Love the Lifeの新作「サブライムホーム南草津駅前店」の完成写真をアップしました。Worksからご覧下さい。
Facebookのメッセンジャーから仕事の依頼があったのも初めてなら、教員を務める大学の卒業生から仕事の依頼があったのも初めてだ。しかも連絡の主はあの難波さんときた。半信半疑、と言うより後々笑い話にでもなればくらいの気持ちで学生の街・南草津を訪れたのはこの4月頭のことだった。
業態は賃貸不動産店。駅前のビル地上階にある現場では当時まだ別の不動産店が営業中で、ざっと内見させてもらってから難波さんのオフィスへ移動。計画の概要を伺った。新規出店の担当者として、彼は「カフェのような場所」を漠然とイメージしていた。その時は「ふーん」としか思わなかったのだが、結果としてこれがデザインのきっかけになってゆく。
時間も予算も極端に少ない条件は想定の範囲内だった。何度かやり取りしているうちにきっと連絡が来なくなるだろう、と高を括っていたが、5月初旬には設計業務が本格的にスタート。それだけでも驚いたのに、まさか6月半ばに本当に工事が始まってしまうとは思いもよらなかった。
さて、そもそも「カフェ」とは何だろうか。私たちがこの時たどり着いたその答えは「都市環境における人間の居場所」だった。いたずらに流行りのカフェ風を装うことなく、不動産店に元来備わった「カフェ性」をそのまま顕在化させるため、私たちは街の気配を店内へ侵入させることにした。
最初に店の機能を接客カウンターとそれ以外に大きく振り分け、黒く染色した50角ヒノキ材のフレームで囲われたふたつのボリュームを立ち上げる。一部にラワン合板の箱をはめ込み変形を抑えたこれらのフレームは、構造的に自立した「建物の中の建物」だ。その狭間に生まれた空間は街路を暗喩する。接客カウンターのフレームにはフィラメント型のLED電球を4つ吊り下げる。街の送電線さながらに平行しながら緩やかな曲線を描くブルーの袋打ちコードを経由して、それらはシーリングコンセントへと繋がっている。
壁と天井は白い布目調のビニールクロスで仕上げ、白く塗りつぶしたOSBでわずかに表情をつけた。床は全面をグレーに塗装した。スタッフの背後にあるキャビネットは上面が開いており、物件情報ファイルがアナログレコードのように収納される。ダウンライトの数は最低限に抑え、床から1850mmの高さに壁付けしたライン状の照明による拡散光が店全体を柔らかく包む。
工事は7月半ばにほぼ完了。翌週に店はオープンを迎え、8月初旬には残工事を含む全ての作業を終えた。同業店がひしめくこの界隈に、特別な記号性のある場所を提供できたのではないかと思う。
いろいろあったが総じて楽しい現場だったのは、大工の白崎さんの存在に寄るところが大きい。設計の意図を尊重しながらコスト調整に尽力し、分離発注の現場をどうにかまとめてくれたのは石束部長と、他でもないあの難波さんだ。卒業から6年あまり経って、彼はすっかり仕事のできる人間になっていた。飄々としてつかみどころのない雰囲気は相変わらずだけど。
Love the Lifeの新作「ふつうの家04」の完成写真をアップしました。Worksからご覧下さい。
香港からのメールが届いたのは2015年の4月のことだ。京都に新築の分譲マンションをセカンドハウスとして購入する予定だが、標準の内装に不満を抱えているとのこと。建設上の条件内でのカスタマイズと、それだけでは対応できない造作のデザイン、家具や家電のコーディネートを私たちに依頼できないか、という内容だった。不慣れな英語のメールでどうにかやり取りしつつ、その月末にはディベロッパーとの打ち合わせを設け、5月頭に最初のラフ案を作った。
その月末に来日したクライアントは、想像していた通り聡明で、とても慎しみ深い人物だった。日本の都市環境は香港とは大違いだ、と彼は言う。静かで、自然に近しく、どことなく懐かしいと。仲の良い夫婦と小学生兄妹の四人家族にはプライバシーへの過度な気遣いは必要なさそうだ。私たちは2004年に東京でデザインした「森の壁」のコンセプトを、京都でこの家族のためにもう一度新しくデザイン化し直せるのではないかと考えた。
大抵の場合、集合住宅の各戸はいびつな白い容れ物でしかない。それにしてもこのマンションのいびつさと天井の低さは格別だった。私たちはまず徹底的に柱型・梁型を整理することで不躾な建物の存在を意識の外へ消し去ることにした。そうしてできたニュートラルなボリュームになんらかのコントラストが加われば、それが生活の「手がかり」になる。大胆な空間操作よりも、表装と陰影を丁寧に制御することが重要だ。
また、私たちは、北山杉の突板を濃いアンバーに染色し、短冊状にして並べた面を「Kitchen-dining room」のあちこちに配置することで、室内を物理的に仕切ることなくいくつかのエリアに分割しようとした。標準仕様では廊下側にあった「Room 1」の入口は「Room 2」と同じく「Kitchen-dining room」側へ移動し、ドアを引戸に変更した。引戸を開け放てば生活空間は大きく拡張され、閉じれば間接光に照らされたアンバー色の大きな面が現れる。北山杉の素朴な質感とともに、そこにはいつも家族の気配が存在する。
業務契約から基本設計まではあっと言う間だったが、そこから先は長引いた。行きつ戻りつ、多くの調整を経てマンションの建設工事が終わり、ようやく内装工事が開始される頃には最初のメールから一年余りが過ぎていた。家具や家電が設置され、細かな残工事までが片付いたのは2016年の10月だ。その間クライアントは実に忍耐強く事の運びを待ち続けてくれた。
