がゆったりとひろがっており、最奥左側に数席のカウンター。控えめで暖かみのある照明に包まれたオフホワイトの内装はシンプルな箱形。床とカウンターとテーブルには暗めに染色された木材を用いている。平日深夜営業かつ無休の安心感に加え、この落ち着いた空間を擁することは、大阪の都心にあって実に貴重だ。
珈琲店としての中身も申し分無い。この日は手前のテーブルで吹き抜けを眺めながらカフェ・ル・プルミエ(ストロングブレンド)とエグゼクティブ(冷たい珈琲)をいただいた。焙煎は萩原珈琲とのことで、鮮やかな苦味とすっきりした後味が好ましい。濃厚なチーズケーキも秀逸。
一方、『ビギファースト』はこちらに比較すると面積的に若干小振りでカウンターの占める部分が多く、黒いレザー張り家具の佇まいが相まって、よりバーに近い雰囲気となっている。珈琲の美味しさに変わりはないが、今のところ私たちは『ガレリアアッカ』のラウンジっぽさが気に入っている。雰囲気の違いがスタッフの方々にも影響しているのだろうか。『ガレリアアッカ』の方が心無しか応対に余裕があるような気もする。客席の会話のボリュームが時折やけに大きめなのは、いかにも心斎橋ならではのご愛嬌と言ったところだろう。
上の写真はカフェ手前から通りに向かって『ガレリアアッカ』の吹き抜けを見返したところ。最上階にぶら下がった赤提灯がこれまた場所柄だ。
Le Premier Cafe in Galleria Akka/大阪府中央区東心斎橋1‐16‐20 2F
06-6244-7306/12:00-2:30LO(日祝-23:30LO)/無休
Le Premier Cafe in BIGI 1st/大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-3-28 3F
06-6253-2567/11:00-3:00(金土祝前-5:00, 日祝-0:00)/無休
6/22。夕刻に京阪で大阪へ。ハンズで学校用の展示資材を調達後『明治軒』で夕食を摂った。1925年創業の洋食店。
心斎橋筋を南下して大丸の本館と南館の間の清水町通りを左へ。ほどなく右手にブルーの行灯看板が現れる。店は1995年に建て替えられており、もともと1Fだけだった客席は3Fにまでに増えている。立て替え後に伺うのはこの日が初めて。ずいぶんと様変わりしてしまったはずなのに、質素でこぢんまりした雰囲気は至って相変わらずに思われるから不思議なものだ。エントランスで2Fに案内されたので左手の階段へ。フロア中ほどに出ると両側にテーブル席が並び、通りから見て最奥にキッチン。その手前にフロア担当のスタッフがお二人控える。すぐ右手の席に落ち着いてオムライスの串3本セットとエビフライを注文。以下、写真はクリックで拡大。
上の写真がオムライスの串3本セット。こちらの看板メニューをふたついっぺんに味わえる一皿。久しぶりに対面と、その姿のあまりの大阪らしさに思わず顔がほころぶ。薄っぺらい串カツも、具の見えないオムライスも、やはり相変わらず品良くさっぱりとして美味い。エビフライは食べごたえ十分。これまた嬉しい実に立派なエビだった。
カジュアルで地域色ある変わらない老舗。並びのテーブルで若いスーツ男子ふたりが大量の串カツを猛烈な勢いで食べていたのが印象的だった。私たちも次回はオムライス大盛りの串5本セットでもいただいてみようか。
明治軒/大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-5-32/06-6271-6761
11:00-15:50, 17:00-22:00(土日祝11:00-22:00)/水休(祝日の場合は翌日)
6/20。遅い夕食を摂りに鴨川東岸へぶらり。この日は『五十家』に初めて伺った。長岡京市に直営農園を持つ焼野菜の店。木屋町御池の交差点を南下して最初の橋で高瀬川を渡り左へ。ほどなく通りに面して何の仕切りも無くハイテーブルを並べた店が左手のビル1Fに現れる。間口は二間と少し。内装は暗色に統一されており、ライティングはほぼ間接照明のみで賄う。物理的にはフルオープンながら、ゆる過ぎない佇まいが見えない結界を感じさせる店だ。以下、写真はクリックで拡大。
フロア右側にカウンターキッチンがコの字に据えられ、中央の通路を挟んで左側にハイテーブルがいくつか。通り側のテーブルに陣取り、スツールに腰掛け、カウンター上の黒板を見ながら焼野菜のメニューをいくつかオーダーした。
いちばん上の写真は胡瓜、栗かぼちゃ、いんげん豆、ジャガイモ。次の写真はたまねぎ。それぞれに異なる塩や味噌が添えられ、素材の風味を引き立てる。極めてシンプルでかつ繊細。実に美味い。上の写真は京赤地鶏ももと焼きそばのつけ麺。
