2010/9/22から9/25までのインテリアデザインコース4回生研修旅行(その1/その2/その3/その4/その5/その6/その7)で見たその他諸々。写真はクリックで拡大。
9/23。ソウル中心部、地下鉄の乙支路入口(ウルチロイプク)駅近くにある『SK T-Tower』(2005)。建築デザインはRAD他。鱗状に波打つカーテンウォール。
江南(カンナム)エリア、新沙洞(シンサドン)のカロスキルと呼ばれる通りにあるタルト専門店『DEUX CREMES』(デュークレーム)。木材と石材、ガラスのインテリア。キッチンの垂壁などにあしらわれた麦の穂のグラフィックがLEDの調光でさりげなく浮き沈みする。上手い。残念ながらデザイナーは不明。オープンは2008年2月とのこと。他の写真はこちら(1/2/3/4)。
この日の夕食、同じく江南(カンナム)エリアの狎鴎亭(アックジョン)にある『藤の木』(トゥンナムチッ)のワイン熟成サムギョプサル。旨い。
9/24。ソウル中心部、明洞(ミョンドン)にある『Cafe Coin』のパッピンス(の一種)。アイスにかき氷に小豆にナッツ。
地下鉄の鐘路(チョンノ)駅近く。写真中央に見える異形のビルが『鐘路タワー』(1999)。建築デザインはラファエル・ヴィニオリ・アーキテクツ。
清渓川(チョンゲチョン)の三一橋(サミルギョ)辺りから見上げたビル工事現場。落下防止シートが黄と青のツートーン。防錆塗装の赤、真っ白なクレーンとのカラフルなコーディネート。
地下鉄の鍾路5街(チョンノオガ)駅近くにある『広蔵市場』(クァンジャンシジャン)。『千と千尋の神隠し』冒頭の市場を数十倍に拡張した感じ。エグくてカッコいい。
この日の夕食、東大門近くのタッカンマリ横丁にある『陳玉華ハルメ元祖タッカンマリ』(チンオックァハルメ・ウォンジョ・タッカンマリ)のタッカンマリ。ジャガイモがぶっささった鶏に途中まで火が通ったところでハサミを持ったおばちゃんがやってきてスープが飛び散るのをものともせずに骨ごとジョキジョキと細切れにする。ワイルドなことこの上ない。味は濃厚でいて全くしつこさが無く旨い。
9/25。ソウル中心部、地下鉄の安国(アングク)駅近くにある北村エリア。傾斜地に伝統的スタイルの住宅建築・韓屋(ハノク)が立ち並ぶ。左官や雨樋などのディテールが面白い。他の写真はこちら(1/2/3/4/5/6/7)。
2010/9/25。インテリアデザインコース4回生研修旅行の最終日。ソウル中心部のやや北方にあるふたつの古宮、景福宮(キョンボックン)と昌徳宮(チャンドックン)に挟まれた北村(ブッチョン)と呼ばれるエリアに『Gallery MIUM』(ギャラリーミウム)がある。周辺には伝統的住宅建築スタイルである韓屋(ハノク)の街並。『Gallery MIUM』もまた韓屋をベースにリノベーションを加えた施設で、ギャラリーとカフェを備える。開業年や設計者などの詳細は不明。以下、写真はクリックで拡大。
上の写真が『Gallery MIUM』の外観。中央の階段から庭へと上がる。
建物は庭を中心としてコの字に配置されている(上の写真/別アングル)。南側の通りを見返した様子がこちら。南から北へゆるやかにせり上がった地形の北村でも比較的上の方にあたるロケーションからは、ソウル市街を臨むなかなか優雅な眺望がひろがっている。
施設としての決まったエントランスは無いようで、三方どこからでも靴を脱いで室内へ上がることができる。上の写真は西のギャラリースペースから南側を見たところ。こちらは北側を見返した様子。こちらはさらに奥にあたる北西角のスペース。主にプライウッドを用いたプロダクトはキム・ソンテ氏の作品。
上の写真は北のスペース。やや東側から西側を見たところ。この日はラグの上に座布団と膳が並び、座敷のような設えとなっていた。四方はグラフィカルな格子パターンの障子で囲われ、頭上には丸太を用いた小屋組。こちらは東側を見返した様子。奥は一面を韓紙(ハンジ)で覆われたミニマルなインテリアとなっている。こちらは北東角から南側を見たところ。天井や床の高さの異なるスペースが開放的に連なる。
居心地の良さにすっかりくつろがせていただいたにも関わらず、スタッフの方がほとんど顔を見せなかったのを良いことに、買い物もお茶もしなかったのが大変申し訳ない。またぜひ伺わねば。
2010/9/24。インテリアデザインコース4回生研修旅行の続き。清渓川をひたすら東へ。途中、広蔵市場を抜けたりしつつ東大門まで到着。興仁門路を少し南下したところに『東大門歴史文化公園』(トンデモンヨッサムヌァコンウォン)がある。2009年4月に着工し、現在もまだ工事中。ザハ・ハディッド・アーキテクツのデザインにより『東大門デザインプラザ』(DDP)を含む複合的な開発が行われている。一部施設はすでにオープンしているものの、当初2011年末と発表されていた完成予定は2013年まで延びているらしい。下の写真は施設全体を北側から南へ見たところ。以下、写真はクリックで拡大。
敷地の中央を斜めに突っ切るようにしてソウル城郭の一部が遺されている。日本統治中の1926年に東大門運動場の建設に際して破壊されたものをこのプロジェクトで復元。2007年まで市民に親しまれた運動場の名残もふたつの照明塔(光源はフルカラーLEDに交換)と「東大門運動場記念館」に見ることができる。さらには工事中には朝鮮時代の訓練都監(分院)などの遺構が発掘されており、公園内のオープンスペースに移設保存されている。近世以降の歴史が複雑に折り重なり、交錯した何とも数奇な場所だ。
北東のエントランスから施設内へ。コンクリートによる有機的な造形が高低差のある地表をダイナミックにうねる。スケボーはおそらく禁止されている様子。こちらはそのインテリアの一部。こちらは敷地東側から西を見たところ。こちらは敷地中央からやや南東方向を見たところ。植栽に多用された松が当地らしさを感じさせる。こちらはさらに南へ進んだところ。
上の写真は敷地やや南東側から北を見返したところ。意識の中で遺跡と建物の境界が次第に曖昧になってゆく。
上の写真は南東側の屋上から施設全体を北へ見たところ(同じくやや北側からの写真)。こちらは敷地中央のスロープから北東側を見たところ。こちらは敷石のディテール。色やテクスチャーの異なる菱形の御影石が整然と並ぶ。
上の写真は敷地中央やや東側の屋上から南への夜景。投光器によるライティングはかなり控えめで、スロープ足下の黄味掛かった間接光がほのかに動線を示す(その他の夜景)。
上の写真は敷地中央から見た西側市街の夜景(別アングル)。ソウル随一のきらびやかなファッションの街に対面して、『東大門デザインプラザ』は日中とは打って変わったクールで落ち着きのある空間に変貌する。
Dongdaemun Design Plaza(英語ページ)
東大門歴史文化公園(iTour Seoul)
東大門歴史文化公園(ユートラベルノート)
2010/9/24。インテリアデザインコース4回生研修旅行の続き。『三星美術館リウム』からタクシーで都心へ移動。明洞(ミョンドン)のカフェでしばし休憩の後、南大門路を徒歩で北上。清渓川(チョンゲチョン)を見学。1958年から暗渠化が始まり1971年に高速道路が開通。2003年から高速道路の老朽化に伴う撤去と河川の復元が着工。2005年以降、親水施設として解放されている。パワフルで目まぐるしい変遷ぶりには驚くばかり。以下、写真はクリックで拡大。
上の写真は清渓川と南大門路の交差点に当たる広橋(クァンギョ)から東を見たところ。全長6km弱の川幅は広くて30メートルほど。両岸に野趣溢れる緑化が施されており、その距離感は実に親密だ。
上の写真は橋脇の階段から川岸に降りたところ。市民も、観光客と思しい人々も、みな表情が晴れやか。
上の写真は清渓川と三一路の交差点に当たる三一橋(サミルギョ)を西側から見上げたところ。
上の写真は川をだいぶ東へ進んだところにある五間水橋(オガンスギョ)周辺の夜景。近隣に巨大なファッションビル群を擁し、噴水とともにライトアップされるこのエリアを通称「ファッション広場」と呼ぶそうだ。
今年7月末の豪雨時には清渓川が市街へ氾濫。十数人が河川内に孤立する事故が生じたそうだが、幸い現在はほぼ復旧している模様。今度ソウルを訪れた際にはさらに東のポドゥル湿地(ポドゥルスプチ)辺りまで散策してみよう。
2010/9/24。インテリアデザインコース4回生研修旅行の続き。『パークハイアット』ソウルからタクシーで南山(ナムサン)公園南の漢江鎮(ハンガンジン)へ。『三星美術館リウム』(サムスンミスルグァンリウム/2004)を見学。3棟の建物からなる美術館。以下、写真はクリックで拡大。
上の写真が南東側のウッドデッキから見た美術館全景。左がメディアアートの展示が併設される「児童教育文化センター」(設計はOMA)、中央が古美術を展示する「MUSEUM 1」(設計はマリオ・ボッタ氏)、右が現代美術を展示する「MUSEUM 2」(設計はジャン・ヌーヴェル氏)。遠景に見えるのは『グランドハイアット』ソウル。宮島達男氏のLED作品が埋め込まれた「児童教育文化センター」脇のスロープを下り「MUSEUM 1」正面のエントランスへ。
上の写真は「MUSEUM 1」内のエントランスホール全景。白い塗装面と木質のルーバーによるゆったりと落ち着いた贅沢な空間。
エントランスホール天井から少し突き出した円筒の中には緩やかで優美な螺旋階段(上の写真)が。その周りに古美術の展示室が配置されている。
先ほどのスロープをエントランスで折り返し、さらに下って「児童教育文化センター」へ。上の写真はそのアプローチから見たインテリア全景。いびつな黒いボリュームの中には映像作品の充実したコレクションがある。
上の写真は黒いボリュームの下にある展示室の様子。土木建造物を思わせる大胆な空間構成にメディアアート作品(別アングル)がよく似合う。
地下フロア東側のドライエリアに面したオープンスペース床にはマイケル・リン氏の作品が展示されていた(上の写真)。
どの建物も細部まで丁寧に施工されており、三者三様のデザインを期待以上に堪能することができた。「MUSEUM 2」の写真を撮れる場所が無かったのが心残り。