そして12月初頭、彼の立会いのもとでオーディオとインターネットのセッティングが行われ、「ふつうの家04」は完成した。明けて1月中には家族みんなでこの部屋へやってくるそうだ。今後は京都を拠点とした中長期の滞在や兄妹の留学など、多様で密度の高い体験がこの家族を待ち受けていることだろう。彼らにとって、この国がいつまでも癒しと発見に満ちた環境であり続けられるよう、心から願う。
Love the Lifeの最新作「Cafe..... (名なしカフェ)」の完成写真をアップしました。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
京都造形芸術大学のキャンパスは、東山の一峰、瓜生山の斜面にしがみつくようにして建ち並んでいる。白川通りに面したNA館の1階はその玄関口にあたり、フロア西側の大半がラウンジとイベントスペースを兼ねたカフェとして開放されている。北側には800人以上を収容する劇場、東側にはギャラリー(ともに大学施設)が接続しており、カフェは上下階を行き来する学生や教職員と同時に多くの一般利用者を受け入れるハブとしての役割を持つ。
旧称を「アットマークカフェ」というこの場所には、かつてインターネットに常時接続されたデスクトップPCがずらりと並んでいたそうだ。モバイルデバイスとそれらを支援するインフラが急速に発展したおかげで、こうした重装備は意外にあっさりと使命を終え、店名だけに痕跡を残して姿を消してしまったが、往事の光景はきっと輝かしいものだったに違いない。
カフェ改修のプロジェクトに私たちが加わったのは2014年の夏頃のことだ。当初のデザインは500平米を超えるカフェの全域にわたっており、東山三十六峰をモチーフとする長大な折板状の天井造作が特徴だった。それから1年弱の曲折を経て、2015年の春先にようやく総工費が決定する。私たちはこの時点で既存のキッチン周辺の100平米あまりに重点を置いた部分改修へと方針を転換することにした。
大学の真ん中に、ある種の結界を備えた象徴的な「場」が立ち現れる。そんなイメージを私たちは漠然と思い浮かべた。設えは街場の屋台か、あるいは野点のように、軽やかで少しばかり華やいだものであればいい。そこから醸し出される空気は、やがて芸術を愛する多様な人々によって、大学全体へ、そしてどこか遠くへと運ばれてゆくだろう。
その後、夏休み前に基本設計の了承を得て、盆はまるごと実施設計に費やし、1ヶ月あまりの工事期間を乗り切って、9月の後期授業開始と同時にカフェはオープン(仮)を迎えた。店名(仮)は「Cafe…..(名なしカフェ)」という。
メニュー構成とともに一新された厨房機器は、パン棚やショーケースとともに総長13mほどのロングカウンターに収まった。その造作はキッチン裏のエレベーターホール側にあった掲示板を取り込んで、直方体のボリュームを構成する。カウンター前から西側の躯体柱に至る床面と天井面は、それぞれ新しい造作で仕上げられた。
ひとつの直方体とふたつの面は、すべて同じピッチの綾杉パターンで覆われているが、その素材は三様に異なる。直方体は北山杉の突板、床面はオークの集成材、天井面はケーブルラックと直管型LEDの組み合わせだ。これらの関係は綾杉を純粋な抽象として際立たせ、京都盆地を囲む三方の山並みを暗喩する。キッチン内壁を横断する鏡のボーダーは、屋外の緑を店内に招き入れ、虚実の境はより一層曖昧になる。
こうして「ギザギサ」で切り取った領域の中央には、客席とディスプレイ台を兼ねる4m×1.6mの大テーブルが2台設置された。真っ白な人工大理石の一枚板は、さながら箱庭のようだ。飾り付けが施され、人々が集い、偶然の会話が生まれる。
その他の2人掛け、4人掛けのテーブルもすべて新しくデザインされた。チェアの基調色として鮮やかな朱赤を選んだのはプロジェクトリーダーの大野木啓人副学長だ。力強いカラーリングは、蛍光灯から暖色のスポットライトへ交換されたベース照明とともに、フロア全体を活気づけている。
オープン(仮)後、カフェの利用は倍増したと聞いている。誰もが半信半疑でメニューに加えたデザートやフードも、やや単価の高いものまで良く出ているそうだ。あらゆる面で一足飛びに進化したこの「場」を、学生たちはポジティブな驚きとともに受け入れ、すでに日常の一部としてフル活用している。日ごろ学生に悩まされてばかりの一教員(ヤギ)としては、非難されても無視されても結構、と開き直っていただけに、正直なところ、こうした事態は実に意外だった。私たちは学生の感性を少し見くびっていたかもしれない。きちんと作ったものが喜ばれるのは、やはり素敵なことだ。
「Cafe…..(名なしカフェ)」の正式な店名やメニュー構成は、学生メンバーを中心に2016年4月のグランドオープンを目標に決定され、その後も学生たちが運営面のブラッシュアップに関わってゆくことになっている。今後は彼らのお手並みを楽しみに拝見するとしよう。いつか瓜生山から巣立った後も、ギザギサのカフェのことを憶えていてもらえれば幸いだ。
Love the Lifeの最新作「Masters Craft Sakura Tower Tokyo」の完成写真をアップしました。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
品川駅の西側に点在するプリンス系ホテルのひとつが2013年にリニューアルオープンを迎え、それまでホテルの直営だった地上階のスーベニアショップが新たにテナントとして改装された。デザインにあたって、ホテル側は既存のストアフロントと照明を含む電気設備の現状維持を条件とした。また、クライアントは移設可能な造作を主体とする売場構成を要望していた。
