2010/9/12。『荒川益次郎商店』へ視察(と、買い物)に伺った。1886年創業の和装小物店・荒川が運営するおそらく世界で唯一の「半襟」専門店。2010年7月に開業。内外装デザインを手掛けたのは辻村久信デザイン事務所。以下、写真はクリックで拡大。
烏丸四条の交差点を下がって一本目の綾小路通を右へ。ほどなく室町通手前のビル角に端正な白木造りの店構えが現れる。大きなガラス面越しに見える白木丸太を用いた半襟のディスプレイが象徴的で印象深い。上の写真は北側外観。左手の大きな格子戸を引いて店内へ。
上の写真はエントランスの左手を見たところ。ガラス天板に桐のトレイを数十台備えた引き出し什器が腰高にあり、その上には先ほどと同じ仕組みのディスプレイ。こちらの丸太は天井から吊るされ、金属ステーで壁に固定されている。写真右端の丸太を見ると、斜めに差し込まれた丸棒が半襟の姿を整えていることが分かる。左側奥にはレジカウンター。こちらは店内左側全景とその奥からエントランス側への見返し。
フロア中央にテーブル状の什器。店内右側(上の写真)にも先ほどと同じ引き出し什器があり、その上には壁造作から持ち出された2段の棚什器。これらはL字に折れて店内奥まで続く。合わせて百台を軽く超える桐のトレイには、ほぼすべて異なる色柄の半襟が平たく畳まれた状態で収納されている。こちらは店内右側全景とその奥角の様子。
上の写真は店内奥からエントランス側への全景。板壁のスリットと丸太のディスプレイが縦のラインを強調し、自然光と相まって、木立の中を思わせるような眺めが現れる。ベース照明は最少限のスポットライトと引き出し什器裏の間接光だけで賄われている。
この日は爽やかな青緑の和服をお召しの店長さんに丁寧なご案内を頂きつつ、時間をかけてゆっくりと、店内にある商品のほとんど全てを拝見することができた。上の写真はそのごく一部。特に下段は秋へ向かっての品揃え。虫かごや稲穂、すすきの刺繍が可愛らしい。半襟のデザインはやはりこうして使用時に近い姿にしてはじめてその力を発揮する。一見シンプル極まりない丸太のディスプレイが意味するところは実に大きい。
そんなこんなで、この日はクリスタルビーズが刺繍された半襟などなど、いくつかを購入してすっかりご機嫌の勝野だった。商品は時節事に細かく入れ替えられており、ごく限られた機会にしか手に入らないものも多いとのこと。なんだかちょっと危険な店に出会ってしまったかも。
荒川益次郎商店/京都府京都市下京区白楽天町504/075-341-2121
11:00-19:00/火休
2010/8/29。大阪渡辺橋・国立国際美術館で『横尾忠則全ポスター』。淀屋橋『Mole hosoi coffee』でひと休みの後、キタへ移動して『きじ』梅田スカイビル店で夕食。1954年創業のお好み焼き店。梅田スカイビル店の開業は1993年。丸の内店(東京ビルB1F・TOKIA)と本店(新梅田食堂街)にはここのところ何度か足を運んでいるが、現在大将の居られるこちらの店には大阪在住時に一度伺ったきりだった。以下、写真はクリックで拡大。
そんなわけで、おそらく15年振りくらいに訪ねた梅田スカイビルの地階飲食店街・滝見小路(上の写真は『きじ』の店構えと滝見小路の風景)は、開業時から抜かり無く施されたエージング処理が良好に維持されており、銀ピカ建築とのコントラストは相変わらず申し分ない。
夕食にはやや遅めの到着時刻ながら『きじ』の行列振りもまた相変わらずだった。これはもう覚悟の上。腰を据えて並ぶ。途中で脱落してゆく客が多かったおかげで店内に入るところまでは思いのほかスムーズ。しかし中の待合席にもかなりの客が。トータルで小一時間ほど並ぶ間、大柄で原田芳雄似の大将に豚玉ともだん焼を注文。次の客にお薦めを尋ねられ「すじやな」と力強く即答するその声に耳をそばだてる。
店内はエントランス左手に待合、右手に客席テーブルの並ぶフロア、奥側に大きな鉄板を備えたキッチンがあり、その手前にカウンター席がいくつか並ぶ。キッチンの左脇には専用の出口があり、行列を妨げないよう配慮されている。この日はカウンター席で大将の勇姿をとくと拝見することができた(上の写真左が大将/右はすじ焼を調理中のスタッフ氏)。
上の写真は豚玉ともだん焼のハーフ&ハーフ。二人で注文すると一枚ずつか半分ずつかを確認した上でそれぞれの分を目の前に運んでくれる。『きじ』ならではの優しい食感がこの店では一層際立つような気がする。久しぶりの出汁と紫蘇の風味がまた嬉しい。
上の写真は追加注文したすじ焼(の半分)。卵黄をトッピングするのはこの店で初めて見た。これがまたねぎとすじ、生地と出汁の渾然一体具合とただでさえ優しい食感をぐんとレベルアップさせてくれるのだ。美味い。
客層は場所柄観光客や出張帰りのビジネスマンが多くを占める。カウンター越しに大将の語りかける飄々とした言葉が国も職業も様々な客の気分をほぐしている様子が良く分かる。帰り際には必ず「おいしかったかー」、「また来てやー」と声がかかるが、同じくらいの頻度で聞こえてくる「大阪たのしかったかー」におもわずはっとさせられた。そうか。大阪を代表するキャラクターは他でもない、こうしたひとりひとりの商店主なんだな。おそらくそれはどんな地域にだって言えることに違いない。
地下通路を梅田駅方面へ。行列の疲れもどこへやら。心持ち軽く帰路に着いた。
きじ 梅田スカイビル店/大阪府大阪市北区大淀中1-1-90梅田スカイビルB1F
06-6440-5970/11:30-21:30LO/木休
きじ 丸の内店(April 6, 2006)
きじ 本店(July 7, 2007)