2010/9/24。インテリアデザインコース4回生研修旅行の続き。正午前後に『パークハイアット』ソウル(2005)を見学。インテリアデザインと建物外観のデザイン監修をスーパーポテトが手掛けている。先ずは2Fのグリルレストラン『コーナーストーン』で早めのランチ。以下、写真はクリックで拡大。
高層ながらフロアの面積はホテルとしては比較的コンパクトで、通路やエレベーターホールなどの機能はタイトにまとめられている。上の写真はエレベーターを降りて左手の客席から店内奥を見たところ。ウッド調のルーバーと御影石とステンレスがグラフィカルかつ大胆に空間を分節。造作の所々をフルカラーのLED照明が彩る。上質さとエネルギッシュさを同時に感じさせるデザインだ。こちらは同じ向きを個室内から見たところ。
エレベーターを24F(最上階)で降りると正面にホテルのフロントがある。左手に進むと喫茶と軽食を提供する『ザ・ラウンジ』(上の写真)。白いルーバーが吹き抜け上部を飾り、ゆったりとした客席に大きな異形の御影石がうずくまる。
3Fはミーティングルームフロア。上の写真はエレヴェーターを降りて左手を見たところ。アイレベルの上でわずかにずらされたステンレスのルーバーが緩やかな曲線を描き、ミーティングルームの外壁一面を構成。その上下の間接光で照明のほとんどが賄われ、フラットな天井は木質でシンプルに仕上げられている。こちらとこちらはもう少し左手からフロア奥を見たところ。さらに奥へ進むと右手にタペストリーガラスで間仕切られたミーティングルーム3室が並ぶ。
1Fエントランスでタクシーに乗って次の見学先へと移動。
PARK HYATT SEOUL(日本語ページ)
2010/9/23。インテリアデザインコース4回生研修旅行の続き。水原市からKORAILでソウルへ戻って地下鉄で梨大駅へ。『梨花女子大学校』のキャンパスコンプレックス(2008)を見学。建築設計はドミニク・ペロー・アーキテクツ。
駅前の繁華街を北へ抜けて大学の門をくぐると、広い石畳の向こうに緑地が広がるのどかな風景。その奥にヴォーリズ建築事務所の設計による学舎(1935)が見える。近づくと上の写真の眺め(近景)。緑地中央に切り込んだ谷間に向かう坂を下りて地下のキャンパスへ。
谷の両側はストライプ状に分節されたガラススクリーン(上の写真は谷底から見上げたところ)。サッシは鏡面状のメッキで仕上げたスチール製のようで、ボルト締めのディテールと共に独特の武骨な質感を見せる。こちらは谷の北側にある階段を見上げたところ。こちらは階段側から見返したところ。ガラススクリーンからの反射光が石畳に幻想的なパターンを描く。こちらは屋上緑地の遊歩道。建築自体のインダストリアルなデザインとの落差があまりに徹底的で面白い。目眩がしそうだ。
上の写真は階段の上から繁華街側への眺め。左手に3機のエレベーターとダクトスペースがあり、その間が地下の池への吹き抜けとなっている。
上の写真はエレベータを地下4階まで降りてダクトスペース外壁を見上げたところ。鱗状の鏡面パネルに覆われた曲線的な造形。こちらはエレベーター前の通路。奥にスターバックスがある。
上の写真は先ほどのエレベーター前通路をもう少し引いて見たところ。手前に地下フロアだけを繋ぐエレベーターがある。グラフィカルな壁面とパンチングメタルの天井、蛍光管の照明がインテリアを特徴付けている。
上の写真は同じフロア南側にあるカフェ手前のオープンスペース。右手の傾斜した天井は屋外の坂道の下面にあたる。左手の数字と矢印は映画館スクリーンへの案内サイン。
上の写真はフロア中央西側にあるオープンスペース。こちらは谷を挟んでフロア中央東側の通路。
こんな贅沢な環境で勉強できる学生は幸せだ。何とも羨ましい。
梨花女子大学校(Wikipedia)
梨花女子大学校日本語ページ
2010/9/22。韓国へインテリアデザインコース4回生研修旅行。江南(カンナム)のホテルで一泊後、23日朝にバスで水原(スウォン)市へ。『華城(ファソン)』の一部を見学。1794-96年にかけて建造された李氏朝鮮の城塞。長さ5kmあまり城壁が行宮(あんぐう)を囲い、市街地や河川との入り組んだ共存振りが独特の景観をかたち作る。以下、写真はクリックで拡大。
バスを降りると大通りの先に長安門(チャンアンムン)。上が正面外観。こちらは入口を見上げた様子。石組と煉瓦組の混構造。こちらは丸太を多用した軒下のディテール。
上は長安門を抜けて反対側から見上げたところ(別アングル)。周辺に高層の建物が少なく、青空(そして芝生)との対比が美しい。こちらは城壁に登ったところから西方への眺め。こちらは門の上部にある板間(別アングル)。全体としては市街側へ半円状に張り出した平面形をもつ二重の門となっている。
城壁を東側へ進むと水原川に跨がるようにして華虹門(ファホンムン)が登場する(上の写真)。板間に腰を下ろすと吹き抜ける川風が心地良い。こちらは門の北側の眺め。子供には格好の水遊び場となっている。こちらは南側の眺め。竜頭の運転席と神輿の客車を持つ連節バスは華城列車と呼ばれ、城内で運行されている。
さらに東へ進むと監視と眺望を兼ねた角楼のひとつ、訪花随柳亭(パンファスリュジョン)が現れる。足下に観賞用の池を配しての眺めは、その背景がいかにも雑然とした市街地となってしまっているため、往時を偲ぶことが難しい。それでも建物自体の可憐な佇まいは十分に魅力的だ。上の写真はその美しい軒下のディテール。こちらは外観全景。中に入ると異形の木材による軸組が面白い。
東暗門(トンアンムン)を過ぎて城壁をさらに東へ進むと軍事訓練施設のひとつ、鍊武台(ヨンムデ/上の写真)に突き当たる。こちらはその北側にある塀のディテール。半円の瓦を組み合わせたグラフィックパターン。こちらは東側を見たところ。東西側の塀はざっくりとした仕上げの石組みで極端な目地勝ちのデザインとなっている。東の塀の向こうは国弓(クッグン/韓国の伝統弓術)の体験施設。正面やや右手に見えるのが蒼竜門(チョンニョンムン)。こちらはその別アングルからの写真。正面に見えるのが東北空心墩(トンブクコンシムトン)。楕円形の平面と螺旋階段をもつ監視台。
のんびりしているうちに時間はあっという間に過ぎて見学はここまで。残念ながら華城全体の半分も訪ねられなかった。近くのレストランで昼食を採ってからソウル市内へ移動。
華城(Wikipedia)
水原市日本語ウェブサイト
昨年12/29。『ふつうの家01』で起床。高速舞子バスターミナルから明石海峡大橋を渡り、淡路島を縦断。大鳴門橋を渡って四国に入り徳島駅に到着。
現地エージェント(ヤギの弟)のプリウス号で伊予街道を東進し、安宅の交差点を右折。少し進んだ左手の路地に自家焙煎珈琲店『とよとみ珈琲』がある。前年に続き二度目の訪問。
ブレンド(上の写真)とコスタリカとエスプレッソ、焼きドーナッツのプレーンと鳴門金時芋のタルトを注文。ドリップコーヒーのすっきりした味わいもさることながら、やはりここはエスプレッソの美味さが際立つ。そしてこの日予想外に素晴らしかったのが鳴門金時芋のタルト。上品な素材の滋味を引き出し、見事に高めた逸品。じんわりしみじみ美味い。
とよとみ珈琲徳島県徳島市末広2-1-42/088-655-8052
8:00-20:00(日祝-19:00)/水休
12/30。阿波市にあるヤギの実家から現地エージェント(ヤギの弟)のプリウス号で東へ。板野郡上板町『岡田製糖所』でお土産を購入。鳴門市大麻町の『森陶器』は休み。残念。徳島市内へ移動して伊予街道を東進。佐古二番町の交差点を左折し、JR佐古駅を右手に過ぎて田宮街道に出たところを右折するとほどなく『アアルトコーヒー』に到着。2006年オープンの自家焙煎珈琲店。赤茶の木格子と木建具、白地に細い書体で店名を記した看板の店構えは控えめで上品だ。豆売りをメインとする小さな店内には、奥の販売カウンターを除き、こまごまとした可動家具だけが設えられている。
窓際のテーブルで中深煎りのアアルトブレンドと深煎りのアルヴァーブレンドなど、続いてマンデリンとコロンビアを注文。やや煎りの浅いアイノブレンドもあるらしい。どれも極めて綺麗な珈琲。優しく飲みやすく、良く制御されているが、悪く言えば平坦な印象を受ける。個人的には物足りない。しかし、こうした珈琲を好む層が幅広いのもまた事実だろう。
アアルトコーヒー/徳島県徳島市南田宮2-3-111/088-632-9088
10:00-19:00/日休
佐古二番町の交差点へ戻って再び伊予街道を東進。佐古一番町の交差点を右折すると、眉山の麓に『いのたに』が登場。『広東』と並び徳島ラーメンの元祖的存在とされる店。古いタイル張りのビルに大きく簡素な赤いテント。アルミ色のサッシが並ぶまるでガレージのような店構えだが、一切の虚飾を排し整然とした佇まいは独特の風格さえ感じさせる。店内に入ると木目調の合板張りの壁に囲まれたいかにも「食堂」と言った風情のフロアに大きなコの字形の島カウンターが2つあり、中央に食券の販売機。奥の厨房に煙突付きの丸釜が3つ鎮座する様子は壮観だ。
中華そば肉入りを生玉子付きで注文。水のコップにレンゲが乗って出てくるのがニクい。茶色い豚骨醤油出汁は見ての通りの甘辛さ。ところが意外にも後口は至ってさっぱりしている。柔らかめの中太ストレート麺は次第に出汁や具と渾然一体に。生玉子を混ぜればカオスはさらに深まる。なんとも不可思議な美味さ。なるほど、これが徳島ラーメンの典型か。
いのたに/徳島県徳島市西大工町4-25/088-653-1482
10:30-17:00(売切仕舞)/月休(祝日の場合は翌火休)
再び田宮街道へ戻って自家焙煎珈琲店『アッタロード』へ。先ほどのルートで言うと、『アアルトコーヒー』の手前並びにある。オープン年は不明。こちらへは2008年に移転されたとのこと。黒いガルバリウム鋼の波板に覆われた戸建住宅に木板張りの庇。それを境に1F部分はオフホワイトの左官で仕上げられている。大きなガラス窓越しに見えるカウンター席がなければ、そこが店であるとは分かり辛いくらいの控えめな構えだ。ドアを開けるとフロア左側は豆の袋に占領されており、最奥に焙煎機が鎮座。右手にあるL字形のカフェカウンター内には様々な抽出器具がずらり。白壁に赤茶の木造作の内装はほぼ資材に埋もれている。基本的には豆売りの店で、席はカフェカウンター手前と先ほどの窓際のカウンターとにそれぞれ3つ4つあるのみ。