フロアの北側は共用通路に面し、南側には大きなガラス面がある。その向こうには斜面を覆うツツジの植え込みが連なり、さらに被さるようにしてサクラやモミジの木々が植えられている。手入れが行き届いているとは言えないが、季節の移り変わりを感じるには十分な設えだ。以前の店では什器とカーテンによって遮られていたこの庭が、私たちには大きな手がかりとなった。
私たちは低めのステージをフロアに点在させ、そのうちいくつかに細いフレーム状の造作を組み上げることで、商品展示に必要な機能の全てを賄うことにした。こうして共用通路から屋外へ、ひと繋がりの眺望を確保することができる。植え込みを山並みに見立てれば、店はさながら借景の枯山水だ。一面ブルーグレーのフロアと黒い塊状のステージは波間に浮かぶ神山を象徴する。レジスターまわりはウォームグレー2トーンの特注タイルで仕上げた。この市松パターンは東福寺方丈庭園などに見られる井田の表現から引用されている。左右対称を基調とした全体のレイアウトは、村野・森建築事務所による細やかな環境設計を素直に反映したものだ。
木々の緑を背景に、様々な和雑貨が次々に視界へと現れる光景は、私たちの想像を越えて楽しく華やかなものだった。金色にきらめく破れ格子のフレームは「蓬莱の玉の枝」を連想させる。
Love the Lifeの最新作「Masters Craft Palace Hotel Tokyo」の完成写真をアップしました。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
この和雑貨店は大手町の老舗ホテルの中にある。2012年に建て替えられたビルは、和田倉噴水公園に南側を面し、都心のビジネス街には珍しく開かれた眺望のあるエリアに位置している。とは言えオフィス棟の地下フロアにあるこの店にとっては、そうした好立地もほとんど無関係と言って差し支えない。
デザインに先立って、私たちはクライアントである岐阜県瑞浪市の「マスターズクラフト」本社とその周辺地域を視察することができた。真夏の緑深い山並みと、清涼な川筋の合間ごとに、陽当たりの良い集落が断続的に現れる様子は、都会暮らしの人間にとって新鮮さと懐かしさの入り混じった不思議な感覚をもたらすものだった。曲がりなりにも皇居とはつかず離れずの場所にあるちいさな店に、もしもこの温帯の森を寓意的に再現できたなら、それもあながち無意味ではないだろう。
先ず私たちは、フロア奥のふたつの垂直面を占める木製棚什器のディテールを、最も入念にデザインした。連続する鋭角のフレームが間接光を背負って浮かびあがる姿は、東濃の木々と山々の形象を、至ってシンプルにパターン化したものだ。売場中央の天井面には14本のポール造作を固定した。グレートーンの微かな陰影を伴う角材の木立は、店内の奥行きと高さを強調する。会計カウンター背後の壁面を覆う短冊状のタイルは、陶磁器メーカーである「マスターズクラフト」の出自をさりげなく表すものとなった。淡く明るい色調で構成されたインテリアに、織部釉だけが深く鮮烈な色を差している。
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love the lifeの作品「Ordinary House 01」のページを更新しました(Aug. 17, 2012)。worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「ふつうの家 01」は神戸市垂水区中部の高台北側を造成した住宅地にある。建築面積はおよそ60平米。敷地いっぱいに立ち上がった木造2階建の外観は、左官仕上げの白い箱に片流れの屋根を乗せただけの簡潔なものだ。1Fは大部分を南側の傾斜地に面したひと続きの和室+LDKに充て、残りにその他のユーティリティと駐車場を配置している。2Fには中廊下を挟んで3世代4人の居室を振り分け、1F和室の直上にあたる南側にテラスを設けた。2Fのトイレには妻屋根を模した天井と階段室に面する小窓を開けた。この「家のなかの家」は、家族のつながりの象徴として生活動線の中心に配置されている。
室内は大部分を白いクロスで仕上げ、床面と建具まわり、2Fの天井面はそれぞれ木地を生かして仕上げている。キッチン、洗面台まわり、ユニットバスルームには既成のシステムを用いた。そられの部材やパーツは単純で機能的な形状のものだけを選び、色は白またはシルバーに限定した。意外なことに、こうした至極「ふつう」の選択は国内メーカーのカタログスペック上かなりイレギュラーであり、入念な手続きが必要とされた。
ただ丁寧にデザインされただけの質素な住まいが、出来上がるに連れて不思議に安らかで軽やかな佇まいを得てゆく様子は、私たちにとって興味深いものだった。この家は、生活者の多くがさもあたりまえであるかのように甘受させられている商品住宅の奇矯さからも、建築家やデザイナーの志向する建築らしさからも、無縁の彼岸にあるのかもしれない。
ブログ内の記事検索ツールとして「tag cloud」を追加導入しました。いささか今さらな感じではありますが、過去記事にタグをつけるのが大変だったんですよ。でもけっこう便利かも。ページ上のメニューからご利用下さい。
love the life / life : tag cloud
新しいコンテンツとしてstudyのページをアップしました。こちらには4月からlove the life のアトリエで毎月一回のペースで開く予定の「元浅草勉強会」に関する情報を掲載してゆきます。至って敷居の低い、ちいさな勉強会です。どなたもどうぞお気軽にご来訪下さい。
love the life / study(元浅草勉強会)
