Love the Lifeの新作「サブライムホーム南草津駅前店」の完成写真をアップしました。Worksからご覧下さい。
Facebookのメッセンジャーから仕事の依頼があったのも初めてなら、教員を務める大学の卒業生から仕事の依頼があったのも初めてだ。しかも連絡の主はあの難波さんときた。半信半疑、と言うより後々笑い話にでもなればくらいの気持ちで学生の街・南草津を訪れたのはこの4月頭のことだった。
業態は賃貸不動産店。駅前のビル地上階にある現場では当時まだ別の不動産店が営業中で、ざっと内見させてもらってから難波さんのオフィスへ移動。計画の概要を伺った。新規出店の担当者として、彼は「カフェのような場所」を漠然とイメージしていた。その時は「ふーん」としか思わなかったのだが、結果としてこれがデザインのきっかけになってゆく。
時間も予算も極端に少ない条件は想定の範囲内だった。何度かやり取りしているうちにきっと連絡が来なくなるだろう、と高を括っていたが、5月初旬には設計業務が本格的にスタート。それだけでも驚いたのに、まさか6月半ばに本当に工事が始まってしまうとは思いもよらなかった。
さて、そもそも「カフェ」とは何だろうか。私たちがこの時たどり着いたその答えは「都市環境における人間の居場所」だった。いたずらに流行りのカフェ風を装うことなく、不動産店に元来備わった「カフェ性」をそのまま顕在化させるため、私たちは街の気配を店内へ侵入させることにした。
最初に店の機能を接客カウンターとそれ以外に大きく振り分け、黒く染色した50角ヒノキ材のフレームで囲われたふたつのボリュームを立ち上げる。一部にラワン合板の箱をはめ込み変形を抑えたこれらのフレームは、構造的に自立した「建物の中の建物」だ。その狭間に生まれた空間は街路を暗喩する。接客カウンターのフレームにはフィラメント型のLED電球を4つ吊り下げる。街の送電線さながらに平行しながら緩やかな曲線を描くブルーの袋打ちコードを経由して、それらはシーリングコンセントへと繋がっている。
壁と天井は白い布目調のビニールクロスで仕上げ、白く塗りつぶしたOSBでわずかに表情をつけた。床は全面をグレーに塗装した。スタッフの背後にあるキャビネットは上面が開いており、物件情報ファイルがアナログレコードのように収納される。ダウンライトの数は最低限に抑え、床から1850mmの高さに壁付けしたライン状の照明による拡散光が店全体を柔らかく包む。
工事は7月半ばにほぼ完了。翌週に店はオープンを迎え、8月初旬には残工事を含む全ての作業を終えた。同業店がひしめくこの界隈に、特別な記号性のある場所を提供できたのではないかと思う。
いろいろあったが総じて楽しい現場だったのは、大工の白崎さんの存在に寄るところが大きい。設計の意図を尊重しながらコスト調整に尽力し、分離発注の現場をどうにかまとめてくれたのは石束部長と、他でもないあの難波さんだ。卒業から6年あまり経って、彼はすっかり仕事のできる人間になっていた。飄々としてつかみどころのない雰囲気は相変わらずだけど。