この日はカフェカウンターに張り付いて、26歳の若マスター(焙煎歴は10年以上になるとのこと)から色々とお話を伺った。「スペシャリティじゃなくてもパンチのあるコーヒーを提供したい」との言葉通り、ネルドリップで供されたお薦めのストレートコーヒー2品はどちらも骨太でそれぞれに個性の際立った鮮やかな味わい。ひとつはモカ・イルガチョフだったが、これが素人の情けないところで、もうひとつを忘失してしまった。ブレンドとブラジルをお土産に購入。今後はぜひとも通販にも取り組んでいただきたいところ。何しろ美味い上に実にリーズナブル。現時点のドリップコーヒーにおける個人的徳島ナンバー1店だ。
アッタロード/徳島県徳島市南田宮3-2-44/088-632-1157
9:00-19:00/不定休
夜は阿波市土成町の『新見屋』でたらいうどん。宮川内谷川の渓谷にへばりついた野趣溢れる雰囲気とじんぞく出汁。例年通りながらやっぱり美味い。
12/31。午後から年越しの食材の買い出しに同行。合間に阿波市阿波町『ドルチェ』へ。橅養街道沿いのスーパー『アワーズ』斜め向かいにあるジェラート店。砂利敷きの駐車場の片隅に山小屋風板張りの店舗がある。入るとすぐにカウンターショーケース。その奥にキッチン。左側にテーブル席がいくつか。その奥に繋がった離れにも大テーブルが2つ3つ置かれている。
敷地内の植栽はほとんど手入れをされておらず荒れ放題なのが残念だが、この離れから裏手にひろがる田園と四国山脈の風景はなかなかに素晴らしい。真ん中に高越山を眺めつつ、ゆずと鳴門金時芋、牛乳と南瓜のジェラートをいただいた。濃厚な風味に外れ無し。のどかな良い年末。
ドルチェ/徳島県阿波市阿波町大道北190-1/0883-35-3912
10:00-19:00/火休
紅白を見て1/1。阿波市市場町の若宮神社で初詣を済ませ年越し蕎麦。明けて高速鳴門からバスで神戸入り。三宮『マウンテンコーヒー』でボリュームたっぷりのミックスサンドとフルーツワッフルに満腹しつつ、神戸空港からスカイマークで帰京。
昨年12/28。神戸市垂水区『ふつうの家01』で起床。午後から山陽電鉄に揺られて新開地へ。先ずは商店街を北上し、アーケードの中ほど右手にある自家焙煎珈琲店『松岡珈琲』を訪ねた。開業は20年ほど前と聞く。
華奢な木製サッシの店構え左側にはガラス張りの焙煎室。右側のドアから店内へ入ると通路を挟んで左手にキッチンカウンター、右手の壁沿いに小さなテーブル席が並ぶ。カウンター側フロア中央奥寄りにある間仕切りを挟んでやや大きめのテーブル席が3つほど。その右側にはWCと上階への階段があるようだ。内装はオフホワイト基調に暗色の木造作。オリジナルと思しいチェアの大づくりな木彫りの装飾が特徴的。いかにもくたびれた箇所や資材などがやや雑然と見える部分もあるが、長年大事に使い込まれた様子が伺える。この日はふたりのおばちゃんがそれぞれキッチンとフロアを担当し、奥から時折年配の女性が現れては焙煎室へと向かっていた。
ブレンドとコロンビアとタマゴトーストを注文。サイフォン抽出の珈琲、特にコロンビアの鮮やかさには思わずたまげた。極めて庶民的な雰囲気や客層にすっかり油断させられていただけに衝撃は倍増。分厚い卵焼のはさまったタマゴトーストは香ばしく贅沢な食感で美味い。虚飾ゼロの知られざる名店。お見それしました。
松岡珈琲/兵庫県神戸市兵庫区新開地1-1-8/078-577-6376
9:00-19:00/不定休
新開地を抜け、北側の湊川エリアへ。こちらの商店街はユニークな2層構造を持つ。2階部分を所々デッキで接続しながら延々ゆるやかに蛇行する姿は、冷静に良く良く見るとかなりの壮観だ。下の写真は商店街の中ほど(少し南側の写真)。
西側棟は商店街の反対で公営の駐車場に隣接し、高台(天井川だった旧湊川を明治期に埋めたもの)に貫入しながら面的にひろがる。その上に乗っかるのは湊川公園と公営住宅と兵庫区総合庁舎。さらに商店街を抜けると傾斜地にへばりついて編み目状に形作られた路地にそのままアーケードをかぶせたような別の商店街があり、メインストリート以上の賑わいを見せている。『はらドーナッツ』の本店があるのもこのエリアだ。なるほど、これが「神戸の台所」。カオティックで実に楽しい。
散策後、再び新開地商店街へ戻り『松岡珈琲』近くの交差点を西側の路地へ。道なりに進むと突き当たりの角地に『アキラ』がある。1965年開業の喫茶店。2005年頃から珈琲を自家焙煎なさっていると聞く。店内に入ると右手にテーブル席。左手にある多角形のカウンターキッチンにやや強面のマスター氏が控える。光天井を持つ白い箱に所々渋いグリーンの面と四角錐形のブラケットライトをあしらった内装は明るく清潔。おそらく80年代あたりに新装したものだろう。全体にスクエアな印象の強い中、奥に一面だけジャングルと動物が絵本調のタッチで描かれた壁があるのが面白い。
ホットとミックスジュースとホットケーキを注文。艶やかな表面を持つホットケーキはあらかじめカットした状態で供される。時間の無い中で一服したい向きには親切なサービスに違いない。ミックスジュースは完璧なるスタンダード。珈琲も大量抽出ながら決して悪くない。さりげない気遣いを高いレベルで継続する姿勢に頭が下がる。
アキラ/兵庫県神戸市兵庫区水木通1-3-14/078-575-3102
8:00-21:00/第3,4木休
新開地を離れて元町まで徒歩移動。元町商店街を花隈駅辺りで南の路地へ入ると右手に『元町ケーキ』が現れる。1946年開業のパティスリー。店内に入ると正面にカウンターショーケースがずらりと並び、その奥に工房。路地に面したセルフ形式の簡易なカフェスペースが左手にある。内装はパティスリーとしては至ってシンプルで飾り気が無い。
この日は店内で『ざくろ』をいただいた。ざくろとは言っても果物ではなくケーキの名前で、この店の看板商品。両手でめりっと割ったようなスポンジに苺をひとつ乗せたビジュアルはちょっと笑えるくらいに素朴かつワイルドだ。食感は夢のように軽く、ごくシンプルな素材の風味だけが濃厚にひろがる。美味い。
元町ケーキ/兵庫県神戸市中央区元町通5-5-1/078-341-6983
8:30-19:00/水休
再び商店街に戻ってしばらく元町方面へ進むと左側でお茶の試飲を勧める店が『放香堂』。間口の大きな店先に物販カウンターを並べ、左手では焙じ機が良い香りをたてる。
こちらは江戸後期に京都に創業した茶商。神戸には1868年(明治初期)から店を構えている。同時期には珈琲の販売も手掛けており、店頭で振る舞っていたとのこと。珈琲が広く一般に提供された例として、これは日本で最も早いものとされる。現在は日本茶のみを扱うが、実は珈琲好きには聖地の一つと言って良い場所だったりする。記念写真撮影後、煎茶と焙じ茶を購入した。
放香堂/兵庫県神戸市中央区元町通3-10-6/078-331-3117
9:30-18:00/水休(祝日の場合は営業)
商店街を離れて花隈公園の交差点からJR高架下の商店街(モトコー)へ。しばらく元町側へ進むと左側に『グリーンズコーヒーロースター』がある。2005年オープンの自家焙煎珈琲店。ふた葉のマークの看板を右に見ながら黄味掛かった壁の中ほどにある赤茶のドアを開けて店内へ。入口階は全て物販と焙煎スペースで占められている。右手にカウンター、その奥に焙煎その他の作業スペースがあり、入口左手すぐの螺旋階段を上るとカフェ。おそらくパティスリーの居抜きと思われる店内は高架下の空間を生かしながらも綺麗に仕上げられている。内装はオフホワイト基調にざっくりした木造作。意外な天井高と相まって、プライベートとも開放的とも言える独特の居心地の良さを持つ空間がひろがる。
中深煎りのグリーンズブレンドと中煎りパナマを注文。サイフォンで供する珈琲にはどちらも骨太なインパクトがある。それでいて後味は実にすっきり。時間が無く2品しかいただけなかったのが残念だ。また伺わねば。
グリーンズコーヒーロースター/兵庫県神戸市中央区元町高架通3-167
078-332-3115/11:00-18:30LO/火休(土日祝は豆販売のみ)
昨年12/27。須賀さんご夫妻にご同行いただいての大阪市内視察。先ず目指したのが『バーンホーフ』。2003年オープンの自家焙煎珈琲店。マスター氏は田口護氏(バッハ)の指導を仰いだ人物と聴く。
JR大阪環状線を野田駅で降りて高架脇をしばらく福島駅方面へ。高速道路との立体交差を見上げつつ信号を渡ると、高架下右側に『バーンホーフ』のエントランス。白壁にスチールサッシを嵌めた店構えはすっきりとして落ち着きがある。向かって左側のガラス越しに焙煎室。手前のワークカウンターではスタッフがハンドピックに勤しまれていた。右側には「B」の字を象った正方形の看板。中央の自動ドアから店内へ。
左にレジカウンターと焙煎室、右に物販スペースを見ながら奥へ進んで客席へ。通路を挟み左側にはゆったりとしたカウンター席があり、その突き当たりにキッチン。右側にはベンチシート式のテーブル席が一列にずらり。至って明快なフロア構成となっている。天井は割合高い。オフホワイトの箱に飴色のカウンターや棚などの木造作、黒レザーのベンチシートに間接照明を配した内装も、店構え同様さりげなく質感は高い。
ブレンドと栗のケーキ(上の写真)、パナマとフレンチトーストを注文。珈琲は鮮やかな豆の風味とバッハ系らしいキレが見事なペーパードリップ。ケーキ類の味もなかなかのもの。若いスタッフの明るい応対に気分は晴れやかだ。趣味の良い設えと申し分ないサービス。これほどのカフェには滅多にお目にかかれるものではない。近所にあったら確実に通うだろう。野田周辺の方々が心底うらやましい。
バーンホーフ/大阪府大阪市福島区吉野1-14-8/06-6449-5075
10:00-20:30/不定休
地下鉄で四ツ橋へ移動して四ツ橋筋を北上。新増一丁目南の交差点を左折し、しばらく行くと右手の高層ビル1Fに『日月餅』新町店の控えめな店構えが現れる。ISOLATION UNIT(柳原照弘氏)が内外装デザインを手がけた和菓子店。オープンは2008年。