love the lifeの作品「Asagaya-meicha Rakuzan New Store」のページを更新しました。(Aug. 17, 2012)Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「阿佐谷銘茶楽山」はJR阿佐ヶ谷駅の近くに店を構え、長らく日本茶と海苔の製造販売を営んでいる。地域の生活に深く定着したその暖簾が、北口そばのちいさな商店街にもうひとつ掛かることになった。二代目の古川貴則氏による新店だ。近隣には煎餅店、米穀店、和菓子店などが軒を連ね、狭い道幅にしては昼夜を問わず通行量が多い。
まずは往来の流れを無理なく受け止めるため、エントランスの木製サッシを通りに対してやや斜めに置いた。そのラインに右手のカウンターショーケースのブーメラン形が呼応する。間口を最大限に開放するため、左手の棚什器は道路側を頂点に奥へと徐々に拡がる三角形とした。主に小振りなパッケージの商品を扱う業態なので、こうした不整形が問題となることはない。結果として、視線を自然に店内へと導き、多様なディスプレイに対応する至って合理的なプランが出来上がった。
天井面には300mm余りの段差がある。右側の造作はセン柾材で仕上げ、エントランスの引戸に合わせて天井高を抑えた。主要動線のある左側にはバナナ繊維の壁紙を張り、高さを最大限に確保した。異なる素材が間接光を介して上下に重なり、斜め基調のプランと相まって簡潔な折り紙のような空間が立ち現れる。サイズのまちまちな3本のステンレス柱が、破調のリズムを増幅する。突き当たりのタペストリーミラーは店内を掛軸状に切り取り、淡色の移ろいに変換する。
バックカウンターと吊戸棚の狭間にある横長の壁面は堀切健治氏の左官で仕上げられた。ゆるやかな円弧で上下に二分されたその景色には、茶所静岡の平野から望む富士の裾野が暗示されている。
love the lifeの作品「Alternative」のページを更新しました(Aug. 18, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「オルタナティブ」は自由が丘の外れの低層ビルの2Fにあった。「和食」を「日本人が発想する料理」と再解釈し、創作されたユニークな料理を楽しむことができる店だ。周辺の住宅地の合間には高級スーパーや家具店、パティスリーなどが点在し、ブランド化された街の北のエッジが形成されている。
工事の始まる前に特に印象的だったのは、南東角のサンルームに頭上から差し込む穏やかな自然光だった。通りに面した開口部はほとんど無い。私たちはこのプールの底のような場所を手がかりに、近隣の浮ついた雰囲気から切り離された特別な場所をデザインできるかもしれないと考えた。琳派による水流の表現、あるいは絵巻の場面転換に用いられる霞のようなものがぼんやりと頭に浮かんだ。それらはおそらく金地銀地の鈍い光に包まれた「濃密な余白」のイメージだったように思う。
フロアはその中央にある50cmほどの段差で二分されていた。私たちは片側にレセプションとキッチンを、もう片側に客席を単純に割り当て、さらに客席をタペストリー加工の強化ガラスで曖昧に分節した。ベンチシートの上部には間接照明を施し、客席全体を鍵型に包む光の面を構成した。動線上には緩やかなカーブを描くステンレスパイプをいくつか配置した。階段状のディスプレイ台を持つレセプションカウンターにはひと塊の黒いボリュームを与え、茶釜やレジスターなどの機能を埋め込んだ。これらの造形には光琳の「松島図屏風」の波間と岩場のイメージが引用されている。
Waves at Matsushima | Ogata Kôrin (Museum of Fine Arts, Boston)
love the lifeの作品「Studio Graphia Marunouchi」のページを更新しました(Aug. 25, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「スタヂオグラフィア 丸の内」は2007年に東京駅のすぐ西側に竣工した新丸ビルの4Fにある。50平米あまりの店内では、自社製品のステーショナリーを中心に、バッグや時計、書籍など、デザイン性の高い商品が幅広く扱われている。
私たちはクライアントが主として紙製品と紙媒体を扱う企業であることに着目した。紙の原料は木材チップからなるパルプであり、木材は山林から生まれる。私たちはプランを進める上で、フロアの突き当たりに壁一面を覆う木製の雛壇什器を据えることを最初に決めた。その形状とスケールは、共用通路に対する明確な正面性を生み出すと同時に、山林の姿を暗示するものとなる。
店内は共用通路から向かって左側の白いインテリアと、右側のダークグレーのインテリアとに大きく二分されている。左側では間接光が均質なひろがりを強調し、右側では狭角のダウンライトが陰影を際立たせる。また、クロームメッキのスチールパイプによる折線形の造作が左右それぞれに異なる姿で配置されている。これと言った機能を持たないふたつの要素が、スクエアな空間に破調をもたらしながら向かい合う構図は、俵屋宗達の画として多くの人々から親しまれる「風神雷神図屏風」の二曲一双の姿を参照したものだ。それは山林を取り巻く万象の寓意に他ならない。
風神雷神図屏風 | 俵屋宗達 (京都国立博物館)
love the lifeの作品「MOTTAINAI Tsushima」のページを更新しました。(Aug. 30, 2012)Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「MOTTAINAI」は循環型社会の構築への貢献を基本理念に、商事会社が中心となって展開するエコプロダクトのブランドだ。この店は同ブランド初の実験店として、愛知県津島市の大型商業施設1Fにある三層吹抜の空間に仮設された。会計処理や事務作業は近接するサービスカウンターで行うため、店としての造作は商品ディスプレイと少量のストックのみで成立する。その体裁は一般的な物販店よりむしろパビリオンに近い。