Tシャツの兄ちゃん達の応対は至ってカジュアルでフレンドリーだ。しかし意外に目配りは行き届いている。フロア担当氏が私たちの食事のペースを見ながらしっかりキッチンへ指示を出していた。すっかり満腹にさせていただいてもお代は嬉しくなるくらいにリーズナブル。深夜の御池大橋を上機嫌で渡らせてくれる店がまた増えた。
五十家/京都府京都市中京区下丸屋町421-5/075-212-5039
18:00-0:30LO/不定休
6/6。23:00過ぎに作業が一段落したので気分転換に『Elephant Factory Coffee』(エレファントファクトリーコーヒー)へ。河原町四条の裏路地にある珈琲店。以下.写真はクリックで拡大。
木屋町三条を南下して立誠小学校跡(高倉小学校第二教育施設)の角を右折。右手に岬神社(土佐稲荷)の鳥居が現れたところで向かいのビルの谷間へ入り、少し進むと左手に煉瓦調タイル張りの急な屋外階段がある(上の写真左)。象のマークが入った木製の置き看板と壁に掲げられた簡素な切り文字ロゴを頼りに階段を上がり、2Fに着いたところで左の木製ドアを開けて店内へ。
フロアは狭く、横方向に細長い。右手向かいの窓際にカウンター。その奥にテーブルがひとつある。ドア正面にもテーブルがひとつ。左手にキッチンとレジカウンター、トイレがコンパクトに収まる。内装はざらついたグレーの塗装で覆われ、低く吊るされた乳白色のガラスシェードのペンダントライトが夜の店内に深い陰影をおとす。家具造作は古びた飴色の木製で、床も古材調のウッドフローリング。こうした質感と、フロアのあちこちに積み上げられた本や雑誌だけが、静かに特有の空気感を醸す。飾り気はほとんどない。マスター氏はもと雑貨店マネージャーとのこと。
この日もカウンターの中ほどに落ち着いて、ブレンドの5番とチーズケーキ。上の写真左と下の写真は1/13に奥のテーブルで撮ったもの。珈琲は北海道美幌の『豆灯』で焙煎されており、ラムレーズン入りのチョコレートを添えて供される。豊かにひろがる香りとさっぱりした後味。店のつくりと同様、余計な主張がなく美味い。深夜までの営業時間がこれまた実に有り難い。京都に越して数ヶ月。一日の締めくくりに訪ねる場所として、いち早く私たちの生活の一部になりつつある店のひとつだ。
Elephant Factory Coffee/京都府京都市中京区備前島町309-4 2F
075-212-1808/13:00-25:00/木休
5/16。『島原大門』をくぐってしばらく直進。3つめの角を左折すると、破格に広い間口を持った建物が現れる。格子に覆われたそのファサードは圧巻だ。こちらが『角屋』(すみや)。1500年代末創業の揚屋。現在の建物はその遺構で、美術館として公開されている。揚屋とは今で言う料亭のこと。中でも『角屋』は特別高級な文化サロンだった。現在の建物は1641年に六条三筋町から移築され、その後1787にかけて増改築が施されたもの。六条三筋町に花街が出来たのは1602年のことだから、部分によっては400年近い年月を経ていることが推測される。
上の写真は通りの南側から見た店構え(こちらは通りの北側から見たところ)。学生が集合しているところがかつての正面入口で、写真のさらに左側に美術館の入口がある。以下、写真はクリックで拡大。
こちらは正面入口を敷地内から見返したところ。石畳を右(写真では左の方)へ進むと玄関が現れる。上の写真は玄関から石畳を見返したところ。べんがらの赤が目に鮮やか。正面入口の真向かいには運営用の内玄関。
本来なら豪華絢爛な座敷の数々を筆頭に上げるべきところかもしれないが、個人的にそれら以上の魅力を覚えたのは内玄関を抜けてすぐ(上の写真)に登場する巨大な台所と配膳場。商業建築の迫力を存分に味わえる空間だった。中でも印象深いのが立花を頂いた飾りかまど。天井からいくつか吊るされた「八方」と呼ばれる照明器具も特徴的。天窓を含め開口部が多く設けられており、明るい作業場となっている。こちらはずらりと並んだおくどさん(かまど)。
上の写真が台所全景。内玄関の右側は板の間を挟んで配膳場がひろがっている(写真右端が帳場)。こちらは板の間からおくどさんを見返したところ。こちらは奥から見た配膳場と台所の全景。
客用の玄関を正面に進むと左手に中庭、右手に上の写真の座敷がある。一室に様々なデザインの格子が用いられた様子が面白い。床の間の掛け軸は井上士朗『不尽の山』。
中庭の手前を左へ進むと大座敷に至る(上の写真)。こちらは座敷から見える庭。臥龍松を中心に茶室などの離れがいくつか点在している。