大きな木製サッシの引戸から店内へ入ると、フロア中央にコンクリート製の大テーブル。壁面はモルタルで仕上げられ、単一素材から掘り出したような空間となっている。商品ディスプレイに接客、イートインなどの主な機能要素は大テーブルひとつに集約されており、小さな空間ながら最少限の要素が余裕を持って配置された様子に窮屈さは無く実に潔い。要所に見られる床や躙口を彷彿させる設えは空間に象徴性と華やぎを与えている。ただミニマルなだけには終わらない奥行きを感じさせるデザインだ。
黒豆大福とラズベリー大福(上の写真)、抹茶ぜんざいをいただく。特に黒豆大福が秀逸。次回は草餅と、品切れだった塩大福をいただいてみよう。
器や備品のセレクトも含め、装いには一切の隙がない。引き替えに運営上苦労なさりそうな点はいくつか見受けられるが(収納の無いWCなどなど)、目先の実利に流されず見栄にこだわるのも上方らしい商いのやり方だ。ぜひとも頑張って維持して頂きたい。
日月餅 新町店/大阪府大阪市西区新町1-17-17/06-6536-0805
10:30-19:00/無休
下って長堀通りを西へ。西大橋の交差点でなにわ筋をさらに南へ。西労働基準監督署前の交差点をさらに西へと進み、ひとつめの信号を左折すると『ヴェーク』にたどり着く。女性オーナーがほぼ一人で切り盛りする2008年オープンの自家焙煎珈琲店。こちらもまた田口氏直系の店で修行をなさった方とのこと。焙煎室を左に見ながらドアを開けると右側に数席のカウンター。左側奥にテーブル席がいくつか。小さなフロアで焼き菓子までをこなす様子はいかにも手狭で大変そうではあるが、白い箱にナチュラルな木造作の内装は明るく清潔に保たれている。
ブレンドとドミニカを注文。柔らかな輪郭の中に芯の通ったところを感じさせる珈琲。特に浅煎りのドミニカの風味豊かさには驚いた。これは他のメニューもさぞかし、と大いに期待はふくらんだものの、さすがにこの日は水分を採り過ぎてお腹いっぱい。またの機会とさせていただくことにした。
ヴェーク/大阪府大阪市西区南堀江2-13-16/06-6532-7010
9:30-18:30/火休
堀江の変貌ぶりを見ながら地下鉄の難波駅へ。黒川勉氏デザインの『ローリーズファーム』が健在で嬉しい。O-CATはもうダメらしいと伺う。梅田からJRで垂水まで。梅田駅周辺の開発ラッシュの凄さには驚愕した。ヒルズとミッドタウンとサザンテラスをいっぺんに作ってるみたいだ。景気いいじゃないか大阪。これがとどめとなってしまわないことを心から祈る。
そして『ふつうの家01』に初の宿泊。使われている様子もやっぱりふつうだ。必要十分。これで良い。
昨年12/26。ランチタイムから活動開始。先ずは『なり田』姉小路堺町店へ。『なり田』は1804年創業の漬物店。こちらの店は2007年オープンとのこと。内装は前日の『いしかわ』、『カオカフェ』と同じく辻村久信デザイン事務所が手掛けている。
御池通りを堺町通りで南下。一本目の姉小路通りを左折すると、木製建具に木格子、瓦の庇のある小さな低層ビルが右手に現れる。1Fの店は『なり田』が手掛けるパティスリー。右脇にある鈴のロゴマーク入りの麻暖簾をくぐり、奥のエレベーターを2Fへ上がるとすぐ右側が『なり田』の物販スペース。八角形の冷蔵ケースを中心に据え、通路を挟んで外周を壁際の棚が取り巻く構成。ボリューム感のある白木と竹の武骨な造作は辻村作品としては異色かもしれない。
フロアはレジカウンターやキッチンなどのユーティリティを仕切りに手前側の物販スペースと奥側の飲食スペースに二分されている。飲食スペースの最奥にはベンチシートを式のテーブル席が一列に並び、天井吊りの間接照明ボックスからの光が店内をぼんやりと照らす。この日は軽めに賀茂漬物寿司とちりめん山椒の焼きおにぎり茶漬けをいただいた。料理は実に見目麗しく美味い。紅大根と茄子、セロリの漬物をお土産に購入。
なり田 姉小路堺町店/京都府京都市中京区木之下町299-2F/075-211-0147
10:00-17:00/木休
再び堺町通りを南下して三条通りへ。交差点北東角に『分銅屋』(ぶんどうや)がある。1864年創業の足袋専門店。明治初期までは漢方薬店で、店名はその頃に由来するそうだ。
建物は黒漆喰壁の京町家(左側のショーウィンドウ)。例によって引戸を開けると右に土間、左に座敷。土間の壁沿いに設えられたガラス戸付きの棚にずらりと並ぶ足袋の金型は壮観だ。座敷に上がり、店主氏に足の形状を見せてから試着。製法といい構造といい、東京の足袋とは異なるところが多いのが面白い。中指の長いタイプを選んでいただき、足袋の基本的な履き方のご指導まで受けた。ありがたや。
分銅屋/京都府京都市中京区桝屋町(三条通)64/075-221-2389
9:30-18:30/日祝休
さらに南下して『御多福珈琲』へ。場所は四条通りと寺町通りの交差点。藤井大丸東隣の雑居ビルを寺町通り側脇の細い急階段から地下へ降りると、狭いフロアの中央突き当たりにコの字型のカウンターが鎮座。中では丸顔のルパン三世と言った風貌のマスター氏がドリップにトークにと勤しんでおられる。テーブル席はカウンターを取り巻くようにしてそれぞれのスペースにこぢんまりと納まっている。この店の主役がどこに居るのかは一見して明白だ。オフホワイトの壁や天井にモールディング、ところどころ木造作に赤い椅子張りをとりまぜた内装は割合明るく可愛らしい印象。この日はカウンター向かいの小さなテーブルでブレンドとチーズケーキ、アイスチャイとプリンを注文。
自家焙煎ではないとは聞くが、すっきりした酸味の向こうから豊かな味わいがやってくるブレンドは綺麗で美味い。デザートの味も抜かり無し。小振りでシンプルな盛りつけはこの店の空間に良く似合う。マスター氏の素敵なもみあげを拝見に、また伺おう。
御多福珈琲/京都府京都市下京区貞安前之町609-B1F/075-256-6788
10:00-22:00/毎月15日休
午後のミッションを片付けて、京阪三条から大阪・淀屋橋へ。複合施設『odona』(オドナ)の商業施設エリアを視察。オープンは2008年。パブリック部分のインテリアデザインはJAラボラトリー(東潤一郎さん)が手掛けている。
ベージの大理石とクリアガラスを多用した1Fエントランス部分は、クラシカルなテイストをわずかに取り入れながら至って簡潔にデザインされている。一転してニュートラルで未来的なエスカレーターを2Fへ上がると、短冊状の木材を積み重ねたような壁造作が特徴的な円形の広場のような場所に出る(別アングル,2F共用通路)。1Fに比べると味付けは濃いめながら、質感の高さや開放的で居心地の良い空間性は共通している。廣村デザイン事務所(廣村正彰氏)によるパブリックサインとの相乗効果が、空間持つ独特の印象をより深めている。
夕食は『odona』の少し南、御堂筋を西へ逸れたところのホテルユニゾ地下にある『天の幸 山の幸』で。宮崎牛をメイン食材とするレストラン。オープンは2009年。インテリアデザインを手掛けたのは野井成正デザイン事務所。
数十席を擁するフロアは野井作品としては異例の広さ。太さの異なる角材の列柱がゆるやかに間仕切る。大樹の森を思わせるような、重厚さと爽やかさを同時に感じさせる空間だ。
脇本さんご夫妻、東さん、須賀さんご夫妻に私たち、というやや不思議な顔合わせとなったが、意外や着物方面と展示システム方面の話題で大いに盛り上がって楽しい時間を過ごさせていただいた。料理は少々冷め気味なのが気にはなったものの、素材の味を直球で供するスタイルは気に入った。次回はぜひ評判のランチバイキングをいただいてみよう。
天の幸 山の幸/大阪府大阪市中央区高麗橋4-2-7 ホテルユニゾ大阪淀屋橋B1F
06-6209-2941/11:30-14:00, 17:30-23:00/日祝休
昨年12/24。恒例の年末年始帰省ツアーへ出発。午後のスカイマークで神戸空港入り。三宮から新快速ですぐに京都行き。今回は帰省以外にもいろいろと用事がある。
初日のミッションをこなしての夕食は『お数家いしかわ』。辻村久信デザイン事務所が内装を手がけた和食店。開業は2006年。四条通りを高倉通りで南下し、ほどなく右手に現れる町家右脇の路地を奥へ奥へ。左手に連なる長屋の一角に「いしかわ」の小さな表札がようやく見つかる。
引戸から店内に入るとフルオープンのキッチンカウンターが出迎える。その右側にある吹き抜けは京町家ならではの水廻りを備えた土間の名残だ。手前の段を上がり、この日はカウンターの中ほどへ。席は低めで小振りの椅子式。キッチン側は土間の床レベルをほぼそのまま生かしており、スタッフ方との目線に違和感は無い。最奥に一部区画されたキッチン。その並びのカウンター突き当たりに市松模様の光壁があり、これが唯一の内装的アクセントとなっている。
それより何より、この店の中心となるのはカウンター上の大皿に盛られた総菜類と、カウンター内のダイナミズムに他ならない。私たちにとっては幸いな事にこの日は客足がほとんど無く、食事後、和装に割烹着の女将(帯はサンタクロースの刺繍入り)に2階の座敷席も案内していただくことができた。重厚な躯体がスケルトンの状態で露出し、最少限の設備や造作が寄り添う。吹き抜けを通して賑わいが全体に拡がる構成が実に明快な引き算のデザインだ。
寒鰤と帆立の造り、関鯖の一夜干し焼きに加えて九条ねぎの和え物、鰊と茄子の煮付、鰰の南蛮漬け、里芋の唐揚げ等を。じゅんさいの赤だしとご飯で締め。料理は至って気取りのない、それでいて品良く、きちんと手のかかったもの。そして実に有り難いリーズナブルさ。町家の和食店にはややアッパーに過ぎるBGMも、もう少し店内が混んでいればおそらくそれほど気にならないだろう。おかげで日中の疲れも吹き飛び、気持ちよく宿へと戻る事ができた。またぜひお伺いします。
お数家いしかわ/京都府京都市下京区高材木町221-2/075-344-3440
17:30-23:00LO(日-22:00LO)/不定休
12/26。『スマート珈琲店』で朝食。1932年に創業(当時の店名は『スマートランチ』)の自家焙煎珈琲&洋食店。御池通を寺町通で少し南下すると、右手に金属サッシの地味な店構えが現れる。中央のドア上には「Coffee Smart」の特徴的な切り文字ロゴタイプと「元木」の表札がちょこんと添えられ、左側の焦茶色のタイル壁には小さなショーウィンドウの設え。