古来より木曽、伊勢にほど近い尾張の要衝であった津島湊ゆかりの素材として、私たちは桧の間伐材に着目した。現在日本では国産木材の消費量の低下による森林資源の荒廃が進行している。国産木材の積極的な活用例を示すことは、ブランドの理念を直接具体化する手段となる。
店舗の外形には設置面積22.3平米、高さ3mの直方体のボリュームがそのまま立ち上げられている。フレームは桧の節有120mm角材で、上面の梁はランダムに組み上げた。フロアとディスプレイウォールにも桧の節有材を張り、什器類は桧の間伐材チップを原料とするストランドボードで仕上げた。ディスプレイウォールに付属したローステージの上面はガラス張りで、内部には桧の残材チップが敷き詰められている。
各造作のデザインには雨や水流、水たまり、また木々の幹や枝、木漏れ日の暗喩を込めた。それらを各部の間接照明が引き立て、上方のアーム式ライトがフロアにフレームの影を落とす。これらは総体として理想的な森林の環境を象徴し、循環型社会の有様を寓意的に表している。
profileのページを地味にアップデートしました。今頃になってスタイルシートを導入したりして結構疲れました。。。英文の記述とか、おかしなところがあったら教えていただけると嬉しいです。
love the lifeの作品「Itsutsuya」のページを更新しました(Aug. 31, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
小田原市内では近年新しい駅ビルや郊外型の大型商業施設の完成に伴い旧市街地の空洞化が進行している。「井筒屋」があるのはその旧市街地のちょうど真ん中、小田原駅東口から海に向かって延びるメインストリートに面したビルの地上階だ。
私たちが念頭に置いたのは、通りと一体となって機能し、地域を訪れた人々の回遊を活性化するような場所をデザインすることだった。フロアに高さのある中央什器を置かないこと、エリアごとに異なる形態の什器を作り付けることをルールとしてプランニングは進められた。
什器とその上部の天井造作には高低差をつけ、店内を移動するにつれて変化のあるパースペクティブが感じられるようにした。各エリアの造作はそれぞれに特徴的な「地」となり、商品を「図」として浮かび上がらせる。全体の様子がどこからも見渡せるレイアウトは、時節ごとの自由なディスプレイや商品構成の変化に対応する。シンプルなボリュームの構成はいかにも明朗でニュートラルだが、こうしたデザイン手法には書院の基本的な概念に通じるところがある。
エントランス正面のテーブル什器の上にある天井造作には、城下町の記号でありクライアントの家紋でもある梅の模様をパターン抜きし、内側に紅梅を思わせるピンクをあしらった。スチールパイプのパーティションは、動線をさりげなく制御すると同時に、天気雨のようなきらめきを感じさせる。ちいさな店は「街に開かれた書院」として機能する。
ここのところあまりにもコメントスパムが多くて辟易していたため、今更ながらMovable Typeをスパムフィルター機能の付いた3.2-ja-2へバージョンアップしてみました。うまくゆくといいな。
しかし個別エントリーのアドレスが全部変わっちゃったのは痛い。エントリーから別のエントリーへリンクしてあることがわりと多いので、いちいちリンク設定をしなおさなくちゃなりません。こりゃ大変だ。。。
時間を見つけて地道に直してゆきますので、しばらくの間デッドリンクには目をつぶっていただけましたら幸いです。また、ここんとこなんかおかしいよ、みたいなご報告もお待ちしています。どうぞよろしくお願いします。
(5/21追記)RSSのURLも変わってるみたいです。あらま。
http://www.lovethelife.org/life/atom.xml
love the lifeの作品「DCB」のページを更新しました(Sep. 01, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「DCB」 は代官山駅そばのちいさな古いビルの中にある。細い階段でのアプローチしか無いオフィス仕様の地下2階にバーを設えるには、設備設計や資材搬入の面で工夫が必要だった。目に見えない部分で膨らむことが予想される工事費用に折り合いをつけるため、私たちは機能要素だけで成立する単純な空間を考えることにした。
バーカウンターの天板は、現場溶接での一体化が可能な人工大理石を用いることで、薄く平滑な面に仕上げた。その真上には対象形の吊り天井が配置されている。カウンター前後の壁に穿った凹みの空間には、それぞれテーブル席とバックバーを割り当てた。これらの造作はほぼ同色のマットなオフホワイトに仕上げ、残った部分は黒に近い濃紺で全て塗り潰した。 間接光と小型スポットライトによる控えめな照明とそれらの反射光が、白い面だけをぼんやり浮かび上がらせると、まるで月光の下のような、立体感を欠いた眺めが現れる。バックバーの壁面には店のマスターである櫻岡氏の要望で、液晶プロジェクターから の映像の投影と、プログラム調光可能な LEDライティングが施された。薄色に染まったモノクロの映像が店内の印象をより一層非現実的にする。