玄関脇の階段を2階へと上がると、有名な「扇の間」や「青貝の間」を含む6つの座敷がある。残念ながらこちらは撮影不可。とは言え、装飾物のコンディションからすると、間近に拝見できただけでも十分にありがたいことだ。ご高齢のガイド氏が揚屋と遊郭の違いを何度も繰り返して江戸の吉原との格式の違いを力説される様子も面白かった。なんとも京都らしいではないか。
5/16。『長江家住宅』を見学後、昼食を摂ってから京都市街を移動。堀川通を横切り五条通を渡って花屋町通を西へ。壬生川通との交差点を過ぎて道なりに少し歩くと花街「島原」(しまばら/嶋原とも書く)。のエリアに入る。
入口の大門と立派な見返り柳に思わず感動した(写真はクリックで拡大)。東京では落語で聞いたことしかなかった光景を、京都で目にすることができるとは。
石碑と案内図によると島原の遺構として現在残るのは置屋『輪違屋』(わちがいや)と揚屋『角屋』(すみや)、この大門だけのようだ。
5/16。荒川先生に引率していただいてインテリアデザインコースの一回生と一緒に『長江家住宅』を見学。こちらは1736年創業の呉服商で屋号を「袋家」と言う。現在の町家は1822年に建てられ、主に大正期にかけて増築や改修を経たもの。以下、写真はクリックで拡大。
場所は烏丸四条の近く。新町綾小路の交差点を下がると右手に江戸期の面影を色濃く遺した重厚な店構えが現れる。こんな風に時代から取り残されたような建物が点在するのが現代の京都市中心街の風景だ。
南棟左手の玄関をくぐると正面に土間、右側に畳敷の部屋が奥へと連なる。上の写真は手前からふたつ目の部屋(ナカノマ)から道路側の部屋(ミセノマ)を見返したところ。左にある収納家具の上は天窓になっており、室内は思いのほか明るい。続く一部屋(ダイドコ)を挟んでオクノマを見たところがこちら。
一方、土間は道路側からミセニワ、ゲンカンニワ、調理器具を備えたハシリニワへと続く。上の写真はハシリニワの吹き抜けを見上げたところ。こちらの写真右はハシリニワ手前側にある井戸のまわりで、写真左は奥側にあるおくどさん(かまど)のまわり。
オクノマのさらに奥には坪庭がある。縁側から浴室と脱衣所の前を通って坪庭の右手にまわると二間続きの離れ座敷。上の写真はその奥側の部屋から坪庭を見返したところ。こちらはその道路側の部屋の内観(こちらは床の間まわりの近景)。こちらは奥側の部屋。障子の向こうには立派な蔵がある。
先程のハシリニワを抜けて洗面所や便所の脇を過ぎ、作業場の中を通ってさらに進んだところにあるのがプライベートなもうひとつの庭。これが敷地の終点となる。鰻の寝床は斯様に細長い。
ダイドコの急な階段はその上とオクノマの上にある二階へと繋がっている。こちらは二階道路側の窓からナカノマとミセノマの屋根を見たところ。軒先の一文字瓦のディテールが分かりやすい。こちらは奥の縁側に面した猫間障子(こちらの写真左が小障子を開けたところ、写真右は縁側から見た小障子のディテール)。このスタイルは珍しい関東猫間。縁側から坪庭を見下ろすと上の写真のような眺め。こちらはミセノマの上にある屋根裏部屋。ミセニワから梯子を使って上がる。屋根の「むくり」に沿ってカーブしながら低い天井が張られている。
事前に情報の全く無いまま訪れただけに、京の大店の典型がこれほど良好なコンディションで維持され、しかも現役で使用されていることに心底驚かされた。それでいて造作は内外ともに簡素そのもの。この衒いの無さがこそが美しく、さらに感動を深める。商い場の原点を訪ねにまたぜひお伺いしたい。
京町家(Wikipedia)
ここ十数年あまり懸念され続けている東山の虫害。その猛威は今年の春先頃から一層強まった。さらにはこの真夏に入って樹勢の衰えた木々が続々と息絶えており、今や被害の深刻さは素人にも目に見えて分かる。下の写真は7/25に白川北大路交差点付近から見た東山の様子(クリックで拡大)。濃い緑に混じって薄茶色に見える箇所は立ち枯れたナラ類。東山全域がこんな状況だ(さらに近景)。
この「ナラ枯れ」と呼ばれる現象は、カシノナガキクイムシ(通称カシナガ)というちいさな甲虫が木の内部に侵入し、食物となる菌を繁殖させ、通水組織を塞ぐことによって引き起こされる。とは言え、そもそもカシナガは弱った木にしか侵入しないそうだから、大元の原因はおそらく別にあると考えるべきだろう。
今年の秋は美しい紅葉を見ることができるだろうか。京都の眺めもいよいよその遠景まで大きく様変わりしつつある。
京都・環境ウォッチ
芦生演習林におけるナラ類の立ち枯れについて(京都大学)
ナラ枯れ:夏なのに紅葉? 東山襲う(毎日jp/2010.08.03)