店内に入ると正面にコーヒーカップや珈琲豆などの陳列されたガラス棚があり、すぐ左にレジカウンター。右には大きな焙煎機があり、白髪のマスターが作業に勤しんでいらっしゃった。ガラス棚と焙煎機の間にある通路を奥へ進むと両側に喫茶のテーブル席。左はベンチシート式。右には2Fの洋食フロアへの階段がある。通路の突き当たりにはキッチンとパントリー。床、壁、天井を覆う暗色の木造作には簡素ながら丁寧な仕事ぶりが伺える。ランプ調のシャンデリアが控えめな装飾となり、ベンチ上にある蛍光灯の間接照明が空間を引き締める。
この日はベンチシートの中央に納まりブレンドとフレンチトーストとホットケーキを注文。
味といい、ボリュームといい、どれも安心かつ納得の内容。コクの塊のようなブレンドもモーニングコーヒーとしては悪くない。ただ静かに平均以上のサービスを提供し続けて70年余り。なんたるクールさ。
スマート珈琲店/京都府京都市中京区天性寺前町537/075-231-6547
8:00-19:00(ランチ11:00-14:30/火休)/無休
日中のミッションをいくつかこなし、昼食も採らずに宿にて連絡事項を片付けふたたび外へ。また宿に戻って作業の後、夜も深まりつつある頃ようやく『両川』で夕食。和食ベースの創作料理店。オープン年は不明。
烏丸御池の交差点を北上し、一本目の押小路通りを左へ。しばらく進むと左手にレストランのようなペンキ塗りの木製ドアが現れる。店内は通りに沿って横に細長く、奥行きはせいぜい二間ほど。小さな面積の半分近くはキッチンカウンターが占め、その左脇にテーブル席がいくつか置かれている。この日はカウンター中ほどの席へ。背中は壁を挟んですぐ通り。ほとんど坩堝と化したフロアを店長氏とスタッフの計お二人が手際よく仕切る。
いただいたのは泡々酒に酒盗、豚肉の酒粕焼き、煮込み盛り合わせなど。シンプルかつひねりの効いた味付けで美味い。特に鶏肉の唐揚げが秀逸。時間が遅かったためいくつか品切れがあったのが悔やまれる。次回は名物の鯖煮をぜひ。独特な品揃えの日本酒もチェックのしがいがありそうだ。
両川/京都府京都市中京区蛸薬師町293/075-222-1441
11:30-14:00LO,17:30-23:30/日祝休
その後、三条通りまで南下して『カオカフェイシカワ』へ二度目の来訪。深夜営業のありがたみを早速実感した。スパークリングワインにビターでスパイシーなチョコレートケーキが良く合う。妙に水っぽいTMR似の店長氏のキャラクターもなんだか味わい深く思えて来たなあ。
徳島県藍住町辺り、吉野川北岸にて。
12/28。高速バスで高速舞子から徳島駅へ。ヤギの弟のクルマで吉野川大橋を渡り、国道沿いの『カフェ・ケストナー』へ。2000年オープンの自家焙煎珈琲店。
外観はごく一般的なロードサイド店。ドアを開けると小さいながらも明るい染色の木造作に覆われた落ち着きのある空間が広がる。エントランスの左脇にはガラス張りの焙煎室があり、丁寧にハンドピックをする様子が見える。物販棚に並ぶドリッパーはバッハ式だった。ケストナーブレンドなどを注文。
ブレンドはさすがに香り高くクリアな味わい。しかし私たちの品のない舌にはあまりに軽く、物足りなく感じてしまう。丁寧な仕事ぶりが伺えるだけにもったいない、と言うのはまあ大きなお世話か。アイスコーヒーとコーヒーゼリーの豊かな風味にホっと一息。
12/29。ヤギの実家で起床。午後過ぎから弟のクルマでふたたび徳島市内へ。最初に訪ねたのは中央郵便局の裏手にある『いかりや珈琲店』。1955年創業の自家焙煎珈琲店。堂々とした、でもどことなく可愛らしい店構え。店頭に大谷焼の器がずらりと並び、その中に豆が入っているのが面白い。
フロアは延々と奥深く、向こう側の道路にまで通り抜けが出来るようになっている。かなりの席数がありそうだ。グリーンの床タイルの質感が美しい。中ほどのテーブル席でオリジナルブレンドとよしこのブレンドなどを注文。メニューにはデザートやトースト、サンドイッチなども割合充実している。珈琲はまろやかさが特徴的で、やはり軽め。
さらにもう一軒、市内を東へ移動して福島橋を渡り、末広の住宅街にある『とよとみ珈琲』へ。2003年オープンの自家焙煎珈琲店。
木工所の倉庫を改装したというなんともワイルドな店構え。店内は至ってカジュアルな雰囲気で一安心。店主氏は波乗りがお好きのようで、そこかしこにサーフボードやアロハシャツなどが飾り付けられている。エントランスの左側にテーブル席があり、正面奥にカウンター席。エントランス右側の階段を上がると、2Fはギャラリーとなっている様子。とよとみブレンドとエスプレッソなどを注文。
エスプレッソのコクと深み、バランスの良さに思わず歓声。ブレンドもまた実に綺麗な味わいで、かつパンチがある。地方向けのチューニングを一切施されていないばかりか、東京でも滅多にお目にかかれないような見事な珈琲だが、周りを見ると席はほぼ満杯で、その客層は幅広い。カウンターに若い方が多いのは、自家焙煎珈琲店には珍しい風景かもしれない。美味しいものはちゃんと受け入れられるんだな、と改めて思う。ストレートやラテなどもいただいてみたかったが、時間の都合で諦めざるを得なかった。次回はぜひ。
12/30は『新見家』でたらいうどん。大晦日はのんびりと過ごして元日に帰京。
12/26。ホテルを出て近くのKinko'sと『円山珈琲倶楽部』で仕事。
交差点に面したビル1Fのこぢんまりとしたエントランスをくぐると大きなカウンターが控え、その向こうにかなりの席数のテーブル席。間口はさほど大きいものではなく、内装や家具は暗色の木造作ながら、割合天井が高いためか店内には開放的な雰囲気がある。主に中高年の客層で賑わっていた。全く予備知識無しで入ってみたところ、嬉しいことに珈琲もサンドイッチも大いに満足の行くもの。豆は神戸『萩原珈琲』で焙煎されたものを使用しており、その風味は大阪の珈琲店としては強めの部類に入る。繁昌亭の近くにこんな店があるとは有り難い。
夕刻に神戸に移動して打合せ。
12/27。勝野の実家で起床。午後から三宮、元町を散策。先ずは『ボックサン』。1935年開業の洋菓子店。
以前に一度訪ねた記憶をたよりに足を運んだところ、どうにも見当たらない。東須磨本店に電話で問い合わせたところ、三宮店は2008年10月に中央通沿いへ移転したとのこと。新店は『ケーニヒスクローネ』の向かい側にあった。フロアは以前よりも多少広くなり、2階建てから3階建てにはなったものの、内外装の簡素さは相変わらず。安心半分、拍子抜け半分。3Fのカウンター席に落ち着いて、ケーキを3種と紅茶を注文。ケーキには小さなアイスクリームが付くとのことで、これまた3ついただくと、なんとも壮観な状態に。
何はさておき、この店では最強のビスキュイ生地を堪能せねばならない。上の写真は『いちごのショートケーキ』。濃厚な風味と豊かな弾力を備えた重量級のスポンジ。そのインパクトは健在だった。『こだわりロールケーキ』をいただくと、その感動はさらに大きくなる。素晴らしい。
この後『ア・ラ・カンパーニュ』の神戸三宮店にも行ってみたが、こちらについては特筆することは無い。もうケーキは結構、と言うわけで、さらに近くをあちこち歩いてみることに。神戸BALでは『PARTENAIRE(パルトネール)』神戸店(2007)を視察。インテリアデザインは近藤康夫デザイン事務所。間仕切りを兼ねた有機的な形態の什器群が特徴的。個人的にはBAL開業時のバージョン(1994)の方が好ましい。続いてトアロードを挟んで向かいのブティック『LE CIEL BLEU(ルシェルブルー)』神戸店(2006)へ。内外装のデザインを手掛けたのはkeiko+manabu。
既存のビルをスチールの外皮で新しく覆った端正なファサード(ディテールの写真)。LEDの青いイルミネーションにもけばけばしさが無い。驚くべきはそのインテリア。モールディングにレースのカーテン、デコラティブな壁紙、と、素材そのものは至って普通であるにも関わらず、手数の少ない構成によって見事に引き締まった空間性が生まれている。2Fの床に用いられたグラフィックシートが醸し出す控えめな質感がまたいい。まさに王道的な「内装」。それがインテリアデザイナーではなく建築家の手によるものである点に、時代なんだな、と思う。
同じくkeiko+manabuによってデザインされたJR高架の南向かいのちいさなブティック『BLESS(ブレス)』(2007)にも立ち寄った。ふたつの間仕切りがフロアを3分割するプラン。間仕切りの道路側にはそれぞれ異なる樹種の木目が拡大プリントされており、くり抜かれたかたちがそのまま裏側に厚みとなって出っ張ることで多様な什器が設えられている。この手の店に宿命的な商品量の多さには落胆せざるを得なかったが、極めてシンプルかつ知的なデザイン手法が実に楽しく、大変勉強になった。
12/25。須賀さん宅で起床。少し仕事をさせていただいてから凌子さんとお別れ。2泊もさせていただいて恐縮です。地下鉄を南森町で降りて、ホテルに荷物を置き、さらにJRで大阪天満宮から大阪城公園へ移動。ホテルニューオータニB1Fの『今井』で遅い昼食。道頓堀に本店(1946年創業)のあるうどん・蕎麦店。こちらの店は三橋いく代氏(スタジオ80)が内外装のデザインを手掛けている。1986年オープン。伺うのはこれが初めて。
上の写真はホテル内の共用通路に面した店構え。暖簾手前の壁面は色違いのカラーコンクリートを帯状に固め、小叩きで仕上げたもの。反対側は土壁調。パンフレットの写真を見たところ、元は磨き出し黒のウレタン塗装だったようだ。
店内(上の写真)には12席の大テーブルに加え、4人掛けのテーブルが2セットに2人掛けのテーブルが4セット。それぞれ形状の異なるカラーコンクリートの意匠柱がフロア中ほどに3本直列し、ひとつが大テーブルに、ひとつがジカウンターに、もうひとつが床に直接突き刺さる。壁面は人の背丈ほどの高さまでが磨き出し黒のウレタン塗装の造作に覆われ、それ以外の部分と天井はフラットな塗装仕上げ。通路に面した黒壁の下半分にはガラスが嵌め込まれており、その境目が他の黒壁の目地の高さに呼応し、さらにテーブルの高さ、チェアの背の高さ(子供用チェアの高さまで)がぴたりと揃う。
天井にはテーブルレイアウトに沿ってL字形に配置された照明造作(上の写真右/よく見ると塗装のトーンを天井と壁とで微妙に違えてあるのが分かる)。一見さりげない佇まいのコンパクトな空間ながら、まさしく一切が動かしようの無い厳しい整合性に支配されている。凄い。もっと早く拝見するべきだった。