直線とフラットな面だけで構成した空間の最奥に、私たちはひとつだけゆるやかなカーブを描くステンレスパイプを置くことにした。その造形はたしか月を暗喩したものだったように記憶しているが、あまり定かではない。 カウンターと吊り天井を繋ぐ細いラインは、上下ふたつの面に重力から切り離されたような浮遊感を与えている。
Love the Life の作品、「House of the Valley」のページを更新しました(Sep. 04, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「谷の家」は東京都港区の住宅街にある。地上3階、地下1階のフロアには、クリエイティブプロダクション代表の住まいとアトリエ、ミーティングスペースと収蔵庫が含まれる。限られた予算内に多くの要素を盛り込むデザインが求められた。
私たちはまず必要な機能と動線を可能な限り整理し、建物本体をガルバリウム鋼板の単純な直方体にまとめた。敷地の残りを道路境界線に沿って高さ7mのルーバーで囲うと、建物との間にまるで谷底のような空間が現れた。
私たちは建物の南側全面を開口部とし、さらに各フロアから「谷」へ張り出すようにして小さな庭やテラスを設けた。また、来客用とプライベート用のエントランスを別にする必要があったため、ルーバーの中央にRC造の階段室を嵌め込み、2階のプライベート用エントランスへとブリッジを繋げた。こうして「谷」は様々な生活シーンが重層し、交差する場となった。
「谷」からは、さながらショーケースの前を歩くようにして、各フロアの特徴的なインテリアを様々な視点で伺うことができる。屋内から「谷」への眺めは、時間や天候とともに刻々とその表情を変えてゆく。「谷」とインテリアの狭間にあって、建物の印象は極めて希薄なものとなる。陽のうつろいと人の営みだけが、この家の風景を豊かに構成する。
Love the Lifeの作品「Yumegumi Shin-matsudo」のページを更新しました(Sep. 05, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
このプリン専門店はJR新松戸駅そばの古いビジネスホテルの地上階にあった。ホテルとは言うが低層階にはインターネットカフェやダイニングバー、中国整体、ゴルフ練習場などが入居しており、ほぼ雑居ビルの様相だ。駅前ロータリーにはけやき通りと呼ばれる整備道と新坂川、さらには流山電鉄の線路がろくに信号も無い状態で交錯し、周辺の往来はいつでも混沌としている。店舗区画はもともとビルの共用階段下だったところを賃貸できるようにしたもので、以前は銀行ATMとして使用されていた。
とにかく予算も時間も無いプロジェクトだったため、私たちは網入りガラスのサッシ、金庫のようなステンレスの扉、自動ドア、ボーダー型の行灯看板やエアコンなどをATMからそのまま引き継ぐことにした。あとは冷蔵ショーケースを置けば店はほとんど完成に近い。
私たちがデザインしたのは最低限の間仕切りと造作、そして店内に25ミリ幅で描かれた赤いラインくらいなものだ。2本のラインは互いに空間の2点で直交するよう単純に配置した。2、3人も訪れれば満員の小さな店は、夕刻になるとまるでリボンの掛かった透明なギフトボックスのような姿を雑踏に浮かび上がらせる。
全部消しちゃいました。一応バックアップは取ったので、時間のあるときに地道に再アップします。
ついでにMoveble Typeをバージョンアップ。ひとまずこれで万事上手く行くといいんですが。。。
Love the Lifeの作品「Simpatica」のページを更新しました(Sep. 07, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
渋谷から急行で20分ほどの距離にあるたまプラーザ駅の周辺は、駅名から想像されるほど晴れがましい場所ではない。東急田園都市線の開通以来40年近くを経た今では、ここを故郷とする人も多いごく普通の住宅街だ。
「シンパティカ」は駅近くの小さな商店街に面した中層マンションの1Fにある。通り沿いに古くからあった商店の多くもまた一様にマンションへと建て替わり、その地上階テナントとしてリニューアルされつつある。ここはニュータウンに到来した新たな変化の最前線だ。テレビ番組のセットのような白々しい風景に支配されたこの街の日常に、私たちはリアルな生活の場を提供したいと考えた。
このスペインバルのインテリアは、暗い紫色に塗装されたナラ材の水平面(床と天井)と、マットなシルバーに吹き付け塗装された垂直面(壁)で構成されている。水平面はさらに1m角のグリッドで等分され、36のエリアそれぞれにオリジナルのペンダントライトがひとつずつ配置された。天井から斜め下方に突き出した灯体のデザインは、ブラックオリーブのピンチョスから素直に連想されたものだ。このイメージは壁やパーティション、椅子の背やサインなど、主要な造作に繰り返し現れる。デリケースを備えたカウンターは、人通りを自然に受け止めるよう、商店街に対して直角に据えた。これを手がかりにして、客席やキッチンの配置も自ずと決定された。
明快なモチーフと機能性を備え、都市住民のアクティビティを大らかに受容する店として、「シンパティカ」は連日賑わいを見せている。
Love the Lifeの作品「Fit」のページを更新しました(Sep. 09, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
反町駅改札の鼻先に横たわる国道一号線と、それに平行する旧反町川跡の整備道との間には、大小の集合住宅や店舗が混在する雑然とした市街地がボーダー状に拡がっている。それらを貫き北上する東急東横線の高架に面した角地の中層マンション一階に「フィット」があった。