床の大部分にもまたカラーコンクリートの小叩きによる繊細な仕上げが施されている(上の写真左)。こうした仕上げの手法は東京・西麻布の『ゆず亭』でも見ることができるが、空間全体の印象は丸きり対極的。
そして、天ざるそばと鴨なんばそばをいただいてさらに驚いた。蕎麦のコシと香りの素晴らしいこと。上品な出汁は見事な大阪クオリティ。これほどの蕎麦には東京でも滅多にお目にかかれない。目から鱗。これは本店にもぜひ伺わねば。
その後、JRで大阪天満宮に戻ってホテルの近くをしばらく散策。
『天満天神繁昌亭』昼景。
『大阪天満宮』大門に吊られていた方角盤。
繁昌亭に戻って夜席と『できちゃったらくご - クリスマススペシャル - 』。
こちらについてはまた後日まとめて。
終演後、北新地方面へ歩いて新御堂筋沿いのポルトガル料理店『ポルトガリア』へ。
豚の耳とソラマメのサラダ、ゆでタコ”ポヴォア”風、タラのオーブン焼きご飯などを堪能。シンプルで素材の滋味あふれる品々。23時くらいに来てこんなにしっかりいただけるのが有り難い。おこめのプディングも美味しかった。
12/24。須賀さん宅で起床。ブログの使用法講習と帯結び法勉強会の後、地下鉄で大阪市内へ。
上の写真は大阪市営地下鉄の御堂筋線梅田駅ホーム。以前写真を載せた心斎橋駅と同様、ヴォールトの天井+蛍光灯の巨大ペンダントライトによる贅沢で都会的な空間(別アングルの写真/ペンダントライトのアップ)。しかし未だSuicaはJRでしか使えず、券売機の極悪インターフェイスも相変わらず。
地上へ出て『蘭館珈琲ハウス』の梅田大丸店へ。伝説のマスター・襟立博保が生前顧問を務めたという1972年開業の珈琲チェーン店。百貨店の紳士服フロアの片隅という場所にも関わらず、奥樣方で大いに賑わっていた。全席禁煙。ブレンドを2種とフルーツパンケーキを注文。
珈琲は『六曜社』以上に軽め。それでも味はしっかりしており、カップの量が多く、驚くほど値段が安い。人口比的に見て全国一の喫茶店激戦区である大阪の地に完全対応しつつも質を落さない姿勢に敬服。昨年11月にはホワイティ梅田店が珈琲専門店と銘打ちリニューアルされた模様。今度はぜひそちらへ伺ってみよう。
再び地下鉄に乗って心斎橋へ。アップルストアでiPone用のAVケーブルを買って、市街を南へ向かう途中、戎橋の脇を通り掛った。
高松伸氏の代表作のひとつ『キリンプラザ大阪』は綺麗さっぱり消滅していた。しばし愕然。
気を取り直して心斎橋筋をさらに下り、水掛不動で野井成正さんと合流。『桃酔(とうすい)』で魚料理をたっぷりいただいてからバー『わん』へ移動。もとは1999年にオープンするも、2002年の中座火災により消失。2003年のビル建て替え時に新たな空間として復活した。新旧ともに野井さんがインテリアデザインを手掛けている。
東京ではまず目にすることのない圧倒的ボリュームのカウンターに、今では懐かしさ以上に新鮮さを覚える。バックカウンターに吊るされた無数の細い煤竹が微妙にゆらぎながら繊細な陰影をつくり出す。この日のバーテンダーは『川名』(こちらも野井さんのデザイン)、『JACK‘S INN』のオーナーでもある川名正博氏。お二人から貴重なお話を沢山伺うことができ、実に楽しく勉強をさせていただいた。なんと言う幸せ。
12/23。昼前にホテルを出て地下鉄で京都駅へ。荷物を置いてからバスで三十三間堂まで。お隣の『ハイアットリージェンシー京都』を視察。京都パークホテルを改装して2006年にオープン。ロビー部分とレストランフロアのインテリアデザインをスーパーポテトが出掛けている。
上の写真は奥からエントランスを見返したところ(こちらは逆にエントランスから奥を見たところ)。格子パターンの鋳鉄パネルに覆われた天井が拡がりの感覚を与え、その空間は智積院の庭へと透けてゆく。視覚的軽快さと物質的重厚さ。その両方を同時に印象づけるユニークなデザイン。
食事は地下1Fの和食レストランフロア『東山(とうざん)』で。こちらはロビー以上に見応えのある空間だった。大きなフロアに石やスチールの造作がざっくりと余裕を持って配置され、実に穏やかな風景をつくり出している。アジア各国でメガレストランを手掛けたスーパーポテトの手法が、磨き抜かれたかたちで里帰りしたように思われた。寒鰤と聖護院蕪の丼ぶりはボリュームたっぷりでこれまた大いに満足。残念ながら写真はエントランスだけ。
再びバス移動。超ド定番観光地にして未だ勝野がまともに見たことのなかった清水寺へ。
茶わん坂から仁王門を抜けて舞台に至るまでの浮かれぶりにややくたびれつつ歩を進める。立派な檜の床は話に聞く通りピンヒールの跡だらけだ。そんなこんなで阿弥陀堂まで到着すると、ようやく上の写真の光景が。清水寺の見所は何と言ってもこの木造人工地盤が醸し出す土木的迫力に尽きる。
下から見るとさらにカッコいい。欅の丸柱が林立し、本堂と舞台を支える。筋交いを持たない懸造りの構造(さらに別の見上げ写真と廻廊下辺りの美しい石垣)。
途中の茶店で一服しつつ、ふと茶金さん(はてなの茶碗)が居たのはどの辺だろうかと思う。残念ながら茶店の茶碗はプラスティック製。
再度バスに乗って東山から地下鉄へ。市役所前から河原町を下り『六曜社(ろくようしゃ)地下店』へ。1950年に一階店が開業し、少し遅れてこの地下店が出来たそうだ。日中は自家焙煎珈琲の専門店で18:00以降はバータイムとなる。
暗色の木造作に覆われた間口の狭い店内には10席ほどのカウンターとテーブル席が4つ5つ。ちょうど混みはじめの時間帯。手前階段脇のカウンター席に滑り込んでブレンドとドーナツとロールケーキを注文。
カップにたっぷりのコーヒーの味は軽めながらバランスに優れる。自家製ドーナツは表面がかりっと固めで中はずっしりもっちり。それでいて口溶けが良く甘さは控えめ。この店のこの組み合わせはつくづく最強だ。互いに最適化された素朴にして繊細な風味にうっとり。ロールケーキもその方向性は同様。
地下鉄で京都駅に戻ってJRで大阪入り。福島の駅で須賀さんご夫妻と待ち合わせてすぐ近くの横丁にある串揚げ店『髭政』(ひげまさ)へ。1Fにカウンター席が10弱、2Fにテーブル席がいくつか。この日はテーブル席でくつろがせていただいた。早くも疲れたのか、ビールで即いい気分に。
創作的な串揚げ、となるともう大阪の独壇場。とりわけこの店はその独創性とコストパフォーマンスの高さによって、舌の肥えた客筋のあいだで一目置かれる存在とのこと。こんなものと奈良漬けが、まさかこれとブルーチーズが、と言った具合で目から鱗の連続。今度はぜひワインで、かつカウンターでいただいてみなくては。
12/22。羽田から伊丹へ飛び、高速バスで京都駅へ。地下鉄を烏丸御池で降り、ホテルに荷物を預けて、散策を開始したのがちょうど正午過ぎ。
烏丸御池のひとつ上の北東角にある『とり安』で昼食。鶏肉販売と鶏料理の店。1890年創業。中高層のビルに囲まれた簡素な木造二階建が印象的だ。骨格のみを残してその身体をすっかり失いつつある京都市街にあって、その佇まいは毅然として見える。少し出遅れたようで、しばらく並んでから店内へ。10ほどのカウンター席と4人掛けのテーブル席ふたつがぎゅう詰めになっている。最奥のテーブルに相席させていただいて「からあげ丼」を注文。
とろとろの卵とだし汁がたっぷり。ご飯の中には驚くほどたくさんの唐揚げがごろごろと混じっている。見目麗しく、すこぶる美味い。その上、安くてボリューム満点。
烏丸通を西側に渡って、『ユニオン』(1953年創業の喫茶店/外観・内観)で少し時間をつぶしてから『omo』(森田元子氏の和装店/外観)で凌子さんと合流。続いて『三浦清商店(みうらせいしょうてん)』へ。白生地の販売と染め・悉皆(しっかい)の店。帯揚の染めをオーダー。
先ずは白生地を選ぶ。シンプルかつ大胆なストライプ調の織の2種。色見本帳を何冊か拝見して、それぞれの色を決める。
小一時間で発注完了。ほんの小さな買い物にも関わらず、とても親切丁寧に対応していただいたことに恐縮し、感動する。
『総屋(そうや)』(友禅)と『SHINA』(『誉田屋(こんだや)』(帯)の奥にある永澤陽一氏プロデュースの雑貨店)を覗いてから『紫織庵(しおりあん)』(川崎家住宅)へ。大堀造に洋館をくっつけたユニークな住宅(外観・洋館内部)。1926年築。現在は襦袢の展示販売施設として公開されている。
建物はふたつの庭を取り囲むように配置されている。広縁と庭を隔てる大きな引戸には大判の波打ちガラスが用いられており、これは建設当時から一度も割れずにそのまま残された貴重なものであるとのこと。
町家にもこんなに開放的なスタイルがあったのか、と興味深く拝見した。レトロ襦袢のコレクションも堪能。
堀川通まで西進。『岡重』(おかじゅう/友禅・雑貨/外観)で洒落衣復刻文様柄・鯛の風呂敷をゲットしてから東へ戻り、年の瀬の『錦市場(にしきいちば)』を歩いてみる。
つい嬉しくなっていろいろと買い物したくなったものの、どうにか思いとどまる。『錦 そや』(豆腐料理)で夕食。接客も行う料理長氏はちょっとびっくりするくらいに覇気のない人物だったが、腕は悪く無さそうだ。料理はさっぱりと上品な味付けに手が込んだ盛り付けで、そのわりにあまりに安い。いろいろと心配な部分はあったが、客としては十二分に満足させていただいた。内外装のデザインは杉木源三氏(スペース)。市場の賑わいとは対照的な簡潔さがいい。
凌子さんを三条で見送ってから祇園へ移動。ほぼ10年ぶりに『It's Gion Duex』へ。水谷光宏氏(クル)デザインのバー。オープンは1995年。柔らかい光を放つ楕円のFRP壁に包まれると、だんだんと重力が無くなってゆくような心地がする。白川沿い(中央の建物2階が『It's Gion Duex』)も随分雑然としてきたが、この店の風景は相変わらずで安心。
と、思ったらどんどん席が埋まって騒がしくなったので、河原町まで引き返して京都BAL裏手の『LOOP』に行ってみた。辻村久信氏(辻村久信デザイン事務所)デザインのバー。1999年オープン。こちらへ伺うのは初めて。床壁天井が大胆な角Rで繋がってカウンターへと続くアルミ張りの空間。凄い納まり。地下2階であることを忘れるような賑わい。そして激しくリーズナブルな勘定に驚いて、この日の行程は終了。
かならずしも“いけず”ではなかったりするのが京都の奥深さ。
11/14。イタリアに来てから初めての晴天。
朝のヴェネチアは美しい。晴れていればなおさらと言うものだ。
運河は静かな活気に満たされている。
が、11時過ぎには飛行機に乗らなくてはならない。バスやタクシーのターミナルとなっているローマ広場へとゆっくり向かいながら写真を何枚も撮る。
結局のところ、イタリアではほとんど仕事ばかりで満足に観光名所を巡ることは丸きりかなわなかったが、代わりにまた訪れなくてはならない理由がたくさん出来た。
それでもボローニャ、フィレンツェ、ヴェネチアという全く構造の異なる3都市を歩くことが出来たのは大きな収穫だった。ヨーロッパの都市文化とその成立ちは実に奥深く、興味をそそられる。おそらく今後は日本の都市を見る目も変わるだろう。
マルコ・ポーロ空港へはタクシーで十数分。木構造のトップライトが印象的な明るい内部空間。
行きと同じくオーストリア空港のプロペラ機に乗り込み、2時間後にはウィーンでのトランジット。さらに10時間余りで成田に到着する。
飛行機の窓から広がる眼下にはヴェネチアとその周辺のラグーン(潟)。世界遺産に指定された独特の複雑な地形に思わず目を奪われる。
アリヴェデルチ・イターリア。
さらに11/13の続き。ヴェネチアでの食事は魚介三昧。
上の写真はこの日遅いランチをとった『Trattria dai Peochi』という小さな店。サンタ・フォスカ教会のそば。つつましやかで枯れた感じのいい佇まい。
木の梁が露出した低い天井と現場打ちテラゾの床はヴェネチアの商店で多く見かけるスタイル。ペンダントライトの貝殻のように波打ったかたちの陶製シェードがこの店のインテリアを特徴づけている。
フロアを仕切るのはカウンター左に居るヒゲのオヤジ。長身で強面。客を寄せ付けない風貌。応対にも全く愛想というものが無い。可愛らしい店のつくりとは明らかにミスマッチ。
が、しかし料理は旨い。見た目は素っ気ないが、素材の味が嬉しい。「ヴォーノ!」と伝えると、ニヤりと一瞬口元で笑うオヤジ。ワインもいただいてお腹いっぱいで一人3000円くらい。この店、気に入った。
遅い夕食はサント・ステファーノ教会脇の路地裏にある『Da Fiore』で。魚のマークの赤い看板がかわいい。店内は意外に広く、バースペースもある。キッチンに面したフロア中央にある冷蔵ショーケースには旨そうな食材が満載。
訪れた時間のせいかもしれないが、テーブルは地元客と思しい人たちでいっぱい。それでもフロアを切り盛りする女性たちの親しみやすく、かつ上品な応対のおかげで疎外感を感じるようなことは無い。ソムリエール(この人が素晴らしくお洒落でカッコ良かった)に薦めていただいた白ワインが実にキリっとした絶品の味だったんだけど、銘柄を忘失。
で、料理がこれまた素晴らしかった。貝や海老が中心の前菜盛り合わせ(写真右上)の旨かったのなんの。仕事がいい、と言うのも当然あるが、イタリアの魚介も侮れないと痛感。アサリとトマトのパスタ、メインの魚介グリル(それぞれ写真左下・右下/どちらも取り分けられた状態)も言うこと無し。ちょっと食べ過ぎくらいで会計は一人6、7000円くらい。大満足。
帰り際、閉店時間を大幅に押していることに気がついた。まったくそれとは気付かせない応対に感謝。また行かねば。
上はおまけの写真。ヴェネチアのスーパーマーケットの風景。タコのパッケージが強烈な魚売場(写真左)。鶏と兎の剥身が仲良く並ぶ肉売場(写真右)。魚の値段はそこそこだったが、肉や野菜はとにかく安い。
ヴェネチアでは『Hotel Principe』に一泊。
エントランスロビー(写真左)。こぢんまりとして適度に古びたいい感じのホテル。フロント手前のドーム天井が美しい(写真右)。通路やエレベータ前のスペースは狭くて段差が多く迷路っぽい。
部屋もまたこぢんまりとして居心地が良い。バスルームもコンパクト。セーフティボックスの鍵が無かったことだけはいただけないが、ポーターさんの映画に登場しそうなコメディアン顔に免じて大目に見よう。
ホテル内のレストラン。間接照明とヴェネチアンガラスのシャンデリア。
部屋の窓から見たヴェネチアの街並。
11/13の続き。
ヴェネチアに来た目的は商店のショーウィンドウをリサーチすること。実際に歩いてみると、なるほど、そのディスプレイデザインとしてのレベルの高さに驚く。これもまたヒューマンスケールの街並ならではの傾向だろう。
これは毛皮のお店。こうして半円形のカーテンで仕切られた傾斜ステージのショーウィンドウが5面ほどある。カーテンの吊元を見ると、天井からの支えがパールで装飾されている。どこまでも上質でエレガント。
これは寝具のお店。軒のメタリックな質感が効果的な額縁となる。球形のスポットライトもいい。
手袋のお店(写真左)。ショーウィンドウであると同時に什器でもあるディスプレイ。店内にはカウンターとストックしかない。狭い店舗区画を効率的に生かしたつくり。
写真右はマスクのお店。デザインがどうこうと言うものではないが、なにしろものすごいインパクト。怖過ぎ。
魚介料理をメインに提供するリストランテのウィンドウディスプレイ。静物画のような美しさ。
冷蔵ショーケースを路面にせり出して、そのまま販売カウンターにしている店も多く見かける。閉店時にはそれを引っ込めてシャッターを降ろす。上の写真はジェラート屋さん。クッキーがナメクジの角のように刺さっているのがかわいい。
ショーウィンドウではないが、ヴェネチアではホテルの構えも独特だ。
写真左はLocande Ca Gottardiのエントランス。ガラス越しには美しくライトアップされたシンプルなオフホワイトの空間と階段(大理石の階段を切断するようなガラスの手摺の納まりが印象的)が見えるだけ。知らなければ店なのか何なのか全く分からない。
写真右はHotel Antico Dogeのエントランス。こちらもまた廊下と階段だけ。観音開きの自動ドア。壁際に並ぶ装飾がとてもセンス良く、可愛らしかった。
11/13。ユーロスターでヴェネチアへ。
F.S.サンタ・ルチア駅のホーム(写真左)。緑がかったダークグレーの天井面はガラス質のモザイクタイル。さすがにところどころ剥がれ落ちてはいるものの、ヴェネチアに来たな、と実感が湧く。
駅を出たところの風景(写真右)。ボローニャとフィレンツェを見た後の私たちには、まるで街並がミニチュアセットのように感じられる。なんとまあ可愛らしいこと。
スケールが小さいのは建物だけではない。街路や水路もまたしかり。クルマの入れない街では全ての距離感が実に親密だ。
写真右はサン・ジェレミア広場。
建物と建物の間に洗濯物が干される路地裏の風景(写真左)。
アパートの呼鈴(写真右)。
リアルト橋からの夜景。
11/12の続き。
フィレンツェの街並はボローニャに比較すると実にカジュアルだ。雑然として、まとまりが無く、親しみやすい。もちろん日本の都市に比べると、細部ははるかに整理されているが。
フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅。大理石をふんだんに用いつつ大胆な構造でモダンにまとめたコンコースのデザインがカッコいい。一方、案内サインや時刻表はひどく不親切だけど、その辺はどうもこの駅に限った話では無いらしい。
補修工事中のドゥオモにチェレッターニ通りを挟んだ向かい側から仮設のブリッジが渡されていた(写真左)。素材は全て亜鉛メッキのスチール。柱上のリブのデザインが面白い。
写真右は駅近くのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会。
サンロレンツォ教会。写真には写っていないが、その周りは無数のテントに包囲され、怪しい衣類や雑貨で賑わっていた。それにしてもフィレンツェには露天商が多い。しかも売り物は恐ろしく下らない土産物ばかり。巨大な工芸品のような古建築群との対比はあまりに激しい。雰囲気としては修学旅行シーズンの奈良と浅草と京都嵐山とが合体した感じ(どんなだそりゃ)に近いんじゃないか。ハイパー観光地。
夕食を採ったドゥオモ脇のリストランテ。古いインテリアを生かしつつディテールを省いて上手く2001年的空間に仕上げてある。照明もいい。が、パスタやリゾットの味は日本のファミレス並み。料金はエラく高かった。まあ、ある意味期待通り。
ドゥオモ近くの大型バルにあったパニーニのショーケース(写真左)。宝石箱のような美しさ。
カルツァイウォーリ通りにあったシューズショップ『FAUSTO SANTINI』(写真右)。白い大理石とスチールによるシンメトリーでスクエアな空間構成と冷ややかな質感が印象的。写真はあまり良くないけど、このイタリア視察中で最も感心したインテリアデザイン。ウェブサイトを見ると、このブランドのインテリアデザインはどのショップもかなり見応えがありそうだ。チェックしとこう。
11/12。夕方にユーロスターでフィレンツェ入り。
駅近くを下調べ無しでフラフラと数時間だけ観光。
夜空に浮かび上がるドゥオモの異様。まるで巨大生物の骸骨を思わせる。
それにしてもデカい。デカ過ぎる。しかもそのディテールの精緻なこと。
カテドラーレのファサードを洗礼堂の足下から見上げると、無数の聖人がこちらへと一斉に視線を投げ掛ける。思わず冷や汗。
現在はあちこちに足場がかけられ、補修工事が行われている模様。工事箇所以外にも大理石の剥がれた部分や汚れの激しい部分は多い。これだけデカいと常に直しながらじゃないと維持できなさそうだ。
これだけのものを作り上げた人々に心底敬服する。また同時に、宗教の力と言うのはつくづく恐ろしいとも思う。
11/12。午前中に少しだけ散歩。
『kartell』のショップと街角の公衆電話。
天井のデザインとレンガの使い方が美しいポルティコ(写真左)。
平日と違ってクルマの往来の少ないインディペンデンツァ通り(写真右)。
少し街外れに行くと、新しい建物の多くに写真左(これはボローニャ中央駅の近くにあったホテル)のようなコンクリートと煉瓦の繊細なコンビネーションが用いられていることに気付く。良くできている。
写真右は工事フェンスに覆われた改装中の劇場。ストライプの工事フェンスも良く見かけた。イタリアではこういうのが標準仕様なのだろうか?