まだ立地が決まる前の段階から、宮川明氏は自身がオーナーとして運営するふたつめの店となるこの美容室のテーマカラーとして、水を連想させるブルーを想定していた。私たちはそこからイメージを膨らませ、水面に映る自分の姿を眺める様子をデザイン化したいと考えた。
ここでは店の中央に並んだ3つの大きなドー ナツ状の造作がさながら水盤に、そこに嵌め込まれたミラーが水面にあたる。ミラーの直径とその取付け高さは原寸でのシミュレーションをもとに厳密に決定された。南側の掃き出し窓の外にはウッドデッキを置き、プランターボックスに野の草花を植え込んだ。気候が良ければサッシを開け放ち、店内とひと続きに利用することもできる。
横浜市神奈川区では反町駅の地下化工事に伴い付近の高架を撤去し、跡地を緑道とする整備計画が検討されている。ガード下然としていた周辺の雰囲気も、それらが完成する頃には一変するに違いない。川跡にもほど近いこの場所に、こんな美容室が出来たことは、おそらく偶然ではないのだろう。
Love the Lifeの作品「Tsukasa Clinic」のページを更新しました(Sep. 10, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
北島町は徳島市のベッドタウンとして開発の著しい場所だ。元来は吉野川河口の広大な湿地帯であり、複雑な川筋とあぜ道とが絡み合うのどかな田園だった。近年、その風景はシネマコンプレックスを備えた大型ショッピングセンターの出店や集合住宅の増加によって急速に変貌しつつある。今後の市街地化の展開を正確に予測することは難しい。
「つかさクリニック」はこの町の中央を真っ直ぐ南北に切り裂く整備道に面した不整形な敷地にある。周辺には耕作地と住宅地とがモザイク状にひろがっている。敷地の三方は農地または空地に面し、日照と風通しは申し分ない。北西側の一角にはちいさな墓地がぽつんと取り残されている。ここではオンタイムもオフタイムも、生者も死者も、まるで当然のように隣り合わせている。こうした場所にある診療所は、日常から適度に切り離されていたほうが良いだろう。 その役割はある種の聖域のようなものかもしれない。
私たちは各室を中廊下で接続するベーシックな計画手法をもとに、建物全体の形態が極力単純なものとなるようデザインを進めた。フレームは県産杉の集成材によるSE造とした。外装には火山灰を骨材とする左官を施し、櫛引きの柔らかな表情を与えることにした。開口は南北面に広く確保し、大型の木製ルーバーと中庭を設けることで視線を制御した。内装の要所はやはり県産杉の表情豊かな間伐材で仕上げた。
こうして現れたのは、白く角張ったボリュームに四方から木の質感を貫入させたような建物だった。その静かな佇まいは、周辺の混沌とした環境と相まって、まるでちらし寿司の中に置かれた豆腐のように唐突で、ユーモラスで、少しばかりミステリアスだ。
Love the Lifeの作品「Masters Craft Prince Hotel Shinagawa」のページを更新しました(Sep. 10, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
品川駅の西側に第一京浜国道を挟んで対面するホテルの敷地内に、2002年に新しい複合施設棟が建設された。「マスターズクラフト」はその地上階ショッピングモールの奥にある小さな和雑貨店だ。工事に際してテナントにはディベロッパーから素っ気無いオフィスのような場所があらかじめ与えられ、その仕様に大きな変更を加えることは許可されなかった。既存の容器内に造作や什器をなるべく単純に後付けすることによって、効果的なディスプレイを実現するデザインが必要だった。
岩綿吸音板の天井には蛍光灯が等間隔に埋め込まれていたが、私たちは新しく設置した数台のスポットライトと壁沿いの棚什器内にある間接照明だけで十分な照度が賄えるようにした。会計カウンターの背景には木製ルーバーによる光壁を設置し、その上部にオリジナルのスタンドライト7台を並べた。フロアの外周沿いに設置されたステージ什器にも同型のスタンドライトを組み込んだ。インテリアを構成する要素はこれらの控えめな造作と照明だけだ。店内と共用通路を隔てるサッシのガラス面には半透明のマーキングフィルムで簾を思わせる格子状のパターンが描かれた。
スタンドライトのセードは白磁製で、制作はクライアントである陶磁器メーカー「マスターズクラフト」が手掛けた。その概形は日本人にとってなじみの深い蕎麦猪口を拡大したものだ。セードの表面に施されたプリーツ状の筋目が、透過光に柔らかな質感を与えている。
Love the Lifeの作品「Under Construction」のページを更新しました(Sep. 11, 2011)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは輿水進さん。
田園調布は都内有数の高級住宅地として名高いが、東急の線路によって隔てられた対照的な二つのエリアの総称であることはあまり知られていない。片側は周知の通りの高級住宅地、反対側は極めて庶民的な工場労働者と小規模商店の街だ。
この木造2階建の小さな建物は田園調布庶民サイドの寂れた商店街に面する店鋪付賃貸住宅だ。私たちはここで、カナダ産のOSBと下地用のツガ角材、2x6のパイン材を用いて、セルフビルドによる即興的な改装を行った。1Fの店鋪スペースは道路側をギャラリー、奥側をオフィスとし、その境をツガ材のルーバーで曖昧に区切った。ギャラリーには照明器具やラグのプロトタイプ、日本手拭などを展示し、オフィスには私たち二人のワークテーブルとパーソナルコンピュータを置いた。入口は通行人に開放され、誰でも自由に展示物を手に取ったり購入できるようにした。ギャラリーは展示物や私たちの気分の変化に応じて改装されるため、常時「アンダーコンストラクション」だ。