写真左は道路工事中のおじさん。車道の石畳をひとつひとつ人力で取り除いている。このペースじゃあ一生終わらないんじゃないかと心配になってしまう。
写真右はバッグ屋さんのカッコいいレジスター。
ボローニャでは『Royal Hotel Carlton』に5泊。
地上階・エントランスロビーの様子。
ロビーの別カット。そこそこクラシカル、そこそこモダン。なんてことの無いインテリアだが、質感の高さには脱帽する。シンプルなデザインながら見事な光を放つシャンデリアは、最近クリスタルビーズを安易に用いがちな日本のダメデザイナーの皆さんに「これを参考にして全部やり直しなさい」と言いたいくらい。
壁や天井にはアンティコ・スタッコがふんだんに用いられている。あらためてその良さを再認識。
ロビーからレストランエリアへと続く通路沿いの様子。目地無しでピッタリと敷き詰められた大理石の床。この美しさと施工精度はまさに驚愕モノだ。
泊まった部屋はこんな具合。そこそこ広く、設備も行き届いているが、わりと無味乾燥。
建物の外観(写真左)はかなり無味乾燥。悪くはないが、ボローニャの街並には今ひとつ調和していないのが残念。
写真右は客室フロアの通路。アンティコ・スタッコの壁に荷物をぶつけないようヒヤヒヤしながら歩いてしまうのは貧乏デザイナーの性か。
もうひとつ11/11の続きを。ランチタイムに『Pinterre』を再訪。
写真左が『Pintetrre』の店構え。写真中央はパスタを取り分ける店主氏。写真右はイカ入りのニョッキ。盛りつけがかわいい。
で、カニ入りのシンプルな海鮮パスタがもう激ウマ。いい出汁でてるねえ。これまた忘れ難い味となった。
午後遅くにBagnara社へ。この日はプロジェクターでlove the lifeのホームページを見せつつ軽く作品解説。これにてボローニャでの業務は終了。20:00過ぎにジャコモさんとシルヴィアさんのクルマで再び市街へ。
ジャコモさんの馴染みのオステリアで軽く夕食。店主氏はスキンヘッドの大男。7人連れの一行のために重たい木のテーブルを持ち上げてひょいとセッティングして、皿やグラスをガツガツ置いてゆく。生ハムにプロシュートにサラミにモッツァレラ。ポルチーニとペコロスとカルチョーフォ(アーティチョーク)の甘酢煮もなかなか。帰り際にはカウンターの中のスキンヘッド氏から店内の段差に気をつけろと声がかかった。おっかないが気遣いはある。これもまたイタリア的サービスか。
それからジャコモさんがアレックスさんと2人でシェアするアパートにお邪魔。古い建物の3Fにあるこぢんまりとしたワンルーム。
天井は低いが、14畳くらいの面積はありそう。モノトーンの小奇麗なインテリア。
ホワイトで統一されたキッチン(写真左)。左端にスッキリとスクエアな給湯器が見える。
電灯スイッチと電話(写真右)。間に挟まっているのはこれまたスッキリとスクエアな分電盤。
さらに細い階段を上がったところに3畳間ほどの寝室があって、窓の外にはボローニャの赤い屋根が連なる。奇麗好きなアレックスさんのおかげ、という面はあるものの、なんとも天然でオシャレな住まい。日本の雑誌の俺部屋特集とかがアホらしくなるな。
気になる家賃は12万円くらいとのこと。
さらに11/11の続き。マーケットリサーチ途中で目についたお店。
美容室(写真左)とテキスタイルショップ(写真右)。
カフェ(写真左)と不動産屋さん(写真右)。
さらにボローニャ郊外エリアにクルマで移動。コマーシャルセンターと呼ばれる大きなショッピングモールに到着。外観はまるっきりジャスコなんだけど、テナントとして入っている『coop』に思わず立ち止まった。
木集成材の梁に支えられた高い屋根にボックス状の蛍光灯が整然と並ぶ広大な売場。各什器はフロアに斜めのボーダーラインを描くようにこれまた整然と並び、視認性の高いサインが完璧なゾーニングを示す。
残念ながら買い物をしている時間は無かったんだけど、「いつかスーパーマーケットをデザインすることが夢」の私たちとしては思わずグっと来てしまう眺めだった。
アトリウムのマクドナルド(写真左)。
通路のど真ん中に屹立する案内サイン(写真右)。
11/11の続き。
リサーチの途中で通り過ぎた路地沿いに小さな食料品店がたくさん軒を並べていた。
八百屋さん。なんと美しいディスプレイ。過剰包装の生鮮食品が並ぶ日本のスーパーマーケットからはかけ離れた世界。
魚屋さんと肉屋さん。
大きめの肉屋さんと乾物屋さん(チョコレートや乾燥ポルチーニ、お酒などが売られていた)。
界隈で一番の人だかりを誇っていたのがこの魚屋さん。モザイクタイルのグラフィックウォールが実にかわいらしい。
11/11。この日は朝からマーケットリサーチ。Bagnara製品が地元で実際にどのように売られているのかを見て回る。ボローニャの街を日中に歩くのは滞在4日目にしてこれが初めて。
朝のネットゥーノ広場。市庁舎(コムナーレ宮/中にモランディ美術館と市美術コレクションがある)やエンツォ王宮殿などがここに面する。
ネットゥーノ広場を通り抜けてマッジョーレ広場へ。北側に面するポデスタ館のポルティコ。ヴォールト天井の描く優美なラインと柱の装飾との対比が印象的。
ポデスタ館のポルティコ越しに見るサン・ペトロニオ聖堂(写真左)。14世紀末から工事中のままのファサード。
路地裏をあるくと時折斜塔が姿をのぞかせる(写真右)。
小さな広場とそこに面した繊細なデザインのポルティコ(写真左)。詳しい場所と建物の名前は不明。
ボローニャ大学は11世紀から続くヨーロッパ最古の大学(写真右)。入口からパティオの方を見た様子。
11/10。この日は朝から晩までみっちりミーティング。イタリアのビジネスマンは朝8時くらいから仕事を始め、納得のゆくまで時間を気にせず延々と働き続ける。日本人以上にハードワーカーじゃないか。Bagnaraだけが特別なのかもしれないが。
ランチではBagnara代表のジャンルカ・バニャーラ氏と奥様でデザイナーのダニエラ氏を含む8人で工業団地内のバルを訪れた。デザートはボローニャの伝統的お菓子。鮮やかなピンクとグリーンに一瞬ひるむが、意外にも甘さ控えめで素朴な味。まるで和菓子のようだった。が、またもや写真を撮るのを忘れる。
夕食はジャコモさんの古い友人が店主を務めるダウンタウンのピッツェリア『Pinterre』で。ナポリ風ピッツァと魚介料理のお店。
内陸の都市・ボローニャまで毎日わざわざ往復3時間以上をかけて新鮮な魚を仕入れているとのこと。派手ではあるが、見かけ倒しかと言うとさにあらず。これがどれも素材を生かしたシンプルな味付けで(塩味は少し強め)実に旨い。
ジャコモさんの注文で出て来たピッツアは直径60cm近いものが1つと、ひと回り小さなものが2つ。これまた強力な見た目に反する軽くさっぱりとした食感。食後はレモンリキュールのジェラートとエスプレッソ。ボローニャに着いて初めて全メニューをきれいに平らげることが出来た。長身でまつげクリクリ(『キカ』とかに登場しそうな感じ)の若い店主氏をはじめ、分厚い眼鏡の奥の瞳がキュートなフランチェスコおじさんら、愉快なスタッフたちのフランクかつきちんと行き届いたサービスがまた素晴らしい。
夕食の後、ジャコモさんがボローニャの中心街をしばらく案内してくれた。これまでほとんどホテルと工場の間をクルマで行き来するだけでボローニャがどんなところなのかさっぱり分からなかっただけに有り難い。
エミリア・ロマーニャ州最大の都市・ボローニャを特徴づけるのはポルティコ(柱廊)だ。中世以降、ヨーロッパの他の都市ではポルティコがほぼ全て取り払われたが、ボローニャでは私有地の一部をポルティコにすることが法律で義務づけられ、それがそのまま現代に至っている。中心街の歩道と言う歩道は全て列柱に支えられたヴォールト天井に覆われ、ポルティコは横断歩道や広場を除いてほとんど切れ目無く網目状にどこまでも果てしなく続いてゆく。その規模たるや日本の都市のアーケードや地下街には比肩するものなど思い当たらないくらい圧倒的に巨大なものだ。
ポルティコを逸れると、建物の内部にはさらにちいさなポルティコが連なり、各部屋とパティオ(中庭)を繋いでいることが分かる。極めてシンプルでかつ複雑な都市構造。
写真右はポルタ・ラヴェニャーナ広場近くにある斜塔。かつて貴族同士が覇権を競い合っていた頃の名残。高い方(アシネッリの塔)は97mで低い方(ガリセンダの塔)は48m。どちらもあり得ないくらいに傾いている。北イタリアはよほど地震が少ないのだろう。唐突に地面に突き刺さったような荒々しい存在感が強く印象に残る。
道路の上では建物と建物の間にワイヤーが渡され、そこに街灯がぶら下がっている。ポール状の街灯や電柱のような無粋なものは当然のごとく存在しない。道路上の街灯はどれも青白い光を放ち、ポルティコの天井は暖色の光によって照らし出される。見事にデザインされたライティング。
予備知識ゼロで訪れたボローニャはとてつもなく美しい大都市だった。
11/9。午前中にBagnaraの工場視察。
場所はボローニャ郊外の新興工業団地の一角。
プレキャストコンクリートによる構造がトップライトからの自然光に照らされる様が美しい。イタリアじゃあきっと何でも無い建物なんだろうだけど。
その後ジャコモさん、シルヴィアさんと工場近くの小さなリストランテへ。写真右は最初にいただいたパスタ盛り合わせ。この後出て来たポルチーニの盛り合わせには思わず仰天。旨過ぎる!このとろけるような深い味わいは間違いなく一生モノだろう。が、しかし迂闊にも写真を撮るのを忘れる。
日本語の話せるシルヴィアさんにイタリアでの食事作法について根掘り葉掘り伺っている間、神田さんとジャコモさんはずっと仕事の話。
2時間ほどのランチの後、ショールーム兼ミーティングルームでBagnaraの日本でのビジネスについて本格的な打ち合わせがはじまる。ほぼ中休み無しで気がつけば時計は20時を回っていた。
その後、ジャコモさんとシルヴィアさんのクルマでボローニャ中心街へ。ライブステージのあるジャズバーで夕食。高いヴォールト天井を持つ細長いアプローチ(写真左)を抜けて半地下のメインフロアへ。一転して低くて広い洞窟のような空間だが、ライティングが上手く実に居心地がいい。
昼間にたっぷり食べたので、さすがにみんな小食。早々とデザートに移行して、ピアノ、ベース、ドラムのトリオの演奏を見ながら談笑。シルヴィアさんに“ビミョー”の使い方を伝授。
11/8。成田でクライアントのアクトベータ社・神田さん、古屋さんと待ち合わせ。オーストリア航空で10時間あまり。ウィーン(ヴィエナ)に到着。
管制塔の造形が特徴的なヴィエナ空港。
空港近くの駐車場ビル(写真左)と『NH Vienna Airport』の空調吸排口(写真右)。
フンデルトヴァッサーなタクシー&バスオフィス。
その後、プロペラ機に乗って2時間でボローニャ空港に到着。赤い大理石をふんだんに用いたインテリアは重厚かつモダンでなかなかカッコ良かった。Bagnara社のジャコモ・バニャーラ氏に出迎えていただく。
『Royal Hotel Carlton』にチェックインした後、ジャコモ氏の案内でボローニャ中心街・マッジョーレ広場近くのイングリッシュパブへ。イタリアでパブ?と不思議に思うが、人気の無い中2階席へ上がるとそこには中世のヴォールト天井が。隠れ家のような落ち着いた空間で、生ハム、トルテリーニ、ポルチーニソースのステーキなどエミリア・ロマーニャ州ならではの料理を一気にいただく。どれも美味しかったけどボリュームがあり過ぎてぜんぜん食べきれず。無念。ボローニャに着いてから、あんまり疲れたので写真を撮る余裕が無かったのも無念。
そんなこんなで起床時間はかれこれ30時間越え。ホテルに帰って気を失うように眠る。
『Bagnara』の日本のショールーム開設に関する打ち合わせと工房・会社視察のため今日(11/8)から11/15日までボローニャへ行って来ます。携帯電話は多分通じます(番号は日本と同じ)が、受信側にもかなりの料金がかかってしまうため、すみませんがご連絡は緊急時のみ、手短にお願いします。メールは日程前半ならホテルで送受信できるかもしれません。ブログの更新をしてる余裕はおそらく無いと思います。
ところでボローニャってどんな街なんでしょうか。中田英寿選手はもう居ないんですよね。海外は10年以上前に行った切りで英語もイタリア語も全くダメなチビっこがふらふらしてても平気でしょうか。フランスの暴動が近隣諸国にも波及しているみたいですがイタリアは大丈夫なんでしょうか。
いろいろ不安だらけですが、皆様、諸々何卒よろしくお願い申し上げます。