ここではプライベートスペースとワークスペースの区別はほとんど存在しない。ワークテーブルは来客時にはミーティングテーブルとなり、夜にはダイニングテーブルとしても使用された。2Fは道路側の和室に壁付のディスプレイ棚を取り付け、輸送用の木箱を腰高に積み上げたことを除けば、ほぼ既存のままの状態とした。アナログレコードとガラス器のコレクションが保管されたこの部屋はクライアントとの商談室でもあり、時にはパーティールームにもなった。省スペースのためオフィスにコピー機は無いが、必要があれば近所のコンビニエンスストアにあるゼロックスの最新機種を24時間年中無休で利用できた。街とひと続きに機能するこの場所は、SOHOにありがちな侘びしさとはまるで縁が無かった。
Love the Lifeの作品「Aquira Hair Designs」のページを更新しました(Sep. 13, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
1997年に見よう見まねで設えた自作のホームページを経由して、インテリアデザインの依頼をメールで受けた最初のプロジェクトがこのヘアサロンだ。狭い専用階段を上がった先にある計画地は決して広くはないが、大きなガラス窓を駅前ショッピングセンターに面している。横浜市近郊の住宅街で、若いヘアデザイナーが一歩を踏み出すには十分な可能性が感じられた。
私たちはこの店が地域の人々を巻き込みながら繰り広げるストーリーを頭に描きながら、その冒頭を暗示するような場所をデザインしたいと考えた。鮮やかなオレンジで彩られた小屋型のフレームをフロア中央に連ね、それぞれにオリジナルのペンダントライトを取り付けると、印象的なシンメトリーの店構えが表れる。6台のスタイリングチェアのうち3台は、先代の理容室から引き継がれた。
以下には専門誌に寄せた記事をそのまま転載しておく。
主人公はヘアデザイナーの中井さん。場所は京急金沢文庫駅から徒歩2分のちいさな雑居ビルの2階。彼はお父様から受け継いだ理容室を美容室に改装するべく思案中だった。
ある日、お店に天使「HALO」が舞い降りその周りにはオレンジ色に縁取られたカット ブースが現れた。お客さんが訪れるとあーら不思議。ボーイもガールもおじちゃんもおば ちゃんもみんなワイルド&キュートなヘアに大変身してすっかりハッピーな気分!そう、中井さんは魔法使いなっちゃったのさ!
そして物語はここからはじまる。
初出:商店建築 1999年6月号
Love the Lifeの作品「Kranz Akasaka」のページを更新しました(Sep. 14, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
ベーカリー&カフェ「クランツ」赤坂はTBS放送センターにほど近い古びた雑居ビルの1階にあった。周辺のオフィス街には大小の建物が入り混じって密集し、細い前面道路を挟んで店の向かいにある高層ビルの足下にわずかな緑地が設けられていた。乾いた谷底のようなこの一帯に、私たちは幅広い客層を受け入れるとともに親密な雰囲気を備えた場所を提供したいと考えた。
店内は前面道路に対して垂直に配置したパイン材のカウンターによって二つのエリアに分け、片方にはエントランスとキッチン、もう片方には客席を割り当てた。客席側の壁際にはベンチシートを配置し、その背後から頭上にかけて円弧を描く天井を設えた。緩やかな曲面はスリット状の間接照明とともに奥へと続き、終点のミラーがさらに向こう側へと客席を増幅する。ミラー面にはマットなマーキングフィルムによるロゴマークをパターン状に散りばめ、フロア最奥の壁面には100mm角ほどのキューブ形の木造作とともにグリーンのビール瓶を20個配置した。カウンターが大樹を、それを取り巻く造作の全てが木漏れ日を暗示する。
客席の道路側には両開きの折戸を設け、正面の緑地に呼応する開放的な店構えとした。その居心地は街とひとつながりのちいさな庭のようだった。
Love the Lifeの作品「Nandeyanen」のページを更新しました(Sep. 14, 2012)。Worksからご覧下さい。フォトグラファーは佐藤振一さん。
「なんでやねん」は六本木通りにほど近い日赤通り沿いにあるちいさなビルの2階に計画された。バジェットは少なく、しかもデザインの開始からオープンまでの期間は2ヶ月弱。手間という手間をとことん削り、工期と工賃を抑え込まないことにはどうにも立ち行かない。こうしたプロジェクトを手がける上で、設備そのものがデザインとなるような一石二鳥の手法を考え出すことは、数少ない有効な手段のひとつであり正攻法と言っても良いだろう。
ここでは客席照度の大部分がディスプレイと品書きを兼ねた27か所の間接照明パネルで賄われている。天井吊りのパネルは空調配管をカバーし、ペンダントライトを縁取るとともに電灯配線のためのケーブルラックを兼ねる。これらはすべてクリアウレタン塗装のシナ合板を丸く切り抜いただけの極めてシンプルな造作だ。切り口にはその形状を強調するよう赤いペイントを施した。照明や椅子の座面、座布団などにも繰り返し表れる丸いかたちは、看板メニューであるお好み焼きやたこ焼きから至って単純に連想されたものだ。
こうして半ば即興的に完成された店内は、溢れ出さんばかりのエネルギッシュな雰囲気に満ちていた。その非日常性は、東京の都心で関西の定番メニューを食する、というシチュエーションにいかにもふさわしい。